バカのふりして頼んでみようか
──ムロさんにはいつもステージナタリーや映画ナタリーでお世話になっていますが、音楽ナタリーへは初登場になります。
ムロツヨシ まさか音楽ナタリーに出る日が来るとは(笑)。スカパラさんとご一緒してからはあり得ない景色を見させていただいてます。
──もともとNARGOさんと大森さんがムロさんに注目していたそうですね。
大森はじめ(東京スカパラダイスオーケストラ / Per) もう普通に大ファンですね。最初は「ヨシヒコ」(2011年放送テレビドラマ「勇者ヨシヒコと魔王の城」)を観て、「この人めっちゃ面白い!」ってNARGOと話してたんです。
NARGO(東京スカパラダイスオーケストラ / Tp) 全部のボケを拾って全部ツッコんでるこの人はなんなんだろうって(笑)。それでスタッフ経由で「ファンなんです」と伝えてムロさんのラジオにゲストで出させてもらった(2012年11月)のが初対面ですね。
大森 「muro式.7」(ムロツヨシがプロデュースする舞台 / 2013年8月)もメンバーと観に行かせてもらったりして。
──ムロさんは当時からスカパラのことはご存知でしたか?
ムロ もちろんです。ラジオでお会いしてから僕もスカパラさんのライブ(2013年11月)に行かせてもらいまして、終演後メンバーの皆さんに「いつか自分の舞台の曲をスカパラさんに作ってもらうのが夢です」と話したんですよね。
──それは曲の発注ではなく、あくまで将来の夢として?
ムロ まあハッタリですよね(笑)。スカパラさんに曲を書いてもらえるくらいすごい舞台を作れるようになりたいという気持ちを込めて言っただけで、まだまだ自分はそこまでいけてないと思ってましたから。
──じゃあ楽曲制作の話が具体的に動き出したのは?
ムロ 去年の9月、僕が「news zero」に出演したとき「2021年に『muro式.』の野外公演をやります」といきなり宣言したんです。
大森 それを僕らスカパラとメンバーもたまたま観ていて「ムロさん舞台やるんだ? だったらテーマ曲作りますよ!」ってことでうちのスタッフから連絡してもらいました。
ムロ 事務所宛にメールをいただいたときは半信半疑でしたね。「嘘だろ? たぶん社交辞令だと思うけど、でも1回バカのふりして頼んでみようか」って(笑)。
谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ / Baritone Sax) 最初に会ってからそこまで8年経ってるのがすごいね。
NARGO 「ムロさん僕らのこと忘れてるかもな」と思いつつ(笑)、でもこっちはずっとスタンバイ状態だったんで。
──年月や経験を重ねて機が熟した面もあったかもしれませんね。
ムロ そうですね。「muro式.」を10年間やったあとプレイヤー(役者)に専念した2年間がありまして、そのときプレイヤーとしての自分を好きになるためにはやっぱり自分がプロデュースする表現の場があることが大事なんだってことに気付いて。そこで改めて「よし、舞台を作ろう」と思ったんです。
谷中 コロナ禍でも野外劇ならできるだろうってことですよね。
NARGO 音楽含めたエンタテインメント業界が中止や延期ばかりの中で「やります」と言ってるムロさんがすごいなって。ものすごいリスペクトを感じました。
ムロさん歌えるんじゃね?
──そうした経緯を経てスカパラが「muro式.がくげいかい」のテーマ曲を作ることになったわけですね。楽曲の方向性はムロさんのアイデアをもとに決めていったんですか?
ムロ 僕からスカパラの皆さんにお話したんですけど、もうめちゃくちゃ緊張しましたね。僕は音楽のジャンルとかもわからないし難しいことも言えない。だから「どういう音楽を作ってほしいか」じゃなく「今回どういう舞台をやるか」についてプレゼンしました。演出プランの説明から始まって、トラックがこっちから来ます、ここが開いてドーンと盛り上がります、みたいな話ですよね。それをメンバー全員とスタッフさんがいる前で画用紙を見せながら説明したんです。
NARGO あのプレゼンは情熱がすごく伝わってきました。終わったあとみんな拍手でしたからね。
大森 ムロさんがやりたいことのイメージが見えたんで、デモ曲はそこから2週間ぐらいでできましたね。
ムロ 4曲送っていただきました。
NARGO そこから1曲選んでもらったんですけど、ムロさんはほかの曲についても「この曲のここがいい」「この曲はここが好き」って全部の曲に感想を書いてくれたんです。僕ら、それを読んで「だったら全部くっつけちゃおうか」って(笑)。
──いろいろな曲調が混ざった構成になっているのはそういう理由なんですね。
NARGO ムロさんのプレゼンを聞いていろんなシーンが次から次へと展開していく舞台だってことがわかったので「これは1曲だけじゃ表現しきれないぞ」と。僕が書いた3曲とギターの加藤(隆志)くんが書いた1曲があったんですけど、その4曲のいいところを合体させることにしたんです。
大森 やってみたらすごくうまくいったんだよね。もともと全然違う曲なんですけど。
NARGO もしあの熱いプレゼンがなかったらもっと普通のオープニングテーマ曲になっていたと思うんです。でもこれはそういうレべルの話じゃないなと思って。
谷中 あのプレゼンのおかげで音楽玉手箱みたいな曲になったよね。
──その結果インストのテーマ曲が完成して舞台開幕の準備が整いました。でもそこからまた次の展開があるわけですよね。
ムロ そう、本当はこれで終わる話だったんです。これで終わりだと思ってましたよ!
谷中 「めでたしめでたし」でね。
ムロ そう、終わるはずだったんですけど、そこからまさかの第2章が始まるんです(笑)。
大森 僕らに欲が出ちゃったんですよね。「ムロさん歌えるんじゃね?」って。ムロさんの歌を聴いたこともないのに(笑)。
NARGO でも舞台やってるしいい声だし、絶対歌えるよねって。最初は加藤くんが言い出したんです。「これ、ムロさんの歌で歌モノに仕上げたほうがいい」って。
ムロ 実は最初のレコーディングのときスタジオにいたんですけど、その場で「声をください」と言われて「ハッハッ!」みたいな掛け声を入れさせてもらっていたんです。それが舞台の本番1週間前。そうしたらその録音の帰り際に「歌ってみません?」って(笑)。「この兄さんたち何を言い出したんだろう……」と思いつつ、まあノリで言ってるのかなって「もちろん歌いますよー(笑)」とか答えたんですよね。
──さすがに冗談だろうと。
ムロ そう思ってたら谷中さんからすぐ連絡が来て「歌詞のヒントが欲しいから好きなセリフや言葉を送ってください」って。「本気じゃん! 何言ってんの!」って(笑)。でもまあ言われたからには送りましたよ。そしたら見事に谷中さんの言葉とミックスされた歌詞が上がってきまして「レコーディングはこの日です」だって。もう何言ってんの!(笑)
谷中 歌詞を書くうえでは、舞台の初日を観させてもらったのも大きかったですね。そこでムロさんが考えていることや今表現したいことのイメージをつかんで言葉にできたので。
──えっ、ということはその時点でもう舞台は始まってるわけですよね。今さら歌入りのバージョンを録っても使い道がないのでは?
大森 その通りです(笑)。でも絶対いいものになると思ったんですよね。
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現場で出てきた最後のセリフ
2021年11月10日更新