谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)×長屋晴子(緑黄色社会)|“管楽器3部作”完結 青い春のエチュードは瑞々しく輝き続ける

東京スカパラダイスオーケストラが、3月15日にミニアルバム「JUNK or GEM」をリリースする。

今作の冒頭を飾るのは、緑黄色社会の長屋晴子(Vo)をゲストボーカルに迎えた新曲「青い春のエチュード feat.長屋晴子(緑黄色社会)」。幾田りらを迎えた「Free Free Free feat.幾田りら」、石原慎也(Saucy Dog / Vo, G)を迎えた「紋白蝶 feat.石原慎也(Saucy Dog)」に続く“管楽器3部作”を締めくくる作品と位置付けられたこの曲で、スカパラと長屋は青春時代の淡く純潔な恋心を鮮やかに描き出している。

音楽ナタリーでは、スカパラの谷中敦(Baritone Sax)とゲストボーカルの長屋にインタビュー。この曲が生まれた経緯や楽曲制作について話を聞いた。

取材・文 / 大山卓也撮影 / NORBERTO RUBEN

スカパラとやることで新しい自分が見つかる

──「青い春のエチュード」の資料を見て、これが「管楽器3部作」というプロジェクトだったことを初めて知りました。いつから計画していたんですか?

谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ / Baritone Sax) 最初から計画してたわけではないんですよ(笑)。1作目にあたる「Free Free Free feat.幾田りら」(2022年7月リリース)のときに、「りらちゃんトランペット吹けるなら吹いてもらおうよ!」とお願いさせてもらったんですけど、そのときには石原(慎也 / Saucy Dog)くんや長屋さんにゲストボーカルをお願いすることは決まってなかったので。

──最初から管楽器が吹けるボーカリストを3人探したわけではないんですね。

谷中 そうなんです。りらちゃんとも石原くんとも素晴らしいコラボができたので、「次はどうしようか?」みたいな感じでした。スカパラはいつも楽しそうなほうに流れていくだけなので。

──では今回の長屋さんとのコラボはどういった経緯で?

長屋晴子(緑黄色社会 / Vo) 去年スカパラさんとイベントや収録でご一緒する機会がすごく多かったんです。以前から「いつかボーカルで参加できたらいいね」という話はバンドの中でもしていたので、お会いしたときに「やりたいです!」と伝えました。

左から谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ / Baritone Sax)、長屋晴子(緑黄色社会 / Vo)。

左から谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ / Baritone Sax)、長屋晴子(緑黄色社会 / Vo)。

谷中 「RISING SUN ROCK FESTIVAL」のときだよね。リョクシャカのメンバーが全員いる場で言ってくれて。

長屋 アピールしました(笑)。それだけじゃ弱いかもと思って、6年間トロンボーンをやっていたことも言って。だから今回お話をいただけてすごくうれしかったです。

──スカパラへの参加にはやはり特別な思いがありますか?

長屋 あります、あります。これまでもいろんなアーティストの方がいつもと違う魅力を見せていらっしゃるし、自分のバンドとは演奏も曲の雰囲気も歌詞も違う。すごく刺激的で憧れていました。スカパラさんとご一緒させていただくことで新しい自分が見つかるんじゃないか、それがバンドにもいい刺激を与えるんじゃないかって。

歌い方で個性を出す方向にシフトチェンジ

──谷中さんから見て長屋さんはどういうボーカリストですか?

谷中 とにかくめちゃくちゃ歌がうまいですよね。何をどうしたらそんなにうまくなるんですか? 本当にすごい才能だと思います。

長屋 いえいえ、とんでもないです(笑)。ただ自分の感覚で歌っているだけなので。もちろん小さい頃から習い事としてピアノをやらせてもらったり、部活動でトロンボーンをやったりして音楽は常にそばにあったけど、ボイストレーニングも行ったことがないですし、専門的な知識があるわけでもなくて。やってたのはカラオケで好きな曲を歌っていたことくらいです(笑)。

──歌うときに心がけていることは?

長屋 歌いながら「ここはこういう感じがいいかな」と考えたり、日本語が好きなので歌詞を見て感じたり、とかですかね。私、音楽を始めた頃は自分の声は個性がないと思っていて、今も若干思ってるんですけど……歌がうまいとは言ってもらえても、声質が特別かと言えばたぶんそうじゃない。モノマネされるタイプの声じゃないんです。

谷中 クセがないのは逆に強みだと思いますけどね。

長屋 かもしれないです。だから、歌い方で個性を出す方向にシフトチェンジしていった感じなんですよね。

長屋晴子(緑黄色社会 / Vo)

長屋晴子(緑黄色社会 / Vo)

そういうふうにはなりませんでした

──長屋さんの歌の個性はこの「青い春のエチュード」でもよくわかります。

長屋 最初に候補曲のデモを3曲いただいて、そのときから「この曲がいいな」と思っていました。自分が得意な伸びやかなメロディが多いし、なんだろうな……ところどころフラットするメロディラインも絶妙ですごくカッコいい曲だなって。あと「昔 誰かが夜の光を~」の部分の転調がめちゃくちゃ素敵ですよね。

谷中 ここ、印象的ですね。

長屋 急にガラッと世界観が変わって一気に引き込まれる感覚があります。

谷中 あと僕が個人的にすごいと思ったのはサビの「ごめんね」のところ。世界一美しい「ごめんね」ですよ。こんな「ごめんね」ならなんでも許します(笑)。

長屋 そこはいくつか歌ったテイクをスカパラの皆さんがセレクトしてくださったんですよね。聴き比べて「これいいね」「こっちもね」なんて言いながら選んでいただいた「ごめんね」です。

谷中 ここはこだわりポイントだったよね。

谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ / Baritone Sax)

谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ / Baritone Sax)

──歌詞について、長屋さんは当初「大人の歌を歌いたい」とリクエストされていたそうですね。

谷中 そう言われてたんだけどね。そういうふうにはなりませんでした(笑)。青春の歌になりましたね。

長屋 最初に「どんな歌詞がいいとかあります?」と聞かれて、スカパラさんは大人っぽいイメージがあったので「そういう曲はどうですかね?」とお伝えしていたんです。でも私をイメージしてくださって、最終的にこの歌詞になったと聞いてすごくうれしくて。

谷中 いつもは小難しい歌詞を書きがちなんですけど、長屋さんには小難しい表現を寄せ付けない明るさがあるなって。そう思いながら書いてたら「がんばってねって 声かけて / 楽しいねって 笑いかけた」というストレートな歌詞になりました。長屋さんのイメージと曲調に引っ張られて。けっこう衝撃的だよね、これ。

──はい。50代男性の谷中さんが10代女子の淡い恋心をこんなにまっすぐ描けるとは。

谷中 そうなんです(笑)。自分でもおかしいんだけど、前回「紋白蝶 feat.石原慎也(Saucy Dog)」(2022年11月リリース)を聴いた10代20代の石原くんのファンの方が、SNSで「歌詞のここが好き」みたいな反応を書いてくれてたんです。それをチラチラ見てたらうれしくなっちゃって(笑)。56歳でも若い人に響く言葉が書けるんだなって。

長屋 青春時代って誰もが通るものだから私自身もリンクする部分があって、しかも今回トロンボーンを吹いたおかげで、自分がトロンボーンに打ち込んだ学生時代の青い記憶がよみがえりました。

──特に気に入ってるフレーズはありますか?

長屋 ラストの「暗転からのカーテンコール / 笑顔で挨拶します」のところが好きですね。女の子って何かに別れを告げるとき、もやもやした気持ちを振り切って笑顔で伝える子が多い気がするんです。そういう人のことを素敵だなと思う。だからこのフィナーレは本当にカッコいいし、谷中さんはなんでこんなに女の子の気持ちがわかるんだろうって思いました。

谷中 この「笑顔で挨拶します」は台本のト書みたいなつもりで書いたんだよね。

長屋 潔さとか勇気とか涙を見せない強さとか、いろんな心情が詰め込まれていますよね。