ナタリー PowerPush - UA
2年ぶり新作アルバムが描く地に足のついた音楽と生活
生活感のある「キッチンソング」を歌いたい
──UAさんの日々の暮らしが連想できる「アスパラガス」や「Familia」のような歌詞も新境地ですね。
今回のアルバムでは生活感がある歌も歌いたいと思っていたんですよ。私は放っておいたら、幻想的なファンタジー方面に行きがちなんだけど、もう少し人間的な部分を出したいなと。自分では「キッチンソング」と呼んでいるんだけど、家ではキッチンにいる時間がすごく長いんでね。「アスパラガス」の歌詞にあるように、実際ひよこ豆をコトコト煮たりして。ご飯づくりは毎日のことだから、楽しいだけではないけどね。キッチンでも音楽は聴けるようにしています。日常の自分が聴いて発見することも多いから。そういう意味でも、客観的になってきたんでしょうね。
──音楽への接し方にも変化はありましたか?
家族との日々の生活が慌ただしいから、音楽を作る時間は至福の時ではありましたね。時間が限られているからこそ、悦びが深いというか。
──アルバムには曲ごとにさまざまな作曲者、プロデューサー、ミュージシャンが参加しているのも特徴ですが。
アルバムを作るときは、いつもまず人選からですね。こんな人たちと音楽を作りたいと思った時点でアルバムのコンセプトが決まる。ただ、今回はレコーディングに立ち合う時間が限られていたからおまかせした部分も多いんです。最近になってやっと文明の利器を活用して、PCで音源のやりとりができるようになったし。結果、素晴らしい曲が上がってきて。これはうれしかったですね。
──音と歌の相乗効果でイマジネーションがゆっくり広がる心地良さがありますね。
そうだとうれしいんですけど。「SUN」の頃は音に自分を重ねたいという欲求が強かったんです。ミュージシャンに比べたら、ボーカリストって歌詞があるからハンディがあるように感じていたこともあって。ただ、私の歌を聴いてくれる人は歌詞の比重が大きいようで、前作の「Golden green」からは少し軌道を変えてみたんです。
──これまでの実験的な試みと、いまのUAさんから出てくる歌が調和するようになってきたのかな?
そう。YOSHIMIOと共演した「TIDA」という曲では先生について習っている奄美島口にトライしているんだけど、そこでまた新しい発見はありましたね。私、歌詞がないと本当に歌えなくて、歌詞ができて歌ってみると「あれ? この曲こんなに簡単やったかな?」って思うんです。そこは自分でも面白い。
──YOSHIMIOの「トキメキ」もUAさんにしか歌えない世界ですね。
やっぱり、そういうチャレンジがないと自分らしくないしね。音楽を聴いてリラックスしたいというのもわかるけど、音楽の面白さや刺激も私にはすごく大事なことだから。
──それはUAさんが音楽に対して真摯でありながら、無邪気な部分を忘れないでいるからでは?
だからミュージシャンもそういうタイプの人が好きなんですよ。そうじゃないと自分も弾けることができないし、歌っていて解放されない。子供を見ていると本当に予測がつかない面白さがあるけど、音楽もそうであってほしいという思いがあるんですね。
──アルバムタイトルの「ATTA」も子供が口にする言葉からとか。
そう。「ない」と思っていたものが「あった」という意味でもあるし。
──細野晴臣さんが作曲&ボーカルで参加した「月がきえてゆく」もうっとり聴き惚れてしまいました。
細野さんこそ無邪気そのものというか、謎よね(笑)。細野さんには宮崎駿さんの架空の映画のような音楽を、とお願いしてみたんだけど、それを超える曲になったかなと思う。
CD収録曲
- 愛の進路
- TIDA
- Purple Rain
- KOSMOS
- 2008
- Reveilles-toi! 目覚めよ
- アスパラガス (Album Mix)
- picnic_20c.
- 13番目の月
- 怪物
- Familia
- 月がきえてゆく
- トキメキ
UA(うーあ)
1972年大阪生まれ。1995年にシングル「HORIZON」でデビューし、1996年発表のシングル「情熱」でブレイク。同年発売のアルバム「11」は90万枚を超える大ヒットを記録する。以後、ソウル、ジャズ、レゲエなど、ジャンルにとらわれないナンバーを幅広く歌い、その圧倒的な歌唱力と存在感でトップアーティストとしての地位を確立する。2000~2001年には浅井健一らとロックバンドAJICOを結成して活躍。2003年にはNHKの教育番組に「歌のおねえさん」としてレギュラー出演し、さらに2006年には菊地成孔とジャズのコラボレーションアルバム「cure jazz」をリリース。映画「水の女」「大日本人」にも出演し、女優としてもその才能を発揮している。