谷中敦×中村倫也 それぞれの場所から描き出した映画「ウェディング・ハイ」響き合う2人のトークセッション (2/2)

演技のバランスは現場の嗅覚で調整する

谷中 それにしてもこの映画はスピード感がすごいですよね。次から次へと事件が起きて。

中村 登場人物も多いですしね。あとはやっぱりバカリズムさんの脚本の巧みさというか、人の心の奥の深くて恥ずかしくてヤバいところをあぶり出して笑いにしてきた、そういう方が群像喜劇を作るとこうなるんだなと。

「ウェディング・ハイ」メインビジュアル©2022「ウェディング・ハイ」製作委員会

「ウェディング・ハイ」メインビジュアル©2022「ウェディング・ハイ」製作委員会

谷中 結婚式の準備をしているときの新郎新婦のやりとりが面白かったです。奥さんは選択肢がいっぱいあってワクワクしているのに、中村さんのほうは内心で「選択地獄だ」と思ってる。

中村 “心の声”ですね。心の声があるおかげで僕も安心して芝居ができました。普段の芝居だと、話している相手に「そうだよね」と言いながら、実はこの人はそう思ってないんだよってことを表現しなきゃいけなかったりするんです。まばたき1つ、一瞬の反応で観ている人にそれを伝えなきゃいけない。でも今回は心の中をナレーションで語ってる分、会話自体はリアルな芝居でいけたので。

谷中 そうか、ナレーションがない場合はお芝居自体が変わってくるんですね。

中村 リアクションでコミカルな部分を作らないといけなくなりますね。

谷中 すごいな。表情とか演技とかやりすぎちゃうことはないんですか?

中村 ありますあります! 若い頃はいつも足りなかったり、トゥーマッチだったりしたけれど、経験を重ねてだんだんバランス感覚が培われてくるというか。あとはそれがテレビドラマなのか映画なのか舞台なのか、どんな内容なのか、共演者とどうハモるかも考えますし、そのあたりはいつも現場での嗅覚、肌感覚で調整していきますね。音楽でも「この音ハマってないな」とか「今遅れたな」とか、きっとあるじゃないですか。

谷中 そこは同じですね。

中村 たぶんそういう感覚です。現場で共演する相手がこのシーンのためにどんな準備をしてきたのか、どういう球を投げてくるのか。それに自分がどう合わせるのか。そういうことを考えたり工夫したりするのが好きなんですよね。

左から谷中敦、中村倫也。

左から谷中敦、中村倫也。

主役と脇役どっちも楽しめるのがいい

谷中 さっきの「紅白」の話で感動したんですけど、緊張マックスになったときに自分がやれることをやる、これ以上でもこれ以下でもないやと思える、その肝の据わり方はすごいですよね。人ってやれないことをやろうとするときが一番カッコ悪いと思うし、そういう意味でも中村さんは“カッコいい丁寧”を持っているんだなって。自分も昔に比べたら肝が据わったというか、落ち着きが出てきて長い時間でも待てるようになったというのはあるんですけど……。

中村 長い時間待てるというのは?

谷中 ほら、映画の現場とかってすごく待ち時間が長いでしょ。僕も以前に呼んでもらったことがあるんですけど、本番まで3、4時間待つのも普通だったりして、昔は「役者さんってこんなに待たなきゃいけないの?」と思ったりしていたんです。でも2016年かな、スカパラのライブやイベント出演のためにひと夏でブラジルと日本を2往復しなきゃならないときがあって。ブラジルまでは飛行機に乗っているだけでも20時間以上、家を出てホテルに着くまでだと40時間くらいかかる。だからそのとき「俺は貨物だ」と思うようにしたんですよ(笑)。そうしたらなんだか落ち着いて、待ち時間が苦じゃなくなった。

中村 あははは(笑)。

谷中 なかなかの修行でした(笑)。あと僕は13年前にお酒をやめたんですけど、若い頃はホントに四六時中ずっと飲んでいて、飲むことでいろんな人と仲よくなったし、いろんな人と心を交わしたいと思ってとにかくシャカリキになって話をして、それで人間的に鍛えられた部分もずいぶんありますね。盛り上がったり反省したりの繰り返しでしたけど。

中村 いいですね。僕は若い頃……20歳から25歳くらいまでは腐りきっていて、いつも飲み会をイヤな空気にしていたと思います(笑)。そんな僕を叱って更生させてくれたのが、ムロ(ツヨシ)さんだったりするんですよ。当時は「俺を見ろ」じゃないけど、自分を知ってほしいという欲が強かった気がします。でも今はすっかり聞き役になりましたね。人と話すことで鏡のように自分を知れたし、自分の中にないものも知れたし。そこは昔と比べて大きく変わったところかもしれないです。

谷中敦

谷中敦

中村倫也

中村倫也

谷中 中村さんは今、おいくつですか?

中村 35歳です。

谷中 すごいなあ。こっちは55歳の今やっと聞き役を楽しめるようになったのに(笑)。

中村 そういう立ち位置が性に合っているんでしょうね。もともとの性分というか、社会に出て揉まれる前の、もっと純粋だった頃の自分のキャラクターみたいなものが大人になるにつれ出てきているような感覚もあります。今回の自分の役は書道でいう“文鎮”みたいな感じで、周りの人がガチャガチャやっている中で軸になる存在なんですけど、これが何年か前だったら「その楽しそうな場所に俺も混ぜて!」と言って、ガチャガチャに加担していたと思うんです。ミュージシャンもいろんなタイプの方がいますよね? ガンガンいく人とか、1歩引いている人とか。芝居でも音楽でも、いろんなパーツが必要なのかなと思って。

谷中 ホントにそうですね。これはスカパラのメンバーを見ていて思うことなんですけど、9人それぞれメインを張ることもできるし、サイドを固めるのも好きなんです。その両方をバランスよくやれるのがバンドのコンビネーションとしては大切で、全員が主張しすぎるとそれこそ文鎮のないガチャガチャした状態になってしまう。主役も脇役もどっちも楽しめるのがいいんですよね。中村さんが今それをできているのはすごいと思います。

中村 同年代の役者と比べたときに、いろんなものを見ていろんな気持ちを経験してきたという自負みたいなものはありますけどね。

谷中 経験値の豊かさが人間のパワーになってるんだ。

中村 そんないいものではないと思いますけど(笑)。でも、自分がいろんな人と出会った経験をうまく生かして進んでいけたらいいですよね。

左から谷中敦、中村倫也。

左から谷中敦、中村倫也。

プロフィール

東京スカパラダイスオーケストラ(トウキョウスカパラダイスオーケストラ)

NARGO(Tp)、北原雅彦(Tb)、GAMO(Tenor Sax)、谷中敦(Baritone Sax)、沖祐市(Key)、川上つよし(B)、加藤隆志(G)、大森はじめ(Perc)、茂木欣一(Dr)からなるスカバンド。1989年のデビュー以降、インストゥルメンタルバンドとしての確固たる地位を築く中、日本国内に留まることなく世界31カ国での公演を果たし、世界最大級の音楽フェスにも多数出演。2021年8月には「東京2020オリンピック競技大会」の閉会式でライブパフォーマンスを披露した。2022年3月には映画「ウェディング・ハイ」主題歌を表題曲とするシングル「君にサチアレ」をリリース。4月よりツアー「BEST OF LUCK」を開催する。

中村倫也(ナカムラトモヤ)

1986年12月24日生まれ、東京都出身。2005年に俳優デビュー。主な代表作はドラマ「初めて恋をした日に読む話」(2019 / TBS)、「凪のお暇」(2019 / TBS)、「美食探偵 明智五郎」(2020 / 日本テレビ)、「この恋あたためますか」(2020 / TBS)、「珈琲いかがでしょう」(2021 / テレビ東京)、映画「屍人荘の殺人」(2019)、「水曜日が消えた」(2020)、「ファーストラヴ」(2021)など。2022年の待機作に映画「ハケンアニメ!」(5月20日公開)、配信作品「仮面ライダー BLACK SUN」がある。初のエッセイ集「THE やんごとなき雑談」が発売中。また、雑誌「ダ・ヴィンチ」にて、3月より新連載「中村倫也のやんごとなき雑炊」がスタートした。