谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)インタビュー|ドラマ「渋谷先生がだいたい教えてくれる」主人公・渋谷先生に滲む“谷中敦の美学”

東京スカパラダイスオーケストラの谷中敦(Baritone Sax)が主演を務め、スカパラがオープニング曲を担当するドラマ「渋谷先生がだいたい教えてくれる」が、TOKYO MXで放送されている。

「渋谷先生がだいたい教えてくれる」は、エンタテインメントの世界を目指す人のための専門学校を舞台にしたドラマ。谷中が演じる渋谷保は学校ではつかみどころのない風変わりな教師だが、行きつけのバーでは生徒たちの悩み相談に乗り、自身の経験を交えながら彼らに熱いアドバイスを送る。

生徒役を務める次世代ミュージシャンのリアルな悩みが反映された相談パートでは、谷中も自身の考えや言葉を交えながら渋谷先生のセリフを紡ぎ、予定調和なしのライブ感あふれるトークセッションを展開する。ドラマ初主演にして、自身本来のキャラクターが反映された渋谷先生という役柄を演じる谷中は、どんなことを考えながら今作に挑み、これまでの経験を役に生かしているのか? また、ALIとのコラボレーションによって生まれたオープニング曲「サボタージュ (VS. ALI)」はどのような楽曲に仕上がっているのか? “だいたい教えて”もらうべく、音楽ナタリーでは谷中に話を聞いた。

取材・文 / 三橋あずみ撮影 / YURIE PEPE

55歳にして初めてのチャレンジをいただけることが本当にありがたい

──現在は撮影の真っ最中だと伺いました(取材は3月中旬に実施)。

そうなんですよ。朝から夜まで撮影しているんですが、現場のスタッフさんは本当に大変だと思います。自分はみんなで楽しくできたらと思いながらやらせてもらっているんですけど、制作陣の皆さんが「渋谷先生が嫌がらずになんでもやってくれるので楽しいです。この楽しさは画面から伝わりますね」と言ってくれることが何よりうれしいですね。観てもらったらきっとわかるんじゃないかな。

谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)

──ドラマの撮影現場で初座長を務める、という感覚はいかがですか?

自分としては55歳にして初めてのチャレンジをいただけることが本当にありがたいので、やれることを精一杯やるだけだなと。金沢知樹さんが自由に書いてくださった脚本は自分の想像以上にコメディでしたけど、その分自由にのめり込んでできるなあという感覚です。とにかくいろんなことをやらされていますけどね(笑)。楽しいです。

──ここまでコメディ色の強い役柄は初めてですよね?

そうですね。あまりにコメディタッチだったので現場に入る前はビビってたんですけど、やっていくうちに夢中になっていきました。やり方1つで笑えたり笑えなかったりするし、役者さんのすごさを感じますね。この間中村倫也さんとお話したときも彼がおっしゃっていましたけど(参照:谷中敦×中村倫也 それぞれの場所から描き出した映画「ウェディング・ハイ」響き合う2人のトークセッション)、ナレーションがあるときとないときで芝居が変わって、ナレーションがないときは“まばたき1つ”で伝えたいことを感じさせなきゃいけないとか……。ただ座っているだけの演技でも目の動きを入れたり、物を置く、取る、そういう仕草1つひとつを注意深く意識しながらやらないとな、なんて考えながら。普段の生活でも、もう少しいろいろと意識したら自分の演技が変わっていくのかな、なんてことも思いますし、いろんな勉強につながっていますね。

谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)

──すごく深く演技に向き合っていらっしゃるんですね。

いやいや。あ、あとこれは太字で書いていただきたいんですけど、(新任講師の)速水流果役の里々佳ちゃんが素晴らしいです。才能がほとばしっているというか、役者としてすごくいい時期に差しかかっているんじゃないかな。さっぱりしていて男っぽいんだけど女性としてのかわいらしさもあって……これからさらにいろんな才能を発揮していきそうだなと感じています。その里々佳ちゃんをはじめ、徳井(義実 / チュートリアル)さん、みなみかわさんと、芸達者な方々に助けられながら。自分もその輪の中に入っていけるようにと思いながらやっています。

渋谷先生は“強めな谷中”

──渋谷先生という役柄についても聞かせてください。渋谷先生は谷中さんに当て書きをされたキャラクターかと思うのですが、かなり風変わりな人物として描かれていますよね。

そう。まさにその通りで、かなりのデフォルメが入ってます(笑)。もちろん普段の谷中的な雰囲気もあるんですけど、そのさじ加減が絶妙だなと。

谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)

──ご自身のエッセンスが入っている役柄を演じるのはきっと初めてですよね? ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」で演じられていた社長さんのキャラクターなどは、普段の谷中さんの姿とは乖離していましたし……。

そうですね。あれはもう、本当に嫌な人でしたからね! 自分の人生の中で、今までもこれからも言うことないだろうなっていうセリフを言い続けるという……もうホラーのようでしたけど(笑)。あれはあれで面白かったですね。

──自分らしい部分があるキャラクターを演じる、というのは感覚的にいかがですか?

自分としては、渋谷先生は“強めな谷中”なのかなと捉えています。でも、スカパラのメンバーからは「普段の谷中と同じじゃない?」という声が聞こえてきそう(笑)。渋谷先生、ド天然じゃないですか。俺は自分のことを天然だとは思っていないんですけど、メンバーは俺のことをド天然だと……9人の中で一番天然だと思っているから。こんなにしっかり、いろいろと考えてる俺に対してそんなこと言うんですよ(笑)。ただ、1つのことに集中してほかのことを忘れちゃうっていう部分での天然ぶりは、似ているのかなと思います。

谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)

──そこはご自身でも重なる感覚があるんですね。

例えば渋谷先生の職員室のデスクって、まるで自分の部屋のようなんですよ。おもちゃとかゲームとか雑誌とか、好きなものが全部置いてある。そこにさらに韓国の美容グッズが入ったダンボールが届いて、その場でパックし始めたりする(笑)。すごい集中力で、その場その場で起こることを楽しんでいくんですよね。渋谷先生は夢中で何かをやっているだけなんだけど、傍から見たら変人に見えるっていうところがとても面白くて。そこが楽しいですね。