音楽ナタリー Power Push - UCC DRIPAR MUSIC特集 堀込泰行×□□□

ゆるやかなBPMで流れる贅沢な時間

日本語の音楽と韻の関係

──三浦さんによる詞先で今回の曲作りが始まったんですね。この歌詞を受けて堀込さんがメロディを付けると。

堀込 放っとくと韻のリズムに乗せられちゃうというか、軽いラップみたいになっちゃって。僕がやると、どうもうまくハマらないんですよね。三浦くんが作ってくれた歌詞のリズムを生かしつつ、自分の持っているメロディの感覚も生かしつつ、いい落としどころはないかと探りながら作っていきました。

三浦 泰行くんの音楽をよく知ってるシゲが「これは新鮮だ」と言ってたので、そういう意味では成功だったかなと思います。僕が「やっぱり泰行くんのメロディと声が乗ったら、泰行くんの音楽になるんだね」と言ったら「いや、違うよ。今までの曲とは全然違う」って。

村田シゲ

シゲ 俺が今まで聴いてきた泰行くんの曲は、もっとストーリー性の強いものが多いから。

いとう この歌詞に書かれてるのは景色だもんね。

シゲ そうそう。そっちに重きが置かれているのはすごくレアだなと。

──僕もすごく新鮮に感じました。堀込さんの声とメロディなんだけど、穏やかに韻を踏んでいる感じが。

いとう 普通は頭韻、脚韻ぐらいだけど、この歌詞は弾丸のように踏んでる。泰行くんの言うように、この歌詞なら普通だと音だけの歌になってしまうと思うんだけど、ところが泰行くんのような歌の表現をやってきた人が歌うと、ちゃんと言葉の1つひとつが意味を持って飛び込んでくる。英米のポップスを聴いているみたいな気分になるわけよ。

シゲ なるほど。

いとう 韻を踏みながらちゃんと意味を伝えるということで言えば、日本でもこういう歌手がこういうふうに歌えばよかったんだなと。日本語の音楽と韻の間には長い苦闘の歴史があるけど、意外とここに結実したものがあるんじゃないかなとも思うんですよ。

三浦 デカく出ましたね(笑)。

いとう いやあ、韻がこんなに意味を伝えてくれることはなかったよ。情景がありありと浮かぶし、かつ韻も感じる。

堀込 やってみて新鮮だったし、面白かったですね。歌ってて気持ちいい、口が気持ちいいというのは日本語の歌だとなかなかないので、そこがいいなって。僕も今度自分のソロで試してみようかなと思いましたし。

三浦 ああ、それが一番の狙いだったのでうれしいです。

シゲ 韻を踏んでると声に出してみたくなりますもんね。

三浦 韻は音だけど、歌になったときに文字情報にはない新たな意味が浮かび上がってくることがあって。そこをもっと利用していくというのが僕の今後の課題でもあるし、日本語の音楽を作る上で面白いところだと思います。

66BPMブームの到来?

いとうせいこう

いとう ところであれさ、BPM違うやつ、どっちも出したほうがいいんじゃない?

堀込 ああ、スライ(Sly & The Family Stone)みたいな。両方あったら面白いかもね。

三浦 曲は1年間ダウンロードできるんですけど、ずっと同じでもなんだから半年ぐらいで、春と秋で別バージョンがあってもいいんじゃない?って話してたからちょうどいいかも。

──BPMが違うバージョンが?

いとう そう。同じ歌なのに出てくる情景が全然違うから、あれはすごく面白い。普通は機械的にBPMを変えるだけだけど、ちゃんと歌を別で録っていて。

──どんな感じで違うんですか?

三浦 BPMをけっこう上げてるんですよ。ドラムとベースを録ってるうちに「これ、スライみたいな雰囲気でやっても楽しそうだな」と思って、ちょっと試しに別のリズムを録ってみたんです。

三浦康嗣

──今回配信されるバージョンは、かなりゆったりしたテンポですよね。

三浦 BPM66でしたっけ。このぐらいもったりしたテンポの曲はなかなかないですよ。66でちゃんと歌を聴かせられる人はなかなかいないと思う。僕は無理です(笑)。全然無理。

堀込 自分でも作ってて「遅いなー」と思いましたけど。字面だけで見ると「66」ってありえない遅さで。普通遅くても78~80ぐらいかなと思うけど、気持ちいいところを探していくとこの辺だった。

──よくある軽快なポップスの半分ぐらいですよね。

シゲ そうですね。ちょうど半分。

いとう けっこう過激だよね。軽く歌うと息切れに聞こえちゃうし、でも力入れすぎたら違っちゃうから。空前の66ブーム来るんじゃない?

シゲ 66ブーム(笑)。もう1つのほうは90で録ってるんですよ。それはドラムとベースだけ録って上モノは機械的にBPMを上げて重ねたものだったけど、全部のパートを90で録り直したらマジで歌詞の聞こえ方とか違いが明朗に出ると思う。

──リスナーは完パケした音だけを正解として聴いているから、そういう紆余曲折の過程がわかるのは興味深いですね。

いとう うん。俺もあんなの初体験だもん。先に90のほうを聴いて、あとで66のほうを聴いたら、車で移動するシーンがスローモーションみたいに見えてくる。

「UCC DRIPAR」

「UCC DRIPAR」は、小意気なカルチャーやライフスタイルを紹介する、デイリーウェブマガジン。UCC上島珈琲が運営している。「コーヒー」「グルメ」「スポーツ・アウトドア」「アート・コンテンツ」「グッズ・インテリア」「クルマ」「本」「映画・音楽」「旅行」「名言・人」といった様々なジャンルの、ポップ度の高い読み物を、ほぼ毎日、配信している。

また、「UCC DRIPAR」では、2つのタイプのゲームを公開。それぞれのゲームのランキング上位者、計60名には、クオカードをプレゼントしている。元WEEKENDの泉水マサチェリーが担当したゲームのBGMにも注目したい。

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堀込泰行×□□□「バース・コーラス」
作詞:三浦康嗣 / 作曲:堀込泰行

楽曲のダウンロード期限は終了しました

※リリース告知映像のBGMには、メインボーカル抜きの音源が使われています。

堀込泰行(ホリゴメヤスユキ)
堀込泰行

1972年5月2日生まれ。1997年に兄・堀込高樹とのバンド・キリンジでデビューを果たす。2005年にはキリンジと並行してソロプロジェクト・馬の骨としての活動も行い、2013年4月のキリンジ脱退後は個人名義でのソロ活動を開始。2014年11月には配信シングル「ブランニュー・ソング」を発表した。自身の作品のほか、ハナレグミ、安藤裕子、一青窈、畠山美由紀、Keyco、松たか子、南波志帆、鈴木亜美といったアーティストへの楽曲提供でもソングライターとして独自の個性を発揮している。

□□□(クチロロ)
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三浦康嗣、村田シゲ、いとうせいこうの3人からなるユニット。三浦と南波一海の2人によるブレイクビーツユニットとして1998年に結成され、幅広い要素を取り入れた実験的でありながら誰もが楽しめる独自のサウンドで一躍ポップシーンの第一線に躍り出る。2007年にはcommmonsレーベルに移籍し、シングル「GOLDEN KING」でメジャーデビュー。同年末に村田が新メンバーに加わり、2008年5月に南波が脱退。2009年7月にはいとうが正式メンバーとして加入し現体制となった。その後は同年12月に「everyday is a symphony」、2011年2月に「CD」、2012年3月に「マンパワー」、2013年3月に「JAPANESE COUPLE」とコンスタントにアルバムを発表。三浦は舞台音楽やアーティストへの楽曲提供、村田はベーシストとしてさまざまなアーティストのサポート、いとうは□□□参加以前からのマルチな活動と、メンバー個々でも幅広く活躍している。


2017年6月30日更新