東京スカパラダイスオーケストラ|“NO BORDER”に広がり続けるトーキョースカの可能性 長谷川白紙と刺激的な創作を振り返る

ガチャッと別世界に移っていく感じ

──ボーカルは1番が茂木欣一(Dr)さん、2番は白紙さんがメインで歌っていて2人の声が重なるところもある。これも今までにない形ですよね。

NARGO(東京スカパラダイスオーケストラ / Tp)

NARGO 2番から白紙くんが歌ってくれたことで、いつものスカパラの世界からガチャッと別世界に移っていく感じがたまらなく気持ちよくて。すごくうまくいってると思います。

谷中 欣ちゃんと一緒に歌うのはどうだった?

長谷川 かなり引っ張られました。自分が普段歌うとき、イメージとしては昔のシンセサイザーのフィルターみたいに高域の倍音をコントロールして高域を強く出さないことが多いんです。それによってファルセットとのギャップを作るのが自分のメソッドとして確立しているので。でも今回は上のほうの倍音が出ていて、そこは本当に茂木さんの歌唱に引っ張られたというか、そうしなきゃいけなかったんだろうなと。

NARGO 2人の声質は違うのに合わさったときに馴染み感があるんですよね。白紙くんがコントロールしてくれてるおかげもあるだろうけど、それにしてもすごく馴染んだなと思って。

長谷川 不思議ですよね。

すべてを破壊するのが自分の使命

──多くの工程を経て曲の全体像が見えたあと、最後のミックスは白紙さんの担当ですよね。

NARGO 白紙くんとエンジニアさんを中心に、僕らが数人現場に立ち会ってリモートでも意見を交わしながら進めていきました。

長谷川 すごく楽しかったです。エンジニアさんが聡明で柔軟な方だったので、いくら感謝してもしきれないです。

川上 僕らのデモに加えて白紙くんがトラックをいっぱい作ってくれたんですよ。

NARGO それぞれのトラックにキャラクターみたいな名前が付いてるんだよね。

──どういうことですか?

長谷川 楽器名で表現できない音がたくさんあるんです。例えばインターネット上に効果音がたくさん載ってるサイトがあって、そこにRPG制作用のインディーの声優さんが録った声の素材があるんですけど、その中の魔術師のキャラクターの「いくぞ!」みたいな声を分解してドラムにしているトラックがあったりする。そのトラックには名前がないから自分で「マジシャン」とか付けたりするんです。

NARGO そういうのが全部で70トラックくらいあって、それが組み合わさって曲になってる。全部聴き取るのは難しいと思うけど、その重なりによって魔法のような音ができあがるんですよね。

──自分たちの演奏が切り刻まれて再構築されていく感覚はいかがでしたか?

川上つよし(東京スカパラダイスオーケストラ / B)

川上 ものすごく興奮しました(笑)。特に後半とか快感ですよ。

NARGO うん、遠慮されるのが一番イヤだったんで「好きにやってください」と最初に伝えたんですけど、その通り全開でやってもらえてめちゃくちゃうれしかったですね。

長谷川 すべてを破壊していくのが自分の使命だと思ってました。

──白紙さんはスカパラの演奏を楽器パートごとのパラデータで受け取ったと思いますが、それらを素材として聴いた印象を教えてください。

長谷川 スカパラの素材は演奏のグルーヴというか、音と音の間がすごくいいんです。自分が普段カットアップするときはスネアのパンッという音やハイハットのザッという感じの音、その楽器のアタックの部分を基準にすることが多いんですが、でもスカパラの音はそれだけじゃなく、その間に鳴っている音がすごくよくて。ブラスについては、1回吹いてからもう1回吹くまでの待機中の音色がグルーヴのコントロールの核になっています。

──待機中も音が鳴ってるんですか?

長谷川 鳴ってます。パッと鳴らしたあとも常になめらかな曲線が描かれていて、そのグルーヴがすごくいいんです。アウトロのカットアップの終わりのところを聴いてもらえるとそれが伝わると思います。なんというか「スカパラっぽい」という感じがすごくしました。

NARGO へえええ、めちゃくちゃうれしいですね。そんなこと言ってもらえるなんて(笑)。ありがとうございます。

川上 スカパラ全員で逆立ちしてもこの曲は作れないですからね。

長谷川 そんな、こちらこそです。こんなの絶対に自分だけでは作れないので。おかげで自分も新しい領域に到達できたと思います。

──この「会いたいね。゚(゚´ω`゚)゚。」という曲は大きな音で聴くとまた新たな発見がありますね。複雑な音の奥行きと重なりが圧巻です。

長谷川 自分の中の裏テーマとしてクラブで流しても通用する音像にしたいという気持ちはありました。奥行きや低音の作り方はすごく意識しましたね。私が普段行ってるクラブで大ボリュームで流したいです。

谷中 いいね、みんなで踊りに行きたいよね。

長谷川 私の出自はたぶんブレイクコアと呼ばれる音楽とか、インターネット上に散らばっているブートレグミュージックだとか、あとはガバと呼ばれるような凶悪な低音が鳴っているベースミュージック、ダンスミュージックで、そういう文脈の中でも解釈可能なサウンドにしたかったというのはあります。それが提示できたらエクストリームなダンスミュージックを常日頃から聴いているような人たちにも解釈可能なスカパラへの導線が生まれるんじゃないかなって。

熱で輪郭が溶けていくような音

──先ほど白紙さんから「スカパラっぽい」という表現が出ましたが、それについてもう少し詳しく聞かせてもらえますか?

長谷川 なんでしょう、スカの正統な後継者の感じと言いますか。自分もオファーをいただいてからスカのクラシックみたいな曲をいろいろ聴いてみたんですが、それらとスカパラとの間に文脈のつながりをすごく感じました。

──文脈というのは例えばThe Skatalitesのようなスカの先人たちの系譜にスカパラがいるという意味ですか?

谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ / B.Sax)

長谷川 そうですね。もちろんJ-POPとして理解されやすいようにアップデートされていますが、でもスカパラの演奏は日本の気温の音じゃない感じがします。もっと高い気温がもたらす、熱で輪郭が溶けていくような、そういう音。ブラスはダイナミクスやピッチをゆるやかにコントロールできる可能性を持つ楽器で、トロンボーンなんかはその象徴ですよね。そういった熱で溶けた感じの輪郭が脈々と受け継がれていて、それがまさにさっきの“間の音色”につながっているんです。1つの音色と1つの音色の間がきれいに冷たく分かれているんじゃなく溶けてつながってる。そこがサンプリング出身の自分としては「熱い!」と感じるところです。

──その感覚は一般的なJ-POPにはないものなんですか?

長谷川 一般的なJ-POPの音楽をパラデータで聴いているわけではないので、もしかしたらブラス楽器全般の特性なのかもしれないですが、ただスカパラのそれはすごく強いと思います。

NARGO めっちゃうれしいですね。

谷中 その言葉を踏まえた上で練習し直してみます(笑)。

NARGO こんなに感性が鋭くて耳もよくて音楽的に高次元にいる白紙くんに分析してもらえると、またがんばろうって気持ちになるね。演奏のパラデータを褒められることってあんまりないけど、おかげで大丈夫なんだ、間違ってなかったんだと思えます。