谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)インタビュー|ドラマ「渋谷先生がだいたい教えてくれる」主人公・渋谷先生に滲む“谷中敦の美学” (2/2)

昔飲み歩いていたのは無駄じゃなかった

──このドラマの大きな見どころの1つが、渋谷先生が若手ミュージシャンの相談に乗り、各回のゲストとともに自分の経験を交えながら悩みを解決に導くトークセッションのパートだと思いますが、台本を拝見して驚いたのが、ここのパートはまったくの白紙という……。

そうなんですよ! 自分も最初台本を開いたとき、かなりびっくりしちゃって。「よく考えて作られているなあ」と思いながら読んでいたら、急に「ここからフリー」と書かれていて、「え、トークセッションは全部フリーなの?」みたいな。しかも、締めの部分には「ここで渋谷先生の名言を」と書き込まれてる。自分は“名言”を考えて、ここで1つクライマックスを作らなきゃいけないのか……かなりムチャぶりじゃないか?と思いながら(笑)。でも、思いっ切りやらせてもらっていますけどね。

谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)

──台本からは様子がまったくわからないので、トークセッションの撮影が現場でどのように進んでいるのかが気になります。

まず、バーのマスター役の徳井さんがきっかけや話の流れを作ってくれていますね。徳井さんはほかの人が口を挟みやすい隙間を作りながらしゃべってくれるから、本当に優しいなって。今回、徳井さんがいてくれて本当によかったなと思っているんですよ。演技面でも監督さんの意見を大事にしながら徳井さんならではの雰囲気を注入されているし、すごく助けられています。徳井さんのおかげもあって、生徒さんもゲストも、のびのびとしゃべれるような空気感がありますね。

──そうなんですね。

自分自身はもちろん渋谷先生としてその場にいるんですけど、これまでの経験も含めてアドバイスをしますから、半分谷中な部分もある……“渋谷中”くらいの感じ(笑)。僕、お酒をやめてから13年くらい経つんですけど、やめる前は毎晩のように飲み歩いて、年下年上にかかわらず、職業もさまざまな人たちと話をして……それこそ悩み相談をたくさんしていたんです。「谷中さん、俺のことも叱ってください!」「どうしたらいいか教えてください」なんて言われて、行列ができるくらい(笑)。出会った人たちにズバズバ言うのが好きだったんですよ。

──行列! すごいですね。

お酒をやめてからはそういうことを一切していなかったけど……毎晩20人くらいの人と話してきた経験が今、ドラマの中で生かせるのか!なんて思いながら。渋谷先生のキャラクターを借りて、トークセッションの面白さを伝えることができるなんてね。昔飲み歩いていたのは無駄じゃなかったなって(笑)。楽しいですね、いろんなことを思い出します。

谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)

ポイントは“途中の笑い”と“出口”

──ちなみに、谷中さんが誰かの相談に乗ったりアドバイスをするとき、相手に自分の言葉をしっかりと伝えるために会話の中で意識していることなどはあったりするのでしょうか?

ああ、それはいいことを聞いてくれたかも。今思い出したことなんですけど、飲んでいる頃にしていたトークセッションの中ですごく感じていたのは、どんなにいい話だとしても、内容がキュウキュウに詰め込まれた話だと、相手がだんだんと飽きた顔になっていくのが見ていてわかるんですよ。だから、自分は数分に1回は笑いを入れるようにしていたんです。ほら、学校の先生とかもそうじゃないですか。いい先生は、ちょっと面白いことを言ったあとに話の本題を伝えたりする。聞き手を飽きさせない工夫があると思うんですけど、飲んでしゃべっているときもそれをすごい感じていましたね。あと、長い話には出口がないと、人ってモヤモヤしちゃうと思うんです。だから自分は必ず「この出口に向かおう」とか「こうやってオチをつけよう」と、終わらせ方を考えながら話していたところがあって。“途中の笑い”と“出口”がポイントかもしれないですね。なので、自分の経験だけを延々としゃべり続けて説教しているような人を見ると「笑いのポイントを入れろよ!」とツッコんじゃったりして(笑)。「みんな真面目に聞き続けて、かわいそうじゃん!」って。ずっと話を聞いていたら集中力もなくなるんだよって、そういうことを伝えるときもありますね。

──なんだか、谷中さんの前に行列ができる理由がわかった気がします。

集中力ってそんなに続かないのでね。せっかくいいことを言っていても、それが長く続くと「なんとなくいいこと言われてるけど、ボーッとしてきたな」ってなっちゃうから(笑)。話を覚えていてもらうためにも、ところどころ笑いで“チャプター替え”をする必要があるんですよね。

谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)

スカパラの持っているファンキー色を前面に

──そして、この作品のオープニングを飾るのが、東京スカパラダイスオーケストラとALIがコラボした「サボタージュ (VS. ALI)」という楽曲です。

そうなんですよ! 絶賛制作中でまだレコーディングはしていないんですけど、LEO(Vo)くんと歌詞のやりとりを今ちょうどしていて。

──そうなんですね。歌詞はどんなイメージで?

仲間同士で悩んだり、落ち込んだりしながらも冒険をして、そこには感動も笑いもあり……みたいな“青春群像”的なテーマが55歳になった今でも自分の中にはずっとあるので、今回もそういうドラマを歌詞に詰め込むことができればいいなと。それでいて、やっぱりどこかしらに美学やカッコよさを感じられると、憧れを持って曲の世界観に入ってもらえると思うしね。曲に感情移入してもらえたらいいなあと思いながら書いてます。LEOくんもすごくアイデアをくれるんですよ。仮歌の段階で彼が歌詞をかなり書いてきてくれたので、もうこれでいいじゃん!と思って「俺、何もやんなくていいよね」と言ったら「いや、谷中さんの言葉で歌いたいんです」って言ってくれたんで「おお、そっか。そう言ってくれるなら」と、自分も書かせてもらって。

──そんなやりとりが。

書いた歌詞を送ったら「宝物をありがとうございます!」と言ってくれてね。次の日には、自分の家で録った歌を送ってきてくれました。夢中になって、すごく丁寧に……俺が書いた歌詞をさらに書き変えて戻してくれたりするので、有機的に作用しながら進んでいますね。ここからさらに、ドラマの中でいろんな生徒さんと話したことや、撮影現場で感じたことも、どんどん注入していければいいなと思いながら作っていますね。

──完成が楽しみです。

本当に楽しみにしていてください。めちゃくちゃカッコいいですよ! 曲はNARGOが書いたんですけど、新鮮な感じです。例えるならデビュー当時よくやっていたファンキーなスカパラというか。クリーンヘッド・ギムラがいた時代、彼はPファンクやジェームス・ブラウンが好きだったりしたんで、ファンキーなことをけっこうやっていたじゃないですか。今回、LEOくんもそういうテイストがすごく好きだってことがわかったんで、スカパラの持っているファンキー色を前面に出そうと。とにかく、とてもいい曲に仕上がりそうなので、ドラマも曲も期待していてくださいね。

谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)

プロフィール

東京スカパラダイスオーケストラ(トウキョウスカパラダイスオーケストラ)

NARGO(Tp)、北原雅彦(Tb)、GAMO(Tenor Sax)、谷中敦(Baritone Sax)、沖祐市(Key)、川上つよし(B)、加藤隆志(G)、大森はじめ(Perc)、茂木欣一(Dr)からなるスカバンド。1989年のデビュー以降、インストゥルメンタルバンドとしての確固たる地位を築く中、日本国内に留まることなく世界31カ国での公演を果たし、世界最大級の音楽フェスにも多数出演。2021年8月には「東京2020オリンピック競技大会」の閉会式でライブパフォーマンスを披露。2022年3月にニューシングル「君にサチアレ」を発表し、4月よりツアー「BEST OF LUCK」を開催する。