音楽ナタリー Power Push - TWEEDEES
ポップスが描くべき夢のかたち
理想のソウルミュージックが今ならできる
──「PHILLIP」は2月の結成1周年ライブで真っ先に披露された新曲2曲のうちの1つですね(参照:オギャーからバブーへ、TWEEDEES満1歳の誕生会で新曲披露)。アルバムではikkubaruのムハンマド・イックバルさんがゲストボーカルで加わっています。
沖井 イッくんとLINEしていたら、自然と「デュエットとかやれたらいいよね」って話になって。それでこの曲を作り始めたんですよ。
──もともと彼ありきで作った曲なんですね。
沖井 うん。PHILLIPというのは、僕の家にたびたび出没するハエトリグモのことなんです。かわいいでしょ(笑)。かわいいハエトリグモの歌にしようと話していたら、この人(清浦)が「フィリーップ」って歌い始めて「それいいじゃん」って。そのままAメロを作ってもらって、こちらでさらに膨らませて。
──清浦さんはTwitterで「実は私きっかけで出来た曲。『さすが沖井節!』と言われるともれなく私がニヤッとするぜ」とおっしゃってましたね。
清浦 うふふ(笑)。うまく混ざってるなって。
──この曲にあるソウルフルな歌い回しは、これまでの沖井さんの曲にはなかった雰囲気だなと感じたんですけど、それはやっぱり清浦さんから出てきた要素?
沖井 「Woo Baby」のあたりですよね。実はあの部分を作ったのは僕なんですよ。「彼女ならこれが歌える」と思って……とうとう作った、というか。昔からやりたかったんですよ。この人なら暑苦しくもダサくもなく歌えるだろうという安心感。
──清浦さんの声なら自分なりのソウルができると。
沖井 うん、理想のソウルミュージックが今ならできる。やっぱりデュエットと言うとマーヴィン・ゲイとタミー・テレルみたいなものを想像しちゃうから、「じゃあここでやってもらいましょう」と。「どうぞ、清浦夏実さんです!」みたいな。
清浦 じゃじゃーん(笑)。
沖井 なので僕としても非常にワクワクした試みでしたね。
アナログ再発見による“高密度ポップス”からの変化
──4曲目の「私の悪い癖」はまたこれまでになかったサウンドアプローチですね。
沖井 「この人に何を歌わせたら面白いか」をいろいろ考えている中で、Sly and the Family Stoneみたいなスタイルのファンクを……なんでやろうと思ったのかわかんないんですけども、ちらっと聴かせたら急に「私の悪い癖」というタイトルをなぜかこの人が思い付いて。
清浦 最初に聴いたとき「これ、TWEEDEES?」と思ったんですよ。完成図が想像できなくて。びっくりしたんですけど、歌詞を書いているうちにだんだん曲に慣れてきたというか。
沖井 キー設定は最初、少し高すぎるかなと思ってたんですよ。でも歌ってもらったら意外な飯島真理感が出て(笑)。
──次の「バタード・ラム」はタイトルにも不思議なインパクトがあるし、歌詞の「やめられなーい」みたいなフワッとした感じも新鮮で。
清浦 去年の秋ぐらいにホット・バタード・ラムというものを初めて飲んだんですけど、それがすごくおいしくて。そのおいしさを曲にしたかったんです。
沖井 お酒だからやっぱり酔ってるイメージにしたいから、自然とああいうビートになって。彼女は思ったよりひどい歌詞を書いてきて。
清浦 ひどいよね(笑)。飲んだくれソングです。
──そう言えばTWEEDEESになってからの沖井さんの変化として、アナログ盤への再認識もありますよね。去年11月に7inchシングル「Winter's Day e.p.」と1stアルバムのLPが発売されたとき、改めて気付いたアナログレコードの魅力についてよく言及されていました。
沖井 ええ。
──今作はもはやアナログも視野に入れて構成を考えているんじゃないかと思ったのですが。そうなると「バタード・ラム」はA面ラストで、盤をひっくり返す前の場面転換にしっくりくる曲調と音だなと。
沖井 その通りです(笑)。あるプロデューサーさんが僕の作る曲のことを「高密度ポップス」と呼んでいて、自分でもその自覚はあったんです。密度の高い音が好きだし得意だと思ってたんだけれども、もうちょっと目の粗いポップスのよさもあるよなと。アナログ再発見と同じ時期にそう感じたことがあって。なぜならアナログはそういう音がとてもよく聞こえるから。たぶん半年前の僕だったら、もうちょっと密なアレンジにしちゃってたと思います。生楽器でここまでシンプルな構成というのは、僕にとっては少し勇気が必要だったけれども、この方向性はもう少し突き詰めてみたいですね。
なんですかこれ?
──そしてB面の1曲目にあたるのが先ほど挙げた、作詞と作曲の立場が逆転した「melody」です。まずは作曲家・清浦さんにお聞きしましょう。
清浦 この曲だけは1stアルバムの時期にある程度できていたんです。でも1stアルバムに入れるにはちょっと違うかなということで保留になっていて。そのあと沖井さんにアレンジしてもらって、歌詞を書こうと思ったんですけど、どんどん私が想像していた景色と違う方向に向かっていったから、だったら沖井さんにカッコよく書いてもらったらいいのかなと思ってお任せしました。
沖井 もう少しハンドインハンドなイメージだったらしくて。でもハンドインハンドなんてものは僕の中にはなくて(笑)。人とのつながりの歌、というと身も蓋もないんだけども、僕なりのハンドインハンドです。実はアレンジにものすごく苦労した曲で、何度作っても作曲者であるこの人からOKが出なかったんですよ。アレンジをするうえで「この曲のイメージはね」って話をされるわけですが、そんな話し合いを重ねる間に僕の中でイメージの熟成が進んで、こんな歌詞になりました。
──1stアルバムの段階ではハマらなかったものが今作にはハマったという、その違いはなんなんでしょうか。
沖井 なんでしょうね。しっくりきたとしか言いようがないんだけれども、その違いがTWEEDEESのこの1年の、何かしらの変化なり成長したところなんでしょうね。
──「Baby, Baby」も「PHILLIP」と同じく1周年ライブで演奏された曲で、披露時には歌詞に関するエピソードも話されていました。
沖井 さっき「沖井のルーツが透けて見えないアルバム」とおっしゃいましたけど、この曲なんかは自分にとってもまさにそうで、これは何がルーツにあるのか自分でも答えられないんですよ。ただ、今のTWEEDEESに似合うのはこういう16ビートなんだろうなというヒントだけがあって、僕らの周りで出産が相次ぐベビーブームがあって……「Baby, oh Baby」って言ってほしいからこの曲を作ったわけですよ。最初に思い付いた「Baby, oh Baby」という言葉がすでに16ビートで、今のTWEEDEESが欲しているのがそういうムードなんだろうなあ。アレンジも謎ですよ。なんですかこれ?
──なんですかってアレンジした本人が(笑)。演奏は普段ライブで一緒のメンバーですけど、このメンバーで自然に音を鳴らすと、このビートがしっくりくるとか。
沖井 ああ、そうなのかなあ。実際、アレンジするときは「ゲンちゃんにこれ叩かせたら最高だよね」とか、「華ちゃん(末永華子)のピアノがこう乗って」とか、そういう安心感を持って作っているところは確かにあるかもしれない。
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- 2ndアルバム「The Second Time Around」2016年7月20日発売 /日本コロムビア
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3888円 / COZP-1218~9
- 通常盤 [CD] 3024円 / COCP-39649
CD収録曲
- 速度と力
- STRIKERS
- PHILLIP(feat.ikkubaru)
- 私の悪い癖
- バタード・ラム
- melody
- Baby, Baby
- Winter's Day
- 友達の歌
- ムーンライト・フラッパー
初回限定盤DVD収録内容
- 「The Adventure of the TWEEDEES 2015-2016」(ドキュメンタリー&インタビュー映像)
- 「KLING! KLANG!!」(ミュージックビデオ)
- 「Winter's Day」(ミュージックビデオ)
- 「Baby, Baby」(ミュージックビデオ)
TWEEDEES インストアライブ&サイン会
- 2016年7月20日(水)
東京都 TOWERmini汐留店 イベントスペース - 2016年7月24日(日)
東京都 タワーレコード新宿店 7Fイベントスペース - 2016年7月30日(土)
大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店 6Fイベントスペース - 2016年7月31日(日)
愛知県 タワーレコード名古屋パルコ店(名古屋パルコ西館1階イベントスペース)
TWEEDEES 2ndアルバム"The Second Time Around" リリース記念ライブ「ショウほど素敵な商売はない vol.2」
2016年8月10日(水)
東京都 TSUTAYA O-WEST
OPEN 18:30 / START 19:30
料金:前売 3500円 / 学割 2500円 / 当日 4000円(ドリンク代別)
TWEEDEES(トゥイーディーズ)
シンガー清浦夏実と作曲家・音楽プロデューサー沖井礼二によるバンド。2015年1月にバンド結成を発表し、同時にオリジナル楽曲「KLING! KLANG!!」を配信限定シングルとしてリリースした。同年2月には東京・Future SEVENにて初ライブ「TWEEDEES Premium Show」を行い、3月に1stアルバム「The Sound Sounds.」を発表。その後は自主企画イベントや音楽フェスなどへの出演を重ねる。11月には初のシングル「Winter's Day e.p.」をアナログ7inchで発表。同時に1stアルバム「The Sound Sounds.」のアナログ盤も発売された。2016年7月に2ndアルバム「The Second Time Around」をリリース。