音楽ナタリー PowerPush - U-zhaan
これが最後かもしれないから、やりたいことを貫いた
構想6年をかけた限界突破ジャケット
──コスト度外視ということで言えば、初回限定盤もすごいですよね。ジャケットにはドドーンと3D写真。しかも、紙ジャケにはスパイスの匂いが付いてるという豪華盤(笑)。
これやっぱりやり過ぎだよね(笑)。シールも全部手貼りで、スタンプもこのために作って1個1個押して、小袋の中に歌詞カードが入ってるのも手作業で。一部の素材はターメリックとかパプリカで染めて色と匂いを付けてるんですけど、やってみたら「目が超いてえ」って言われて、作業にゴーグルが必要だってことになって(笑)。
──資料によるとこのジャケットは「構想6年、実制作2年をかけた」ってことですけど、今までの話を聞く限り、6年前ってU-zhaanさん、まだソロアルバムを作るつもりはなかったのでは。
僕はその時点で作るつもりはなかったんだけど、このジャケット作ってくれた人は勝手にずっとアイデアを温め続けてたんですよ。ジャケに写ってる自転車みたいなやつは「100%ユザーン」ってイベントの3回目のときに演奏台として作ってもらったんだけど、年を追うごとにどんどんパワーアップしてて。「ユザーン! ここに“スパイス”ってマーク入れたよ!」「ベルをもう1個付けたんだけど、どうかな?」とか言ってくれるんだけど、「いらないよ、そんな小さいところ見えないから」って(笑)。
──このアルバムが発売されて、デザイナーさんは本当によかったですね(笑)。
あと、ブックレットに載ってる「タブラマン」がすごいんですよ。ここに写真を載せるだけのために作ってくれたんだけど、実際に中に人が入れるようになってて。実物を見るとマジですごい。タブラマンを作るだけでもたぶん計り知れないほどの予算がかかってて、さすがにこれに関しては限界を越えてるんじゃないかって思った(笑)。だけど、採算を度外視してでも「買ってよかったな」って思ってもらえるようにしたかったんですよ。
──確かに話を伺うと、3000円で買えるようなものじゃないですね。
最初は3200円で売ろうとしてたんだけど、プレスリリース作る直前になって、消費税8%含めると3400円超えることに気付いて。自分だったら3400円もするCD買いたくないかもなと思って、方々に電話かけて200円下げてもらったの。で、通常盤も2800円から2500円に下げてもらったんです。
──自主制作でやることを決めたから、好きなだけ時間をかけてレコーディングして、採算度外視で思うようにジャケットを作って、かつ値段も自分で決めていい──。素朴な疑問なんですけど、途中で引き返したくなるタイミングはなかったんですか? 「このまま突き進んでいくともしかして大変なことになるのでは」みたいに思いませんでした?
でも引き返せないですよね。最初に教授とレコーディングした時点でもう引き返すタイミングがなくなったというか、退路を断ってしまったので(笑)。参加アーティストのみんなも快く協力してくれたし。
実験をしてる気持ちはさらさらない
──とてもバラエティ豊かな作品が完成しましたが、今回のアルバムには一貫したコンセプトやテーマみたいなものはあるんでしょうか。
コンセプトは「タブラが鳴ってる」っていうこと。タブラは鳴らないからね、普通(笑)。
──ははは(笑)。確かに、幅広いジャンルの曲が入っているのに、ほぼ全ての曲でタブラが鳴ってますもんね。
曲ごとにジャンルが全然違うように聞こえるかもしれないけど、結局全部一緒だから。「さまざまなジャンルを横断」みたいなことが売り文句になってるけど、別にこれ、自分ではジャンルを横断してるとは思ってないんです。
──いろんなジャンルの音楽をタブラという楽器を奏でることで接続しているとも言えますね。ご自身ではタブラの可能性を広げているという実感はありますか?
うーん。「タブラの可能性を広げてる」っていう感じは全然ないんですよね。かといって実験音楽だとも思ってないし、チャレンジしてるっていう気持ちもない。
──となると、逆にほかのアーティストとコラボしたことでタブラという楽器の可能性を「広げてもらった」みたいな感覚?
うん、そうそう。広げてもらってる──。たとえばさっき言ってたハナレグミの曲でのタブラアルペジオだって、特殊なことやってるように聞こえるかもしれないけど、あるべき音を探して演奏したらこうなったというか。僕はタブラの音がいい音だと思うから鳴らしてるだけだし、一番いいと思う演奏をしただけなので、実験をしてる気持ちはさらさらないんだよね。本当に自分の好きなようにやると、ほかの人からどう思われるのかが気にならなくなるんだなと思いました。
──では、このアルバムを作って改めて気付かされたタブラの魅力はありますか?
「インド音楽カッコいいな」って(笑)。やっぱり自分はインド音楽が好きなんだなと思います。ほかのいろんな音楽をよく知らないうちにインド音楽を始めてるんで、西洋音楽よりもインド音楽が基礎にあるんですよ。好き嫌いじゃなくて、もう体内にある物。このアルバムの最後の曲をインド音楽にしてすごくよかったと思ってます。
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- 1stアルバム「Tabla Rock Mountain」 / 2014年10月8日発売 / Golden Harvest Recording
- 「Tabla Rock Mountain」ジャケット
- 初回限定盤 [CD] / 3240円 / GDHV-002
- 通常盤 [CD] / 2700円 / GDHV-003
収録曲
- Getting Ready / U-zhaan
- Chicken Masala Bomb / U-zhaan×HIFANA
- Tabla'n'Rap / U-zhaan×KAKATO(環ROY×鎮座DOPENESS)
- Welcome Rain / U-zhaan×Ametsub
- 俺の小宇宙 / U-zhaan×ハナレグミ
- Flying Nimbus / U-zhaan×DE DE MOUSE
- Technopolis / U-zhaan×坂本龍一
- Homesick in Calcutta / U-zhaan×Cornelius
- Raga Mishra Kafi / U-zhaan×Babui×agraph
U-zhaan(ユザーン)
1977年、埼玉県川越市生まれ。18歳の頃にインドの打楽器・タブラと出会い、修行のため毎年インドに長期滞在するようになる。1999年にはシタール奏者のヨシダダイキチを中心としたユニット・サイコババに参加し、2000年からはASA-CHANG&巡礼に参加。2005年にはsalmonとともに「タブラの音だけを使用してクラブミュージックを作る」というコンセプトのユニット、salmon cooks U-zhaanを結成する。この頃からインドでは、世界的なタブラ奏者であるザキール・フセインに師事。2010年にASA-CHANG&巡礼を脱退したのち、rei harakamiとのコラボ曲「川越ランデヴー」を自身のサイトで配信リリースした。またインド滞在時のTwitterの投稿をまとめた書籍「ムンバイなう。インドで僕はつぶやいた」「ムンバイなう。2」も話題に。現在は日本を代表するタブラ奏者として、ジャンルを超えた幅広いアーティストと共演している。2014年9月にはソロ名義での初のアルバム「Tabla Rock Mountain」をリリースした。