tricotがミニアルバム「リピート」を3月20日にリリースした。本作は全5曲の曲間をすべてライブのようにドラムやギターフレーズでつなげた、バンドにとって挑戦の1枚だ。
音楽ナタリーでは本作の発売を記念し、中嶋イッキュウ(Vo, G)とSiMのMAH(Vo)の対談を実施。付き合いの長い2人に、バンドを続けていく中でのコンポーザーとしての変化やバンドの環境の変化について語り合ってもらった。
取材・文 / 小林千絵 撮影 / 斎藤大嗣
小学生の服をきたtricotとジャケットでキメたSiM
──付き合いの長い2組ですが、そもそもの出会いはなんだったんですか?
MAH(SiM) tricotが初めて「京都大作戦」に出たときにうちのメンバーが観に行って「ヤバかった!」って言ってて。俺はそのとき観れなかったんだけど、音源を聴かせてもらって「ヤバい」と思ってツアー(2013年5月開催の「EViLS TOUR 2013」)に誘ったのが最初かな。
中嶋イッキュウ(tricot) そうです、そうです。キャンセルで飛ばしちゃったんですけど。せっかく誘ってもらってたのに前のメンバーが捕まって出れへんくなって。
MAH そっか、そのときか。
中嶋 はい。そもそもtricotが初の全国流通盤(2012年5月発売のミニアルバム「小学生と宇宙」)を出したとき、発売日がSiMと一緒やったんですよ。
MAH そうやったんや?
中嶋 そうなんです。SiMのメジャー1作目やったかな? いろんなCDショップに挨拶回りに行ったときにSiMの売り場を見て、そのときはSiMとtricotは一生交わることはないなと思ってました。私たち、小学生の服とか着てたし、SiMはジャケットでキメてて(笑)。
MAH あはは(笑)。
中嶋 なのにツアーに誘ってもらって。出れなくて悔しい思いをしながら観たSiMのライブがめちゃくちゃカッコよくて衝撃を受けました。音源を聴いて想像していた何億倍もヤバかった。1発目の音が、体感したことのない音やったんですよ。対バンで出てたバンドの人たちと全然違う音だった。「どうなってるんやろう」って……今も思ってます(笑)。
MAH 音響さんの腕がいいんですね(笑)。
中嶋 それは人を選ぶ力があるということで、そういう面でも見習わなければと思いました。
MAH 周りの同じようなジャンルのバンドってみんなギター2本で、さらにシンセが鳴ってたりするんですけど、俺らはギター1本で最低限の音しか鳴ってないから、音圧では勝てない。だからパンチのある音を作ろうというのは、メンバーでずっと話していて。ライブにしても、tricotと出会ったときにはもうチームで動いてたし、そこは「お!」と思ってもらえたのかもね。
中嶋 はい、SiMのチームにはずっと憧れてました。雰囲気もすごくよかったから。
MAH 同じツアーのファイナルシリーズの北海道で、ようやく一緒にライブできたんだよね。正直「音はヤバいけど、言うてもライブは想像の範疇だろうな」と思ってたんですよ。そしたら全然違った。ギターを振り回すとか、メンバーがみんな好き勝手暴れてるとか、自分たちも目指してるところだったんですけど、それを女の子ができるなんて想像もしてなかった。僕らの世代だと9mm Parabellum Bulletがそういうバンドとして出てきて話題を集めてて。俺らも負けたくねえと思ってたところに「tricotまで!」という感じでしたね。
中嶋 私たち、9mmが出てきたときに衝撃を受けて。漫画喫茶のシアタールームっていうデカい部屋を借りて、みんなでYouTubeで9mmのライブ映像を流して、楽器持たずに動きだけ真似してました(笑)。
MAH それヤバいね(笑)。
イッキュウは年々歌がよくなってる
──お互いの楽曲についてはどういう印象ですか?
MAH 初めてtricotを聴いたときはびっくりしました。変拍子をガンガン使ってるうえで、歌がポップだからキャッチーですごいなと。俺、チャットモンチーがすごく好きなんですけど、女子がやる変拍子のピークってチャットモンチーだと思ってたんです。さっきからすごく男女で区別してるように聞こえると思うんですけど、俺の中のその男女の差みたいなものを超えてきたのがtricotだったんですよね。
中嶋 あえて変拍子を使おうとか思ったわけじゃなかったんですけどね。私たちの地元では変拍子を使ったバンドが多くて「じゃあ自分たちも」と自然にそういう曲が増えていったというか。地元のバンドのカッコいいところを盗んでいった感じです。
MAH 俺らも地元の先輩が、みんな“元ハードコアバンドマンで今はレゲエやってる”みたいな人が多くて、昔から地元のライブハウスに行くと、いかついタトゥー入った人たちがレゲエをやってたんですよ。だから自分たちの曲にも自然とレゲエが入ってきた。
中嶋 そうやったんですね。SiMの曲は、ボーカルはもちろんなんですけど、ほかのパートも全部歌いたくなるんですよね。tricotの機材車の中で、口でSiMのコピバンやってました(笑)。歌いたくなるというのはほかのバンドの曲では思ったことがなかったので新鮮でしたね。
──では、お互いをボーカリストとしてはどう見てますか?
中嶋 MAHさんは楽器を持たずに体1つで堂々としててセクシーでうらやましいです。自分にはできひんなと。私は端っこに行きたいがゆえにあの立ち位置でやってるので(笑)。
MAH 真ん中が嫌ってこと?
中嶋 はい。真ん中に立つのが怖いから端っこにいて、できるだけパフォーマンスをしなくてもいいように、手持ち無沙汰感を減らすために弾けもしないギターを持っていて。MAHさんは潔いし、自分とは全然違うなと思いました。
MAH そんなことないでしょう! イッキュウは年々歌がすごくよくなってて。出会った頃はまだ不安定なときもあったんですけど最近は観るたびに「あれ? こんなにうまかったっけ?」と思う。伸びしろがいっぱいあって、うらやましい。
中嶋 いやいや(笑)。私、SiMと対バンするときは緊張していつもうまく歌えないんですよ。「今日こそちゃんとやろう」って思うんですけど……。
MAH 最近だいぶいいけどな。
中嶋 だから対バンじゃないときに観に来てほしいです(笑)。
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「tricotはこうでなければ」がなくなった
- tricot「リピート」
- 2019年3月20日発売 / BAKURETSU RECORDS
-
豪華限定BOXセット(タワーレコード限定) [CD+グッズ]
9720円 / BKRT-014 -
通常盤 [CD]
1620円 / BKRT-013
- 収録曲
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- good morning
- 大発明
- BUTTER
- リフレクション
- 悪口
ツアー情報
- tricot「大反射祭 Tour」
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- 2019年3月22日(金)福岡県 Queblick
- 2019年4月5日(金)宮城県 仙台MACANA
- 2019年4月12日(金)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
- 2019年4月21日(日)北海道 COLONY
- 2019年4月26日(金)愛知県 CLUB UPSET
- 2019年4月28日(日)東京都 TSUTAYA O-EAST
- 2019年5月5日(日・祝)兵庫県 MUSIC ZOO KOBE 太陽と虎
- 2019年5月17日(金)沖縄県 Output
- tricot(トリコ)
- 中嶋イッキュウ(Vo, G)、キダモティフォ(G, Cho)、ヒロミ・ヒロヒロ(B, Cho)により2010年9月に結成される。2011年5月にサポートメンバーのkomaki♂(Dr)が正式加入。8月にライブ会場および通販限定で1stミニアルバム「爆裂トリコさん」をリリースし、11月には自主企画イベント「爆祭-BAKUSAI-」を初開催した。2012年5月には初の全国流通作品となる2ndミニアルバム「小学生と宇宙」を発売。継続的なリリースや、大型フェスなどへの出演、海外ツアーの開催など精力的に活動する中でkomaki♂がバンドを脱退する。その後も活動を止めることなく、サポートメンバーを迎えて2015年2月に4thシングル「E」、3月に2ndアルバム「A N D」を発売した。9月にバンド結成5周年を迎え、10月から翌2016年3月まで北米、日本国内、ヨーロッパツアーを実施。同年4月には2015年夏に実施したドラマーオーディションの応募者から選ばれた4名とともに制作した新作CD「KABUKU EP」を、2017年5月には3rdアルバム「3」を発売した。同年11月にはサポートドラマーの吉田雄介がバンドに正式加入。2018年5月からはアメリカ国内26都市を回るツアーをスタートさせ、ツアーに合わせて7inchアナログ「potage」をアメリカのTopshelf Recordsと日本のFLAKE RECORDSから発売した。2019年3月にミニアルバム「リピート」を発表。
- SiM(シム)
- MAH(Vo)、SHOW-HATE(G)、SIN(B)、GODRi(Dr)の4人からなる湘南で結成されたレゲエパンクバンド。2004年11月に結成され、数度のメンバーチェンジを経て2009年に現編成となる。2011年「KiLLiNG ME」のMUSIC VIDEOの視聴回数がインディーズバンドとしては異例の再生回数を記録。同曲を収録したアルバム「SEEDS OF HOPE」もスマッシュヒットを記録した。2013年、ユニバーサル・ミュージックに移籍し、シングル「EViLS」でメジャーデビューを果たす。その後も着実にリリースを重ね、2015年11月には日本武道館公演も完売させた。2016年4月には4thフルアルバム「THE BEAUTiFUL PEOPLE」を発売。同アルバムのリリースツアーのグランドファイナルとして行った神奈川・横浜アリーナでのワンマンライブは即日の完売となる。2017年9月には兵庫・ワールド記念ホールで対バン企画「THE EYEWALL NiGHT vol.1」を実施。12月にPlayStation4専用ソフトウェア「龍が如く 極2」のテーマ曲およびエンディング曲を収めた両A面シングル「A / The Sound Of Breath」を発表した。2019年6月には野外で5度目の開催となる主催フェス「DEAD POP FESTiVAL 2019」を開催する。