ナタリー PowerPush - 東京スカパラダイスオーケストラ
予定調和一切なし! ニューアルバム「欲望」を徹底解剖
スカパラのみの映像は一切使われなかった
──この曲はビデオクリップもシンプルでカッコいいですね。
NARGO 潔いです(笑)。
GAMO 良恵ちゃんのちょっとした表情とか、なんかこうね、すっごいチャーミングだなと思う瞬間がいっぱいあるんで。
中納 いやいやいやいや(笑)。
GAMO アジテーターであり、女優でもある。
谷中 そうなんだよね。今回一緒にやって「あ、この人すごい女優なんだ」って思った。だから「縦書きの雨」のときはその役をちゃんと演じきってたし、今回の「黄昏を遊ぶ猫」だったら猫になってるような感じもあるし。それがミュージックビデオで観て、またすごくよくわかった。
──べた褒めですけど、中納さんいかがですか?
中納 いや……恥ずいですね。
一同 あはは(笑)。
中納 女優っていうんじゃないですけど、でも歌があったらなんか不思議とそういう感じになってまうというか。
──今回のPVの固定カメラ&ワンカットというコンセプトは最初から決まってたんですか?
川上 いや、実は良恵ちゃんが来る前にスカパラだけのシーンを2、3回録ってるんですよ。
──え、そうだったんですか。
川上 で、そのテイクは一切使われませんでした(笑)。良恵ちゃんが素晴らしかったんで、監督の川村ケンスケさんがこれはあえて編集しないでこのまんまでって。
NARGO ここまでよっちゃんの表情頼みのPVっていうのもすごいよね。
GAMO でも監督が面白いことを言ってたんですよ。今回みたいな一発録りの曲のときに、映像を編集してしまうとどんどん曲から遠ざかってくと。音に一番近づける方法は映像も一発で録ることだって話をしていて。そしたら現にこうなったっていう。
NARGO 監督は「これで僕も一緒に一発録りに参加した気分です」っておっしゃってましたね。
悲しみも楽しんでしまえばいい
──この曲は歌詞の世界観もユニークですよね。「透明な幸せは 割れると危険物で」「傷つけてしまったの 透明な欠片で」といったフレーズは意味深で。
谷中 なんかあの、そういう悲しみも、なんかこう楽しんじゃっていいんじゃないの?みたいな。そういうことも実は美しいんじゃないの?って。そんな世界観を出せればいいかなと思って。
──言葉の選び方も文学的な感じがします。
谷中 古本屋さんに入っていって、一番奥の誰も読んでないような文庫本の短編小説を読んだらこんな感じだったみたいな。そういうイメージもありますね。
──猫をモチーフにしたのはなぜなんでしょうか?
谷中 なんででしょうね。なんか猫だなって思っちゃったんですよね。犬じゃないですもんね。
──確かに犬だとしっくりこない。
谷中 ですよね。馬でもないしライオンでもないでしょ? やっぱりこの曲では、猫がずっとそばにある幸せの象徴というか。でも急にその猫がどこかへ行っちゃったりとか、先に亡くなっちゃったりする場合もあるわけで。その喪失感にも身構えながら生きていかなきゃいけない。
──谷中さんは歌詞を書くときに歌う人のことはどれくらいイメージしてるんですか?
谷中 もう100%イメージしてますね。歌う人によって全然変わってきます。最後の「どうか帰ってきて」っていうところはよっちゃんだから成立してるんだと思うし。途中で「幸せをありがとう」とかに変えようかなって迷ってたんですよ。でも「どうか帰ってきて」にして良かったですね。普通の人が歌うと割とハードル高い歌詞だと思うんです。ベタに聞こえちゃう。
──演歌の歌詞みたいな?
谷中 すごく演歌になっちゃう感じがしますけど、よっちゃんが歌うことで完璧に成立してますからね。扇情的な感じじゃなく普通に聴けるっていう。
──なるほど。
谷中 あと「時間を巻き戻して」のところでサックスが「ギュルル」って、あれはテープを巻き戻してるときの音をイメージしてるんです。で、巻き戻ってからズッタンズッタンってハイスピードになるんですよ。そう思って聴くと面白いと思います。
──この曲の世界には深い悲しみがあると思うんですが、中納さんが歌うことで凛々しさが強く出て、湿っぽくならないんですよね。
谷中 ええ、湿り気はちゃんとあるんです。でも湿っぽくはない。そこが一番すごいところかもしれないですね。
──中納さんはこの曲の歌詞をどう捉えていますか?
中納 そうですね。ふんわりしてるけど筋が通ってるというか。私もいつもそういうことを言いたいなと思って自分で歌詞書くんやけど、ふんわりしたまま終わってまうこともあって。でもこの歌詞は結構パシッとしてて歌いやすい。ちゃんと言うこと言ってるんですよね。
ボーカリストにとって大切なものが全部ある
──スカパラの皆さんから見て、中納良恵というボーカリストの魅力はどこにあるんでしょうか?
NARGO 代々木のときのライブの映像観て、みんなで「カッコいい!」って。どの瞬間をどう切っても絵になるんですよ。それが本当にすごい。魂と歌が全部直結してる。全部が一体化してる気がしますね。ボーカリストにとっての大切なものが全部ある。
川上 そしてすごくライブな人ですよね。バーンって出たとこ勝負でやるときのすごさと瞬発力。本番に強いんでしょうね。
GAMO 一緒に演奏していて心を持っていかれるんですよ。ガチッとつかまれるというか。僕はね、いまだに良恵ちゃんの正体がよくわからなくて。本能的というか。予測できないし、なんか本当によくわかんないんですよね。
谷中 予測不能な美しさがありますよね。
NARGO うん、メラメラした炎が見える感じ。ステージを観ていて、燃えてる感じがするんですよね。
──中納さん自身は本能で歌ってる感覚っていうのはあります?
中納 いやあ……わかんないです(笑)。でもすごく楽しいんですよ。スカパラさんと一緒にやらせてもらってるときとか、うれしくて楽しくて幸せなんですよね。それが多分出てるんじゃないでしょうか。「やったるで!」みたいなのが(笑)。
谷中 だから色気とか情念とか、そういう単純なものじゃないんですよね。言葉で説明するのはすごく難しい。超越してる感じがあるんですよ。その超越感がライブで全員を包み込むし、聴く人全てを巻き込むんだと思います。
──では中納さんから見てスカパラの魅力は?
中納 ライブで一緒にやらせてもらって、やっぱりすごいんですよ。音の厚みが。それは1人1人のパワーが半端じゃないっていうことで。でも楽屋とかお酒飲んでるときはふにゃふにゃって感じなんですけど(笑)。
一同 あはは(笑)。
中納 みんな仲いいし、嘘がない。それでずっと何十年もやってはるっていうのはやっぱりすごいと思う。いかついしカッコいいけどすごいポップやし。これはやっぱりみんな好きになるなって思うんですよね。うん。一緒にやらせてもらってて、すごく気持ちいいです。スタッフの人らもみんなむっちゃええし。空気感がいいなと思う。すごくカッコいい方たちだなってめっちゃ思いますね。
ニューアルバム「欲望」2012年11月14日発売 / cutting edge
CD収録曲
- 黄昏を遊ぶ猫
[作詞:谷中敦 / 作曲:川上つよし / ボーカル:中納良恵] - 非常線突破
[作曲:NARGO] - Wild Cat
[作曲:沖祐市] - 大したヤツ
[作曲:GAMO] - Midnight Buddy
[作曲:茂木欣一 / アジテーター:デニス・ボヴェル] - Rushin'
[作曲:川上つよし] - (there's no) King Of The Ants
[作詞:谷中敦 / 作曲:NARGO / ボーカル:谷中敦、デニス・ボヴェル] - Old Grand Dad
[作曲:沖祐市] - 修行
[作曲:谷中敦] - The Other Side Of The Moon
[作曲:加藤隆志] - さすらいForever
[作曲:北原雅彦] - SKAN-CAN
[作曲:ジャック・オッフェンバック] - 太陽と心臓
[作詞:谷中敦 / 作曲:沖祐市 / ボーカル:ハナレグミ]
東京スカパラダイスオーケストラ
(とうきょうすかぱらだいすおーけすとら)
1980年代後半結成。NARGO(Tp)、北原雅彦(Tb)、GAMO(Tenor sax)、谷中敦(Baritone sax)、沖祐市(Key)、川上つよし(B)、加藤隆志(G)、大森はじめ(Per)、茂木欣一(Dr)からなる9人組バンド。1989年11月にインディーズで黄色いアナログ「TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA」をリリースし、その本格的なサウンドと独自のスタイルが話題を集める。1990年4月にシングル「MONSTER ROCK」、アルバム「スカパラ登場」でメジャーデビュー。以降、オリジナルメンバーの逝去や脱退といった幾多の困難を乗り越え、2008年7月より現在の編成となる。スカをルーツに多彩なジャンルを取り込んだ豊かな音楽性は国内外のオーディエンスから高い評価を獲得。国内はもとより、ヨーロッパを中心に世界各国でライブを行い、日本を代表するライブバンドとしてワールドワイドな活躍を続けている。
2012年11月13日更新