TRUEがシングル「Happy encount」を1月26日にリリースした。
本作の表題曲はTOKYO MXほかで放送されているテレビアニメ「リアデイルの大地にて」のオープニングテーマで、アイリッシュサウンドを取り入れたポップな楽曲に仕上がっている。カップリングにはTRUEにとって初めてのゲーム主題歌となる「inverted world」と、低音のウィスパーボイスに始まり、ボーカルのディテールが光るナンバー「透過」を収録。3曲異なるアプローチで夢や幸せが歌われている。
音楽ナタリーではTRUEに本作についてインタビューを実施。インタビューに答える彼女の表情や言葉からは、今音楽を作ることが楽しくて仕方ないという充実感や迷いのなさ、肩の力を抜いて自由に音楽制作に取り組んでいこうという姿勢がうかがえた。
取材・文 / 須藤輝
実現するなら今だ!
──今回のニューシングルは、実に痛快な1枚になりましたね。まず表題曲の「Happy encount」から迷いなくポップに突き抜けていて。
「Happy encount」に関しては、過去の活動を振り返ってもここまでポップな楽曲はなかったんじゃないかと思うぐらい、突き抜けていますね。フィドル演奏を導入したアイリッシュなサウンドというのも初めての試みになるので、私自身もこの曲に可能性を感じています。
──「Happy encount」は作曲が成本智美さん、編曲がトミタカズキさん、ストリングスアレンジが曽木琢磨さんで、3人ともSUPA LOVE所属の作家ですね。中でもトミタさんは、TRUEさんの4thアルバム「コトバアソビ」(2021年8月発売)収録の「MUSIC」および「空に読む物語」の作曲・編曲をなさった方で、TRUEさんも絶賛していましたね(参照:TRUE「コトバアソビ」インタビュー)。
お互いに見知った作家さんたちに作っていただくのがよいだろうと、SUPA LOVEチームにお願いしました。あと、おっしゃる通りトミタカズキさんとの出会いは私にとってすごく大きくて、アルバムで大変お世話になった信頼している作曲家でありアレンジャーなので、ぜひまたご一緒したいと思っていました。
──楽曲に関してはTRUEさんから何かしらオーダーを出したんですか?
はい。コンペだったんですけど「とにかくポップで明るく楽しい曲を」と。本当に素敵な楽曲をさまざまな作曲家さんからいただいた中で、この「Happy encount」が「リアデイルの大地にて」という作品の世界観にもマッチしていたし、私が今まで通ってこなかったタイプの楽曲だったというのもあって、新たなチャレンジに相応しいなと。デモの段階ではフィドルパートはなかったんですけど、より作品に寄せるべく、異世界ファンタジーっぼいアイリッシュなアレンジをこちらからトミタさんに提案して、形にしていただきました。
──アニメはまだ放送前なので拝見できていませんが、フィットしそうですね(本インタビューは2021年12月末に実施)。
作中に酒場がよく出てくるので、みんなで乾杯したり踊ったりしているような雰囲気が出せるんじゃないかなと。作品と併せてハッピー感を味わっていただけたらうれしいです。
──ハッピー感は、躍動感のある歌声からも十分伝わってきます。
うれしいです。私としては、キー自体は突き抜けて高くない分、すごく力を抜いて歌えたんですよね。特にAメロ、Bメロはとにかく「私が楽しいんだ」ということをボーカルで皆さんに伝えたくて。それってテクニックでは伝わらないことだと思うので、心が動くまま、気持ちの揺らぎとかをそのまま歌に乗せることに重きを置いて歌いました。
──アルバム「コトバアソビ」のときも感じたのですが、このニューシングルを聴いて、今、TRUEさんはノッているんだろうなと。
「Happy encount」だけじゃなく、今回の収録曲は3曲通して「コトバアソビ」で学んだもの、得たものをきちんと投影できたかなと思っています。実は、アルバム発表後の第1弾シングルとして私がやるべきことは一点の曇りもないハッピーでポップな楽曲を作ることだと、最初から決めていたんです。そのときにちょうどタイアップのお話もいただいていて「実現するなら今だ!」という感じでした。
私自身のやり方で表現していいんだ
──「Happy encount」は歌詞も非常にポップというか、TRUEさんにしてはライトな言葉選びをされていると思いました。
あえてふわりと軽いタッチで、ポップなフレーズをちりばめています。これまで私がいただいたタイアップは、例えば「響け!ユーフォニアム」のようなスポ根的な作品がわりと多かったというか、伝えたい思いが100あったら1つも漏らさずきちんと伝えるみたいな楽曲をよく制作していたんです。それはその時々で必要な表現だったし、今の私を支えてくれている表現でもあるんですけど、活動していく中で、作品に込めたい思いを100%言葉にしなくても伝わるものはあると感じるようになっていて。特に「コトバアソビ」の制作中に、意味のない言葉であってもその音の響きや羅列がメロディと融合することで、意味のある感情に変わっていくというのを学んだので、今回のシングルでもそういう表現を目指しました。
──「踏み出したときに わかる 喜びは 誰かにめぐる」というフレーズは間違いなくTRUEさんの実体験が元になっていると思ったのですが、差し支えなければ具体的に伺ってもよいですか?
ここ数年でファンの皆さんからいただいたものって、本当に大きくて。私は、自分が生み出した楽曲が誰かの人生を変えるなんて思ってはいないけれど、その曲を聴いたことでその人の明日が少しでもよいものになったり、考え方が変わったりするきっかけくらいにはなるかもしれないと思ってずっと楽曲を作ってきているんです。そうやって届けてきた思いを、皆さんから喜びという形でたくさん返していただいているんですよ。それはミュージックビデオでも表現されているんですけど、今まで私にたくさんの喜びを与えてくれた皆さんに、改めて私から幸せをお渡したいという思いを込めました。
──サビ頭で「直感だ」と言い切っているのも、歌声と相まってスカッとします。
自分でもすごく好きなフレーズです。直感で生きているので(笑)。でも、自信を持って「直感で生きている」と言えるようになったことも、ファンの皆さんからいただいたものの1つだと思っていて。「私は私自身のやり方で表現していいんだ」というのを活動を通じて教えてもらったので、こういう歌詞も書けるようになりました。
──「デタラメなステップで 踊りましょう」というフレーズも、自分のやりたいようにやればいいと解釈できますし、ライブハウスとかクラブに行くとそういう人が一番楽しそうだったりしますよね。
確かに(笑)。たぶん、アイリッシュな酒場もそういう雰囲気でしょうし。
──当然、歌詞は「リアデイルの大地にて」の内容にも沿っているわけですよね。
もちろんです。主人公のケーナは現実世界ではすごく不運な人生を送っていたんですけど、新たな世界に転生することでそれまで以上に自分らしく前を向いて生きていく女の子なので、そういう強さも表現できればなと。彼女は、自分が生きていた世界とは異なる世界のすべてをわりとすんなり受け入れて、自分の身に起こったことをどんどん楽しいことに変換していくんですよ。そういう姿勢に憧れもするし、自分に通ずるものでもあるので、私自身を素直に表現したらそれがケーナに変換されるかもしれないとも思っていました。
──確かに、今までのインタビューで受け取ったTRUEさんのイメージは、「Happy encount」の主人公と重なります。
よかった(笑)。作品自体も決して重たいお話ではなく、すごくほのぼのとしていて、話数が進んでいくごとに幸せのお裾分けをしてもらうみたいな感じなので、今の世の中にもぴったりだなと。作品も楽曲も幸せのアイテムだと思って楽しんでいただきたいです。
──歌詞の最後に「今日の日の あなたにめぐる」と、二人称の「あなた」が出てきてビビりました。急にこっちを向かれたようで。
この作品を通して初めて私の音楽に触れてくださる方もたくさんいらっしゃるでしょうし、これから出会う誰かに向けてもきちんとメッセージを届けたいなと思って、ビビらせてみました(笑)。
たくさんのものを失って、それ以上に多くのものを得てきた
──カップリングの「inverted world」はh-wonderさんの作編曲で、「Happy encount」と同様にアッパーかつダンサブルな曲ですが、どこか影がありますね。
h-wonderさんは事務所の大先輩でおしゃれなサウンドメイキングがとても得意なんですけど、ベテランであるにもかかわらず、一緒に楽曲制作をするたびに進化されているのが曲からビシビシと伝わってきて。私もいろんなものを吸収して進化せねばという気持ちにさせられますし、今回もすごく完成度の高い楽曲ができたと思います。この曲は「夢100」(「夢王国と眠れる100人の王子様」)シリーズというアプリゲームの最新作「夢職人と忘れじの黒い妖精」の主題歌としてオファーをいただいたので、それに相応しい華やかさは意識しました。ただ、単に華やかなだけではなくて、憂いや陰りも表現したうえで強さみたいなものを見せられたら、よりゲームの世界観ともマッチするんじゃないかなと。ゲームの主題歌は一度作ってみたいと思っていたので、念願が叶いました。
──「inverted world」の歌詞は「Happy encount」と比較すると抽象度が高く内向きですが、テーマ的には相通ずるものがあるというか。何かに囚われている人が、そこから抜け出そうとしているような。
そうですね。何かから解放されたい人を軸に書いているんですけど、私は歌詞の意図をあまりにも具体的に皆さんにお伝えしてしまうのは野暮だなと思っていて。歌詞って、玉虫色に見えるのが理想的で、受け取り方によって表情が変わっていくのが一番いいと思っているんです。その前提でお話しすると、まず作品のテーマが“夢”なので、その夢を追いかけるためにすべてを手放す、みたいなことは考えていましたね。次に進むべき道がわからなくなったときって、今持っているものを一度手放すしかないのかなって。
──TRUEさんも手放してきた?
たくさん手放してきました。そもそも「TRUE」としてこの場所に来たときに、それまで「唐沢美帆」として歩んできたキャリアはいったん捨てなければなりませんでしたし。表現者として新たに転生してきたじゃないですけど、たくさんのものを失って、でもその代わりに、それ以上に多くのものを得てきたと思っています。
──「inverted world」のボーカルは非常にパワフルで、いつものTRUEさんだなという感じがしました。
歌っていてもすごく気持ちがよかったし、無理なく私らしく表現できていると思います。
──サビの「飛び立つ鼓動に急降下」のあたりなど、スピード感がすごい。
ありがとうございます。「inverted world」に関してはサビのハイトーンもキーになっていますし、もちろんハイトーンも今後伸ばしていきたい武器の1つではあります。ただ、それは選択肢の1つであって、曲によってさまざな表現を自分の中でセレクトしてお伝えしていけたらいいなと思っていて。例えば3曲目の「透過」はウィスパーボイスで、キー設定もいつもより下げてみたり。
──「透過」のお話ももちろん伺いますが、「inverted world」のボーカルは底抜けに明るかった「Happy encount」とも対照的で、3曲を通してボーカルの多彩さを楽しめます。あと「inverted world」は全体としてシリアスな歌声だと思うのですが、最後の「君がいた」だけ妙にかわいいですね。
そこはあえてというか、私の好みです(笑)。「君がいた」の語尾がキュッと上がるところが個人的にすごく好きだったのでこのテイクを採用したんですけど、どれだけ絶望して、迷って、悩んでも最後はやっぱり光を見てほしいなと思って。
──この「inverted world」でも今言ったように「君がいた」と、つまり二人称の「君」が出てくるのですが、たまたまですか?
たまたまですね。私は自分のために歌詞を書くこともあるけれど、そういうときでもどこかで楽曲を聴いてくださる誰かに向けて書いているところがあって。私が音楽を作る意味ってきっとそういうところにあると思うから、自然とそういう表現になったんじゃないですかね。
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生み出す過程すらも楽しくてしょうがない