椿鬼奴「IVKI」特集 林原めぐみ×椿鬼奴×堂島孝平鼎談 |「ギンガイアン」に導かれ、奇跡が生まれる

椿鬼奴のソロデビューミニアルバム「IVKI」が9月12日にリリースされた。

藤井隆が主宰するレーベル・SLENDERIE RECORDのリリース第1作目を飾った音楽ユニット・Like a Record round! round! round!のメンバーでもある椿鬼奴。プロデューサーに堂島孝平を迎えたミニアルバム「IVKI」は、椿、堂島、そして天津の向清太朗が作り上げた架空のアニメ作品「超空のギンガイアン」の楽曲集だ。CDのタイトルは椿が演じるキャラクター、伊吹・レッドスターに由来する。

本作は「運命のリビルド」をはじめ、ほとんどの曲を堂島が書き下ろし、MEGUMIこと林原めぐみが「Brace Yourself」、大貫亜美(PUFFY)が「Galactic Galapagos」の作詞で参加した。俳優の伊礼彼方は藤井が作詞・作曲を手がけた「偽りの新銀河」で椿とデュエットし、名ゼリフ集「collection of GINGAIAN」にも郡司聖也役で出演。アニメのキャラクターデザインはすしお、ジャケット写真の撮影は篠山紀信と、実に豪華な面々が椿のソロ名義での歌手デビューを支えている。

音楽ナタリーでは、椿と堂島のほか、1曲の作詞にとどまらずプロジェクト全体に大きな影響を与えたという林原を迎えて鼎談を実施。「IVKI」と「超空のギンガイアン」が起こした“奇跡”について、存分に語ってもらった。

取材・文 / 高岡洋詞 撮影 / 南阿沙美

「『超空のギンガイアン』はないんですけどね」

──このお三方の鼎談という時点でただごとではない感じがしますが、ミニアルバムを作りはじめたきっかけからお伺いできますか?

林原めぐみ ごめんなさい、私からお話を始めちゃいますけど、ある日、藤井隆くんから、椿鬼奴さんのCDを作ろうと思っていると電話がかかってきたんです。「『超空のギンガイアン』というアニメの楽曲を集めたアルバムで、そのオープニングテーマの作詞をお願いしたいんです」って言われたんだけど、「『超空のギンガイアン』はないんですけどね」って、何を言ってるのかよくわからない(笑)。とにかく「ギンガイアン」は存在しない作品なのに、本気で主題歌を作ろうとしているという圧と意気込みだけは伝わってきて、「じゃあ1回会わせてください」って言ったのが、私にとっては始まりですね。藤井くんと私は20年近く前、MBS「オレたちやってま~す」っていうラジオ番組に一緒に出演していて。その後も細く長く交流があったんです。

椿鬼奴 実は藤井さんから林原さんにお声がけしたことは、最初私は知らされてなかったんですよ。

堂島孝平 えっ、そうだったんですか?

椿 まず私がアニメの主題歌を歌いたいって要望を堂島(孝平)さんにお伝えして、最初に「運命のリビルド」を作っていただいたんですけど、資料に“「超空のギンガイアン」オープニングテーマ”って書いてくださっていたんです。そこから派生した架空のアニメ作品について、堂島さんと藤井さんとワイワイ話していたら、4月の中旬くらいに突然、藤井さんから「『ギンガイアン』の内容をちゃんと考えておいてほしい」って連絡がきたんです。

椿鬼奴

堂島 あー、そのタイミングだったんですね。入り口としては、ミニアルバムに架空のアニメの主題歌みたいな曲が1曲あればいいよね、っていう話だったんですよ。それで「運命のリビルド」を作って、そこに僕が“「超空のギンガイアン」オープニングテーマ”って勝手に書いたんです。

椿 当時、理由は言われなかったんですけど、おそらく林原さんにプレゼンするのに生半可なことではいけないから、っていうことだったと思います。漠然と考えてはいましたけど、しっかり内容を詰めるのは1人じゃ無理だから、アニメに詳しい天津の向(清太朗)に「同期のよしみで協力してくれないか」って頼みました。それで集まったときに藤井さんがいらして「実は林原さんに声かけてるから」って言われたんですよ。それが5月ぐらいでしたね。

林原 別に強く言ったわけではないんだけど、説明が「『ギンガイアン』はない」だけだと何もわからないし(笑)、アニメの好きなお客さんたちに、今作が「お笑いの人が“なんちゃって”で作った作品」だと思われたら、絶対に損だと思ったんです。それで「『アニメの歌ってこんな感じだよね』みたいなクスッと笑える方向なのか、それともマジなのか、どっち?」って聞いたら、藤井くんは「ゴリゴリだ」って教えてくれたので、「だったらアニメ好きの人もびっくりするようなものにしようよ。『何それ観たい!』ってなるものにしないと、もったいないよね」って言ったんです。それが向くんが用意してくれた企画書につながったんですね。

堂島 「ギンガイアン」の話がけっこう盛り上がったので、藤井さんはアニメのテーマソングを1曲だけ収めるのか、それとももっと広げていくのか、考えたんでしょうね。で、ある日「林原めぐみさんに作詞をお願いしようと思います」って言われて、「この人……何言ってんの?」と(笑)。

椿 (笑)。

堂島 と言うのも、藤井さんは誰よりもアニメに疎いんですよ。林原さんと長いお付き合いがあったことも知らなかったので「自分が言ってることわかってるのかな?」って思ったのと、僕も最近は声優さんの曲も書きますけど、林原さんはその土台を作った最初の世代の人だから、「これは生半可な気持ちじゃやれないぞ」って。まあ実現はしないだろうと思ってたんですけど(笑)。ところが、あとから「やるって言ってくださってます」って聞いて、そこからガッと動き出した感じですね。思いが一致して、ぼんやりしていたものをきちんと作品に落とし込む時間が発生して、そこに向さんが登場して……何話用意したんでしたっけ。

椿 第1期だけで12話です(参照:超空のギンガイアン|STORY)。

堂島 そうそう。それで顔合わせの日に現場に行ったら、藤井さんが舞台の仕事で遅れるって言われて、いきなり僕と椿さん、向さん、林原さんだけになったんですよ。緊張しながら自己紹介して、ざっと説明して「実は企画書があるんです」って言ったら、林原さんの目の色が変わったんです。お渡ししたら「ちょっと待って! 10分ちょうだい」みたいな。

林原 私そんな言い方してないですよー(笑)。「読ませてもらえます?」って。

堂島 すいません、ちょっと脚色しました。にこやかに「ちゃんと理解したいから、10分ください」っておっしゃって、線を引きながらね。

椿 すごくちゃんと読んでくださって、「ここ、ハミルで合ってるの?」みたいな。その部分、人名を間違えてたんですよ(笑)。

堂島 いないはずの登場人物がそこに書いてあったんです。

椿 「あ、そうです! これソレイユです。ありがとうございます!」って。

堂島 そこへ藤井さんもいらっしゃって、みんなで盛り上がって、まず「運命のリビルド」をお聴かせしたんです。

椿 「第1期のオープニング曲です」って言って。

堂島 そしたら林原さんが「私の書く曲って第2期のオープニングテーマなんですよね。2期のストーリーは?」っておっしゃって、みんな「あれ?」みたいな(笑)。

林原 「2期はどうなるの? 私は何を書けばいいの?」って。

堂島 そして時が止まったという。あの空気は忘れられないです。

林原 そんなに緊張させていたとは。ワクワクして聞いちゃったんですよ。

椿 それで私が口から出まかせで、「まあその、ギンガイアンに着いてから……の、えー、主人公たちがどうなるかって話……と言うか……」みたいな(笑)。

堂島 そしたら林原さんに火が点いたんです。「でもさ、四神たちは別の星から来てハルスを支配したんでしょ? それには理由があるかもしれないじゃん? 感情を出すことを禁じて管理社会にしたっていうことは、感情がぶつかるのがイヤになってこの星に来たのかもしれないじゃん? 善が悪になり、悪が善になる、みたいなこともあるよね?」ってすごい勢いで言われて、椿さんが……。

椿 「そうでした」って。

全員 (笑)。

堂島 ほんっと最高でした、あの瞬間は。「何のオープニングテーマを書けばいいの?」って言われて、その「何」が存在しないんですから。

翌日完成した歌詞に「怖っ!」

椿 林原さんがその場で1期の12話を読んでひらめいたことを話してくださったおかげで、急に2期のストーリーが分厚くなりました。

──分厚くと言うか、もともとはゼロだったんですよね。

椿 そうです。ゼロだったところに大筋ができて、本当にありがたかったです。

林原 長くこの仕事をやってきたものでね。いろんなスイッチがあるんだと思います。

堂島 そんな流れがあって、まだ歌詞のない「Brace Yourself」を聴いてもらったら、1コーラス終わったところで林原さんが「見えた!」って。

椿 うれしかったです。藤井さんもやっと胸をなでおろした感じでしたよね。

堂島 僕もひさびさに「やった!」って声に出ちゃいました(笑)。

林原めぐみ

林原 私はこれまで、アニメの楽曲は作品を観てから詞を書くことが多かったんですよ。なので、キャラクターの動きとかオープニングのカット割みたいなのが浮かんでこないと書けなくて。でも今回はギンガイアンとか、伊吹・レッドスターとか、いろんなものがカンカンカン!って動いてるのが見えて「あー、楽しい!」って思って、「書きます! 書かせてください」みたいな。

椿 歌詞、次の日にできたんですって。

──えー!

堂島 そうなんです。藤井さんのもとに歌詞が送られてきて、僕のところに届いたのはその2日後ぐらいだったんですけど、それでも「怖っ!」って思いました(笑)。早すぎて。

林原 私の仕事の中でも最速でした。

椿 しかも2期のストーリーのアイデアも一緒に送ってくださったんですよ(林原の筆による歌詞解説を示しながら)。

堂島 「2期、本当にあるじゃん!」みたいな。

林原 作詞中に思い浮かんだものを盛り込んじゃいました。お客さんに見せるものではないけど、椿さんと堂島さんには、どういう歌詞かわかってもらったほうがいいだろうなと思って。でも絶対怖がられるだろうと思ったから、とりあえず藤井くんに送りました(笑)。何かあったらすぐ修正しようと思って。そしたらOKだったみたいで。

椿 そもそも、顔合わせの日は終わったあと、みんなで夜中の3時半まで飲んでたんですよ。

林原 深酒しながらも、椿さんもいろんなことを言うし、向くんもしゃべらないなりに何か言うし、アイデアがたまっちゃってたまっちゃって「出さなきゃ!」って。

堂島 この林原さんの一連の仕事ぶりが、もうめちゃめちゃカッコよくてね。

林原 いえいえ。長年アニメの業界に浸かって生きてきた私が、それだけ触発された企画だったんですよ。だからアニメファンのお客さんたちにも「聴くべき!」って堂々と言えるし、私の脳の中には「ギンガイアン」が確実にあったし。どうせ実現しないだろって中途半端なものを作るんじゃなくて、実現しようがしまいが、やりたいからやるんだっていう熱さにもすっごい刺激を受けました。いいチームに関われて幸せだったなと思います。

椿 うれしいです!

あるんですよね、私たちの中には確実に

堂島 今言われてハッとしたんですけど、「やりたいからやる」って重要でしたね。もちろん仕事はどんなものでも責任を持ってやるんですけど、それをはみ出す気持ちがあったほうが絶対に楽しいし、聴いた人も幸せだと思うんです。そういうものに突き動かされていたところが僕自身もあります。椿さんの仕事をしたいからやってて、そこに「ギンガイアン」というキーワードが生まれて、その世界にみんなが没入していく。

林原 没入しましたね。

堂島 誰よりも椿さんが、最初は「あ、私ソロデビューするんだ」みたいな感覚だったと思うんですよ。

椿 人ごとっぽい感覚でした。でも「ギンガイアン」という架空の物語ができて、考えているうちに、自分の中でもすごい盛り上がって。ただ、ご協力くださる方々の大きさには、ちょっと引きそうになりましたけど(笑)。

堂島 篠山紀信先生まで関わってますからね。

堂島孝平

椿 その反面、恥ずかしくないものにしなきゃいけない、まさに「逃げちゃダメだ」って気分でしたし、これまでの仕事の中で一番責任感を持ってやろうと思いました。私は面倒くさがりなので何ごとも受動的にやることが多くて、こんなに能動的に取り組んだのは珍しいです。長期にわたって1つの仕事に関わるってことも芸人は少ないですし。ついつい集中しすぎて、「それは『ギンガイアン』としてはどうかと思います」とか言って、藤井さんに注意されたりしました。

堂島 ないんですけどね(笑)。

椿 そう、ないのに。

林原 あるんですよね、私たちの中には確実に。

椿 こないだも藤井さんと言い合いしちゃったんです。「ギンガイアン」のオフィシャルサイトに各話のあらすじが随時公開されていくんですけど、向が書いたものをそのまま載せるって話になったときに「普通のアニメってストーリーを全部載せますかね?」とか言っちゃって。

林原 わかるわかる。来週の楽しみを奪っちゃいけないって思っちゃうよね。

椿 普通のアニメって言うか、架空の作品なのに(笑)。藤井さんに「椿さん、あくまでもCDのプロモーションでやってるサイトだっていうことを忘れないで。全部お話を載せるのはファンの方へのサービスなんだから」って言われて、「そうでした……」って我に返りました。

堂島 最初は藤井さんと電話で打ち合わせとかしてても「『ギンガイアン』は……」って言ったあと、すぐ「ないんですけどね」って笑ってましたけど、途中からはあるものとして話してましたもん。たまに冷静になって「いや、待ってください。これ『ギンガイアン』じゃなくて椿さんのミニアルバムですよ」って(笑)。

椿鬼奴「IVKI」
2018年9月12日発売 / Slenderie Record
椿鬼奴「IVKI」

[CD]
2000円 / YRCN-95299

Amazon.co.jp

収録曲
  1. 運命のリビルド[作詞・作曲:堂島孝平]
  2. Brace yourself[作詞:MEGUMI(林原めぐみ) / 作曲:堂島孝平]
  3. MOODY MOON[作詞・作曲:堂島孝平]
  4. 偽りの新銀河[作詞:藤井隆 / 作曲:藤井隆、堂島孝平]
  5. Galactic Galapagos[作詞:大貫亜美(PUFFY) / 作曲:堂島孝平]
  6. collection of GINGAIAN[Remixed by 溝口和彦 / 伊吹・レッドスター CV:椿鬼奴 / 郡司聖也 CV:伊礼彼方]
椿鬼奴(ツバキオニヤッコ)
椿鬼奴
東京都渋谷区生まれ、代官山育ち。NSC東京校を卒業後、26歳でお笑いコンビ「金星ゴールドスターズ」として芸人デビューを果たした。コンビ解散後は椿鬼奴としての活動をスタートさせ、2002年からはキートン、くまだまさし、坂本雅仁、クニ、しんじとのユニット「キュートン」にも参加している。2004年にはバンド「金星ダイヤモンド」を結成し、2006年に1stアルバム「ヴィーナス☆ダイヤモンド」、2014年には2ndアルバム「2014GOLD」を発表。2018年9月にはソロ名義初となるミニアルバム「IVKI」をリリースした。
堂島孝平(ドウジマコウヘイ)
堂島孝平
1976年2月22日大阪府生まれのシンガーソングライター。1995年2月にシングル「俺はどこへ行く」でメジャーデビューを果たす。1997年には7thシングル「葛飾ラプソディー」がアニメ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」のテーマソングに起用され全国区で注目を集めた。ソングライターとしての評価も高く、KinKi Kids、藤井フミヤ、山下智久、Sexy Zone、PUFFY、THE COLLECTORS、藤井隆、Negiccoなど数多くのアーティストへ楽曲提供したりサウンドプロデュースしたりしている。椿鬼奴のミニアルバム「IVKI」では音楽プロデュースを担当した。
林原めぐみ(ハヤシバラメグミ)
林原めぐみ
東京都出身の声優、アーティスト。高校卒業後、看護学校に通いながら声優養成所に入所。養成所在籍中の1986年にアニメ「めぞん一刻」で声優デビューを果たし、以来「魔神英雄伝ワタル」の忍部ヒミコ、「らんま1/2」の早乙女乱馬、「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズの綾波レイ、「スレイヤーズ」シリーズのリナ=インバース、「名探偵コナン」の灰原哀、「ポケットモンスター」シリーズのムサシなど人気作の主要キャラクターを歴任する。また1989年発表の「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」のイメージソング「夜明けのShooting Star」が話題を集め、“声優アーティスト”の先駆け的存在に。2017年6月には初のワンマンライブ「林原めぐみ 1st LIVE -あなたに会いに来て-」を開催し、翌2018年3月、7年8カ月ぶりとなるニューアルバム「Fifty~Fifty」をリリースした。椿鬼奴のミニアルバム「IVKI」ではMEGUMI名義で「Brace yourself」の作詞を手がけている。