TRUE インタビュー|「今、音楽を作るのがすごく楽しい」充実感と開放感に満ちたニューシングル「Happy encount」リリース (2/2)

生み出す過程すらも楽しくてしょうがない

──先ほど「ウィスパーボイスで」とおっしゃった3曲目の「透過」ですが、この歌声、最高ですね。個人的に、この曲がもっともインパクトがありました。

うれしい。このボーカルスタイルはアルバムで、特にトミタさんが作ってくださった「空に読む物語」で身に付けたもので。この表現の仕方は手放したくないし、これからも育てていきたくて「透過」を制作したんです。先ほど言ったように今までのキー設定よりも2つか3つ下げて歌っていて、「Happy encount」のところでちょっとお話ししましたが、何かを表現するにあたって、私はついつい100%の力でお伝えしようとしてしまうんです。それが悪いことだとは思わないし、武器の1つだと思っているので、これからもそういった歌い方は大切にしていきたいんですけど、例えば誰かに悩み事を相談するときに、100の力でしゃべらないですよね。

──確かに。全力で「ねえ! 悩みがあるんだけど!」みたいに言われたことはないですね。

ボソボソと、少しずつ言葉を紡ぎながら悩みを打ち明けると思うし、全力で伝えるだけが表現じゃないなと自然に感じるようになっていて。その中で、例えば呼吸の隙間から伝わる感情みたいな、よりディテールに重きを置いた表現にチャレンジしたくて「空に読む物語」を作ったんです。その派生というか、より深化させたのが「透過」ですね。

──トラック自体は憂いを帯びてはいるもののとても軽快で、歌い上げてもハマったかもしれませんが、ウィスパーは大正解だと思います。

最初にデモを聴いたときは歌い上げる感じの曲に仕上がりそうな印象だったんですけど、「それを私がやることで新たなものが生まれるんだろうか?」と悩むところがありまして。ならば思いっきりシフトチェンジして、キーもグッと下げてウィスパーで、広い世界を歌うのではなく狭い世界を、なんならワンルームの小さな部屋の中で起こっている出来事を歌うようにしたら、この曲はもっと面白くなるんじゃないかと思ったんです。

──歌詞でも「水槽」という、小さな空間をメタファーとして用いていますね。作曲の矢吹香那さんと編曲の前口ワタルさんとご一緒するのは、ひさしぶり?

はい。以前「ONENESS」(2015年10月発売の5thシングル「Dear answer」カップリング曲)という曲でご一緒して以来ですね。矢吹さんはすごく品のあるメロディを書かれる方で、最近だと早見沙織さんの楽曲などでお名前を拝見していたんですけど、ひさしぶりにご一緒することでどんな化学反応が起きるのか私自身も楽しみにしていましたし、とても面白い着地ができたんじゃないかと思います。

──歌詞もおしゃれですね。決して多くを語らないけれども映像的で、想像を掻き立てられます。

ありがとうございます。個人的には「継ぎ足した幸せ」というフレーズが特に気に入っていて。今回は3曲通して、基本的には幸せや夢を歌っているんですけれど、それぞれに異なる表現ができて自分としてもとても満足しています。

──しつこいようですが、「透過」でも落ちサビで「あなたの隣に」と、やはりこちらを向いてくるTRUEさんがいますね。

言われて気が付きました(笑)。やっぱり何かを生み出そうとするとき、その生み出すものの向こう側にいる見知らぬ誰かを意識しているところがあるので、自ずとそういう表現になるのかもしれないですね。

──ボーカルの話に戻ってしまいますが、低いキーをウィスパーボイスで歌うということに関して、難しさはありませんでした?

難しさは、すごくありました。声を張って歌うよりもはるかにテクニカルなことを要求されるんですよ。ウィスパーボイスの中で言葉を立たせなければならないし、単純にウィスパーになればなるほど肺活量も必要になるので。でも、そういった技術は日々のボイストレーニングとかで磨いてきたことでもあるので、自信を持ってブースに立ちました。アルバムとこのシングルを経て、自分の武器が増えたという手応えはあります。

──次も楽しみですね。

本当に楽しみです。今、音楽を作るのがすごく楽しいんですよ。これまでは、表現することは楽しいけれど、それを生み出す過程では苦しみも伴っていたんです。でもアルバムを経由して、今は生み出す過程すらも楽しくてしょうがないです。

伝えるべきことに対して迷いがなくなった

──このインタビューが掲載されるのはニューシングルのリリースのタイミングですが、取材時の今は年末なので2021年を振り返っていただけますか?

ありがたいことに、とても充実感のある1年になりました。ワンマンライブも2回開催することができましたし、さまざまなイベントにも出演させてもらったんですが、ワンマンではないイベントの中でも自分の役割がより明確になってきて。どんな場であれ、私が伝えるべきことに対して迷いがなくなった、すっきりとした気持ちになった1年でもありましたね。表現者として意味のある1年間を過ごせましたし、この1年で学んだことは2022年の活動にも必ず生きると思っています。

──迷いのなさはまさに「Happy encount」に表れていると思います。11月に開催されたワンマンライブ「TRUE Live Sound! vol.5 ~Acceleration~」は、表現者としての武器を増やした「コトバアソビ」リリース後のライブでしたが、感想をお聞きしてもいいですか?

このライブもすごく学びが多くて。先ほどお話ししたこととまた重なるんですけど、ライブにおいても全力で歌を届けることは大切だし、それは大きな武器になるんですよね。でも、そうじゃない表現の仕方もあって。もうちょっと肩の力を抜いて、私の心が揺れ動くままに歌うことで伝わるものもあるし、それは全力で歌うことで伝わるものとは種類が違うんじゃないか。そういう表現を模索しながらリハーサルを重ねていった結果、よりお互いの心の動きを感じられるライブを作ることができたんじゃないかなと思います。それには、たぶん声が出せないという状況がプラスに働いた部分も少なからずあって。

──確かに、聴くことにより集中するでしょうから。

視線だったり頷く動作だったり、あるいは静けさそのもので私に何かを伝えようとしてくれているのがわかるんですよね。それって、もしかしたら声を出すことよりも伝わるのかもしれないなって、ちょっと思ったり。もちろん以前のように自由にライブを楽しめる状況が戻ってくることを願っていますし、きっとそうなると信じていますけど、今回のライブで体験したことはお互いに忘れないんじゃないかな。

自由に音楽をやってもいいかなと考えるようになってきた

──先ほど、2021年で得たものは2022年にも生きるとおっしゃいましたが、この「Happy encount」で文字通りハッピーな幕開けになりますね。

2022年は、これまであらゆる形で結んできたファンの皆さんとの絆をより深める1年にしたいです。今回のようにタイアップをいただいて、作品に沿って楽曲を制作するというのはずっと憧れていたことですし、いまだに憧れて続けていることでもあるので大切にしていきたいんですけれども、その一方で私自身が個として表現していくことにもより力を入れていきたいなと。その第1弾として、実は先日、クリスマスソングを作ってファンクラブ内で公開したんですよ。自分でプリプロして宅録してミックスして。今まで恵まれた環境で、たくさんの作家さんに協力していただきながら音楽を作ってきたんですが、改めて自分1人で、イチから手作りでやってみて気付いたこともあって。そうした作業を経て生まれたものを皆さんにお届けすることで、私のよりパーソナルな部分も見ていただけるんじゃないかなと。要は、私のことをもっともっと知ってもらいたい(笑)。

──(笑)。

作りたいものがいっぱいありますし、リリースする音源だけにこだわらずに、自由に音楽をやってもいいかなと考えるようになってきて。ここ最近は、言葉のつづり方や歌唱表現の仕方にしてもそうですけど、自分自身で「私って、こういう人間だ」と決めつけずに、もっと楽に、音楽を作ることのハードルを下げていけたらなと思っていますね。

──その心境の変化は、何かきっかけが?

ちょっとずつ変わっていった感じですね。私はアニソンシンガーへの憧れがたぶん人一倍強かったので、「アニソンシンガーはこうじゃなきゃいけない」みたいな固定観念も強く持っていて。無理やりそこに自分を当てはめていたりもしたんですが、ライブでお客さんと気持ちを行き来させることで、凝り固まっていたものが徐々に解きほぐされていったというか。有り体に言えば自信がついたということなんでしょうけど、表現者として地に足がついて、もっと自分発信でやれることがあるんじゃないかと思うようになったんですよね。例えばタイアップをいただいた作品への恩返しだったり、今言ったクリスマスソングだったり。

──たぶんTRUEさんのストイックな部分は変わっていないと思うのですが、「TRUE」としてデビューして8周年を迎えようとしている中で「楽しくてしょうがない」「もっと楽に」といった言葉が出てくるのはとてもいいことではないかと。

楽しみながら作らないと、音楽の楽しさは伝わらないですよね。特に今回、表題曲「Happy encount」は「リアデイルの大地にて」という長い間たくさんのファンの方々に愛され続けている、とても楽しい作品の主題歌ですし。作品を経由して私の楽曲も聴いていただきたいのはもちろんですが、逆に私の楽曲経由で作品に手を伸ばしていただきたいです。そうやって、みんながハッピーに遭遇できたら最高ですね。

プロフィール

TRUE(トゥルー)

2014年にTRUE名義でアニソンアーティストとしての活動を開始。「バディ・コンプレックス」「響け!ユーフォニアム」「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」「転生したらスライムだった件」など数々のアニメ作品の主題歌を担当する。2019年にデビュー5周年記念ライブを東京・TSUTAYA O-EAST、なかのZERO 大ホール、めぐろパーシモンホール 大ホールで開催。2021年8月に4thアルバム「コトバアソビ」をリリースし、11月に東京・TOKYO DOME CITY HALLでワンマンライブ「TRUE Live Sound! vol.5 ~Acceleration~」を開催した。2022年1月にテレビアニメ「リアデイルの大地にて」のオープニング主題歌「Happy encount」を表題曲としたシングルをリリース。また、“唐沢美帆”名義で作詞家としても活躍しており、「アイカツスターズ!」「マクロスΔ」といったアニメ作品や藍井エイル、水瀬いのりなど多数のアーティストに楽曲を提供している。