3月12日に全国公開となる映画「ウェディング・ハイ」の主題歌を表題曲に据えた東京スカパラダイスオーケストラのニューシングル「君にサチアレ」が、3月9日にリリースされる。
「ウェディング・ハイ」は、結婚式をテーマにバカリズムが作り上げた完全オリジナルストーリーが展開する群像コメディ。主演の篠原涼子をはじめ、中村倫也、関水渚、岩田剛典、向井理、高橋克実といったオールスターキャストが抱腹絶倒のドタバタ劇を繰り広げる作品だ。スカパラはこの映画に、幸福感に満ちた茂木欣一(Dr)のボーカルが印象的な「君にサチアレ」を提供。スカパラがウエディングソングを手がけるのは、バンドがデビューしてから33年の歴史の中でも初めてのこととなる。
シングルのリリースを記念して、音楽ナタリーでは「君にサチアレ」の作詞を担当したスカパラの谷中敦(Baritone Sax)と「ウェディング・ハイ」で新郎・彰人を演じた中村倫也の対談をセッティングした。映画のこと、主題歌のこと、そして自身が立つ“現在地”について……それぞれの立場から思いを語り、響き合う2人のトークセッションを楽しんでほしい。
取材・文 / 大山卓也撮影 / 須田卓馬
自分がやれることをやるしかない
谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ / Baritone Sax) こうやって会うのは「新宿セブン」(2017年放送のドラマ)以来ですね。あのときはスカパラがドラマ主題歌(「白と黒のモントゥーノ feat.斎藤宏介(UNISON SQUARE GARDEN)」)を担当していた縁でちょっとした役をいただいて(参照:スカパラ谷中&大森が「新宿セブン」出演、怪しいコワモテの男役で)。
中村倫也 谷中さんはコワモテの客の役でしたよね(笑)。やっぱりミュージシャンの方は存在自体に説得力があるので、そこにいてセリフを言うだけで充分というか、僕らみたいにあの手この手でやろうとしなくても大丈夫なんだなって、そういうことを感じた記憶があります。
谷中 中村さんこそすごかったです。やっぱり演技に“圧”を感じたし、しかも中村さんは歌も素晴らしいじゃないですか。
中村 いやいや、アラジン役をやらせてもらったとき(2019年公開の映画「アラジン」吹替版)に歌番組にも出ましたけど、もうおっかなびっくりで。
谷中 ビートのはっきりしたポップスならともかく「ホール・ニュー・ワールド」ですからね。リズムも音程もすごく難しそう。
中村 めちゃくちゃ歌いづらかったです(笑)。3年前に「NHK紅白歌合戦」で歌ったときも緊張を超えて、最後はあきらめですね。自分がやれることをやるしかないなって。でも「アラジン」はミュージカル映画で曲がセリフの延長なので、現場では「歌わないで」「棒読みでやって」と言われてたんですよ。ビブラートをかけると指摘されるんです。
谷中 そうか、歌に気持ちを込めすぎると逆に伝わりづらい、みたいなこともあるんでしょうね。
若者目線の歌詞はもう書けない
谷中 今回の「君にサチアレ」は監督(大九明子)から「結婚の曲じゃなくてもいいですよ」と言われていたんですけど、やっぱり映画のタイトルが「ウェディング・ハイ」だし、ここで結婚について書かないのは逆に難しいなと思って。そうしたら曲の段階でメンバーがメンデルスゾーンの「結婚行進曲」の有名なフレーズを入れ込んできちゃって(笑)、だったらもう思いっ切り結婚の歌でいこうということになりました。
中村 この曲って“過去形”なんですよね。曲が始まってすぐに「幸せだったよ」というフレーズがあって、こういう映画だし「幸せにするよ」ならわかるんですけど、だからその時点で目線が新郎新婦じゃないなと気付いたんです。送り出す側の、父親みたいな目線で思い出をたどって「ついにその日が来た」という曲なのかなと。
谷中 そうなんです。これからライブでずっと歌っていくことも考えると、自分たち目線のリアリティのある歌詞のほうがいいなと思って。もう若者目線で書けないんですよね。ヒリヒリした恋愛ソングとかは書いてる途中でこっ恥ずかしくなっちゃって。
中村 わかります。僕もたまに回想シーンで若い頃を演じたりするんですけど、10代とか20代前半の不安定な心情みたいなものはもう出せない気がします。自分の土台がしっかりしてきちゃってる。妙な不安とか無駄なイラつきとか、自分の中から出てこないんですよね。
谷中 作詞のうえでも例えば怒りって大事なエネルギーだったりするし、それを描いたら若い人に共感してもらえるかなとは思うんですけど、この歳になって怒りの感情を出すのはちょっと醜い気がして、自分としてはリアリティを持って書けない。そこは葛藤がありますね。
中村 僕もついこの間、移動の車の中でふと思ったんです。激しい怒りはもう自分の中にないな、人のことを優しく受け入れられるようになってきたなって。それは大人になる過程としてきっと大事なことで、でもそれによって逆に表現できないことも出てきた。
谷中 振り返ってみると、苛立ちや怒りのエネルギーを創作にぶつけてきた経験はやっぱりあるんですよね。
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演技のバランスは現場の嗅覚で調整する