「サザエさん」とかしか観たことがないので新鮮でした

──ここまで極端に賛否が分かれるアニメってそうそうないんじゃないでしょうか。

押見修造　賛否両論になるだろうなとは思ってたんですけど、でもここまで激しいリアクションが来るとは予想してなかったですね。嫌な人は嫌って言って、何も言わずに観なくなるんだろうなと思ってたんで。「こんなの許せない！」みたいな声もちらほら聞こえてきたりして、それは意外でした。

──これがきっかけで「ロトスコープ」って言葉が一般的になったような気がしますし、それだけインパクトが強い映像だったということでしょうね。あさこさんはアニメになった「惡の華」を観て、どう感じました？

しのさきあさこ　アニメは「サザエさん」と「サウスパーク」しか観たことがなかったので、「すごい人間っぽいアニメがあるんだ」っていう発見がありました。

押見　あ、なるほど。「サザエさん」とはリアリティの質が違いますよね。でも、それは本質的な対比だなと思います（笑）。

しのさき　アニメだけじゃなくて、マンガも読んだことなくて。（長尾謙一郎の）「おしゃれ手帖」とか、赤塚不二夫しか知らなかったので、「惡の華」は発見でした。

押見　ありがとうございます。僕も「おしゃれ手帖」は大好きです。

しのさき　マンガは1人で描きますか？

押見　最近1人、手伝いの人に来てもらってるんですけど、基本的には1人で描いてます。人と一緒に描くのが苦手なので……。

しのさき　へえ。すごーい。

押見　アニメのアフレコの現場とかに行って、集団作業がすごくうらやましくなったんですよ。それで先月から、ちょっとアシスタントを入れてみようかなと思ったりして。

しのさき　アシスタントって何をするんですか？ 話相手みたいな感じですか？

押見　ああ、そうです。逃げないようにする、監視役としての役割がかなり大きいです。マンガ家にとっては一番重要な存在です（笑）。

高知県は海がある。群馬県には海がない

しのさき　このあいだ桐生に行ってきました。桐生の空気を研究しました。1人で汗だくになって。この4巻の最後のところはだいたい全部発見できました。春日くんが佐伯さんに告白した公園とか。

押見　あ、そうだったんですか。音楽を作るにあたっての、ロケハン的な感じで行かれたんですか？

しのさき　それで行ってきました。参考になったことはありました。桐生は本当に不穏な空気が漂ってました（笑）。

押見　正しいと思いますよ。不穏ですよね（笑）。

しのさき　で、なんかちょっとわかりました。

押見　マンガの感じがですか？ あ、それはうれしいです。

──その取材がきちんと反映されたのか、確かに今回のシングルはこれまでの宇宙人の曲の中でもかなり不穏ですよね。

押見　そう思います。今までにない部分を出していただいたのかなと。

しのさき　やったあ！

──あさこさんも実家は結構な田舎だったと聞きましたが、そういう意味で「惡の華」に共感できた部分はありましたか？

しのさき　高知県は海があるので、みんな何があってもなんとなくノリで終わらせる感じがあるけど、群馬県は海がないから……。

押見　あはは（笑）。山に囲まれてますからね。ノリで終わらせず、ネチネチ続いていく感じがありますね。

しのさき　桐生に向かう途中の町には、イオンとかできててけっこうがんばってる感じがあるのに、桐生は取り残されてました。これは悪口じゃないです。

押見　ああ、俺は全然大丈夫だけど（笑）。でも桐生の駅前はまだマシなほう。一応お店は開いてるので。その隣町とかのほうが駅前が閑散としてるんですよ。

しのさき　へえー。

押見　郊外はバイパス沿いにでっかいショッピングモールがバーンって建ってて、ほかのお店はシャッターがみんな閉まってるっていう、典型的な感じです。

エグいし、カッコいいし、最高じゃないですか

──複数のゲストボーカルを迎えて何パターンも主題歌を作るというのは、誰のアイデアだったんですか？

しのさき　キャラクターごとに1人ずつの曲を作ろうって思ったのは自分です。マンガを読んだときに、主題歌は3番まで作って、1番からそれぞれのキャラクターをテーマに作りたいなって思っていました。

──ああ、最初から組曲みたいな構成にするつもりだったんですか

しのさき　はい。

押見　そうだったんですね。いやー、めちゃくちゃカッコよくって、すげえうれしかったです。マンガをすごく読み込んでくださったんだなっていうのが伝わって、それにもびっくりしました。

しのさき　えへへ、やったあ。原作を読んで作りました。

押見　歌詞がちゃんとキャラソンのカテゴリなんですけど、「こんなキャラソンがあるのか」っていう生々しさで。それに間奏がすごくカッコいいんですよ。どのバージョンも間奏で一気に盛り上がる感じ。エグいし、カッコいいし、最高じゃないですか。

──間奏いいですよね。佐伯奈々子バージョンは最初はかわいい雰囲気なのに、間奏からだんだん不穏でおかしな雰囲気になっていくという。

しのさき　佐伯さん大好き。単純に、かわいいから好きです。うふふ（笑）。

──でも「実はかわいいだけじゃない」みたいな描かれ方をしてますよね。

しのさき　そこ含め、かわいくて好きです。

押見　ありがとうございます。例えば佐伯さんだったり、誰かに感情移入して読むという感じではなかったんですか？

しのさき　感情移入はしませんでした。昼ドラを観る感じでした。

押見　あー、確かに主題歌にもその感じがありますもんね。古き良き昭和のドラマの匂いがするといいますか。ちなみに歌詞は、しのさきさんが書かれたんですか？

しのさき　仲村さんと春日くんの曲は、AメロとBメロの歌詞をゲストボーカルの人に書いてもらって、サビは自分で書きました。

押見　南波さんの歌詞はしのさきさんが全部書かれたんですか？

しのさき　はーい（笑）。

押見　仲村さんバージョンの歌詞はすごいと思ったんです。前半はバーッて毒をまき散らして叩きつけるみたいな感じなんですけど、それだけじゃなくサビでは悲しさというか、本当はやりきれないんだろうなっていう気持ちが描かれてると思います。