音楽ナタリー Power Push - UA
愛と祈りを込めた7年ぶりのアルバム「JaPo」
拓次くんに真っ先に声をかけました
──今作のアルバム全体のプロデュースは青柳さんで、彼は10曲中6つのナンバーで作曲も手がけています。青柳さんはUAさんのデビューアルバム「11」に「大きな木に甘えて」を提供して以来、UAさんにとっては盟友で。
うん。翌年ライブ盤(「FINE FEATHERS MAKE FINE BIRDS」)になったツアーでギターを弾いてくれたのも拓次くんだし。もう長い付き合いですよね。私の歌をすごくわかってくれてる人だと思う。音楽家としても尊敬してるし、人として共感できるところがいっぱいあって……。LITTLE CREATURESの作品はもちろんだけど、私、拓次くんがしっかり日本語で歌うようになって以降のソロアルバムが大好きなの。
──2007年の「たであい」や、2010年の「まわし飲み」ですね。どういう部分に惹かれたんですか?
うーん……なんやろ? 実はすごく先鋭的なサウンドでありながら、真ん中には一本ちゃんと歌心が通ってるところ、かな。メロディに乗っている日本語の冴え方にも非常にインスパイアされますし。さっきの話じゃないけど、生活レベルでより本質的なものに向き合っていこうとする姿勢も似ているんだと思う。だから3.11の前にシンプルな歌のアルバムを作ろうと思った際にも、真っ先に声をかけましたし。震災後はやんばるで移住組のご近所さんとして暮らしていたから。2人共似たような年の子供がいたし。直接アルバムの話とかしなくても、日々の生活や会話でいろいろ共有してたんでしょうね。
──そう考えると「JaPo」という作品がはっきりした輪郭を描くまで、5年前後の発酵期間があったわけですね。実際のアルバム制作作業は、どんな感じで進んでいったんですか?
拓次くんをはじめ、レイチェル・ダッド(イギリス・ブリストルの女性シンガーソングライター)とヨシダダイキチくんに楽曲をお願いして。最終的に「よし、これでいこう!」というデモがでそろったのが、2014年の秋くらいかな。で、そのプリプロ音源を一式全部抱えて、私自身はカナダの島に移ったんですね。そこで歌詞を全部仕上げて。
──今はその島が生活の拠点なんですよね。
うん、そう。わりとこぢんまりした島。
──今回の収録曲はどれも、歌詞に込められたメッセージや意味と、言葉の響きの気持ちよさがギリギリで共存している印象があって。そこがすごく刺激的だったんですけど……。
そっか。そう聞こえたんだったらうれしいなあ!
──すべてメロディが先にあったんですか?
うん。私ね、純粋に言葉だけで成り立っている“詩”は書けないのね。だから今回に限らず、どのアルバムでもまず先に曲をもらって。そのメロディにしっくり乗る詞を探すしかない。これはこれで、けっこうプレッシャーの大きなしんどい作業なんですけど。
妊娠期間はたっぷり長かったけど出産は一瞬
──UAさんは以前インタビューで、「アルバム制作は人選から。こんな人たちと作りたいと思った時点でアルバムのコンセプトが決まる」とおっしゃっていたでしょう? 今回のメンバーも青柳さんと相談して?
基本はそうね。あとは、エンジニアのZAKくんもいろいろアドバイスしてくれました。拓次くんのほかにはベースがLITTLE CREATURESの鈴木正人くんで、ドラムが山本達久くん。パーカッションは2人いて、ドイツ生まれのコスマス・カピッツァさんとアメリカ人のクリストファー・ハーディさん。ピアノはぜいたくにも高木正勝くんに入ってもらって。コーラスで神田智子さん。楽曲によってはハープで彩愛玲さんが参加してくれてます。
──すごいメンツですね。高い演奏スキルを備えながら、遊び心もあるミュージシャンばかりで。
そうなの。今度のアルバムは、できるだけ身体性を前面に出したかったというか。自分の内側から湧いてくるポリリズミックな衝動を、楽曲で表現することがすごく大事だったので。レコーディングもなるべくメンバー同士が顔を見合わせられる距離で、「いっせーの!」で録りたかったんです。ただ今回の収録曲って基本、メロディはポップで力強いけど、楽曲の構造自体はわりと複雑だったりもするから……。
──UAさんのボーカルと各楽器のパートが単純な主と従の関係じゃなく、それこそポリフォニックに響き合う演奏が多いですもんね。複雑な転調や変拍子も多用されているし。
しかも、スタジオで初めて会うメンバーもいたからね。だからこそ演奏力だけじゃなく、音楽的な価値観とかセンスが大事だと思った。その意味ではうまくいったと思います。
──レコーディングはいつから始めたんですか?
去年の5月。トータルで10日間だったかな。まず最初に東京のビクタースタジオで、5日くらいかけてベーシックとなるセッションをワーッと録って。その後、山梨の小淵沢スタジオに移って、細かい部分をいろいろ詰めていきました。
──じゃあ、わりと短期間でギュギュッと作っちゃう感じで?
そう。妊娠期間はたっぷり長かったけど、出産は一瞬みたいな(笑)。実際に私、今回のレコーディング中はお腹に4人目の赤ちゃんがいたんだけど。このアルバムもちゅるんって感じで、一気に出てきてくれた(笑)。印象的だったのは、レコーディングの最終日。空にでっかい日輪が出たんですよ。太陽の周りにドドーンと大きな虹がかかってね。「あ、これは幸先いいかも!」って思ったのを覚えてます。
次のページ » 私は歌とか音楽でしか感じてることを表現できない
- ニューアルバム「JaPo」
- 2016年5月11日発売 / 3240円 / SPEEDSTAR RECORDS / VICL-64408
- [アナログ] 2016年6月29日発売 / 3780円 / HRLP-026
収録曲
- AUWA
作詞:UA / 作曲:青柳拓次 - JAPONESIA
作詞:UA / 作曲:青柳拓次 - ISLAND LION
作詞:UA / 作曲:レイチェル・ダッド - いとおしくて
作詞:UA / 作曲:レイチェル・ダッド - あいしらい
作詞:UA / 作曲:青柳拓次 - KUBANUYU
作詞:UA / 作曲:青柳拓次 - BEAM YOU
作詞:UA / 作曲:レイチェル・ダッド - 愛を露に
作詞:UA / 作曲:青柳拓次 - TARA
作詞:UA / 作曲:ヨシダダイキチ - ドチラニシテモ
作詞:UA / 作曲:青柳拓次
- UA TOUR 2016「HELLO HAPPY JAPONESIA」
- 2016年6月12日(日)
神奈川県 Yokohama Bay Hall - 2016年6月18日(土)
東京都 日比谷野外大音楽堂 - 2016年6月23日(木)
愛知県 名古屋CLUB QUATTRO - 2016年6月24日(金)
大阪府 ユニバース - 2016年8月7日(日)
大阪府 ユニバース
UA(ウーア)
1972年大阪生まれ。1995年にシングル「HORIZON」でデビューし、1996年発表のシングル「情熱」でブレイク。同年発売のアルバム「11」は90万枚を超える大ヒットを記録する。以後、ソウル、ジャズ、レゲエなど、ジャンルにとらわれないナンバーを幅広く歌い、その圧倒的な歌唱力と存在感でトップアーティストとしての地位を確立する。2000~2001年には浅井健一らとロックバンドAJICOを結成し活躍。2003年にはNHKの教育番組に「歌のおねえさん」としてレギュラー出演し、さらに2006年には菊地成孔とジャズのコラボレーションアルバム「cure jazz」をリリースした。映画「水の女」「大日本人」にも出演し、女優としてもその才能を発揮している。2015年にデビュー20周年を迎え、2016年5月にアルバム「JaPo」を発表。同月に1990年代に発表されたアルバム「PETIT」「11」「アメトラ」「turbo」のデラックスエディションをリリースする。