音楽ナタリー Power Push - UA

愛と祈りを込めた7年ぶりのアルバム「JaPo」

私をものすごく生かしてくれる曲たち

──ここで挙げた「AUWA」「JAPONESIA」「KUBANUYU」などの曲は、UAさんの祈りをポリフォニックな音そのものに昇華させている感じがします。一方で、パーソナルで親密な愛も歌われています。例えばさっき話に出た「あいしらい」。フォーキーなこの曲はお子さんの(村上)虹郎さんのことを歌ってるんでしょうか?

そうです、そうです。ここでは「17回目の君の春」と歌ってるけど、実際はもう19になったのかな。今回のアルバムの中では最初にあった曲なんだけど、歌詞がなかなか降りてこなくて……。これだけカナダじゃなく、長野の友達のドームハウスで書きました。できたときはすごく感動して、涙が出てきてね。私、母親としてけっこうめちゃくちゃなところもあったと思うのね。でも変にカッコつけず、あの子に対して正直にしててよかった。嘘だけはつかなかったから、逆にいい子に育ってくれたのかなって。

UA

──この曲について、虹郎さんと話しました?

曲を送ったら「あ、聴いたわー」って。ひと言だけ返事が来ました(笑)。

──「ISLAND LION」「いとおしくて」「BEAM YOU」の3曲を提供しているレイチェル・ダッドさんとの出会いは?

2010年かな。滋賀県の米原で開かれた「農家フェス」という、手作りフェスで一緒になったんですね。すごくかわいい人やなあと思ってたんだけど、そのときもらったCDを聴いてみたらびっくりするほどよくて! ギターと歌だけの音源だったんだけど、その冬の間ずっと聴いてたんですね。それで、次のアルバムでは絶対一緒に仕事しようと思った。まだ若いけど、すごい才能ある人。実は昨日まで、パートナーのICHIくんとうちに泊まってたんですよ。

──そうだったんですね(笑)。7年ぶりのアルバム「JaPo」、これからのUAさんのキャリアにおいてどんな存在になると思いますか?

うーん、自分ではよくわからないけど……。少なくとも、作っている間は本当に幸せでしたし、これでまた次に進めるのかなと。そんな気はしていますね。なんだろう……私にとって本当に大切なのは、作品よりむしろ歌ってるその瞬間なんです。アルバムというのはある意味、その時間なり場所を作り出すために制作するものだったりします。その意味で「JaPo」に収録した楽曲たちは、私をものすごく生かしてくれる気がする。願わくばそういう場所で、それこそ小さい自分のエゴを超えて、みんなの意識を少しでもポジティブなほうへ持っていける音が鳴らせたらいいなと。そんな感じかな。

──その気持ちがまっすぐ伝わってくるようなアルバムでした。

うれしいです。どうもありがとう。

朝本浩文がいなければUAは存在しませんでした

──最後にもう1つだけ。5月25日にはデビュー20周年を記念して、1990年代に発表されたアルバム「PETIT」「11」「アメトラ」「turbo」のデラックスエディションもリリースされます。そして、90年代のUAさんの音楽と言えば、どうしても朝本浩文さんとの関わりが切り離せません。

はい。

──朝本さんは2014年に事故に遭われてリハビリ中だと伺ってます。ずっと心配しているファンもたくさんいると思うのですが、今回の再発にあたって、何かコンタクトは取られましたか?

直接会いに行きました。皆さんがご存じかどうかわからないけれど……朝本さんはずっと、現代医学では「意識がない」と言われている状態なんですね。アルバムの再発について報告したけれど、言葉を交わせるわけじゃない。でも、これはあくまで私個人の感覚なんだけど、朝本さんは意志疎通する手段がないだけで、たぶんすべてわかっていると思うんですね。手に触れて耳元で声をかけると、ふっと動いてくれたりもするので。CDが再発されれば、朝本さんの演奏を観たいと思う人がまたたくさん出てくるでしょう。だから耳元で「朝本さん、どうすんのよー!」って何度も話しかけました。

──なるほど……。

もちろん、この肉体がその人のすべてじゃないことはわかっています。さっきのジョン・レノンや清志郎と同じで、朝本さんの魂は彼が作ったサウンドの中に変わらず生きてると思う。でも、できればもう一度、新しい楽曲を一緒に作りたいとも思うんですね。彼の類いまれな才能がなければ、UAという歌い手は存在しませんでしたし。新しい「JaPo」もいつか聴いてもらいたいな。朝本さん、どんな感想を言ってくれるんだろうなあ。その言葉をすごく聞いてみたい。

※記事初出時より一部表現を変更しました。

UA
ニューアルバム「JaPo」
2016年5月11日発売 / 3240円 / SPEEDSTAR RECORDS / VICL-64408
[アナログ] 2016年6月29日発売 / 3780円 / HRLP-026
収録曲
  1. AUWA
    作詞:UA / 作曲:青柳拓次
  2. JAPONESIA
    作詞:UA / 作曲:青柳拓次
  3. ISLAND LION
    作詞:UA / 作曲:レイチェル・ダッド
  4. いとおしくて
    作詞:UA / 作曲:レイチェル・ダッド
  5. あいしらい
    作詞:UA / 作曲:青柳拓次
  6. KUBANUYU
    作詞:UA / 作曲:青柳拓次
  7. BEAM YOU
    作詞:UA / 作曲:レイチェル・ダッド
  8. 愛を露に
    作詞:UA / 作曲:青柳拓次
  9. TARA
    作詞:UA / 作曲:ヨシダダイキチ
  10. ドチラニシテモ
    作詞:UA / 作曲:青柳拓次
UA TOUR 2016「HELLO HAPPY JAPONESIA」
2016年6月12日(日)
神奈川県 Yokohama Bay Hall
2016年6月18日(土)
東京都 日比谷野外大音楽堂
2016年6月23日(木)
愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
2016年6月24日(金)
大阪府 ユニバース
2016年8月7日(日)
大阪府 ユニバース
UA(ウーア)
UA

1972年大阪生まれ。1995年にシングル「HORIZON」でデビューし、1996年発表のシングル「情熱」でブレイク。同年発売のアルバム「11」は90万枚を超える大ヒットを記録する。以後、ソウル、ジャズ、レゲエなど、ジャンルにとらわれないナンバーを幅広く歌い、その圧倒的な歌唱力と存在感でトップアーティストとしての地位を確立する。2000~2001年には浅井健一らとロックバンドAJICOを結成し活躍。2003年にはNHKの教育番組に「歌のおねえさん」としてレギュラー出演し、さらに2006年には菊地成孔とジャズのコラボレーションアルバム「cure jazz」をリリースした。映画「水の女」「大日本人」にも出演し、女優としてもその才能を発揮している。2015年にデビュー20周年を迎え、2016年5月にアルバム「JaPo」を発表。同月に1990年代に発表されたアルバム「PETIT」「11」「アメトラ」「turbo」のデラックスエディションをリリースする。