音楽ナタリー PowerPush - U-zhaan

これが最後かもしれないから、やりたいことを貫いた

全部ゲストのカラーに寄せた曲になっていい

──それでは、アルバムの曲について1曲ずつお話を聞かせてください。まず1曲目の「Getting Ready」ですが……。

チューニングしてるとこですね。まあ「タブラって、チューニングするんだよ」っていうトラックです(笑)。

──これは一発録り?

チューニングしただけだからね。あ、1回録り直したかな。最初のテイクは、チューニングが合わなくて全然終わんなかったの。こんなのが2分半とか続いたらダメじゃん(笑)。これ最初は入れるつもりなかったんだけど、曲順を考えてるときにどの曲を1曲目にしても不自然さを感じちゃって。ライブだったらいつもチューニングをしてから曲を始めるから、それを入れたらいいかなって。これをやってみて、ヒップホップの人がジングルを入れたりする気持ちがわかりました(笑)。

──2曲目はHIFANAとのコラボですね。

HIFANAは90年代からの知り合いで、参加してもらった人の中で一番付き合いが古いんですよ。ジューシーは大学の同級生だし。だからタブラのことも僕のこともすごくよくわかってて。

──「Chicken Masala Bomb」という曲名にした理由は?

HIFANAが「鳥の鳴き声が入ってるから『チキンカレー』っていうタイトルはどうかな?」って言ってて。でも、その曲名はちょっと人に言いたくないなと思って(笑)。「俺さ、初めてソロアルバム出したんだよね。1曲目は『チキンカレー』って曲でさ」って。

──その曲名は聞かされる側も微妙な気分になりますよね(笑)。

ということで、彼らの意見を汲みつつ、明るい感じにしました(笑)。

──ちなみに曲を作るときに、「どっちのカラーに寄せよう」みたいなことは考えるんですか? この曲はHIFANAっぽくしようとか。

ああ、曲調に関しては全部向こうっぽくなっていいと思ってたんですよね。どっちにしろ僕の音はずっと入ってるんだから。

──3曲目「Tabla'n'Rap」はKAKATO(環ROY×鎮座DOPENESS)との共演ですね。

これは3人でうちに集まってリリックを考えました。ROYは3時間半ぐらい遅刻してきたんだけど(笑)。この曲がアルバムの中で一番「タブラだけ」かな。2人の声以外は本当にタブラしか鳴ってないから。

U-zhaan

──ヒップホップアーティストとセッションするのはやりやすいですか?

自分がヒップホップ好きだからね。この間、富山のフェスに出てたときに、ライブが終わってからYOUR SONG IS GOODの人たちから「U-zhaanさんはヒップホップが好きなんですか?」「ループマシンを使って、その場でヒップホップのトラックを作成してるみたいに見えた」って言われて。

──おお。それは面白い指摘ですね。

自分では別に何も考えないで作ってるんだけど、ヒップホップのトラック感はいつも心にあるのかもしれないです。

──次はAmetsubとの「Welcome Rain」。これもすごくいいですよね。

僕はAmetsubの大ファンだったから、これに関しては最初っからこういうふうに作ろうっていうイメージがあったんです。で、そのイメージとAmetsubくんがやりたいイメージをまず共有してから作りました。これは最後の最後まで何テイクもずーっと作り直してたな。「もうここで完成!」っていうふうになってからも、さらにAmetsubくんから「もっとこうしたい」っていうアイデアが出続けるので。

自分でも予想できないものにしたいと思った

──ハナレグミが歌う「俺の小宇宙」は、マンガ家の久保ミツロウさんが作詞を担当してるんですよね。

曲を作ろうって話を僕の家で崇くんとしてるときに、崇くんが「歌詞は誰かに頼んで書いてもらうのもいいよね」って提案してきたんです。「じゃあ久保ミツロウに頼んでみようか」ってメールしたらその日のうちにメールが返ってきて。

──「OKです」という返事?

いやいや、その日のうちにこの歌詞が送られてきたんですよ。

──へえ! それはすごい!

もともと書いてあった歌詞だったらしくて。何かの替え歌気分で書いたみたいなこと言ってたような気がする。でもすごく面白いというか、耳に飛び込んでくる歌詞だなって。

──まあ一言で要約すると「リア充爆発しろ」っていう内容ですよね。それをハナレグミが美しい声で朗々と歌って、かつバックグラウンドでは澄んだタブラの音が鳴り響いてる──かなりおかしなことになってる曲ですよね(笑)。すごい世界観。

やっぱ、だいぶ変だよね。崇くんも「俺、この歌詞を歌えるかな?」って(笑)。で、崇くんに曲を付けてもらって、足りない部分の歌詞をまたミツコ(久保ミツロウの本名)に書いてもらって完成しました。曲を作ったのは永積崇、作詞したのは久保ミツロウ。僕は曲のアレンジをしてタブラ叩いただけなんです。自分のアルバムなのに(笑)。

──続く「Flying Nimbus」はDE DE MOUSEとのコラボです。

デデくんがドラムンベースを好きだっていうのは前から知ってて、俺もドラムンベースがすごく好きだから、2人でドラムンベースみたいなBPMの曲を作ろうってことに。これはほかの曲と違って、僕が叩いてるタブラも全部デデくんに考えてもらったの。だからこれだけ、自分の手癖がまったくない演奏をしてる。

──確かにマシーンのようなタブラのビートが印象的です。

デデくんが組んだビートをタブラで生演奏してる感じですね。「ここに低音入れて」「ここでタン、タタンってして」みたいな、デデくんの指導のもとに。タブラの演奏って普通はどんどん展開していくものなんだけど、これは1ビートなので、自分では考えつかないものになりました。

──ドラムンベースのリズムってタブラと相性がいいんだってことがよくわかる曲ですよね。

そうですよね。自分もずっとSquarepusherを聴きながらタブラの練習してたし、BPMが早いハラカミさんの曲のドラムパターンをコピーしたりもしてました。でもそれはやっぱりタブラ奏者の考え方とは違うんですよ。今回もデデくんから「ここからここまでは、フィルとか絶対に入れないでループして」みたいな指示があったり。新しい発見もいっぱいありましたよ。

──でもリズム楽器の奏者にとってリズムフレーズを作るのってアンタッチャブルというか、「命」みたいな部分もあると思うんですよ。それを専門外の人に任せることに不安や戸惑いはなかったですか?

自分で考えると、どうしても「叩いたことのあるフレーズの中で、このBPMに合うものを叩く」になりがちだから。自分でも予想できないものにしたいなと思って。実際これで、新たなフレーズを獲得したみたいな気持ちになったし。

1stアルバム「Tabla Rock Mountain」 / 2014年10月8日発売 / Golden Harvest Recording
「Tabla Rock Mountain」ジャケット
初回限定盤 [CD] / 3240円 / GDHV-002
通常盤 [CD] / 2700円 / GDHV-003
収録曲
  1. Getting Ready / U-zhaan
  2. Chicken Masala Bomb / U-zhaan×HIFANA
  3. Tabla'n'Rap / U-zhaan×KAKATO(環ROY×鎮座DOPENESS)
  4. Welcome Rain / U-zhaan×Ametsub
  5. 俺の小宇宙 / U-zhaan×ハナレグミ
  6. Flying Nimbus / U-zhaan×DE DE MOUSE
  7. Technopolis / U-zhaan×坂本龍一
  8. Homesick in Calcutta / U-zhaan×Cornelius
  9. Raga Mishra Kafi / U-zhaan×Babui×agraph
U-zhaan(ユザーン)
U-zhaan

1977年、埼玉県川越市生まれ。18歳の頃にインドの打楽器・タブラと出会い、修行のため毎年インドに長期滞在するようになる。1999年にはシタール奏者のヨシダダイキチを中心としたユニット・サイコババに参加し、2000年からはASA-CHANG&巡礼に参加。2005年にはsalmonとともに「タブラの音だけを使用してクラブミュージックを作る」というコンセプトのユニット、salmon cooks U-zhaanを結成する。この頃からインドでは、世界的なタブラ奏者であるザキール・フセインに師事。2010年にASA-CHANG&巡礼を脱退したのち、rei harakamiとのコラボ曲「川越ランデヴー」を自身のサイトで配信リリースした。またインド滞在時のTwitterの投稿をまとめた書籍「ムンバイなう。インドで僕はつぶやいた」「ムンバイなう。2」も話題に。現在は日本を代表するタブラ奏者として、ジャンルを超えた幅広いアーティストと共演している。2014年9月にはソロ名義での初のアルバム「Tabla Rock Mountain」をリリースした。