月詠み×「デュエル・マスターズ」特集|ユリイ・カノン&マンガ家・松本しげのぶインタビュー (2/2)

息子から言われたひと言

──最新作「Duel Masters LOST ~追憶の水晶~」は松本先生が原作を担当して、作画は金林洋さんが担当されています。松本先生はこれまでご自身で作画も担当されてきましたが、この試みも自分の想像より大きいものが生み出せるという期待からでしょうか?

松本 これはすごくうれしい質問ですね。僕はネームを切ると絶対に自分で描きたいんです。自分はほかの作家さんより絵が下手クソではあるけど、ほかの人に任せるなんてあり得ない。特に「LOST」は今までと違って大人向けの挑戦作だったので、なおさら自分でやりたかった。でも編集部に「単純に作業量がヤバいですよ」と言われて(笑)。クオリティが下がってでもやりたいという気持ちもありましたが、それは読者に失礼だし……あと一番大きかったのは作画に関して相談したときの息子の言葉です。「僕が描くマンガってどう?」と聞いたら「子供の頃は面白かったけど今はどうやろ」と言われたんですよ。そして「絵柄的に大人向けの作品ならほかの人に任せていいんじゃない?」と言われてすごく納得したんです。それで今回は作画をほかの人に任せてみようと思って編集さんと相談し、金林先生にお願いすることになりました。

アニメ「Duel Masters LOST ~追憶の水晶~」 ティザービジュアル

アニメ「Duel Masters LOST ~追憶の水晶~」 ティザービジュアル

──手応えはいかがですか?

松本 先ほどのユリイさんの話にもつながりますけど、自分の想像より大きなものが生まれていると感じます。若い作家さんに絵の部分を任せてみたことで、「自分ではここまで時代を捉えた表現はできないな」とわかりました。相乗効果が起こったというか。今は作画をお願いできて本当によかったと思っています。

ユリイ 「LOST」を読ませていただいて、過去の「デュエマ」とまったくの別物になっているのではなく、これまであったものを受け継ぎつつ、ストーリーをはじめとしていろいろと新しいことをしようという思いをしっかり感じられて。新鮮でした。

幻の「バトル・ロワイアル」風「デュエマ」

──ストーリーの序盤で人間がいきなりクリーチャーにバクっと食われるなんて、今までの「デュエマ」を知っている人には衝撃的ですよね。

松本 確かに新しくはある展開なんですけど、そもそも「デュエマ」連載前に編集者とどういう話にしようか相談していたときから、こういうえげつない方向を表現したかったんですよね。最初に学校の先生がクラスの生徒たちにデッキを渡して戦わせ、負けたほうが死んじゃうという。もちろんそれは編集者に却下されて、「これをやりたいの?」って渡されたのがマンガ版の「バトル・ロワイアル」。そのとき初めて読んだんですけど、「そう、これこれ!」ってなりました。

ユリイ 子供のときにそういうマンガを読んでいたら、どうなってたんだろう(笑)。今でこそ凄惨な内容のマンガもまかり通るかもしれないけど、当時の子供向けのマンガではあり得ないような……読んでみたいですけどね。

松本 でも、僕がやりたかったのはそういう内容だったんですよ。呼び出したクリーチャーが人間を殺しちゃうような物語を描きたかった。でも当時の編集には「そういうのはホビーを通じて子供に伝えるものではない」と言われちゃって(笑)。ただ「LOST」は子供向けじゃないから、やっと描きたいものが描けたという思いもあります。

アニメ「Duel Masters LOST ~追憶の水晶~」特報映像より。

アニメ「Duel Masters LOST ~追憶の水晶~」特報映像より。

アニメ「Duel Masters LOST ~追憶の水晶~」特報映像より。

アニメ「Duel Masters LOST ~追憶の水晶~」特報映像より。

ユリイ ちなみにマンガの「デュエマ」がそういうシリアスな話をやっていたら、今も続いていたと思いますか?

松本 いや、連載当初の「マジック:ザ・ギャザリング」で打ち切られて、「デュエマ」というカードゲームは誕生しなかったでしょうね(笑)。

「ナラティブ」は松本先生が作ったようなもの

──マンガ版の「Duel Masters LOST ~追憶の水晶~」の連載を開始するにあたって、松本先生は「大人になっても『デュエマ』を愛している人に向けたマンガがこれまでなかったけど、そういった人たちにも楽しんでほしい」というメッセージを発信していました。ユリイさんは秋に始まるアニメ「LOST」の主題歌「ナラティブ」を制作中ですが、そういった大人になったファンの代表として関わることにどういう思いがありますか?

ユリイ 恐縮しました。自分たちの世界観だけで完結するのではなく、なんらかの作品に関わって楽曲を作るときは常にプレッシャーがあります。その作品を好きな人がいる中で、作品をちゃんと理解したうえで華を添えなければいけないので。「ナラティブ」に関してもプレッシャーはありましたが、「デュエマ」への愛や熱のおかげもあって自信を持ってます。

アニメ「Duel Masters LOST ~追憶の水晶~」特報映像より。

アニメ「Duel Masters LOST ~追憶の水晶~」特報映像より。

アニメ「Duel Masters LOST ~追憶の水晶~」特報映像より。

アニメ「Duel Masters LOST ~追憶の水晶~」特報映像より。

松本 デモを聴かせていただきましたが、圧倒されました。僕が今「LOST」で描きたいテーマって明確にはないんですよ。現代の社会人に向けて……という思いはあるけど、描き進める中でどうしていきたいかという具体的なものが思い浮かんでいなくて。でも音源を聴いて、歌詞を受け取ったときに「僕はこの曲のことを書こうとしているんだな」という気持ちになって何回も読んじゃいました。使われている言葉を調べたりして、「すごく深く考えているな」とか感心しながら(笑)。「『デュエマ』ってこうだよね」と単純にまとめるのではなく、「デュエマ」という世界の複雑怪奇な幾何学模様を文字で表現しているような感じがしてすごくうれしかったです。

ユリイ でも「ナラティブ」は「LOST」がなければ存在しなかったし、「LOST」から受けたイメージをもとに作った楽曲には違いないです。そう考えると、実際はこの曲も松本さんが作ったようなもので。

松本 いやいや(笑)。今回、曲を作ってもらう前に「『デュエル・マスターズ』のわかりやすいフレーズを使わないでください」とお願いしたんですよね。あとで考えると、創作に影響を及ぼすようなとんでもなく失礼なことを言っちゃったかなと少し後悔したんですけど。そんな難しい状況で大変だったでしょうに、こうやって「LOST」らしさを表現してもらえて僕の心にはすごくくるものがありました。

ユリイ そう言っていただけるとアーティスト冥利に尽きます。

「Duel Masters LOST ~追憶の水晶~」キャラクター

「Duel Masters LOST ~追憶の水晶~」キャラクター

「Duel Masters LOST ~追憶の水晶~」主人公・斬札ウィンのビジュアル。

「Duel Masters LOST ~追憶の水晶~」主人公・斬札ウィンのビジュアル。

──最後にユリイさんは「ナラティブ」に、松本先生はマンガ「LOST」に込めた思いについて改めてお聞かせください。

ユリイ 先ほども言ったように、「ナラティブ」は「LOST」に触れて思いつくままに生まれた音であり歌詞なんですよ。テーマとしては絶望が待ち受ける中でもなんとかしようとあがく様子で。だからスペシャルムービーのために描き下ろした「導火」とはまた違う方向の熱さがあって、嘆きや悲しみの中から何かを見出そうとしているというか。ぜひアニメが配信されたら聴いて、その熱を確かめていただきたいです。

松本 「LOST」は表面的にはこれまで描いていた「デュエマ」の裏側を描いているんですよね。今までは友達だったクリーチャーが人を食べる化け物になっているし、入ったら死んじゃうような場所も出てくる。ただ「LOST」はそれを描きたいわけではなくて。主人公の斬札ウィンはこれまでの読者が知っている主人公と同じようなキャラクターなんです。そこはまったく変わっていない。今までとまったく違う、どうかしちゃったような世界でも、人間はそんな簡単に生きることをあきらめる生物ではないぞということを彼を通じて描きたいんです。僕自身もいろいろなことがありながらも、マンガを描くことをあきらめていないし、主人公たちと一緒になって戦っているつもりなので、そういった部分を感じてほしいですね。

プロフィール

月詠み(ツクヨミ)

ユリイ・カノンを唯一のメンバーとし、作品に応じてさまざまなクリエイターとともに小説と音楽で1つの作品を作り上げる音楽プロジェクト。2020年10月に前身となる同名バンドが結成され、同月に初音源「こんな命がなければ」をYouTubeに投稿。2021年より現在の活動形態となる。2024年3月より「2nd Story『それを僕らは神様と呼ぶ』」を展開中。この一環で、国内外を問わず人気を博すトレーディングカードゲーム「デュエル・マスターズ」の新シリーズ「王道篇」のスペシャルムービーに書き下ろした「導火」を2nd Storyの第1弾シングルとして4月に配信リリース。さらに5月には第2弾シングルとして「死よりうるわし」を発表する。2024年秋に配信予定のアニメ「Duel Masters LOST ~追憶の水晶~」の主題歌を手がけることが決定している。

松本しげのぶ(マツモトシゲノブ)

1973年生まれ、和歌山県出身のマンガ家。1990年に「登校一番!!」で「小学館新人コミック大賞」児童部門佳作を受賞し、「月刊コロコロコミック」にて「すーぱーぷよぷよ」でデビュー。「正義の人ジャケティス」「おどろき!ももの木笑店街」といった作品を手がけたのち、1999年よりカードゲーム「マジック:ザ・ギャザリング」を題材としたマンガ「デュエル・マスターズ」を連載。2021年に「デュエル・マスターズ」シリーズで「第66回小学館漫画賞」児童向け部門を受賞する。2024年2月より連載中の「Duel Masters LOST ~追憶の水晶~」では原作を担当している。