ナタリー PowerPush - 東京スカパラダイスオーケストラ
予定調和一切なし! ニューアルバム「欲望」を徹底解剖
「重いトビラ」はなかった
──谷中さんは歌詞についてはどうですか?
谷中 とにかく永積くんの声で、日本中の人に「心配ないよ」って言ってもらいたくて。僕の中では青島幸男さんが書いたクレージーキャッツの歌詞みたいな。笑えるし、ラクになるし、勇気をもらえる。あのパワーがすごいなって思ってて、僕なりにその感じを書いてみたんです。
──確かにすごく前向きですよね。
谷中 今は目に見えないことに悩まされてる時代だと思うんです。いろんなことが携帯やパソコンの中に入ってて、お金さえも携帯で払ってたり。それ自体は便利でいいことなのかもしれないけど、でもその分、見えないことで悩まされる比重も大きくなってる。
──その象徴が歌詞に出てくる「重いトビラ」?
谷中 なんとなくみんな「重いトビラ」があるような気持ちで過ごしてて、それが開かないような気がして悩んでるんじゃないかって。だったらみんなで扉を押そうぜ、みたいな。でもいざ開けようって言って友達に来てもらったら「あれ? 扉なかった!」という(笑)。
──扉はなかった?(笑)
加藤 ほら、すごく悩んでて友達に相談しようと思ってたのに、友達の顔見たら「あれ、何を悩んでたんだっけ?」みたいな。そういうことってあるもんね。
谷中 そう、それを念頭に置きながら生きていけばみんなもっとラクになるよねって。そんなことを永積くんの声で言ってもらえたら、明るいし強いし、もう最高だなと思いながら書いてました。
加藤 だから人と会うって本当にすごいことだよ。たまに1人で誰とも会わないでいると、それこそ見えない壁とか重い扉みたいなものがあるような気がしてくる。「俺だけ取り残されてるんじゃないか」って不安になったり。
谷中 漠然とした不安だよね。
加藤 それが、友達と会って顔見て話すだけでスッとラクになったりするんだよね。
茂木 あるねえ。
──この歌詞について永積さんはどう捉えていますか?
永積 すごくストレートですよね。なんか自分で言うのもあれなんですけど、自分の声で歌えば、このストレートな言葉を奥行きのある形で鳴らせるかもって。真面目なだけじゃなく、愛嬌とかいろんなものを含めた形で「大丈夫だよ」って言えるかもって思いました。それはこの曲から教わったことでもあるんです。谷中さんが自分のことをイメージして書いてくれたから、そうやって歌えるって思えたんですよね。本当にやれて良かったなって。
谷中 「負け癖つかないように 何度でも立ち上がれ」みたいな、ちょっと体育会系なフレーズも、永積くんが歌うと割とすんなり入ってくるんだよね。
別の部屋で歌うとバンドの体温がわからない
──レコーディングは一発録りだったそうですが。
谷中 異常なレコーディングでした(笑)。
茂木 そうだよ。本当に扉がなかったんだよ!
一同 あはははは!(笑)
永積 扉開けちゃいましたね。
──どういうことですか?
加藤 最近のスカパラは全部の楽器を同じ部屋で一緒に録ってるんです。それぞれの楽器の音がかぶってもいいからって。でもさすがにボーカルはやっぱりちょっとね、ってことで、最初は永積くんにはボーカルブースに入ってもらって。
茂木 扉の向こう側で歌ってもらってた。
加藤 で、最初は扉越しにリハ兼ねて声出してたんですけど……。
永積 それだと今のバンドの体温がわかんないんですよ。だから「1回だけ俺、中で練習したいんですけど」ってエンジニアさんに言ったら「スカパラ一発でOK出るからなー」って言われちゃって。じゃあこれもう中入って本番歌うしかねえなと思って、「ここにマイク立ててくださーい」って言って(笑)。
加藤 それでホーンズの間で歌ったんだよね。
永積 うん。
加藤 GAMOさん(T.Sax)とNARGOさん(Tp)の間に1本マイク立てて。それがこの(CDに収録されてる)テイクなんですよ。
──すごい。それって普通じゃないですよね。
加藤 ブースに入らないと、楽器も歌もミスしたときに直せないから、だから普通はみんな入るんだけど。
沖 今どきのレコーディングでは異常ですね(笑)。オーティス・レディングとかの時代はそうだったかもしれないけど。谷中 フランク・シナトラとかね。
茂木 でもだからこそ永積くんがそういうふうにやってくれたことにめちゃくちゃ興奮したよね。
加藤 「来たー! 扉開いたー!」って(笑)。
谷中 一発でこのクオリティですから。まあ演奏もそうだけど歌はほんとにすごいですよね。
茂木 歌はねえ。
谷中 直せないわけですから、なんにも(笑)。
──ここだけの話、直したいところとかないですか?
永積 うーん、ない! だって毎回違いますからね。
谷中 それにライブでやるときには、また新しい気持ちでやるわけだし。それが楽しみですよね。
音楽のエネルギーはマグマのようなもの
──この曲をライブで聴ける日も楽しみですね。
加藤 そう、さっきの谷中さんの話じゃないけど、世の中があるのかないのかわかんない扉に閉ざされてるこの感じ。それがライブに足を運んで顔合わせただけで「なかったじゃん、その扉」って思えるかもしれない。やってる側もそうだし、来てるお客さんもそうだし。だからライブでまたいろんな人と会って、お互い顔を見てこの曲を歌うことで、明るい方向に進んでいくといいなって思ってます。
永積 僕はスカのファッショナブルな部分も好きだったんだけど、メキシコ行ったときに、スカやレゲエが実はファッションとは真逆の、自分たちの今を変えていくためのエネルギーを込めた音楽、タフなメッセージを持つ音楽なんだってことがわかったんです。そこで僕はすごく大きく変わったっていうか。スカに限らず、本来音楽ってそういうものなんだって。
──なるほど。
永積 音楽の持ってるエネルギーはきれいな宝石箱に入ってるようなものではなくて、なんちゅうかね、マグマのようなものっていうのかな。それは谷中さんがライブでずっと「闘うように楽しんでくれよ」って言ってることとリンクしてて、「あ、このことを言ってたのか」って思ったんです。メキシコの人たちは生きてる熱量が高くて、そういうところで生まれた音楽なんだって。
──「太陽と心臓」からもそうした熱量の高さを感じます。
永積 すごいです。この音楽は、本当に(笑)。
がんばってる人はみんな神様になれる
──この曲では「100年後には、俺たち神様になれる」という歌詞がありますが、これ面白いフレーズですよね。
茂木 だよねえ!(笑)
谷中 まあ、それくらいの気持ちで生きていこうってことですよね。だって100年後のことなんて誰にもわからないじゃないですか。
──そうですね。
谷中 だからこそ、ちっちゃいことを気にするんじゃなくて、大きい流れで自分がやれることを考えて、日々楽しんで、闘うように生きていってほしいなって。そしたらみんながんばってるんだから、みんな神様になれるじゃんって。そんなふうに思ってても別に罪はないなって思うんです。
──日本では八百万の神というくらい、神様がたくさんいますしね。
谷中 ええ、僕らのライブでも「加藤さんのギター、マジで神!」とか「沖さんの神の手が!」とか言われたりしてるけど(笑)、それで全然いいと思うんですよ。尊敬する人は神様で、だからみんなでそういうふうになりたいねって肩組みながら生きていけたらいいんです。
茂木 俺、ここの歌詞が一番好きなんだよね。100年後って未知だけど、未知なことに足を踏み入れてるのがスカパラだし、それも「欲望」っていうか。こういう言葉が出てきたことが大事だと思うから。
永積 本当にそう思います。僕はいつもレコーディングで、勝手にスカパラ観察をしてるんですけど、レコーディング中にみんなでディスカッションしてるときの言葉が、いつもすごくいいなあと思ってて。その場でその言葉が出たってことを大事にする。なかったことにしないし、まとまらなくてもそのまま転がっていく。ローリングストーンなんですよね。すごく刺激を受けてます。
──スカパラ、やっぱりすごいですよね。
永積 うん、スカパラを見てて、すごい闘ってるなっていつも思う。僕もバンドやってた数年があったから感じるのかもしれないけど、続けていくっていうのは簡単なことじゃないから。そんな中でスカパラは、一番フレッシュなものはなんだろうっていうのをずっと探し続けてるんじゃないかなって思うんですよね。
ニューアルバム「欲望」2012年11月14日発売 / cutting edge
CD収録曲
- 黄昏を遊ぶ猫
[作詞:谷中敦 / 作曲:川上つよし / ボーカル:中納良恵] - 非常線突破
[作曲:NARGO] - Wild Cat
[作曲:沖祐市] - 大したヤツ
[作曲:GAMO] - Midnight Buddy
[作曲:茂木欣一 / アジテーター:デニス・ボヴェル] - Rushin'
[作曲:川上つよし] - (there's no) King Of The Ants
[作詞:谷中敦 / 作曲:NARGO / ボーカル:谷中敦、デニス・ボヴェル] - Old Grand Dad
[作曲:沖祐市] - 修行
[作曲:谷中敦] - The Other Side Of The Moon
[作曲:加藤隆志] - さすらいForever
[作曲:北原雅彦] - SKAN-CAN
[作曲:ジャック・オッフェンバック] - 太陽と心臓
[作詞:谷中敦 / 作曲:沖祐市 / ボーカル:ハナレグミ]
東京スカパラダイスオーケストラ
(とうきょうすかぱらだいすおーけすとら)
1980年代後半結成。NARGO(Tp)、北原雅彦(Tb)、GAMO(Tenor sax)、谷中敦(Baritone sax)、沖祐市(Key)、川上つよし(B)、加藤隆志(G)、大森はじめ(Per)、茂木欣一(Dr)からなる9人組バンド。1989年11月にインディーズで黄色いアナログ「TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA」をリリースし、その本格的なサウンドと独自のスタイルが話題を集める。1990年4月にシングル「MONSTER ROCK」、アルバム「スカパラ登場」でメジャーデビュー。以降、オリジナルメンバーの逝去や脱退といった幾多の困難を乗り越え、2008年7月より現在の編成となる。スカをルーツに多彩なジャンルを取り込んだ豊かな音楽性は国内外のオーディエンスから高い評価を獲得。国内はもとより、ヨーロッパを中心に世界各国でライブを行い、日本を代表するライブバンドとしてワールドワイドな活躍を続けている。
2012年11月13日更新