東京スカパラダイスオーケストラが3月3日にニューアルバム「SKA=ALMIGHTY」をリリースする。
1989年のデビュー以降、自らの奏でるサウンドを“トーキョースカ”と称してオリジナルのスタイルを貫き歩み続けている東京スカパラダイスオーケストラ。彼らが前作「ツギハギカラフル」以来約1年4カ月ぶりにリリースするアルバムは、そんなトーキョースカの可能性をより一層広げ、世の中に満ちている混沌や不安をポジティブなパワーで打ち破るような、エネルギッシュな作品に仕上がった。
収録曲において、リスナーにひときわ大きなインパクトを与えるであろう楽曲が、長谷川白紙が作詞、作曲、アレンジに参加した「会いたいね。゚(゚´ω`゚)゚。 feat.長谷川白紙」だ。音楽ナタリーでは、スカパラのNARGO(Tp)、谷中敦(B.Sax)、川上つよし(B)と長谷川白紙にインタビュー。この楽曲の刺激的な制作過程を振り返ってもらった。また特集の後半にはスカパラメンバー3名へのインタビュー、アルバムに参加した川上洋平([Alexandros])とアイナ・ジ・エンド(BiSH)からのメッセージも掲載する。
取材・文 / 大山卓也 撮影 / 草場雄介
頭をつかまれて振り回される衝撃
──まずスカパラと白紙さんの出会いから教えてください。
NARGO(東京スカパラダイスオーケストラ / Tp) 僕が車の中でラジオを聴いてたら白紙くんの曲が流れ始めたのがきっかけです。イントロの時点で「これはヤバい!」と鳥肌が立って、すぐ車を停めて白紙くんについて調べました。すごい人が出てきたなって。
──そのとき聴いた曲というのは?
NARGO 「草木」ですね。そのあとすぐにミニアルバムを買って、一発でファンになりました。そこからはスカパラ全員のLINEグループで「すごい人がいるからみんな聴いてください」と伝えたり、Ginza Sony Parkでやってた僕らの企画でライブしてもらえるよう推薦したり、自分たちのラジオで曲をかけたりとか。初めて会ったときにはサインをもらいました(笑)。
一同 あはは(笑)。
──NARGOさんは白紙さんの音楽のどこに魅力を感じたんでしょう?
NARGO 音楽的にものすごく高い次元にありながらポップさが共存していて、複雑なのにキャッチーなんですよね。音楽の新しい扉が開いた感覚がありました。30年以上この世界にいますけどこんな衝撃を受けたのは初めてだったかもしれない。なんだか頭をつかまれて振り回されているような感じで。
川上つよし(東京スカパラダイスオーケストラ / B) 俺も同じことを思った。肉体的なんだよね。
NARGO 実際いろんな曲を聴いていくと、アバンギャルドなだけじゃなくてテクノの影響とかYMOからの流れを感じるところもあって。
川上 世間から見れば僕らとは対極にいるアーティストかもしれないけど、実はどこかでつながれるのかなって気がしましたね。
NARGO そんな中、アルバム制作に入ったところで誰かにリミックスのように曲をいじってもらいたいというアイデアが出たので「白紙くんどうですかね」って提案したんです。
川上 仕上がりが一番想像できない相手だから面白いんじゃないかって。
谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ / B.Sax) 「自由にやってください」ってお願いしたんだよね。
長谷川白紙 自由にやってしまいました(笑)。
アバンギャルドとポップの両立
──白紙さんはスカパラのことはご存知でしたか?
長谷川 もちろん! 音楽シーンがあって、私がいるのがここらへん(下のほう)だとしたら、ここらへん(すごく上)にいるような……。
スカパラ一同 いやいや(笑)。
長谷川 とにかくすごい人たちという認識でした。だから今の話を聞いてびっくりしてます。
──スカパラの音楽についてはどんな印象を持っていましたか?
長谷川 NARGOさんが私の音楽についてアバンギャルドとポップを両立しているとおっしゃいましたが、それはそのまま私がスカパラの音楽に感じていたことです。おそらく結成当時そんなに日本では知られていなかったスカというジャンルのフィルターを通して、ジャズやソウルのコード進行であるとか、ある種マイナーだけどすごいものを紹介していく、表現していく態度がカッコいいと思っていました。そういう意味ではスタンス的にすごく共感しています。
川上 今話してるの聞いてて思ったけど、白紙くん声質がまたいいんですよね。ずっと聞いていたくなる。
NARGO そうなんです。最初はリミックスだけのつもりだったけど、やっぱり声もいいし歌ってもらえたら最高だよねって。
──その結果ガッツリ共作することになったわけですね。
谷中 曲も歌詞も一緒に作ってますから。スカパラのコラボとしてはかなり珍しい形になりました。
自分のフィルターを通してスカを異化する
──実際の楽曲制作はどういう工程で行われたんでしょう? スカパラが候補曲のデモを白紙さんに渡すところから?
谷中 そうですね。まず4曲くらい聴いてもらいました。あ、これ聞きたかったんですけど、白紙くんは4曲の中からどうして「会いたいね。゚(゚´ω`゚)゚。」のデモを選んだのかなって。
長谷川 いただいた曲の中で一番BPMが速くて、これが一番BPMのバイブスが合うと思ったんです。万が一にも失敗してはならないと思ったので、自分の知ってる手段を使いやすいこの曲にしました。
川上 面白いねえ。
長谷川 結果的にはいろんな新しい手段を開拓することになったんですが、最初はそう考えていました。あと自分がスカパラとやるのであればスカを異化しないといけないと思っていたので、それが一番うまくできるのはこの曲だろうと。これくらい明るい曲調でスカパラのティピカルなイメージに沿ったもののほうが自分が異なるものに変換できる領域が多いんじゃないかと思って。そういう観点ですね。
川上 最初に聴いてもらったデモはすごくシンプルな、A〜Cメロとイントロくらいしかないやつでしたよね。
長谷川 はい、まずやったのはそのデモを何回も聴いて、そこから抽出した要素を自分のフィルターで変換し直す作業でした。「自由にやってくれ」と言っていただけたおかげで自分が本来持っていた創作の流れを応用しながら制作できたので楽しかったです。
──自分の曲をゼロから作るときと比べていかがでしたか?
長谷川 自分の曲は自分自身をプレゼンテーションすればそれで成立するんですけど、今回は自分とスカパラの両方をプレゼンテーションしなければならなかったのでそこが違いました。「この方向性は東京スカパラダイスオーケストラにとって果たして正しいのか」ということをずっと考えていました。
──その結果、白紙さんらしさとスカパラらしさの両方が表現された楽曲になったと感じます。
NARGO そうなんです。リスナーの人たちの反応もよくて、これは大成功だなって。
淡い抽象画と太い線
──歌詞はどのように書かれていったんでしょうか?
長谷川 最初いただいたデモに歌詞はなくて、歌のメロディだけが与えられている感じでした。
谷中 歌詞は白紙くんが先に書いてくれたんだよね。
長谷川 まず「いつもここで 話したいので」から始まる部分を書きました。ここは歌詞もコードも私が新たに作ったところです。
谷中 カッコいいんだよね、この歌詞とメロディ。
──歌詞の内容について事前に話したりはしなかった?
谷中 事前にはないですね。相談みたいなことは一切せず歌詞上のやりとりだけでいいと思ってました。白紙くんからすごく明快な世界観をもらえたし「幽霊みたく会いたいね。゚(゚´ω`゚)゚。」っていうところだけでかなり感じるものがあったので。遠く離れても会えるのかなとか時空を超えても会えるのかなとか、その感覚がステイホームの時期とも重なるように思えて、1行目の「音楽の中で 君は生きているの?」という言葉につながっていくんです。
──白紙さんは谷中さんの歌詞が戻ってきたときどう感じましたか?
長谷川 最初は困惑ですね(笑)。自分のスタイルとまったく違うので。自分は音よりも言葉のほうが強固で、固定された道筋みたいなものがあるんです。それが崩される体験だったのでけっこうびっくりしました。
谷中 自分としても白紙くんが書いたものに言葉を足していくのは、なんていうんだろう、白紙くんが美しい抽象画を描いているとしたら、そこに自分が太い線を入れて「これはこういうことですよ」って絵を崩していくような作業というか。もしかしたら一緒に淡い色の中で遊んでもよかったかもしれない。そこは正直悩みましたね。でもこれが自分の使命なんだと思いながら書いていきました。
長谷川 はい、この曲にとって必要なプロセスだったと思います。
──確かに1番の歌詞は谷中さんの言葉という感じがしますね。そして2番の「光の中から 暗号みたいに」からは白紙さんが書いている?
長谷川 そうですね。でもけっこうごちゃごちゃしてます。私のラインと谷中さんのラインが混ざってます。普段自分が歌詞を書くときは自分の見ている環世界に立脚して内省的な方向に向くことが多いんですけど、今回は谷中さんに引っ張られて自分で思ってもみないようなキラキラした言葉がたくさん出てきました。だから意外とごちゃごちゃしているんです。
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ガチャッと別世界に移っていく感じ