椿鬼奴「IVKI」特集 林原めぐみ×椿鬼奴×堂島孝平鼎談 |「ギンガイアン」に導かれ、奇跡が生まれる

遊びじゃなくて、大人の本気だから

椿 デュエットさせていただいた伊礼彼方さんも、ちょっとしか「ギンガイアン」の内容をお話ししてないのにその感覚をすぐ汲み取ってくださったみたいで。藤井さんへのメールに郡司聖也(「ギンガイアン」の登場人物)って署名してくださったりして。

堂島 (大貫)亜美ちゃんも生き生きしてましたよね。「こんな楽しいことないよね! だって、実在しないんでしょ? 作っていいんでしょ?」って。

椿 篠山紀信先生も「音楽アルバム発でアニメになったら史上初になるんじゃない? そういうことが一番いいよね」っておっしゃってくださいました。「運命のリビルド」をお聴かせしたら、まさに林原さんと同じくらいのタイミングで「わかった!」って。

林原めぐみ

林原 やった! 篠山先生と一緒(笑)。なんかね、私たちすっごく大事なことをやった気がするんですよ。それぞれの分野でキャリアを積んできた人たちが、絶対に手放しちゃいけない何かをもう1回握ったような。だからもし「お笑いの人だろ」って斜に構えて聴く人がいたとしても、4回聴いたら「ギンガイアン」に夢中になっちゃうと思うんです。そういう中毒性がある。大人の本気だから、遊びじゃなくて。

椿 Twitterでも、ルキアンっていう宇宙生物のぬいぐるみを実際に作って、猫の隣に置いた写真を投稿してくれた人がいたんですよ。

林原 ほら、生まれちゃった。今アニメは企画不足って言われてるし、どこか拾ってくれないかな。

──僕も頂戴したあらすじを読んでいたら、ちょっと泣きそうになりました。

林原 なりますよね!

椿 実は、林原さんが考えてくださった2期では、ギンガイアンに着いたあとにサンが死ぬことになってたんです。

──えーっ、イヤだ……。

椿 「Brace Yourself」はソレイユがサンを失ったときの歌なんです。すしお先生と向との打ち合わせで、先生もすごく入り込んでくださって「サンはこういう子だ」みたいに盛り上がったんですけど、「2期で死んじゃうんですよ」って言ったら「え!?」って(笑)。向と2人で猛然と抗議されたので「林原さんにご相談してみます」って言って、「ほんっと申し訳ないんですけど、サンは死なないってことにしてもいいですか?」ってお願いしたんです。「向とすしお先生も『ソレイユはサンが死んだと思ってるけど、実は異空間に吸い込まれただけで、再会できるってことにしたい。死んじゃったらファンの方が納得しない』って言ってるんですけど……」って。

林原 もうみんな「ギンガイアン」の世界に入れ込んじゃってるんですね(笑)。

堂島 制作期間は今こうやって話しているテンションの3倍くらいの熱量でずっとやってたから、すごい幸せでしたよね。さっき林原さんも言ってましたけど、長くやってると経験値も上がって「こういう場合はだいたいこう」って対処できるようになって、最初みたいには驚かなくなるんですよね。でも今回は「こういう場合」が存在しないじゃないですか。だから全員で発明している感じで、僕は毎日すごくワクワクしてました。

林原 そういうことってすっごく大事ですよね。「こういう場合はこんな感じで」だと、そこ止まりになっちゃうから。向くんも大変だったと思うけど、彼なくしてこの結束はなかったかもしれないし、もちろんこれも仕事なんですけど、それ以上の気持ちがみんなにあったのがすごいなって思います。

椿 私もただごとじゃないって感じて、途中からいろんなことを書き留めるようにしてました。記録しといたほうがいいなと思って。

これは、椿鬼奴のオリジナルを探す旅

──椿さんはそれだけの思いを背負って歌って、いつもと違う力みたいなものが出たりしましたか?

椿 出たと思います。なんとなく「運命のリビルド」よりも、そのあとに録った曲のほうが声が高くなった気がするんです(笑)。あと最初の頃はご迷惑をかけないように、自分の歌のクセを取りたい、普通に歌いたいってすごく思って。ついつい綾戸智恵さんのものまねするときみたいな歌い方になっちゃうんですよ。「ボイトレに行きたい」とか言ってたんですけど、堂島さんはお優しいから「大丈夫ですよ」って言ってくださって。

堂島 その考え方もわかるんですけど、実は椿さんが取りたいと思ってる癖が、みんなに愛されてる部分なんですよね。すごく面白かったのが、椿さんは最初すっごくシンプルに歌おうとするんですよ。しかも声がめっちゃ小さい(笑)。癖を消したい気持ちと、緊張もあったんでしょうね。だから初めのうちは、椿さんらしさが生まれるまでに3、4テイク重ねてましたけど、「Brace Yourself」を録った頃は、もう彼女にとっての「普通」の尺度が変わってて、持っているものを自然に出せるようになってました。

──「ギンガイアン」で声を担当している登場人物、伊吹・レッドスターとご自分の線引きと言うか、グラデーションみたいなものも意識なさいましたか?

椿 あのー、声優をやっ……。

堂島 やってないんですけどね(笑)。

林原 やってないけど、気持ちは劇場版までやってるのよね。

椿 伊吹の声を担当している者としては、テーマ曲は伊吹だけのものじゃないので、そこは意識しました。あと、1期はお金がなかったので、私がオープニングとエンディングを両方歌わせていただきましたけど、そんなことないですから、普通は(笑)。でも歌う以上は、あんまり伊吹のキャラクター性ばっかり出るとよくないなと思って。

林原 正しい!

堂島孝平

堂島 本物ですよね。僕は今作について、一連の展開が音楽発信でやれてることがすごく新しいと思ってるんですけど、音楽はアニメに対して、多少乱暴な立ち位置にいないといけないと思って臨んだんですね。例えば「運命のリビルド」の歌詞が、よくよく聴いたら物語と呼応してるみたいな。最初に絵があればそれに合わせて楽曲を作ったり、ドラマを作る登場人物になり切ることができるけど、時として音楽が物語に影響を及ぼすくらいの塩梅が大事だなって。もともと自分が作った曲から始まった企画だってこともあって、音楽が「ギンガイアン」に引っ張られすぎないよう肝に銘じてました。これは椿鬼奴のオリジナルを探す旅であって、「ギンガイアン」とか伊吹・レッドスターというキャラはあくまでフィルターなんですよね。だからアニメとのバランスは椿さん自身の解釈に任せるようにしてました。

林原 大事ですよね。アニメを追えば追うほど“なんちゃって”になっていく気がします。逆にアニメの要素を削げば削ぐほど、アニメが立ってくる。

堂島 そういうことです。今回はそのバランスがよかったのかもしれないですね。あくまで椿さんがカッコいいのが一番。最終的にはそれだけです。

本当に椿さんをデビューさせたかったんだな

椿 ありがたいです、本当に。そのお話を聞いてて思い出したんですけど、アニメの設定が完成する前に、曲は全部できてたんですよね。

堂島 ほぼそうですね。

椿 「Brace Yourself」も「Galactic Galapagos」も私が洋楽が好きだとか、90年代の楽曲が好きだとか、もともとはそういう要素に寄せて作っていただいた感じでしたよね。でも、そこにあとから設定を付けていって、「ギンガイアン」の内容を説明して歌詞を書いていただいたら、ピタッと合ったのがすごいなと思って。

林原 でもアニメの音楽って、実はガールポップやラップ、バラードもあるし、そもそもがノンジャンルと言うか、なんでもありなんですよ。きっと、どんな楽曲でもアニメ的な要素なり熱量なりが入ると、あっと言う間にその作品の顔になるんでしょうね。歌手のものでもあり、作品を語るものでもあって、役割が1つじゃないから。

椿 藤井さんが作詞作曲を担当した「偽りの新銀河」も4年前にはできてたんですよね。なのに劇場版「ギンガイアン」の主題歌にしか聴こえない(笑)。

椿鬼奴

堂島 そう言えば昨年の春、藤井さんと椿さんと3人でライブをやったとき、藤井さんから「椿さんのソロデビューを考えてる」って教えてもらったんです。最初は楽曲提供だろうと思ってたら、今年に入ってプロデュースって話をいただいたんですけど、制作の途中で「椿さんにデュエットをしてもらいたくて、実は曲もあるんです」って言われて。てっきり制作の最中に書いたんだと思ったら、それが4年前に藤井さんが作った「偽りの新銀河」だったんです。本当に椿さんをデビューさせたかったんだな、この人すごいなと思って。きっと「このタイミングだ!」と思って出してきたんでしょうね。

椿 伊礼さんにも4年前に「椿さんといつかデュエットお願いしていいですか?」ってお声がけしてたんですって。伊礼さんも覚えてくださってて、「そういうことって社交辞令としてあるじゃないですか。でも本当にお話がきたんでびっくりしました」って。

林原 すっごい網のかけ方!

堂島 で、僕が「それ聴かせてください」って言ったら、「お恥ずかしいんですけど、私は楽器も打ち込みも何もできないので、鼻歌なんです」っておっしゃって。「あ、全然それでいいですよ」ってもらったら、普通は「鼻歌しかない」っていったらだいたい1コーラスだけなんですけど、最初から最後まであるんですよ。ずっと聴いてたら、最後のほうで車がバックする音がピーッピーッって入ってて(笑)。たぶん車を運転しながら気持ちよく歌ってたんでしょうね。すごい音源でした。

──はまるべきピースがはまるべきところにはまった、奇跡的なアルバムなんですね。

椿 はい。怖いぐらいです。

林原 でも、うまくいくときってそういう流れがありますよね。

堂島 そうですね。奇跡が重なったと思います。

椿 いろいろありすぎて、リリース前に全部終わったような気になってますけど(笑)。

林原 歌声と共に映像をお届けしたいですね。皆さんの脳に直接。

左から林原めぐみ、椿鬼奴、堂島孝平。
椿鬼奴「IVKI」
2018年9月12日発売 / Slenderie Record
椿鬼奴「IVKI」

[CD]
2000円 / YRCN-95299

Amazon.co.jp

収録曲
  1. 運命のリビルド[作詞・作曲:堂島孝平]
  2. Brace yourself[作詞:MEGUMI(林原めぐみ) / 作曲:堂島孝平]
  3. MOODY MOON[作詞・作曲:堂島孝平]
  4. 偽りの新銀河[作詞:藤井隆 / 作曲:藤井隆、堂島孝平]
  5. Galactic Galapagos[作詞:大貫亜美(PUFFY) / 作曲:堂島孝平]
  6. collection of GINGAIAN[Remixed by 溝口和彦 / 伊吹・レッドスター CV:椿鬼奴 / 郡司聖也 CV:伊礼彼方]
椿鬼奴(ツバキオニヤッコ)
椿鬼奴
東京都渋谷区生まれ、代官山育ち。NSC東京校を卒業後、26歳でお笑いコンビ「金星ゴールドスターズ」として芸人デビューを果たした。コンビ解散後は椿鬼奴としての活動をスタートさせ、2002年からはキートン、くまだまさし、坂本雅仁、クニ、しんじとのユニット「キュートン」にも参加している。2004年にはバンド「金星ダイヤモンド」を結成し、2006年に1stアルバム「ヴィーナス☆ダイヤモンド」、2014年には2ndアルバム「2014GOLD」を発表。2018年9月にはソロ名義初となるミニアルバム「IVKI」をリリースした。
堂島孝平(ドウジマコウヘイ)
堂島孝平
1976年2月22日大阪府生まれのシンガーソングライター。1995年2月にシングル「俺はどこへ行く」でメジャーデビューを果たす。1997年には7thシングル「葛飾ラプソディー」がアニメ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」のテーマソングに起用され全国区で注目を集めた。ソングライターとしての評価も高く、KinKi Kids、藤井フミヤ、山下智久、Sexy Zone、PUFFY、THE COLLECTORS、藤井隆、Negiccoなど数多くのアーティストへ楽曲提供したりサウンドプロデュースしたりしている。椿鬼奴のミニアルバム「IVKI」では音楽プロデュースを担当した。
林原めぐみ(ハヤシバラメグミ)
林原めぐみ
東京都出身の声優、アーティスト。高校卒業後、看護学校に通いながら声優養成所に入所。養成所在籍中の1986年にアニメ「めぞん一刻」で声優デビューを果たし、以来「魔神英雄伝ワタル」の忍部ヒミコ、「らんま1/2」の早乙女乱馬、「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズの綾波レイ、「スレイヤーズ」シリーズのリナ=インバース、「名探偵コナン」の灰原哀、「ポケットモンスター」シリーズのムサシなど人気作の主要キャラクターを歴任する。また1989年発表の「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」のイメージソング「夜明けのShooting Star」が話題を集め、“声優アーティスト”の先駆け的存在に。2017年6月には初のワンマンライブ「林原めぐみ 1st LIVE -あなたに会いに来て-」を開催し、翌2018年3月、7年8カ月ぶりとなるニューアルバム「Fifty~Fifty」をリリースした。椿鬼奴のミニアルバム「IVKI」ではMEGUMI名義で「Brace yourself」の作詞を手がけている。