ナタリー PowerPush - 上原ひろみ”
音で伝える“生きること”
上原ひろみがニューアルバム「ALIVE」をリリースする。
上原、アンソニー・ジャクソン(Contrabass guitar)、サイモン・フィリップス(Dr)によるトリオプロジェクト“上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト feat. アンソニー・ジャクソン&サイモン・フィリップス”として3作目のスタジオアルバムとなる本作。“生きること”をテーマに制作されたというこの作品について、上原に聞いた。
取材・文 / 加藤一陽 撮影 / 上山陽介
ヘアメイク / 神川成二 衣装 / MIHARAYASUHIRO
トリオには無限の可能性がある
──本作は、上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト feat. アンソニー・ジャクソン&サイモン・フィリップス名義では「VOICE」「MOVE」に続いて3作目ですね。アンソニーやサイモンとは気が合うという感じですか?
このトリオはチームワークもいいし、人間的にも音楽的にもすごく合います。3人の波長がすごく合うのか、レコーディングやツアーは穏やかで和やかに進みます。それに長いことツアーも一緒にやっているから、インタープレイに関しても洗練されてきますし。
──トリオ編成って、ひろみさん的にはどういった魅力があるんですか?
私はトリオには無限の可能性があると思っています。
──無限の可能性、ですか。
ミニマルな編成でプレイヤー同士が絡み合っていかに音楽の可能性を広げていくかっていう……今の3人だとその可能性が広がっているって実感できるんですね。
──なるほど。ちなみにサイモンとアンソニーはどんな人なんですか?
サイモンは紳士で、気遣いの方。イギリス人って感じです。アンソニーは頑固職人。職人気質かな。
──さて、前作「MOVE」は「時の流れとともに動いていく感情の流れ」をテーマに掲げた作品でしたけど、今回は「生きる」がテーマだそうですね。タイトルにもそれが表れていますけど。
はい。アルバムタイトルは“生きる”って意味と、“ライブ(=音自体が生き物である)”という意味のダブルミーニングなんです。アルバムを作っていく中で、“生きていく中でぶつかる感情”をテーマにした曲が増えていったので、タイトルを「ALIVE」にしました。
──資料には、ひろみさんによる“セルフライナーノーツ”として、例えば「PLAYER」だったら「人生をとことん遊べ」とか、「LIFE GOES ON」だったら「人生は続いて行く。何があろうとも。だから進むしかない」といった言葉が書いてあるんですけど。これらが今言っていた“生きていく中でぶつかる感情”につながっていくんですか?
そうですね。私の場合、曲を書くときにいつもその曲のテーマとなるキーワードをメモとして羅列していくんですね。このセルフライナーノーツは、アルバムができたときにそのキーワードを文章にして、さらに日本語に和訳して掲載したものです。
──なるほど。アルバムはインストということもあって、こういう言葉が添えてあるとまた深みが出てきますね。そして聴いてみたら、とてもライブ感のある作品だなあと思いました。
それを狙ってレコーディングしていったので、そう言ってもらえるのはうれしいですね。
──ひろみさんが生き生きとピアノを弾いている感じが伝わってきました。アルバムの制作はいつ頃スタートさせたんですか?
2年くらい前です。「MOVE」を録ったあとには、もう「ALIVE」用の曲を作り出していました。最初にできたのは「ウォーリアー WARRIOR」で、この曲は昨年9月のドイツ公演で最初に演奏したのを覚えています。「MOVE」リリース後のツアーも同じメンバーで回っていたので、ツアーを回りながら曲を作っていきました。
ライブで曲を育てる
──曲作りについて伺います。ひろみさんって、ジャンルとしてはジャズのカテゴリにいますけど、とても自由な感性で音楽に取り組んでいる印象があります。ジャズを作ることを意識していますか?
どうでしょう? 私は、ジャンルは意識していません。曲を作るときは即興があるインストを作ろう、くらいしか考えていないですね(笑)。
──そうなんですね。
とにかく即興演奏がすごく好きなんです。即興演奏がある音楽が好き。
──では曲はどうやって作っていくんですか?
普段からピアノを触ったりしているときに思いついた“曲のかけら”を録ったりスコアに書き留めたりしているんですけど、そのかけらを膨らませて曲にしていくことが多いです。
──“かけら”というのは、フレーズみたいなものですか?
そうですね。
──では、その“曲のかけら”をモチーフにして、肉付けして曲にしていくわけですね。
はい。
──そうやってできた曲はアンソニーやサイモンのところに持っていって、最終的に3人で詰めていく感じですか?
曲を作るのは私1人なので、彼らのフレーズまで入れた譜面を書いて、練習用の音源と一緒に渡します。それをもとにそれぞれが個人練習をして、ライブのサウンドチェックのときなんかに合わせて。そしてライブの本番で演奏しながら詰めていくって感じです。
──ライブで詰めるってすごいですね(笑)。
私たちの場合、練習のためにスタジオに入ることはほとんどないんです。今回に関しては新曲を年末年始のライブで演奏することになっていたので、そのためにリハーサルスタジオには入りましたけど。
──そうなんですね。
まさしくライブで曲を育てるって感じですね。ライブって、すごく多くのことが学べるんです。演奏中は楽曲を客観的に見ることができるというか……。「MOVE」の楽曲もアメリカツアーの中で詰めていったし、今回のアルバムに関しては、年末年始に南青山のブルーノート東京でやった7日間連続公演が曲を詰めるよい機会になったと思います。ライブで曲を育てようってことは、毎作思っています。
──“ライブで詰める”というのは、具体的にはどういう作業なのでしょうか?
楽曲に加えるものは加えて、そぎ落とすところは落とす。それを繰り返していくうちに楽曲が揉まれるんです。そういうアレンジをライブのたびにやっていく。だからレコーディングを始めるのは、曲がライブである程度揉まれたあとなんです。
──じゃあ、ライブやツアーの成果がアルバムになっているような感じですね。
そうですね。
3日あればアルバム1枚録れる
──レコーディングはどう進めていきましたか?
3日間ニューヨークのAvatar Studiosに籠もって、録音時に音がかぶらないように3人をセパレートして、それで「せーの」で演奏して。それからコントロールルームに戻って聴いてはテイクを録って……っていうのを繰り返しました。
──たった3日間ですか?
はい。短いですか? 普通はもっと時間をかけるんですか?
──いやいや、人によってもプロジェクトによっても違うとは思いますけど、思ったよりもタイトなスケジュールで録っているんだなあと思って。
4日かけられるとみんな体力的には楽かな?とは思っているんですけど(笑)。これまでずっと3日間で作ってきましたので。
──そうなんですね。
1日のスケジュールとしては、だいたい11時から始めて深夜2、3時くらいに終わるような感じでした。だからもう1日あると「11時に入って21時に終わって」みたいな人間的なスケジュールで録れるかな?って思っているんですけど……でも私のレコーディングって、いつも3日なんです。スタッフにそれでできると思われているからか(笑)。
──次回からはもう1日増えるといいですね(笑)。
そうですね、年齢とともにもう少し楽なスケジュールになるといいです(笑)。
──とはいえ今お話を聞いて、短期間で集中して録ったことが作品によい影響を与えているんじゃないかとも感じました。ライブ感がとても魅力的なので。
それはあるかもしれませんね。集中して演奏できるので。でも、やっぱり4日あると……(笑)。
- ニューアルバム「ALIVE」/ 2014年5月21日発売 / Telarc / Universal Music
- 「ALIVE」
- 初回限定盤 [SHM-CD+DVD] 3456円 / UCCT-9029
- 通常盤[SHM-CD] 2808円 / UCCT-1244
- プラチナSHM盤 [プラチナSHM] 3564円 / UCCT-40001
CD収録曲
- ALIVE
- ワンダラー WANDERER
- ドリーマー DREAMER
- シーカー SEEKER
- プレイヤー PLAYER
- ウォーリアー WARRIOR
- ファイヤーフライ FIREFLY
- スピリット SPIRIT
- ライフ・ゴーズ・オン LIFE GOES ON
初回限定盤DVD収録内容
- 最新ライヴ映像及びメンバー・インタビューを含むレコーディング・メイキング映像
- ライブDVD「MOVE ライヴ・イン・トーキョー」/ [DVD2枚組] 2014年5月21日発売 / 5400円 / Telarc / Universal Music / UCBT-1004/5
- ライブDVD「MOVE ライヴ・イン・トーキョー」
DISC 1
- MOVE
- ブランニュー・デイ
- エンデーヴァー
- レインメーカー
- スイート・エスカピズム - リアリティ
- スイート・エスカピズム - ファンタジー
- スイート・エスカピズム - イン・ビトゥイーン
- マルガリータ!
- 11:49PM!
DISC 2
- MOVE~ヨーロッパ・ツアー・ドキュメンタリー
上原ひろみ(ウエハラヒロミ)
1979年生まれ、静岡出身の女性ピアニスト。6歳よりピアノを始め、国内外のチャリティコンサートなどに多数出演する。1999年にアメリカ・ボストンのバークリー音楽院に入学。在学中にジャズの名門テラーク・レーベルと契約し、2003年にアルバム「Another Mind」で世界デビューを果たす。その後、ミラノ・コレクションでの演奏や日本人初の9年連続ニューヨーク・ブルーノートでの1週間連続公演の成功、「Boston Music Awards」でベスト・ジャズ・アクト賞を受賞するなど世界を舞台に活躍。2007年にはギターを加えたプロジェクト・HIROMI'S SONICBLOOMを結成し、アルバム「Time Control」をリリースしている。2009年9月には自身初となるピアノソロアルバム「Place To Be」を発表。2011年にはスタンリー・クラークのアルバム「THE STANLEY CLARKE BAND FEAT. HIROMI」で第53回グラミー賞「Best Contemporary Jazz Album」を受賞した。また同年にはアンソニー・ジャクソン、サイモン・フィリップスを迎えた“上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト feat. アンソニー・ジャクソン&サイモン・フィリップス”として「VOICE」を、翌2012年には「MOVE」を発表。世界中をツアーで回り、2014年に同トリオとしては3枚目のアルバム「ALIVE」をリリースする。