東京スカパラダイスオーケストラ「Free Free Free feat.幾田りら」インタビュー|谷中敦×幾田りら 世代超えた2組が“希求”の先で放つ音

東京スカパラダイスオーケストラが7月27日にニューシングル「Free Free Free feat.幾田りら」をリリースした。

今作でスカパラがゲストボーカルに迎えたのは幾田りら。ソロアーティストとしての活動のみならずYOASOBIのikuraとしても活躍し、谷中敦(Baritone Sax)が“時代の声”と形容する声を持つシンガーだ。NARGO(Tp)が作曲、谷中が作詞を手がけた「Free Free Free」は“希求”をテーマに、心弾むような未来を力強く求める思いを歌う楽曲。幾田とスカパラの9人は世代の差を軽々と飛び越え、高次元でお互いのポテンシャルを発揮し合う、刺激的なセッションを展開している。

リリースを記念し、音楽ナタリーでは谷中と幾田にインタビュー。今回のコラボについて、お互いの印象や制作時のエピソードを語ってもらった。

取材・文 / 大山卓也撮影 / 曽我美芽

リズムを自分の身体に刻み込む挑戦

──素晴らしい楽曲が誕生しましたね。幾田りらさんの歌声が圧倒的です。

谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ / Baritone Sax) ああ、そう言ってもらえるのはうれしいですね。ゲストを迎えるとき、スカパラは「自分たちの色を出したい」みたいな気持ちはあまりなくて、考えているのはゲストを魅力的に見せたいってことなんです。どうしたって自分たちは自分たちだし、これがスカパラの音だというのは聴いてもらえば一瞬でわかると思うので。

──曲のイメージはすぐに固まりましたか?

谷中 候補は10曲くらいあったんです。りらさんに歌ってもらえるってことでメンバー全員夢が広がっちゃって(笑)。普通のボーカリストでは歌えないような難しいメロディの曲もあったんですけど、結局この曲が一番いいだろうと。

──この曲も全然易しくはないと思いますが、幾田さん歌ってみていかがでしたか?

幾田りら リズムを自分の体に刻み込むのが新しい挑戦でしたね。今までの自分の中になかったリズムなので。でもすごい疾走感で突き進んでいくのにメロディはスッと胸に落ちてくるんです。特にサビなんかは1回聴いたら覚えてしまうし、音として気持ちいいうえに歌詞がすごく素敵で。

左から幾田りら、谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ / Baritone Sax)。

左から幾田りら、谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ / Baritone Sax)。

──歌詞について言うと、例えば「妄想実現レベル」とか「冴えまくりポテンシャル」みたいなワードは普段の谷中さんの歌詞ではあまり見ない気がします。

谷中 確かに、なんかキャッチコピーみたいですもんね。小難しいことは言わずにあえて感覚的な言葉を選んでる感じかもしれない。今回“直感”がキーワードなので。

──それは幾田さんのキャラクターや歌声に影響されてのことですか?

谷中 それはもちろんありますね。こういう歌詞で遊んでもらったら面白いだろうなとずっと考えていました。

幾田 最初メロディだけを聴いたときはとにかく疾走感にあふれた、どんどん前に進んでいく曲だと思ったんですけど、歌詞をいただいてから人が心の奥に抱えている傷だったり、こういう時代だからこそ直感を大事にしたいという思いだったりを感じて。メロディは駆け抜けながらも歌詞は過去を振り返るような言葉が多くて、そのバランスが絶妙だなと思っています。

谷中 ありがとうございます。

幾田 あとは例えばBメロでリズムが変わるときの歌詞がすごく胸に入ってきて。「ぼくはあなたのことを好きになった」とか「誰かを守るためのその力で 小さな希望を握りつぶさないで」とか、走ってる途中でふと自分に語りかけてくれるような、そういう言葉にグッときますね。

スカパラ世代とは違う新しい感覚

──谷中さんは幾田さんの歌にどんな印象を持っていますか?

谷中 いや、本当にすごいですよね。今回生で聴いてもう感動しちゃって。最初に歌メロをオルガンで弾いたデモテープを聴いてもらったんですけど、りらさんはそれを細かく覚えて忠実に歌ってくれたんです。YOASOBIでも「普通これ無理じゃないの?」と思うような複雑なメロディを軽々と歌っていて、音楽に対する反射神経が素晴らしいと思う。しかもただうまいだけじゃなく、なんだろう、自分たちの世代にはない感覚がある気がするんですよね。それが僕ら世代には衝撃だったし、その新鮮さは世の中の人も絶対感じているわけで。

幾田 ありがとうございます。確かにYOASOBIで経験したことは大きくて、デモを聴いて細かい語尾のハネまでそのまま歌うとか、そういうスキルはすごく鍛えられた気がします。だから今回のデモをいただいたときも「どんなふうに歌えばいいかな?」とか「こうすれば楽しく聞こえるかな?」みたいなことをたくさん考えたし、そこはYOASOBIの活動を始めてからより磨かれた部分かもしれないです。

幾田りら

幾田りら

谷中 もうね、僕らから見ると人類の進化を感じるレベルなんですよ。レコーディングも相当燃えました。音楽的な刺激がすごくて、スカパラのメンバーもみんなまだ興奮してますからね。完成した曲を毎日何時間も聴いてるメンバーもいるくらい。

幾田 ええ、本当ですか!?

谷中 曲自体の完成度に惚れ込んでいるところもあるし、りらさんのことを好きになっちゃってるのもあるだろうし(笑)。俺もずっと聴いててそのたびに衝撃を受けてます。全員の気持ちとアイデアを注入した結果、毎日聴きたくなる自分たちの曲ができたなって。

レコーディングで息継ぎのことはあまり考えない

──幾田さんは今の時代を象徴するシンガーの1人ですし、今回のコラボはスカパラサイドも特に気合いが入ったんじゃないでしょうか?

谷中 いい意味でプレッシャーはありましたよね。りらさんのソロもYOASOBIもたくさんいい曲がある中で「スカパラってこんなもんなの?」と言われたら寂しいですから。精一杯がんばってやりました。

──そもそも幾田さんはスカパラのことはご存知でしたか?

幾田 もちろんです。中高生時代に部活でトランペットをやっていて、そのときから聴いていたので自分にとっては神のような存在です(笑)。音楽を純粋に楽しんでいてコラボ曲も毎回お互いを染め合う魅力があって、とにかくキラキラ輝いてる。大人のグルーヴを感じます。

谷中 ありがとうございます。俺は初めてYOASOBIを聴いたときの衝撃がすごかったんですよね。どこで息継ぎしてるんだ?ってくらい難しいメロディを歌いこなしてて、ちょっとありえないことをやっているなと思って。

幾田 レコーディングのときは息継ぎのことはあまり考えてないですね。音源として最高のものを作るという目標のもとに全員がやっているので。

谷中 ライブでの再現を考えないんだ? すごいなそれ。

幾田 レコーディングでいい感じに録れたらライブでも歌えるようになるだろうしって(笑)。でもライブのときはちゃんと息継ぎの計画を立てていますよ。1カ所ミスするとそのあと2、3行ブワーっと飛んじゃったりするので。

左から谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ / Baritone Sax)、幾田りら。

左から谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ / Baritone Sax)、幾田りら。

──スカパラは今回息継ぎのこと考えてました?

谷中 あはは、言われてみるとあんまり考えてないですね!(笑) ホーンセクションの人がメロディを作るとそういうのを考えないで作っちゃうから。「自分で歌ってみろ」って思いますよね(笑)。

幾田 いやいやそんな(笑)。今回谷中さんとNARGOさんに曲を作っていただいて、自分1人では出てこないものばかりだったので楽しかったです。

谷中 そこを楽しめるのは余裕がある証拠ですよね。

幾田 練習のときから楽しくてずっと震えてました(笑)。特にホーンセクションの皆さんの演奏が、トランペットをやっている身からするとカッコよすぎてずっと鳥肌立ちまくりで。

──今回幾田さんもトランペットを演奏していますよね。

幾田 もう夢のようです。見せ場を作っていただいて、恐縮ながら吹かせていただきました。

谷中 素晴らしかったです。最後、歌うように吹いているところもいいんですよ。

幾田 でも高校の部活から5年くらいブランクがあったので今回猛練習して、会社の地下の倉庫みたいなところで「なんとかレコーディングに間に合わせるぞ!」と毎日吹いていました。

谷中 それだけブランクがあったら「できません」と言って断ってもいいのに、こちらのオファーに応えて一生懸命やってくれたんで。本当に感謝しかないですね。