筒美京平を語るうえで外せないナンバー「強い気持ち・強い愛」
──それぞれの作品で「この曲はやられた!」「そんなアレンジで来たか!」と嫉妬してしまった曲はありますか?
綾小路 こっちは勝手にやっただけなので競い合うも何もないんですけど(笑)、武部さんは公式ですから、すべてにおいてうらやましいことしかなくて。前にテレビ番組でLiSAちゃんが「人魚」を歌ったとき、ちょうど僕らも制作を始めた頃だったので「これは勝てねえわ!」と。とんでもねえところに飛び込んでいこうとしてるぞ、このドン・キホーテは、みたいな(笑)。でも、武部さんの作品の全参加者と選曲を知って逆に吹っ切れました。俺たちは「オルタナティブ筒美京平トリビュート」だと。予算だってたかが知れてるし、演奏もメンバー6人で全部やろう、と腹をくくって。だからもう……どれもこれもやられましたよ、全部(笑)。Nokkoさんの「人魚」(1994年3月発売)なんて僕はドンズバの世代ですから。Nokkoさんというロック畑から現れた時代のミューズが筒美京平の曲を歌うという驚きが当時はあったんですけど、それをLiSAちゃんという現代のミューズが歌うというね。
武部 LiSAの「人魚」がこのアルバムの最初のレコーディングだったんですよ。この曲がちゃんと形になったことで、アルバムの全貌が見えてきたところはありますね。僕がうらやましいと思ったのはね、小沢健二くんの「強い気持ち・強い愛」。これは京平さんを語るうえで外せないナンバーで。僕らもやりたかったけど、曲数の制限や歌えるアーティストがいないという事情であきらめたんです。翔くんたちが「いかにも氣志團がやりそう」ではないこの曲にトライしているのが、すごく共感できた。
──武部さんは「強い気持ち・強い愛」にどう特別な意味を感じているんですか?
武部 京平さんがいわゆる“歌手”に書く曲のアプローチとは全然違うんですよ。まずアーティストとがっぷり四つに組んで交わって、アーティストが望むものを出すという作業。これだけの大作曲家が取り組む仕事ではないものですよ、本来ならね。それは京平さんだからやれたんだと思う。そのフットワークの軽さや音楽に対する気持ち、そこがほかの大作家先生とは違う筒美京平の筒美京平たる所以なんじゃないかな。
綾小路 なるほどなあ……。この曲は「やりたいけど、どうやってやればいいの?」と一番頭を抱えた曲でしたね。小沢さんも、筒美さんが亡くなられてしばらく経った頃に哀悼のコメントを出していたじゃないですか。そこにこの曲のことが書かれていましたけど、のべ600時間、私財を投げ打って作ったというこのすごいアレンジにどう立ち向かえばいいのかと。小沢さんからコメントもいただいたんですよ。「氣志團がやってくれてすごくうれしい」って。おいおいヤベえぞと。これで、なんとなく雰囲気を寄せて作ろうものなら大やけどだぜ?って。いろいろガチャガチャやってみたんですけど……もう玉砕覚悟、ふんどし1枚で体当たりだ、とアコースティック楽器だけでやることにしたんです。もうすぐYouTubeに上げるんですけど(取材後、3月31日に公開された)、今からビビってます。小沢さんには熱烈なファンがいますし、好きな世代も幅広いので。大根仁さんの映画(2018年公開「SUNNY 強い気持ち・強い愛」)で大々的に使われたので、若い世代も知ってるんですよ。
武部 京平さんがすごいのは、曲が世代を超えて知られていることだよね。誰かがカバーした曲で知っている人もいる。曲が世代を超えてつながっていく、それだけのクオリティを持つ曲を、これだけの数書いてきたというのはすさまじいですね。
聴けば聴くほどよくわかる、引き出しの多さと懐の深さ
綾小路 筒美さんの曲にはキラキラしておしゃれな、洗練された都会的なイメージを持っていたんですけど、今回改めていろんな曲を聴き返してみると、意外と泥臭い曲も多いんですよね。聴けば聴くほど引き出しの多さ、懐の深さに驚くし……考えれば考えるほど、一度お話してみたかったと思いますね。僕のつまらないギャグにも笑ってくれるのかな?とか(笑)。もう想像することしかできないので。僕らのアルバムにも「これはいいアレンジだね」「これは君、違うんじゃないかな」とか言ってもらいたかったなって。
武部 本当に懐の深い人だったから、どんなにアレンジをいじっても「面白いじゃない」って言ってくれたと思う。「夏クラ」のスカアレンジなんてすごく喜ぶんじゃないかな。
──氣志團のアレンジはまさに、曲そのものが持っている隠れた泥臭さ、業の深さが今までのさまざまな筒美京平カバーとは違う形であぶり出されたような、新しい批評・評論として成立しているように感じます。しかも、どれも氣志團の曲になっている。それはまさに、翔さんの中に本当に筒美京平のエッセンスが溶け込んでいるからだと思うんです。
綾小路 なんだろう……気持ちよかったですね。自分で歌っていて自然と「こっちに行きたい」と感じるメロディラインに筒美京平の影があるんだなという発見があって。自分との対話みたいなものも生まれましたし、レコーディング中にはいろんな気付きがあった。自分のクセだと思っていたことが、筒美京平の影響によって生まれたものだったんだなと。レコーディング自体がすごく楽しかったですし、歌っていてワクワクする、こんなメロディが書けるようになりたいなと改めて思いました。アレンジはやればやるほど遠のいていくような難しさがあって(笑)、アレンジャーのすごさにも気付きましたね。
武部 こうやってクレジットを見るとさ、翔くんたちが選んでいる曲は作詞家が見事にバラバラなんだね。
綾小路 全然意識していたわけじゃなくて、たまたまなんですよ。松本隆先生と売野先生が各2曲あるけど、ほかは全部バラバラですね。「筒美京平の曲」と言っているけど、アレンジャーがいて、作詞家がいて、歌い手がいて、その四つ巴がなせる技なんですよ。俺たちは今とんでもないものに触れているんだぞと。これから俺たちの曲の作り方も変わるかもしれないなと思うほど刺激的でした。すごく理論的にできている曲もあれば、「これちょっと強引だよね?」みたいな曲もあるんですよ(笑)。
──早見優さんの「夏色のナンシー」なんて、当たり前にポップな曲として聴いてましたけど、氣志團によるバンドアレンジで聴いてみると、相当変な曲だとわかりますよね。
武部 無理矢理だよね(笑)。
綾小路 歌としてよく知ってるはずなんだけど、やろうとすると変なところに引っ張られておかしくなっちゃうんですよ。演奏してみて改めてすごい曲だなと。
──武部さんも、今回のアルバム制作を通じて新たな発見がありましたか?
武部 京平さんが作曲家として優れているのはもちろんなんだけど、歌メロ以外のところにもすごく大事な要素がいっぱいあって。それは楽器のフレーズであったり、合いの手であったり、ちょっとしたところにすごみを感じるんですよね。改めて曲と向き合ってみると。堺正章さんの「さらば恋人」なんてすごくシンプルで、メロディはなんの変哲もない曲なんだけど、あんな曲はなかなか書けない。1曲の中にいろんな仕掛けが込められた80年代の楽曲に比べて、70年代の京平さんの曲はメロディの情報量は少ないんだけど、イントロやサウンド感、耳に残る歌詞、すべて計算されているというか。
綾小路 のちのJ-POPにつながる、AメロBメロサビがあって、ブリッジがあってという複雑な構成はまだないですよね。シンプルに繰り返しているだけで。
──「さらば恋人」はいわゆる洋楽のバース / コーラス的な構造ですよね。
武部 そう。アメリカンポップスやソウルミュージックの影響が大きかっただろうし、The KinksやThe Dave Clark Fiveみたいなブリティッシュロックの匂いを感じるものがありますよね。
綾小路 そうですね。郷ひろみさんの「花とみつばち」はThe Kinksだ!って(笑)。
武部 「あ、このへんからの影響だったんだ」という発見は多いですよね。洋楽からの影響はかなり取り入れられてる。
「面白くしてね」
武部 しかし、2枚でこれだけの曲数をやっても、まだまだやってないメジャー曲がたくさんあるんだよね。
綾小路 ありますねえ……。
武部 今度は一緒に作ろうか?
綾小路 言いましたね? やりたいですよ! ホントに。いっくらでもやれますよ。本当に何日も何日もリストを見て……自分は相当知ってるほうだと思ってたけど、まだまだ知らない筒美京平楽曲もたくさんあって。もう二度と出てこないですよね、これだけたくさんの曲をヒットさせた人は。
武部 あの一番CDが売れた時代の小室哲哉ですら塗り替えられなかった1位獲得数の記録は、これからの時代ではもう超えられないだろうね。
──この2枚の作品を聴いて、自分だってやりたい!というアーティストもたくさんいるでしょうし。
武部 そうですね。今回すごくうれしかったのが、橋本愛ちゃんが「THE FIRST TAKE」で「木綿のハンカチーフ」を歌ったとき、松本隆さんがすごく褒めてくださったんですよ。わざわざメールをくれて、「45年前に自分が書いた曲を、こういうふうによみがえらせてくれて本当にありがとう」って。そのときに本当に作ってよかったなと思ったんです。こうやって時代をつないでいくことはすごく有意義だと思う。きっと京平さんもね、今最前線で活躍している若い人たちが、自分の作ったメロディを歌うことを、すごく喜んでくれると思うんだよね。このアルバムを80歳のお祝いとして企画したとき、僕がお手紙を書いて京平さんの弟さんに渡したんです。そしたら京平さんから返事が来て。「武部くんの好きにやって。ただ、面白くしてね」って。そういう人なんですよ。
綾小路 すごいなあ……あれだけの輝かしいキャリアがあって「面白くしてね」なんてなかなか言えないですよね。まだまだやりたい曲はあるし、一緒にやりましょう。きっとあと50枚くらいは作れますから(笑)。
武部 うん。南沙織さんの「17才」、麻丘めぐみさんの「私の彼は左きき」、浅田美代子さんの「赤い風船」……今回どちらにも入ってないメジャー曲はいーっぱいあるでしょ。例えばさ、70年代のアイドルだけに絞って選ぶとか。
綾小路 そのB面みたいな感じで水谷麻里さんや田村英里子さんみたいな、俺たちだけが好きな80年代のアイドルとか(笑)。それもいい曲ばっかですから。
武部 オルタナアイドル編(笑)。ジャニーズ編とかできたら最高なんだけどね。矢島美容室みたいにさ、架空のグループを立ててやるのも面白いよね。
綾小路 それ、いただきだなあ(笑)。1回ちょっと打ち合わせしましょう!
公演情報
- ~筒美京平 オフィシャル・トリビュート・プロジェクト~ ザ・ヒット・ソング・メーカー 筒美京平の世界 in コンサート
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- 2021年4月17日(土) 東京都 東京国際フォーラム ホールA OPEN 16:00 / START 17:00
- 2021年4月18日(日) 東京都 東京国際フォーラム ホールA OPEN 12:45 / START 13:15
- <出演者> 麻丘めぐみ / 浅田美代子 / 伊東ゆかり / 稲垣潤一(4月17日のみ) / 岩崎宏美(4月18日のみ) / 太田裕美 / 大友康平 / 大橋純子 / 郷ひろみ / 斉藤由貴 / ジュディ・オング / 庄野真代 / C-C-B / 中村雅俊 / 夏木マリ / 乃木坂46(伊藤純奈&樋口日奈)(4月18日のみ) / 野口五郎 / NOKKO / 野宮真貴 / 早見優 / 平山三紀 / 藤井隆 / ブレッド&バター / 松崎しげる / 松本伊代 / 武藤彩未 / 森口博子 / Little Black Dress / ROLLY 演奏者:船山基紀(音楽監督・指揮)/ 中西康晴(Key) / 安部潤(Key) / 土方隆行(G) / 増崎孝司(G) / 吉川忠英(Acoustic Guitar) / 高水健司(B) / 山木秀夫(Dr) / 斉藤ノヴ(Percussion) / 大滝裕子(Cho) / 斉藤久美(Cho) / 吉川智子(Cho) / ルイス・バジェ(Trumpet) / 竹内悠馬(Trumpet)/ 鍵和田道男(Trombone)/ アンディ・ウルフ(Saxophone)/ 石亀協子(Strings)
- 氣志團メイジャーデビュー20周年記念 センチメンタルライブハウスツアー「緊急密会宣言」
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2021年3月26日(金)
兵庫県 チキンジョージ
[第1部]START 17:00
[第2部]START 20:30 -
2021年3月28日(日)
香川県 高松festhalle
[第1部]START 17:00
[第2部]START 20:30 -
2021年3月30日(火)
愛媛県 WStudioRED
[第1部]START 17:00
[第2部]START 20:30 -
2021年4月1日(木)
高知県 CARAVAN SARY
[第1部]START 17:00
[第2部]START 20:30 -
2021年4月10日(土)
北海道 函館club COCOA
[第1部]START 17:00
[第2部]START 20:30 -
2021年4月12日(月)
北海道 小樽GOLDSTONE
[第1部]START 17:00
[第2部]START 20:30 -
2021年4月14日(水)
北海道 CASINO DRIVE
[第1部]START 17:00
[第2部]START 20:30 -
2021年4月16日(金)
北海道 帯広MEGA STONE
[第1部]START 17:00
[第2部]START 20:30 -
2021年4月26日(月)
鹿児島県 CAPARVO HALL
[第1部]START 17:00
[第2部]START 20:30 -
2021年4月28日(水)
熊本県 熊本B.9 V1
[第1部]START 17:00
[第2部]START 20:30 -
2021年4月30日(金)
大分県 DRUM Be-0
[第1部]START 17:00
[第2部]START 20:30 -
2021年5月2日(日)
長崎県 DRUM Be-7
[第1部]START 17:00
[第2部]START 20:30 -
2021年5月5日(水・祝)
岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
[第1部]START 17:00
[第2部]START 20:30
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2021年5月8日(土)
滋賀県 U-STONE
[第1部]START 17:00
[第2部]START 20:30 -
2021年5月9日(日)
岐阜県 岐阜club-G
[第1部]START 17:00
[第2部]START 20:30 -
2021年5月11日(火)
石川県 金沢EIGHT HALL
[第1部]START 17:00
[第2部]START 20:30 -
2021年5月18日(火)
群馬県 高崎club FLEEZ
[第1部]START 17:00
[第2部]START 20:30 -
2021年5月20日(木)
福島県 郡山HIP SHOT JAPAN
[第1部]START 17:00
[第2部]START 20:30 -
2021年5月22日(土)
宮城県 石巻BLUE RESISTANCE
[第1部]START 17:00
[第2部]START 20:30 -
2021年5月24日(月)
岩手県 Club Change WAVE
[第1部]START 17:00
[第2部]START 20:30 -
2021年5月26日(水)
青森県 青森Quarter
[第1部]START 17:00
[第2部]START 20:30 - 2021年6月17日(木) 神奈川県 KT Zepp Yokohama
- 2021年6月26日(土) 広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
- 2021年7月2日(金) 東京都 Zepp DiverCity TOKYO
- 2021年7月11日(日) 宮城県 SENDAI GIGS
- 2021年7月25日(日) 新潟県 NIIGATA LOTS
- 2021年8月7日(土) 北海道 Zepp Sapporo
- 2021年8月15日(日) 愛知県 Zepp Nagoya
- 2021年8月22日(日) 福岡県 Zepp Fukuoka
- 2021年8月29日(日) 大阪府 Zepp Osaka Bayside
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2021年3月26日(金)
兵庫県 チキンジョージ
[第1部]START 17:00
※記事初出時、本文の一部に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。
2021年4月15日更新