ナタリー PowerPush - つづくバンド
都筑祥吾が「眠らぬ街」で見た景色
人間としての総合点が低い
──プロになりたい、デビューしたいっていう気持ちはどの時点で芽生えたんですか?
高校を辞めるときは全然なくて。ただ、高校を辞めて何かを目指すわけでもなく生きていると、やっぱり不安になってきて。そのうちいつのまにか、自分の中で音楽をやることが代わりのきかないものになってきて。そのことに自分自身で気付いたのは、かなり経ってからですね。
──親からのプレッシャーとかはなかったんですか?
引きこもってるわけでもないし、不良っていうわけでもないから、ただわけがわからなかったんじゃないかな。得体が知れない息子みたいな(笑)。
──アルバム「眠らぬ街」を聴いて感じたのは、この人は何も持ってないし、何にも満たされていないんだなってことで。最近若いミュージシャンと話をしていてよく聞くのは、「自分たちの世代は生まれたときから不景気で、就職難も当たり前で、お金も持ってないけど、モノは安いし、ネットでタダで情報も入るし、よくも悪くもぬるま湯の中にいるようだ」って話で。でもそんな時代に生きていて、こんなに何も持ってない、何にも満たされてない人も珍しいなって。きっと自分がちょっとでも満たされそうになったら、そこから逃げてきた人なんだろうなって。
うーん……どうなんだろう。みんなが行く道を勝手にそれてきたので、よくも悪くも、違った風景を見てきたっていうのはあるだろうけど。それがいいことなのかは、わからないですね。……常に負い目があるんですよ。それは学校を辞めたからとか、そういうことじゃなくて、本来人間として持っているもの自体の弱さというか。
──話していて、そんなふうには全然感じませんよ(笑)。それは人間力がないっていうことですか?
うん。全体的な、総合点の低さというか(笑)。
──単に自己評価が極端に低いだけなんじゃないかな(笑)。
いや、これ以上ないほど自分を甘やかしてきたつもりですけど(笑)。
自分の周りに誰も入れない見えない線がある
──「満たされないでくれって言ってるだろう / 君にそんな事をされても困るよ / この線を越えてくるようならば / 優しくてもさようなら」(「LOOP」)ってところを聴きながら、これは相当タチの悪い男だなって思ったんですけど(笑)。
自分の周りに、ここからは誰も入れないっていう、見えない線みたいなものがあって。でも、そういうところに入りたがる人っているじゃないですか。
──そりゃあ、好きになったら入りたいでしょう(笑)。
でも結局は他人じゃないですか。どんなにその人が自分にとって近い存在になっても、その人とは関係ない時間と空間というものがあって。
──女性からすると本当にタチが悪いですよね。見るからに母性本能をくすぐりそうなタイプなのに、いざそれを発揮しようとしたら拒絶されるってことですもんね。
いやいや(笑)。
──でも、これはちょっと不思議な感覚なんですけど、こういう感傷的で自己憐憫的なギターバンドが陥りがちな閉塞感というのを、なぜかつづくバンドには感じないんですよ。単純に言葉の完成度が高いっていうのもあるけど、結局のところ、この人は自分自身のことも完全に突き放しているからなんだろうなって。
もともと、別に自分のことを書こうと思って書いた曲はほとんどないんですよ。
──でも、歌の主人公が完全にフィクショナルな存在というわけではないですよね。
曲を作るとき、俺の場合は詞が必ずあとなんですけど、まず音があって、そこからイメージが浮かんできて詞を書くんです。最初に曲名が浮かぶことがほとんどで。例えばアルバム1曲目の「眠らぬ街の眠れぬ夜」で言ったら、夜の繁華街の映像が浮かんで、その映像の中にいる人のことを書いていく感じなんです。で、書き終わってみると、そこにいる人間は自分のような人間で。でも限りなく自分に近いけど、やっぱり自分ではなくて、限りなく自分に近いその人間が見ている風景を自分が書いてるみたいな。
──じゃあ、曲の中で何か言いたいこと、訴えたいことがあるというわけではない?
今作の「未来のバトン」という曲が、初めて言いたいことがあって書いた曲ですね。でも、ほかの曲は、まずはただ浮かんできたイメージを書いたというか。
- 1stフルアルバム「眠らぬ街」/ 2013年5月15日発売 / 2625円 / DAIZAWA RECORDS / UK.PROJECT / UKDZ-0144
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収録曲
- 眠らぬ街の眠れぬ夜
- LOOP
- 水中
- 唇
- サルの剥製
- ドリーミンドリーミン
- 虹のふもと
- 105号室
- 未来のバトン
- 僕らの夜明け
つづくバンド
都筑祥吾(Vo, G)、飯沢幸大(G)、尾日向優作(Dr)によるロックバンド。地元・長野の高校を中退し上京した都筑を中心に結成。2012年初頭から本格的な活動を開始し、同年8月にミニアルバム「始まりの群像」を発表した。2013年5月に初のフルアルバム「眠らぬ街」をリリース。現在はサポートベーシストにtatsu(LA-PPISCH)、キタダマキ(ex. Syrup16g)、三浦謙太郎(BAZRA)を加えライブ活動を行っている。