音楽ナタリー Power Push - TWEEDEES

ポップスが描くべき夢のかたち

“トゥイーディーちゃん”の成長

──いざ2ndアルバムを制作するとなったとき、すぐに作品の設計図、イメージは湧きましたか?

沖井 設計図的な形では、あまり綿密に作り込まないようにして今回は臨みました。僕は本来、わりと具体的な設計図をあらかじめ用意してから始めるタイプで。1曲目とラストにどんな曲を置くかは大事だし、そうすると導入からの2曲目とラスト前は……と少しずつアルバムの全体像を定めていくんですけど、今回は曲のポジションが作っていくうちにどんどん変わっていったんです。そこは柔軟に、フットワーク軽くいかないと、「2ndアルバムだから」とか「1stアルバムを超えなくては」という作為が入りすぎてしまってダメになるぞと。

──ある程度TWEEDEES像が見えてきたからこそ、無から1stアルバムを作り上げたのとは別の難しさがありますよね。

沖井 うん。我々が作り上げたTWEEDEESという子供……トゥイーディーちゃんが成長しつつあるその様子を、ちゃんと生の状態で伝えたかったから。

清浦夏実

清浦 トゥイーディーちゃんを、ちゃんと手の鳴るほうへ導きたかった。

──1stアルバムでは2人がそれぞれの持ち味を生かした、手札の中から最良の組み合せを導き出したような作品だったと思うのですが、今作は2人がもともと手札として持っていなかったんじゃないかなと思われる要素を端々に感じました。

沖井 きっと今までの僕の作品を知っている人は、今回のアルバムは今までと違う作り方をされているんじゃないかと感じ取ってくれると思うんですけど……僕もマスタリングの寸前で初めて気付いたのですが、このアルバムには8ビートが1曲しかないんですよ。僕はどちらかと言うと8ビートを得意とする音楽家だと自分でも思っていましたけど、今回なんとなくそれが入らなかったことには意味があると思うし、こんなに16分音符が多いのは、きっとTWEEDEESがそれを求めていたんだと思うんです。僕はそれをただ受け止めて、ただ返していこうと。この人(清浦)が物心付いたときには宇多田ヒカルがデビューしていて、リズム&ブルースではなく、いわゆるR&Bというものが普通に歌謡曲、ポップスとしてある中で彼女は成長してきたから、作ってくる曲にもその影響があって。それがTWEEDEESというバンドにというよりも、2016年のムードにしっくりきたんだと思います。ソウルっぽいもの、ファンクっぽいものを作っていこうぜ、と言って始めたんじゃなく、自然とこうなったことは興味深いですね。

作曲家クレジットを乗っ取られた気分ですよ

──作詞作曲の配分を確認したところ、作詞は沖井さん単独が3、清浦さん単独が6、共作が1。作曲は沖井さん単独が7、清浦さん単独が1、共作が2でした。

沖井 はい。

──ちなみに1stアルバムのときは、作詞は沖井さん単独が5、清浦さん単独が4、共作が1。作曲は沖井さん単独が9、清浦さん単独が0、共作が1と。カバーを除けばどちらもオリジナル10曲なので、並べると割合の変化がよくわかります。しかも今作の6曲目「melody」では作詞が沖井さん、作曲が清浦さんという役割の逆転も起きています。

清浦 そうそう、そうなんです。

──清浦さんはTWEEDEESが始動してから作曲修業を始めて、前作では共作1つだったところから、今作では共作を含めると3曲採用されています。曲作りはどんなふうに?

清浦 ポロポロと作ったものを沖井さんに聴いてもらって。共作のものについては、沖井さんがコードを弾いたものに私がメロディをその場で乗せたり、沖井さんがオケを大体完成させたところに私がメロディを足したり……。

沖井礼二

沖井 「あとから足す」ならいいんですけど、僕がもともと作っていたメロディを無視して歌い始めるんです(笑)。「ムーンライト・フラッパー」がまさにそれで。けっこう苦労して全体の構成を作って、コード進行もアレンジもある程度固まって、メロディも乗っかった状態で「こういう曲なんだけど」って聴かせたら、仮のメロディとはまったく別のラインを歌い始めたんだけど、そっちのほうがよかったから採用したという。作曲家クレジットを乗っ取られた気分ですよ(笑)。

──へえー。そこで清浦さんのメロディを「そっちのほうがよかったから」と採用していることも、作詞で6曲半、アルバムの中で発する言葉の半分以上を清浦さんに委ねていることも、これまでの沖井さんの作風から考えると意外な感じがしますね、やっぱり。

沖井 大概は僕が作り始めることが多いんですけれども、コードとメロディ、ビート感がなんとなく見えてきた段階で「この曲はどっちが作詞をしようか」と話をするんですよ。それで、たまたま今回は「これはなっさん(清浦)が書いたほうがいいだろうね」「私もそう思う」と落ち着く曲が多かった。蓋を開けてみたらそうだった、というだけで、そこは僕も同じような驚きを感じていて。「俺も歌詞を書きたいはずなんだけどな」っていう(笑)。逆に「melody」はこの人が書く気満々だったのに、書けなかったんですよ。そこも「あえて逆にしてみよう」みたいな作為はなくて。

洗練とはかけ離れた「青春の暴走」

──ではここから1曲ずつ順に詳しく聞かせてください。まずはオープニングの「速度と力」。

清浦 この曲は「産業革命」がテーマで……。

沖井 テーマというか、風景も歌詞の内容もかっちり決まったところから書き始めたんですよ。煙突についての曲が作りたくて。

──煙突?

沖井 19世紀の産業革命の時代、蒸気機関というものが発明されて、人々はすごくワクワクしたと思うんですよ。そのワクワクの象徴を、僕は煙突と考えて。

──サウンド的にも、沸々と高揚していく感じがありますね。高揚感を煽る細かいビートを刻むドラムには、いつもライブで叩いている原“GEN”秀樹(Dr / NORTHERN BRIGHT、SCOTT GOES FOR)さんではなく、若手のタイヘイ(カラスは真っ白)さんが起用されています。

沖井 あのワクワクが暴走する感じは、きっと若い人にやってもらったほうが出るだろうなと思ったんです。タイヘイも最初は遠慮がちだったんだけど、「もうちょっとやって、もうちょっと」ってお願いしたら「本当にいいんですか!?」って言いながら。できあがったものを聴かせたら「まさかこれが採用されているとは」と驚いていましたけど、僕が欲しかったのはまさにこれで。

──2曲目の「STRIKERS」が先ほど話に出た唯一の8ビート曲ですが、まさに“沖井節”というか、沖井礼二ファンが求める沖井サウンドだなと思いました。

沖井 はいはい。でも、僕の中では「沖井が作ってきた8ビート」とは何か別のものになった気がしていて。その始まりはCymbalsで言う「Show Bussiness」や「Rally」かなと思うんですけど、あれは「スピード感」「洗練」「飛翔感」をテーマに作ってきたもので、前作の「電離層の彼方へ」に至ってると思うんです。この曲も確かにスピードは速いんだけど、空を飛んではいなくて、どちらかと言うと地面なんですよね。しかも洗練とはかけ離れた「青春の暴走」なんですよ。「Highway Star, Speed Star」とかで目指していたスピードとはちょっと意味が違う。

清浦夏実

清浦 飛行機と車ぐらい違うし、なんなら駆け足かもしれない。でも私も「速度と力」と「STRIKERS」はすごく沖井さんっぽい曲だなと思っていて。

沖井 ちなみにこれ、仮タイトルは「TWEEDEES PUNK」だったんですよ。パンクロックが作りたかった。そういうものを今改めて作りたいと思えることがうれしくて。47のおっさんがね(笑)。私はおっさんだけども、きっとトゥイーディーちゃんが思春期なんでしょう。

──パンクな要素は、沖井さんが弾いているギターソロに感じました。周りにたくさん優れたギタリストがいる中、あえて自分でギターを弾いているのはそういうことなのかなと。

沖井 ええ。僕はリードギターがヘタクソなので、ちょうどいいかなと(笑)。

2ndアルバム「The Second Time Around」2016年7月20日発売 /日本コロムビア
初回限定盤 [CD+DVD] 3888円 / COZP-1218~9
通常盤 [CD] 3024円 / COCP-39649
CD収録曲
  1. 速度と力
  2. STRIKERS
  3. PHILLIP(feat.ikkubaru)
  4. 私の悪い癖
  5. バタード・ラム
  6. melody
  7. Baby, Baby
  8. Winter's Day
  9. 友達の歌
  10. ムーンライト・フラッパー
初回限定盤DVD収録内容
  • 「The Adventure of the TWEEDEES 2015-2016」(ドキュメンタリー&インタビュー映像)
  • 「KLING! KLANG!!」(ミュージックビデオ)
  • 「Winter's Day」(ミュージックビデオ)
  • 「Baby, Baby」(ミュージックビデオ)
TWEEDEES インストアライブ&サイン会
  • 2016年7月20日(水)
    東京都 TOWERmini汐留店 イベントスペース
  • 2016年7月24日(日)
    東京都 タワーレコード新宿店 7Fイベントスペース
  • 2016年7月30日(土)
    大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店 6Fイベントスペース
  • 2016年7月31日(日)
    愛知県 タワーレコード名古屋パルコ店(名古屋パルコ西館1階イベントスペース)
TWEEDEES 2ndアルバム"The Second Time Around" リリース記念ライブ「ショウほど素敵な商売はない vol.2」

2016年8月10日(水)
東京都 TSUTAYA O-WEST
OPEN 18:30 / START 19:30
料金:前売 3500円 / 学割 2500円 / 当日 4000円(ドリンク代別)

TWEEDEES(トゥイーディーズ)
TWEEDEES

シンガー清浦夏実と作曲家・音楽プロデューサー沖井礼二によるバンド。2015年1月にバンド結成を発表し、同時にオリジナル楽曲「KLING! KLANG!!」を配信限定シングルとしてリリースした。同年2月には東京・Future SEVENにて初ライブ「TWEEDEES Premium Show」を行い、3月に1stアルバム「The Sound Sounds.」を発表。その後は自主企画イベントや音楽フェスなどへの出演を重ねる。11月には初のシングル「Winter's Day e.p.」をアナログ7inchで発表。同時に1stアルバム「The Sound Sounds.」のアナログ盤も発売された。2016年7月に2ndアルバム「The Second Time Around」をリリース。