TRUE|みんなに“強さ”を贈る歌

古きよきアニソンの作り方

──カップリング曲の「黎明」は「転スラ」第2期の前奏曲という位置付けですが、やはり主題歌とはアプローチの仕方が違いますよね?

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違いますね。特にこの「黎明」は、古きよきアニソンの作り方をしているなと自分で思っていて。歌に関して言えば、私はレコーディングに臨むまでにいろんなパターンを試してみるんですけど、基本的には本番のブースに立ったときの自分の気持ちをそのまま歌にしているんです。「うまく歌おう」とか「歌にこういう表情を付けよう」とか考えずに、ありのままの私を皆さんにお見せしようと思って歌っていて、「Storyteller」もまさにそうなんです。

──はい。

一方この「黎明」は、「転スラ」第2期の前奏曲として作った楽曲なので、等身大の私で歌うというよりは、作品の世界をより意識しながら表現することを考えて歌っています。歌詞の意味合いにしても、先ほどお話ししたように「Storyteller」は私からみんなへ伝えたいことを形にしているんですけれど、「黎明」は完全に作品に寄り添っているので、アニメの話数が進むごとに歌詞の世界が開けていくような仕掛けになっているんです。なので同じ「転スラ」楽曲でも、「黎明」は「Storyteller」の対極にありますね。

──曲調にしても、「Storyteller」がさわやかでアッパーな曲だったのに対して、「黎明」は壮大かつ重厚なバラードで。歌声も、「Storyteller」にはスコーンと抜けるような軽やかさがありましたが、「黎明」はどっしり構えているというか。

うんうん。「黎明」ではなるべく太い声で、強く歌うことを意識しました。この曲はキーの幅がかなり広いんですけど、冒頭のパートはどちらかというと話し声に近い感じの低い声で始まって、後半に向けてどんどん開いていくみたいな。まさにプレリュードになるような構成にしました。

──序盤だけ聴いた感じだとピアノ主体のスローバラードかなと思いきや……。

しかも、ちょっと不穏な感じもして想像をかき立てられますよね。「WILL」とかもそうなんですけど、いわゆるポップスとは違うふくよかさのある、クラシック寄りの発声というのは自分でも好きなので、今後も磨きをかけていきたいですね。

「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」に出会えたのは運命だった

──もう1つのカップリング曲「memento」は、コロナ禍で制作された楽曲ですか?

そうです。ステイホーム期間に入る前の5年間は、ありがたいことにコンスタントにリリースもライブも行うことができて、ノンストップで駆け抜けてきたんです。そこで突然、コロナ禍でパタリと動きが止まったとき、すごく不安になったんですね。今振り返ると、そうやって立ち止まることができたおかげで見えた景色もあるし、そこで初めて気付いたこともあって、今後また前に進んでいくためには必要な時間だったと思えるんですけど、当時はもう心の中がぐちゃぐちゃになってしまって。それを1つひとつ整理していく過程で、このどうしようもない迷いや葛藤を曲として残しておきたくなったんです。

──なるほど。

なので、重めな歌詞を、あえて明るく軽やかな音に乗せることでちぐはぐ感を出してみたりして。あのときの私だから作れた曲だなと思いますし、そういうモヤモヤしたものを吐き出すことで、誰かに寄り添うこともできるんじゃないかと。曲調的にも新たな挑戦ではあったんですけど。

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──ゴスペルっぽい、リラックスした雰囲気のR&Bナンバーですね。TRUEさんにはいわゆるブラックミュージックの印象があまりなかったので、新鮮でした。

カップリング曲やアルバム曲って、今後の自分を開拓していくためのチャレンジの場でもあると思っていて。なので、「私はこういうアーティストです」という型にはめずに、いろんな作家さんとの出会いで化学反応みたいなものを起こしていきたいんですよね。やっぱり停滞はしていられないし、時代の流れとともに私もどんどん変化および進化していきたいので。

──化学反応といえば、3rdアルバム「Lonely Queen's Liberation Party」(2018年4月発売)は相当はっちゃけていましたよね。

はっちゃけまくりました。

──PENGUIN RESEARCHの堀江晶太さんと神田ジョンさんに、Tom-H@cKさん、大石昌良さん、野崎良太(Jazztronik)さん、小島英也(ORESAMA)さん、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)さん、菊地創(eufonius)さんといった強烈な作家陣で。

あのときは「アニソンシンガーはかくあるべき」みたいな縛りから、とにかく抜け出したかったんです。そして、抜け出すための力を人に求めたんですよね。「新しい曲をください。その曲で私を変えてください」って。当時の私にできるやり方としてはそれで正解だったし、あのアルバムを経て見えたものもあるし、作る必要があったアルバムだと思うんです。でも、今はもっと自分自身のスタンスも伝えたいことも、よりシャープになったんじゃないかなって思ってます。

──何かシャープになるきっかけが?

1つはひたすらライブをやり続けた2019年ですね。あと、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」との出会いもすごく大きかったと思います。テレビ版のオープニング主題歌「Sincerely」(2018年1月発売の12thシングル)に続いて劇場版の主題歌「WILL」を歌わせていただいたことで、音楽を通してたくさんの方と思いを重ねることができて。こんなことを言ったら大袈裟かもしれないんですけど、歌手であるとともに、作詞家として言葉を紡ぐことを生業にしてきた私が、自動手記人形の少女を主人公とした「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」に出会えたのは、ある意味で運命だったのかなと今は思っています。

心に痛みがあることに気付かせてくれる曲

──「memento」の話に戻しまして、コロナ禍で制作された楽曲の歌詞には「つらい時期をみんなで乗り越えよう」「離れていても一緒にがんばろう」みたいなパターンも多いと思います。対して「memento」は弱音を吐くじゃないですけど、「いや、ぶっちゃけ私もつらいのよ」と告白してくれているようで、それはそれで安心すると言いますか。「TRUEさんもつらいんですか? 僕もなんですよ」みたいな。

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確かに、みんなを元気付けるという方向性もありですよね。でも、そっちには思考が向きませんでした。私はこの6年間で、音楽の力には本当にさまざまなパターンがあるんだということを、応援してくださるファンの皆さんに教わったんですよ。心の痛みを癒してくれる楽曲もいいけれど、心に痛みがあることに気付かせてくれるような曲も時には必要なんじゃないかって。そういう曲になればいいなと思って「memento」を作りました。なので、これはこれで私なりの応援歌かなと思っています。

──「memento」の歌詞には「文字」「主語」「述語」「句読点」「行間」と、文章にまつわるワードがちりばめられていますが、そこにはどんな意図が?

いや、たぶん明確な意図があったわけではなくて。私は作詞家として言葉を伝えていく中で、日々葛藤しているんですね。自分が気に入っている素敵な言葉でも、自分自身が使うことで色褪せていくというか、偽物になっていくような感覚があって。そういう葛藤も切り取って楽曲の中に残していきたいと思っているので、自然と出てきたんじゃないかなと。

──「偽物になっていく」とは?

特にコロナ禍では、例えば誰かに「がんばろう」と声をかけても、すでにみんなそれぞれの環境の中でがんばっていて、なんて声をかけるべきか悩んでしまったりして。そういうとき、言葉ってすごく脆いなと思うんです。あと、こういう状況になる前は、現場で皆さんと一緒に時間と空間を共有することが多かったんですけど、それがオンラインになると、同じ空気を味わえなくなってしまいますよね。そこでも言葉の脆さというか、頼りなさみたいなものを感じたんです。直接会って話せば伝わることが、いまいち伝わらなかったり。

──僕も今年はリモート取材を何件もしていますが、やはり対面とは勝手が違って。

ですよね。やっぱり行間で伝わるものってありますよね。おしゃべりしていても、言葉が詰まったことで逆に伝わるものとかもありますし。それが伝わりにくいオンラインでは、もう少し伝え方を工夫する必要があるというのも日々感じていました。

今のほうがさらに強いスタートが切れる

──先ほどステイホーム期間に「立ち止まることができたおかげで見えた景色もあるし、そこで初めて気付いたこともあって」とおっしゃいましたが、もう少し具体的にお聞きしてもいいですか?

本当にたくさんあって。やっぱり人って、自分が居心地のいい場所にいたいし、今あるものに満足しがちになってしまう。動きが止まって、その中で自分だけで何かをやろうとしたときに、自分の力の足りなさを痛感したんです。もっと自分自身が変化を起こして、周りを巻き込んで前に進んでいかないと、アーティストとしての成長はすぐに止まるなって。そこで、まずはインプットする時間を設けて、いろんなことを見聞きして勉強して、そのあとはとにかくたくさん曲を作るようにしていました。なので、この2カ月ぐらいはわりと忙しく過ごしていたんですけど。

──いいですね。

そして2021年は、この期間に蓄えたものを吐き出して、無理やりにでも前に進んで自分を進化させていく1年にします。もちろん、そういう蓄えができたのも制作チームのおかげで。何もできない期間をどう過ごすかが今後の人生を左右するというのは共通認識としてあったので、とにかくみんなで「止まるのをやめましょう!」と。いや、止まってはいるんですけど、今後につなげる止まり方をしようとスイッチを切り替えられたので、早い段階から制作に入れたし、時間的な余裕もあって1曲1曲をいつも以上に大切に作れたと思います。作詞にしても自問自答しながら言葉を紡げました。そういう意味では、立ち止まらざるを得なかった状況を、これから加速していくための準備期間に充てられたので、どうにかプラスに変換できたのかなと。

──そんな2021年の幕開けがニューシングル「Storyteller」であり、1月17日に中野サンプラザホールで行われるワンマンライブになるわけですね。

本当に、すべてのパズルのピースがそろった感があって。ライブのタイトルが「Progress」すなわち「前進」なんですね。これは2020年5月に日本青年館ホールで予定されながら延期になってしまったライブのタイトルをそのまま引き継いでいるんですけど、あのときよりも、今のほうがさらに強いスタートが切れると思っていて。なおかつ、その新たなスタートを切るにあたりバンドメンバーも一新して、いつもの私にとって居心地のいい空間ではなく、足元が揺らぐ状態でもしっかり立って進んでいく私をお見せしようと思っています。

──お話を伺っていると、TRUEさんはとてもストイックというか、自分に厳しい方ですね。

同じメンバーで続けていると、安定感や安心感がある一方で、そこに甘えてしまうかもしれないと思うタイミングがあったんです。正解が見える分、歌を置きにいってしまうような気もして。なので、自分自身のチャレンジとしてシンプルに新たな人たちがいる新たな空間に身を置いてみたかったんですよ。そこで見えてくる景色が必ずあるはずだし、それはいったいどんな景色なのか、今からすごく楽しみです。

ライブ情報

TRUE Live Sound! vol.4 ~Progress~
  • 2021年1月17日(日)東京都 中野サンプラザホール

※ライブ配信あり

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