ナタリー PowerPush - 上原ひろみ”

音で伝える“生きること”

録りたいものといいものは違う

上原ひろみ

──今回もエンジニアリングとプロデュースをマイケル・ビショップが担当していますね。

はい。彼は本当にアドバイスが的確なんです。

──いいテイクを正確に判断してくれるということですか?

それよりも、レコーディングのときに演奏していると頭の中で「このフレーズはこう行きたかった、こう行けた」って思うことがあるんです。そういうのってリスナーは知るよしもないし、意図に関わらず、録れたものは素晴らしいかもしれないじゃないですか?

──はい。

でも演奏者は「こう行きたかった」というフレーズがある以上、録ったものに満足できなかったりするんです。そういうときにマイケルは「今のテイクはよかった」って客観的に言ってくれる。演奏者の思いは置いておいて、「今のは素晴らしかったから、1回聴いてみなさい」って冷静に判断してくれるんです。そういう人がコントロールルームにいてくれるとありがたいんですね。

──なるほど。

あとは、彼とはデビューアルバムのときからずっと一緒に仕事をしているのですごく合うし、信頼もしています。スタミナもすごくあるし。エンジニアの人ってレコーディングの準備やデータのバックアップみたいな作業があるから、演奏者よりも1時間早くスタジオに来て1時間遅く出る。彼はそれに耐えるスタミナがあるんです。

──先ほど「せーの」で録るって言っていましたけど、1曲につき何テイクくらい録り直しましたか?

もちろん曲によりますけど、早いときには3~4テイクで終わることもあります。基本的に最初の2テイクはリハーサルテイクみたいなものでサイモンもそこでスネアを替えたりすることがあるので、まずは録って聴いてみる。その後本番に移ります。

──ミックスにも立ち会っていますか?

はい。例えば「ここでサイモンがいいプレイをしているのに、少し聞こえづらいな」って思うようなこともあるので、「ベースの音をもっとわかりやすくしてほしい」と伝えたりします。

ライブ当日にセットリストを決める

──先ほども言いましたけど、本作は本当にライブ感がよく出ていて。CD1枚で1回のライブを観たような気にもなりましたし、あとは1曲の中にも物語性が感じられました。

上原ひろみ

自分でも本当にライブ感があるものが録れたと思っています。ライブ感ってことに関しては、これまでで一番だと思います。

──ひろみさんって、ライブのときすごく楽しそうに演奏するじゃないですか。レコーディングでもあんな感じでしたか?

はい。特に今回は、レコーディングしているときにスタジオで録ってる意識がなくなるくらい楽しかった。本当に楽しかったです。

──それがそのままパッケージされている感じでした。改めて「本当にピアノが好きなんだな」っていうか。アルバムが完成して、「こういうふうに聴いてもらえたらうれしい」というのはありますか?

そうですね……。アルバム1枚通して聴いてほしいですね。9曲で1つの物語を作っているので、例えば通勤中なんかにでも1枚を通して聴いてもらえたら。そんな74分も時間ないよって人もいるかもしれませんが……(笑)。

──物語性みたいなことにつながるのかもしれませんけど、この曲順でライブ1本いける感じがします。

実際のライブではほかの曲もありますから、この曲順のままということはないですけどね。

──そういえばひろみさんって、ライブ当日にその日のセットリストを決めるって話を聞いたことがあります。それって本当ですか?

そうです。本番中に演奏予定のセットリストの曲順を変えることもありますし。

──もちろんメンバーの2人もその日にセットリストを知らされるわけですよね?

そうですね。だから長いこと演奏していなかった曲をやる場合は、サウンドチェックのときに復習したりしていますよ。

──それだけで対応できてしまう2人もすごいですね(笑)。

はい……でも、彼らもそういうのに慣れていると思います。

──そういうものなんですね。今後は「ALIVE」のツアーで世界を回るような感じでしょうか?

そうですね、今年はトリオのライブをメインにやっていくと思います。あとソロもやるし、あとはミシェル・カミロっていうドミニカ共和国のピアニストとフェスティバルでデュオをやります。

──日本での公演は?

9月の「東京JAZZ」をはじめ夏フェスに出るのと、年末にツアーをやりたいと思ってます。でもそれまでにアメリカでツアーもあるから……。

──ずっとライブやってますね(笑)。

もう、普通の人が会社に行く感覚でツアーをやっています。6~8月くらいはスケジュールが詰まっていて、その辺りがオンシーズンという感じです。人がバケーションを取るときに私たちミュージシャンは働くものなので(笑)。

上原ひろみ
ニューアルバム「ALIVE」/ 2014年5月21日発売 / Telarc / Universal Music
「ALIVE」
初回限定盤 [SHM-CD+DVD] 3456円 / UCCT-9029
通常盤[SHM-CD] 2808円 / UCCT-1244
プラチナSHM盤 [プラチナSHM] 3564円 / UCCT-40001
CD収録曲
  1. ALIVE
  2. ワンダラー WANDERER
  3. ドリーマー DREAMER
  4. シーカー SEEKER
  5. プレイヤー PLAYER
  6. ウォーリアー WARRIOR
  7. ファイヤーフライ FIREFLY
  8. スピリット SPIRIT
  9. ライフ・ゴーズ・オン LIFE GOES ON
初回限定盤DVD収録内容
  • 最新ライヴ映像及びメンバー・インタビューを含むレコーディング・メイキング映像
ライブDVD「MOVE ライヴ・イン・トーキョー」/ [DVD2枚組] 2014年5月21日発売 / 5400円 / Telarc / Universal Music / UCBT-1004/5
ライブDVD「MOVE ライヴ・イン・トーキョー」
DISC 1
  1. MOVE
  2. ブランニュー・デイ
  3. エンデーヴァー
  4. レインメーカー
  5. スイート・エスカピズム - リアリティ
  6. スイート・エスカピズム - ファンタジー
  7. スイート・エスカピズム - イン・ビトゥイーン
  8. マルガリータ!
  9. 11:49PM!
DISC 2
  1. MOVE~ヨーロッパ・ツアー・ドキュメンタリー
上原ひろみ(ウエハラヒロミ)
上原ひろみ

1979年生まれ、静岡出身の女性ピアニスト。6歳よりピアノを始め、国内外のチャリティコンサートなどに多数出演する。1999年にアメリカ・ボストンのバークリー音楽院に入学。在学中にジャズの名門テラーク・レーベルと契約し、2003年にアルバム「Another Mind」で世界デビューを果たす。その後、ミラノ・コレクションでの演奏や日本人初の9年連続ニューヨーク・ブルーノートでの1週間連続公演の成功、「Boston Music Awards」でベスト・ジャズ・アクト賞を受賞するなど世界を舞台に活躍。2007年にはギターを加えたプロジェクト・HIROMI'S SONICBLOOMを結成し、アルバム「Time Control」をリリースしている。2009年9月には自身初となるピアノソロアルバム「Place To Be」を発表。2011年にはスタンリー・クラークのアルバム「THE STANLEY CLARKE BAND FEAT. HIROMI」で第53回グラミー賞「Best Contemporary Jazz Album」を受賞した。また同年にはアンソニー・ジャクソン、サイモン・フィリップスを迎えた“上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト feat. アンソニー・ジャクソン&サイモン・フィリップス”として「VOICE」を、翌2012年には「MOVE」を発表。世界中をツアーで回り、2014年に同トリオとしては3枚目のアルバム「ALIVE」をリリースする。