子供から大人まで幅広い層に人気を誇るトレーディングカードゲーム「デュエル・マスターズ」。“デュエマ”として広く親しまれるこのゲームは、カードゲーム「マジック:ザ・ギャザリング」を題材にした松本しげのぶによる同名マンガをきっかけに世界中に波及し、誕生から20年以上が経つ今も根強いファンを持つ。
そんな「デュエル・マスターズ」の新シリーズ「王道篇」が今年4月にスタート。これに合わせて、ユリイ・カノンによるプロジェクト、月詠みが書き下ろした「導火」を用いた映像「デュエル・マスターズ Special Movie」がYouTubeにて公開された。もともと「デュエル・マスターズ」のプレイヤーでもあったというユリイ・カノンは自身のデュエマ愛を楽曲に注ぎ込み、作品の魅力でもある“一発逆転”のヒリヒリとした空気感を疾走感のあるギターロックサウンドに乗せて表現。ファンから大きな反響を呼んだ。
このコラボレーションをきっかけに、今秋配信スタート予定のアニメ「Duel Masters LOST ~追憶の水晶~」の主題歌を月詠みが手がけることが決定した。松本が原作を、金林洋が作画を担当する同名マンガをベースとした「Duel Masters LOST ~追憶の水晶~」のコンセプトは「大人に向けたデュエマ」。かつてゲームをプレイし、マンガに夢中になっていた“子供たち”を、新たな「デュエル・マスターズ」の世界へと誘う物語だ。
音楽ナタリーでは「デュエル・マスターズ」シリーズと月詠みの2度目のタッグを記念して、ユリイ・カノンと松本の対面の場をセッティング。“デュエマ”を介し邂逅した2人は、丁寧に言葉を選びながらクリエイターとしての思いを交わし合った。
取材・文 / はるのおと
デュエマ愛から導かれるように生まれた「導火」
ユリイ・カノン 今日はめちゃくちゃ緊張していまして……小さい頃からカードゲームの「デュエル・マスターズ」で遊んでいたし、マンガも読んでいたので、自分からすると神様のような松本先生が目の前にいるという。
松本しげのぶ ありがとうございます。僕のほうはマンガを描いてばかりで世間に疎く、申し訳ないですがユリイさんのことを存じ上げなくて。でも「デュエマ」のムービーの曲をユリイさんに担当してもらうかもという段階で大学生の息子にその話をしたところ、ひっくり返るくらいびっくりしてました(笑)。その話をずっと信じてくれないし、「今日対談する」と言っても疑われたくらいで。たぶんこの記事が掲載されるまで信じてくれないんでしょうけど、そんなすごい方と一緒に仕事できてうれしいです。
ユリイ そんなそんな、恐縮です。先ほど、サインが入った《悪魔神ドルバロム》のカードなどいろいろとお土産をいただいてしまって……自分は子供の頃、このカードに頼って対戦に勝っていたので、お気に入りなんです。実家にはまだカードがあるんじゃないかなあ。今日はこうやって再会できて懐かしいです。
──そんな「デュエマ」ファンであるユリイ・カノンさんですが、最初にコラボレーションの話を聞いた際はどう感じましたか?
ユリイ 少年時代の自分に言って聞かせたいほど光栄でした。「コロコロコミック」を読んでいた自分にとって「デュエマ」は好きな作品としてまず挙がるものだし、自分たちの世代の男子で知らない人はいないような作品なんです。だから今回の話はありえないような出来事で、とにかく驚きました。
松本 「コロコロ」は子供向けの雑誌だから、作品の感想をリアルに聞けることってなかなかないんですよ。ファンレターが来ても「カードちょうだい」「サインちょうだい」みたいなものが多くて(笑)。でも最近、昔マンガを読んでくれた子たちが成長して社会で活躍して、一緒に仕事することもある。その際に今ユリイさんが言ってくれたような言葉を聞くと本当にうれしいし、それだけで「これまで描いてきてよかったな」と思います。
──月詠みと「デュエマ」のコラボレーションの第1弾が、トレーディングカードゲームの新シリーズ発表に際し公開されたスペシャルムービー用の主題歌「導火」です。この曲はどんなイメージから作られたのでしょうか?
ユリイ まずムービーに関する資料に目を通して、主人公の青年がナーバスな空気感を持ちながらも秘めた熱意を持っていると感じたんです。普段は大人としてその熱を表に出さないけど、いざというときに爆発させるんだろうなと。そんなイメージから、静けさと激しさの緩急というか、徐々にボルテージを上げていってサビで疾走感や爽快さを感じてもらう曲の構成に自然となりました。
松本 僕は音楽について本当に何もわからないんですけど、聴いていて解放感がありました。「デュエマ」はこれまでもアニメなどでたくさん曲を作ってもらっていて、子供向けに作られてきたそれらにも明るさや力強さはありました。でも「導火」はそれだけでなく、もっと幅広い層を対象にしているのが新鮮でよかったです。例えば歌詞もストレートなものではなく、意味を考えさせるような深さがあって。そうした今までの曲にはない部分に驚かされました。
ユリイ 「デュエマ」に触れていたおかげか、歌詞に関してはポンポンと浮かんできました。じっくり悩んで、というよりはこれまで受け取ってきたものを素直に形にした感じです。
──1番のAメロには「デュエマ」に登場する「火」「水」「光」「闇」「自然」という五大文明の名前が盛り込まれていますね。
ユリイ あれも最初に思いついた歌詞にそういったワードが入っていたので、「じゃあ五大文明を全部入れちゃおう」となったんです。今回は作品のことを考えてというよりは、そんなふうに導かれるように歌詞が生まれてきました。
──後半には「切り札」というカードゲーム、そして「デュエマ」らしい言葉も出てきます。
ユリイ あれは逆転というか、何かに対して逆に考えることで裏返るとか、マイナスからプラスに転じるといったイメージから出てきた言葉でした。
松本 「デュエマ」と言えば“逆転”に尽きるところもありますしね。
──完成したスペシャルムービーを観られてユリイさんはどう感じましたか?
ユリイ 少年の頃から親しみがある「デュエマ」のキャラクターやクリーチャーが動いているところに自分が作っている音が乗って一体化している喜びってどう表現したらいいのか……生きててよかったです(笑)。
松本 ははは。僕は最初に観たときは感動して泣いちゃいました。これまで子供向けのマンガを描いていて、自分の作品が大人に届くことはないだろうなと思っていたんです。でもそうなったらいいなという欲も少しあった。自分が直接手がけたわけでもないんですけど、あの映像と音楽は大人の方々にも届くような内容になっていて、本当によかったです。
マンガと音楽、自分の想像を超えるために必要な他者の存在
松本 しかし、曲や歌詞の作り方の話を伺ってて思いましたけど、やっぱり音楽を作る人ってすごいですね。マンガって絵やセリフで構成されていて、それらは目で見られるものじゃないですか。でも音楽って音だけをつないで人の感情をアップダウンさせている。それが僕には理解できなくて、すごく繊細な作業なんだろうし、音楽を聴いていてもすごいなと思うしかないし、憧れます。
ユリイ 逆に自分はマンガ家さんってすごいなと思うんです。小学校の卒業文集には「将来はマンガ家になりたい」と書いていたし、中学校くらいまでは趣味で絵を描いたけど挫折したくらいなので本当にそう思います。
松本 ちなみに音楽はいつからやってるんですか?
ユリイ 中学からです。
松本 ずっと1人で?
ユリイ いえ、音楽を始めた当初はバンドを組んだりもしたんですけど、途中からパソコンで1人で作るようになりました。でもそれを数年続ける中で、とあるきっかけから人と音楽を作ってみたいと思い、それが月詠みの活動につながっています。今の自分の創作における目標として「自分の頭にあるものや想像を超えたい」というのがあって。そのためにはさまざまな人の力を借りる必要がありますけど、今はそれが楽しいです。
松本 それはわかるなあ。自分も仕事として長くマンガを描いてきて、生み出したキャラクターに幸せになってほしいという願いもあるけど、そう思えるのは周囲のおかげなところがあって。編集者や周りの人と仕事するのが楽しいし、それによって自分の想像より大きいものができるのが描き続けるうえでの原動力の1つにもなっているので。
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