ナタリー PowerPush - TRUSTRICK

神田沙也加×Billy 運命の出会いが生んだ「Eternity」

舞台女優、声優、モデル、ソロシンガーと幅広く活躍し、ディズニー映画「アナと雪の女王」の吹き替えで世界中から多くの注目を集める神田沙也加が、ギタリストBillyとのユニット「TRUSTRICK」(トラストリック)を結成した。

名刺代わりに届けられる1stアルバム「Eternity」は、バラエティに富んだ12のトラックで構成されている。2人はいったいどのような思いで「TRUST=信頼、信用」「TRICK=いたずら、策略」という相反する2つの単語を重ねた名を持つユニットを始動させたのか。ナタリーでは2人の真意を探るべくインタビューを行った。

取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 上山陽介

16歳の頃からの構想が現実に

神田沙也加(Vo)

──TRUSTRICK結成の話題はナタリーでも取り上げさせていただきましたが(参照:神田沙也加率いる新ユニット・TRUSTRICKデビュー)、各所で大きな話題になりました。これまでソロで活動していた神田さんが新たに音楽を始める上で、なぜユニットという形態を選んだのか、Billyさんという相棒を選んだのか、改めて詳しく聞かせてもらえますか?

神田沙也加(Vo) 理由はいくつかありまして。ソロのときから歌に対して……なんというか、自分の声に対してすごくコンプレックスがあって。私の歌を聴いてくれ!という気持ちにあまりなれないタイプなんですよ。

──それははなはだ意外ですね。今まさに「アナと雪の女王」で世界中から注目を集めている歌声なのに。

神田 いやいや。けっこう主張の薄いソロアーティストだったなと過去を振り返っても思うんですよ。制作から一緒にディスカッションしながら進めて「私“たち”の音楽を聴いてください」と言える仲間がいれば心強いなと、16歳の頃からずっと考えていて。だったらバンドかな?ってメンバーを探したこともあったけど、ハードなロックの音だと声が乗らないんです。ロックを聴くのは好きだけど、自分にはあんまり合わないんだなって気付いたんです。

──リスナーとして好きな音楽と、自分の声に合ってる音楽は別だったと。

神田 はい。自分の声質に合って、かつリスナーの皆さんが聴きたい神田沙也加の音楽ってどんな形なんだろうって考えたときに……今回のアナのこともありますけど、やっぱりポップな楽曲なんじゃないかなという結論にたどり着いて。バンドではなく、ポップな音楽ができるユニットにしようと考えたんです。最初は2人なのか3人なのか形は決めずに、幅広く音楽に精通していて作曲ができる、即戦力みたいな人はいないですか?って(笑)。

──結成発表直後のブログには、1年ほどかけていろんなミュージシャンに会って、結果「いちばんヴィジョンが見えたのが、今回の相棒、Billyでした」と書かれていましたよね(参照:TRUSTRICK、始動。|神田沙也加オフィシャルブログ Powered by Ameba)。Billyさんのどういうところに、ほかのミュージシャンとは違うものを感じたんですか?

神田 私はこの一言で「あ、この人で間違いない」と思った言葉があって。顔合わせのときに「僕はJ-POPのことを尊敬してるから」って言ったんですよ。人によっては「洋楽しか聴かない」とか「今のJ-POPは……」とかおっしゃる方もいるんですけど、私が生きているのは日本だし、小さい頃から聴いてきたJ-POPの中に大切な曲はたくさんあるし。そこに否定的な人とは組めないと思っていたので、その一言を聴いて大丈夫だなって思ったんです。

「あの神田沙也加」とユニットを

──そして一方のBillyさんにとっては……やっぱり神田さんって「あの神田沙也加」だと思うんですよ。

Billy(G)

Billy(G) そうですよねえ(笑)。

──「あの神田沙也加」と一緒にユニットを組むというのは大きな決断だったと思うのですが、きっかけはなんだったんですか?

Billy 最初は共通の先輩ミュージシャンの紹介だったんですけど、まずアップテンポな曲とバラードを1曲ずつ作ってみないかと言われて。曲はわりとすぐにできたんですよ。僕が神田さんとユニットをやるならどういう絵になるだろう、とまず絵的なところを想像したんですね。ライブとかジャケットとか。そしたら本当にすぐ、2曲同時ぐらいにできたのかな。それを送ったらすぐに歌詞が入った歌入りのデータが返ってきて、すごく感激したのを今でも覚えています。

──結成発表のブログでも「制作をする上でのレスポンスが早く、これはきっと面白いことになると確信めいたものを感じた」とユニット結成前夜のエピソードを書かれていましたよね(参照:【情報解禁】ユニット「TRUSTRICK」結成!!|ビリー部 - ギタリストBillyのブログ)。

Billy それってすごく大事なことで。レスポンスの速さだけじゃなくて、実際に会って話してみると、音楽の趣味が近いことはもちろん、描いているものが似ていたんですね。ビジュアル的なところだったり、サウンド面でも。さっき言ってたように、J-POPこそが一番だという話をして。

──アップテンポな曲とバラードを1曲ずつ作るようお願いしたのは、あらかじめバリエーションに富んだ音楽をやることを想定して、両極が見たかったから?

神田 そうです。アップテンポで楽しい曲はどこまで楽しくなれる人で、切ないものはどこまで絶望的に切なくなれる人なのか(笑)。希望と絶望の最高値を見たかったというか。

──それですぐに曲ができて、それに対してすぐに歌詞と歌が乗せられたというのは、もう運命的に波長が合ったということですよね。絵的な部分でのイメージが合ったということですが、それって具体的に言うとどんなイメージですか?

神田 先ほど「あの神田沙也加」とおっしゃいましたけど、自分でもときどきそのイメージに付いていけないときがあるんですよ、神田沙也加って(笑)。でも1人ひとりに「いや違うんですよ、神田はもっと親しみやすくてね」って説明するわけにはいかなくて(笑)。だったらそれを逆手に取って……高潔なイメージで声には透明感があって、だけども水をゴクゴクと飲むように自然と耳に入ってくる、浸透率の高い間口の広いポップがやりたい。そういう抽象的なことを話したら「ああ、いいよね」ってすぐにイメージを理解してくれたんですよね。

Billy 彼女の声の透明感は大きな武器になると思って、制作の最初の段階でできたのが「If -君が行くセカイ-」という曲なんですけど、それでイメージがはっきりとできたんですよ。そこからさらに、できるだけ間口を広げられるように曲作りを進めていきました。

1stアルバム「Eternity」 / 2014年6月25日発売 / 日本コロムビア
初回限定盤 [CD+DVD] 3456円 / COZP-859~60
通常盤 [CD] 2700円 / COCP-38610
CD収録曲
  1. Ever Blue
  2. If -君が行くセカイ-
  3. ATLAS
  4. wonder
  5. TRICK or HOLIC
  6. 恋人
  7. 君が居る未来のために
  8. kissing
  9. Calico
  10. Jealousy Jelly
  11. as one
  12. beautiful dreamer
初回限定盤DVD収録内容
  1. If -君が行くセカイ-(Music Video)
  2. ATLAS(Music Video)
  3. beautiful dreamer(Music Video)
  4. If -君が行くセカイ-(Making Clip)
  5. ATLAS(Making Clip)
TRUSTRICK(トラストリック)
TRUSTRICK

舞台女優としての活動を中心に、声優、モデル、ソロシンガーと幅広く活躍する神田沙也加(Vo)と、2006~13年に上杉昇(ex.WANDS、al.ni.co)率いるバンド・猫騙のメンバーとして活動していたBilly(G)からなるユニット。2014年4月にユニット結成を発表し、6月発売の1stアルバム「Eternity」で日本コロムビアよりメジャーデビューを果たした。ユニット名は「TRUST=信頼、信用」「TRICK=いたずら、策略」の2語を合わせた造語で、少しの毒とファンタジーが共存する独自の世界を構築している。