TRUSTRICK インタビュー

一歩も外に出られない

──先日、神田さんがTwitterで「発売延期ピンチ乗りこえたー！」とつぶやいてましたけど（参照：神田沙也加（TRUSTRICK） (@sayakakanda)｜Twitter）、メジャーレーベルの進行としては本当にギリギリですよね？

神田　ひさしぶりに一歩も外に出られない状況でしたね。「Eternity」（2014年6月発売の1stフルアルバム。参照：TRUSTRICK「Eternity」インタビュー）のときと同じくらいヤバかったかなあ。

Billy　周りに「そろそろ服買いな」って言われるくらいには街に出てなかったです（笑）。

──とはいえ、このボリューム感のアルバムになることは最初から想定していた？

Billy　そうですね。「Recall THE END」（2016年8月発売）の制作と並行して「そろそろアルバムを」という話になって、具体的な話を詰めていく中で、（既発の6曲に加え）「新曲も10曲くらい入れちゃおうぜ！」って。

神田　もちろん全12曲くらいで1つの作品として収めることはできるし、そのほうが制作するうえでは楽なんですけど、1年9カ月も待ってもらったフルアルバムに新録が6曲だけってどうなの？って思っちゃって。かなりギリギリにはなりましたけど、結果的には間に合ってよかったです（笑）。

人間界最大のトリック＝恋愛

──「TRICK」というタイトルからギミック満載の作品を予想していたのですが、そうはならなかったですね。全体の流れまで丁寧に作り込まれている印象で、これだけのボリュームながら、気付いたら1周しているというか。

神田　うれしいです。このアルバムは自分でも何度も聴いてるんですよ。「TRUST」（2015年1月発売の2ndフルアルバム。参照：TRUSTRICK「FLYING FAFNIR」「TRUST」インタビュー）のときは忙しすぎてレコーディングの記憶も曖昧なくらいで、正直思い残した部分も多々あったんです。だから今回は、よりしっかりとアルバム制作に向き合えた感じはありますね。

──一方、松田剛（quia）さんによるアートワークはギミック満載で。

神田　もともとはトリックアートと間違い探し、どちらかをテーマにしようって話だったんです。そしたらそれを両方詰め込んでくるという、剛さんの変態ぶりが炸裂してますよね（笑）。ビジュアルで「TRICK」の世界をわかりやすく説明してくれたから、アルバムの中身は変にギミックに頼ることもなくストレートに精神論を歌うことができました。

──精神論ですか。

神田　人間界においてもっとも解明できなくて、なおかつ誰もが引っかかってしまう最大のトリックは、恋愛だと思うんです。だから今回は恋愛について歌った曲が多くなりました。

──なるほど。でも、神田さんが恋愛というテーマで曲を書いていくと、こんなにも暗く物悲しい雰囲気が漂うんですね（笑）。

神田　あはは（笑）。うん、私にとって恋愛は全然明るいものではないですね。これまでトラトリが発表してきたバラードでは、まるで聖人君子みたいな歌詞も歌ってきましたけど、私個人としては、幸せな部分を残しておくのが怖いんですよ。だってあとから見たときに一番つらいんだもん（笑）。だから自然と今回のアルバムは「寂しい」や「悲しい」ばかり歌ったものになりましたね。

──今作はより神田さんの生身の部分、等身大の神田さんをイメージさせる表現が多いなと感じました。chellyさんもお気に入りだという「blur blur」の歌詞はその生身っぽさが顕著で。

神田　これはモデルもはっきりいるお話です。でも、要はこういう人って世の中にいっぱいいるんですよ（笑）。誰と誰がデキてるらしいとか、そういう怪しげなことが起こる夜の話を書いているんです。自分がツアー先で泊まったビジネスホテルの廊下の匂いとか、照明の感じとか、埃っぽさとか。そういう匂い立つようなリアルな空気感を表現したいと思って書いた曲ですね。

──この曲はミュージックビデオも制作されています。こういうメロウな楽曲もトラトリの強力な武器だと思っていたので、MVが作られることで“メロウなトラトリ”がより広く伝わるのはすごくいいことだなと思いました。

Billy　この曲調は、自分の得意なスタイルがそのまま出せた感覚があって。「こういう一面もあるんだよ」とより多くの人にアピールできる機会になると思うので、MVができたのは僕としてもうれしいですね。

2人の願望が叶ったアルバム

──同じくMVが制作された「I wish you were here.」はトラトリの王道と言えるバラードソングで、バイオリンの演奏はゲストのSUGIZOさんです。SUGIZOさんはどういう経緯で参加されたんですか？

Billy　SUGIZOさんは僕が尊敬するギタリストで。ダメ元でオファーしたところ、ご自身の制作で忙しい中、ご協力してくださることになったんです。

神田　今回のアルバムは、ある意味私とBillyの長年の願望を1曲ずつ叶えてもらえた作品でもあるんです。

──レコーディングはどのように？

Billy　アレンジがほぼ完成していたところにバイオリンを乗せていただきました。バイオリンが加わったことで、楽曲が持つ浮遊感がより強くなりましたね。

神田　SUGIZOさんはどうやら以前からトラトリを聴いてくださっていたらしいんです。レコーディングでは「弾くだけ弾いてみたんで、あとは好きに使って」って、本当にフランクに話してくださって。めちゃくちゃカッコよかったよね。

Billy　SUGIZOさんもかつてソロアルバムを出すとき、尊敬する坂本龍一さんにオファーしたら、同じように快く引き受けてくださったとおっしゃってました。でもまさか、自分のギターとこんな形で絡んでいただく日が来るなんて、想像もしてなかったですね……。