上田麗奈がフルアルバム「Empathy」を3月18日にリリースする。
これまで自身が声優として演じてきたキャラクターたちに感じた共感をもとに、アルバム「Empathy」を完成させた上田。もともと「歌うことが嫌いだった」と話す彼女は、どのような思いでフルアルバムを完成させたのか。自身で作詞を手がけた新曲に込めた思いや、作家陣とのやり取りを聞いたインタビューで、アーティスト・上田麗奈が歌う理由に迫る。
取材・文 / 須藤輝 撮影 / 塚原孝顕
スタイリスト / 下田翼 ヘアメイク / 矢澤睦美(Sweets)
もともと歌うことが嫌いだった
──上田さんのデビュー作品「RefRain」(2016年12月発売のミニアルバム)は淡い、柔らかいトーンで統一されていたのが印象的だったのですが、この方向性はどのように定まったんですか?
もともと私は歌うことがすごく苦手というか……嫌いと言ってもいいくらいなんですよ、実は。
──ええー。
なので「アーティストとして活動しませんか?」と言っていただいてから、1年ほどお返事を待っていただいたんです。それくらい重い腰を上げる感じで、なおかつ音楽にも詳しくなかったので「RefRain」のときはプロデューサーさんをはじめスタッフの方々にいったんお預けするくらいの気持ちで制作に臨みまして。その過程で自分の好みに当たるものを探して突き詰めていく、みたいな作り方だったんです。
──ご自身で好きなものを選んでいった結果……。
自然と方向性が定まっていった感じですね。実は、楽曲会議に10カ月かけたんですよ(笑)。その間に「これは好き?」「これは嫌い?」みたいなやりとりを繰り返して。それと、私はずっとお芝居が好きで、これからもお芝居を続けていきたいので、お芝居をするように、かつできるだけ嘘をつかずに自分の気持ちを表せるような歌にしたかったんですよね。
──それは作詞にも関わる部分? 「RefRain」では松井洋平さんと共作とはいえ、全曲で上田さんが作詞をされていますね。
はい。曲調とかはほぼお任せしていたんですけど、歌詞に関しては任せてもらいました。最初に松井さんが書いてくださった歌詞を私が手直しさせてもらう形で進めた結果、6、7割くらいが自分の言葉になっているので、気持ちの統一は取れている気がするというか。自分の言いたいことは100%言わせてもらっています。
──僕は、上田さんが書いた歌詞を松井さんが添削するようなスタイルだと思っていたのですが、逆なんですね。
逆でした。まず、自分の気持ちを言語化することに慣れていなかったので、0から1を生み出すような作業は私には全然できなくて。なので、私は松井さんが生み出してくださった1を10にする作業をやらせてもらった感じです。
──「Empathy」では「アイオライト」と「Campanula」の2曲で、上田さん単独で作詞をなさっています。つまり今回は0から1を生み出したわけですよね。
確かに今回書いた歌詞はすべて自分から生まれた言葉なんですけど、難しかったですね。松井さんがいかにプロフェッショナルなのかよくわかりました。「私の伝えたいことは本当にこの言葉で伝わるのかな? もっと違った表現もあったのでは?」といまだに不安に思っている部分もあったりして。
──そういうこだわりというか執着は何かを表現するにあたっては大事なことだと思います。
うん、そうですね。悩みつつ、やれることはやりました。それは間違いありません。
キャラへの共感を歌に
──今挙げた2曲以外の作詞に関しては、上田さんから各作家さんへ何かしら要望をお伝えしたんですか?
はい。今回はどの曲も、私が今まで声優として演じてきたキャラクターたちに対して、私自身が共感した部分をすくい取って、それを歌を通して表現しようという気持ちで1曲1曲作っていったんです。なので、まず「私はこの作品のこのキャラクターのこういうところに共感しました」というリストを作ってお送りして。そのうえで、各作家さんが書いてくださった歌詞に対して、場合によっては少しニュアンスを変えていただいたり、そういうディスカッションをしながら詰めていきました。
──面白い作り方ですね。
やっぱり「わかる」「私にもそういうとこあるな」「だからこの役に選ばれたのかな」と思うところがそれぞれのキャラクターにあって。そういう自分とつながっている部分はお芝居をするうえでもとても大事なので、それを1つずつ積み上げていった感じですね。ただ、あくまでキャラクターに共感した気持ちを歌にしたかったので、キャラソンにならないようにするのが大変でした。
──その共感が、すなわちアルバムタイトルの「Empathy」になっているわけですね。
そうです、そうです。「RefRain」の収録曲は「私って、こういう人間です」という自己紹介の曲だったので、今度は聴いてくれた誰かが共感できるような、周りの人を巻き込むというか包み込むような音楽になったら素敵だなって思ったのがきっかけで。そのためにはどうしたらいいのかを考えた結果、私が演じて共感した子たちの力を貸してもらおうと。
──「Empathy」で表現されている感情は、上田さんが声優でなかったら抱けなかったかもしれない感情ということになる?
気付けなかった感情、と言ったほうが近いかもしれないですね。もともと抱いてはいたけれど、それって実はすごく愛おしいものだったんだなとか、そういうふうに自覚するようになるきっかけを与えてくれたので。
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冬から春へ「色づけ世界」
2020年3月24日更新