ナタリー PowerPush - TRIPLANE
5thアルバム「V」 “爽やかバンド”の本当の姿
TRIPLANEが、5枚目となるアルバム「V」を完成させた。良質なメロディを活かした、爽やかな曲調のギターロックバンドとして人気を集めてきた彼ら。本作は、メンバー全員の出身地である北海道に改めて立ち返ることで完成した。CMやテレビ番組のタイアップ曲を多数収録したアルバムの構成は、一見、聴き手の共感を意識したポップな1枚に思われるかもしれない。しかし中盤以降の楽曲群で、その印象は一変する。そこには、とてもダークで、とげとげしくシリアスな彼らの一面が発揮されている。
ナタリーでは、今作のリリースを記念して彼らにインタビューを実施。バンドの挫折、そして改めて掴んだ自分たちのアイデンティティについて、メンバー全員に語ってもらった。
取材・文 / 柴那典 インタビュー撮影 / 中西求
「やめてもいいかな」って思うこともあった
──今作はすごく深みのあるアルバムだと思いました。まずタイトルの「V」という言葉は、いろいろな意味合いを象徴しているような気がして。
江畑兵衛(Vo, G) 5枚目のアルバムということでローマ数字の「V」なんです。あと、2012年は結成10周年の年で、これを機にバンドの過去を振り返ってみたんですけど、そこでも考えることがいろいろとあって。
──どういうことを思ったんですか?
江畑 最初に音楽の世界に飛び込んだときは、意気揚々としていたんですよね。すぐに結果が手に入ると思ってた。でも、なかなか思うようにいかなくて、正直音楽が楽しくなかった時期もあったし、「やめてもいいかな」って思うこともあった。それを乗り越えて、今があるんですよ。谷底から這い上がって、ようやく今はバンドが一丸となって上を見ている感じがするんです。だから、それをグラフにするなら「V」の形になるという。V字回復の「V」という意味が一番大きかったです。
──なかなか思うようにいかないというのは、端的にセールスの問題が大きかった?
江畑 そうですね。あとは、ライブの動員もそうです。元々僕らは音楽で何かを表現したい、世の中にメッセージを発信したいというタイプのバンドではなかったんです。とにかく音楽がやりたくて、それをより多くの人に聴いてもらうというのが目標だった。その結果が手に入らなかったということですね。
──音楽が楽しくなかった時期についても詳しく聞かせていただけますか。
江畑 僕らはずっと、売れたい、動員を増やしたいということを必死に思っていたし、どうやったらその結果が手に入るかを考えながらやってきた。もちろんスタッフもそれを考えながら取り組んでいて。それは言い換えると、自分たちはこういう音楽性で進んでいくべきだというレールをあらかじめ用意して、そこを駆け抜けている時期だったんですよね。それが意外と評価されたんですけど、でも、バンドとしては違和感があった。TRIPLANEはボーカルと美しいメロディが武器のバンドで、サウンドや楽器は飾りであると言う時期すらあって、実際そのときはお客さんも増えたし、仕事も多くて忙しかったし、充実はしていたと思うんです。でも、ライブをやっても、新しい曲を作っても、楽しくなかった。自分じゃないことをやってる気がした。今、何のために、どこに向かって日々を生きてるのかな?とまで思ってしまった。それで、歌を歌うことや音を出すことに意味がないと感じてしまったときに「やめようかな」って思いました。
川村健司(G) がんばってみたんですけど、設定した目標に体が合わなかったという感じですね。
江畑 なんとか受け入れようとしたし、なんとか納得しようとしていたんですけど、無理だった。
──でも、バンドを解散しようということにはならなかったんですよね。
江畑 あの頃は、僕が勝手に1人で悩んでいるくらいの感じでしたからね。自分の問題だと思っていたんです。
広田周(Dr) でも、バンドとして良くない状況になってるなとは思ってました。
川村 もちろん、その体験が全てマイナスだったとは思わないんですけどね。
江畑 谷底まで行ったからこそ、今振り切れるわけですから。
CD収録曲
- パノラマセカイ
- イチバンボシ
- Darling
- Greendays
- 麦色
- 書き置き
- ヨワキモノタチ
- 優しい嘘
- つれづれのマイナーナイナー
- 友よ
- -mori-
- 雪のアスタリスク
- Hello
- 六畳リビング
初回限定盤 DVD収録内容
- パノラマセカイ(MUSIC CLIP)
- イチバンボシ(MUSIC CLIP)
- Greendays(MUSIC CLIP)
- 雪のアスタリスク(MUSIC CLIP)
- 友よ(MUSIC CLIP)
TRIPLANE(とらいぷれいん)
2002年4月に札幌で結成された、江畑兵衛(Vo,G)、武田和也(B)、川村健司(G)、広田周(Dr)からなる4人組バンド。2004年4月にオリジナル曲「スピードスター」がhitomiにカバーされたことで注目を浴び、同年10月にシングル「スピードスター」でメジャーデビューを果たす。2006年には「Dear friends」がアニメ「ONE PIECE」のエンディングテーマに起用され、リスナー層を拡大。以降もキャッチーなメロディと安定したバンドサウンドで活動を続ける中、2011年1月に「イチバンボシ」がサッポロビールの北海道エリア年間タイアップに決定。さらに北海道キロロリゾートCMソングや、2012年度サッポロビール北海道エリア企業CMソングを担当する。2012年2月に5thアルバム「V」をリリース後、23公演におよぶ全国ツアーを開催する。