“僕”との対峙

──内向的で刹那的ともいえる楽曲が多いですが、今回はそこを表現していくという挑戦があったわけですね。

そうですね。私自身は聴くと明るくなったりジーンとしたり、心がホワッっと温かくなるような楽曲が好きで。ライブでも来てくれたファンのみんなに向けてそういった曲を歌ったりというのが、これまでの5年間の私の曲の傾向だったと思うんです。でもここへきてガっと、それが逆になったというか。自分自身の葛藤を表現するような、内向的な歌詞の曲がそろったので。だからすごく悩みました。“明るくてほんわりした感じ”みたいなイメージから一気に暗いほうに（笑）。

──このインタビューを読んだ人は、「どれだけ暗いアルバムになっているんだ？」と思うかもしれませんけど、実際そこまでではないと言いますか……。

あはははは（笑）。

──ただそこまで暗くはないにせよ、今まで培ってきた内田さんのイメージとは違った、また新しい部分を開いてるなというのは如実に感じる部分ではあって。

如実に。はい。

──チームが変わった中で、レコーディングでも大きく変化した部分があるんですか？

レコーディングは今までやってくださっていた方のところでやっているので環境は変わっていないんですけど、今回の曲はやっぱりどうしてもウキウキ楽しくっていうのがあまりなかったので、「うわーん」なんて言いながら（笑）。けれどレコーディング環境が一緒だったので「また内田さんがなんか言ってるな」と思ってもらえる、という救いがありました。今まで表現したことのないものだったので、面白い作業でもあったんですけどね。あとはリズムの取り方……ノリがやっぱり違うので、なんかすごい右足だけ痛くなるみたいな現象が（笑）。

──あはははは（笑）。

心が閉じそうになってしまったときは、周りの人に「ここ、大丈夫かな？」って何度も聞いていましたね。

──ちなみに、内田さんが一番苦戦した曲はどの曲ですか？

一番「どうしよう」となったのはどれだっけな……そう、今回は一人称もこれまでとは変わっていて。“僕”を使っていたり。

──確かにそうですね。

今までは、一人称“僕”はあまり使わないようにしてほしいとお願いしていたんです。できるだけ私が歌っている感じになるようにというか、女性の視点で歌詞をお願いしていて。けれど今回新体制になって、歌詞の雰囲気や方向性もガラッと変わったので。そういったところで言うと、「Inferior Mirage」は“僕”の曲だから、どうやって歌おうかと考えて。すごく難しかったです。歌詞の内容も「もう全部なくなっちゃえばいい」みたいな感じなので。

──「Inferior Mirage」はエモーショナルなものを求められる曲ですよね。

もちろん私もそういう気持ちになることはあるんですけど、「くそー！」と思って力に変えて生きてきたタイプなので……「ああ、もう消えてなくなっちゃえばいいや」みたいな歌詞を、どういう雰囲気で歌えばいいのかがわからなくて。どうしても熱くなってきちゃうんですよね。熱く歌い上げちゃうと歌詞の世界観が死んでしまうから、どうしたらいいんだろうと悩んでいました。マイナスを増幅させるような歌い方って、どうやればいいのかがわからなくて。

──そうだったんですね。

なんというか、こういう内省的な曲を表現するときって、その人の生き方や人生観みたいなものが滲み出るのかなと思うんですけど、私の場合は、なんていうんだろう……。

──あくまでそれを演じるというか、表現することに挑戦する立場ですもんね。

やっぱり声優としてやってきたので、私自身のことはどうでもよくて。役を演じるうえでっていうところがやっぱりあるんですよね。だからこういう曲の感情を自分自身から出して、どんな顔をして歌ったらいいのかが全然わからなくて。表現がすごく難しかったですね。

曲に残した“おっきなリボン”のソウル

──リード曲の「DECORATE」は、ご自身が選んだ3曲のうちの1つです。

そうですね。この曲はhisakuniさんの曲なんですが、やっぱり個人的に好きと言いますか。初めての挑戦が多い中で、「hisakuniさんの曲、歌いたいな」みたいな思いもあって。それに、アルバムを聴いてくれるファンの方には「今までと全然違う！」と前向きに捉えてくれる人もいるだろうし、「あ、今まで好きだったテイストがなくなっちゃった」なんて思う人もきっといるかなと思ったので……安定のhisakuniさんの曲だとやっぱり安心するし、“私自身が好きな感じ＝今まで聴いてきてくれてた感じ”だから、そこでホッとしてもらえるものがあるんじゃないかなと思って選ばせていただきました。

──ミュージックビデオの撮影はいかがでしたか？ 色気のあるMVに仕上がっていましたね。

MVも新チームの皆さんが「こんなふうに撮りたい」とアイデアを持ってきてくださったので「それでお願いします」と（笑）。もう、乗っかっていこうという感じだったんですけど、ぐっとアダルトな感じになりましたね。「大丈夫かな、できるかな……」という不安もあったんですけど、そこはもう思いきって飛び込んでみました。

──「リボンシュシュ」も内田さんが選んだ曲とのことですが、こちらは超ガーリーな曲。超ガーリーなものもあれば、超ネガなものもあって。

そうなんですよ！ 「リボンシュシュ」は今までの私の象徴のような存在感の曲になりましたね。今までの私ってこう……ソロ歌手としての内田彩をわかりやすくアイコン的な感じにしてイメージを作っていきたいという思いがあって。ソロのときは髪形をポニーテールにすると決めていたんです。ジンクスじゃないですけど、キュッと縛って「よしいくぞ！」と。「このリボンが私の戦闘服なんだ」みたいなところがあって。だから「リボンシュシュ」は今までの私の心情に近い曲なんです。ホッとする材料というか。

──ホッとする材料（笑）。

なんですけど、今の作品のビジュアルはポニーテールじゃないので、この悲しみというか……。

──それは悲しいんですか？（笑）

個人的には、今までずっとそれを守ってやってきたから。

──まあでも、ファンからすれば新しい姿、変わっていく姿を見られることもきっと楽しいですから。

そうですね。なので、おっきなリボンは付けなくなってしまったけれど、曲にはソウルが残されている、ということで（笑）。