音楽ナタリー Power Push - tricot
ドラマー4人と見せる化学反応
7人で昼の15時から飲み始めてベロベロに
──では改めて、「KABUKU EP」について聞かせてください。今回はドラマーオーディションで選ばれた4人のドラマーと一緒に制作が行われたわけですが、そもそもなぜオーディションをしようと考えたのでしょうか?
中嶋 前のドラマーのkomaki♂が抜けてすぐくらいから、オーディションも選択肢の1つとしてあったんですけど、ずっと美代さん(山口美代子 / DETROITSEVEN)が叩いてくれて、それがよかったのもあったから、オーディションの話はしばらく流れてたんです。でもやっぱりドラマーがいないと制作が滞ってしまって。そう思ってたときにヒロミさんが「やっぱりドラマーオーディションやろう」って言ってくれたのがきっかけになって、ホントはメンバー1人選ぶつもりで募集を始めたんです。
──応募ってどれくらい来たんですか?
中嶋 200弱くらいかな。三次審査まであって、最初はドラムを叩いてる映像か音源を送ってもらって、そこからまず20人くらいに絞って、その人たちにギターとベースだけの音源を送って、自由にドラムをつけてもらうっていうのをやって。そこからさらに7人くらいに絞って、一緒にスタジオに入ってみて今回レコーディングに参加している4人になったって感じです。メンバーにするしないを抜きにしても「こんな人おるんや」「すごいな」って、びっくりすることが多かったです。
──でも結果的に、今回は1人に絞ることはできなかったと。
中嶋 そうなんです。やっぱり一緒に曲を作ってみないとわからへんっていうのもあって、今回はその4人と作った曲で作品を作ることにしました。その4人はもともと他人でお互いスタジオで会うこともないわけですけど、でも知らん人たち同士のまま1枚の音源を作るよりも7人でメンバーやと思って作ったほうが絶対いいアルバムできると思って、7人で飲みに行ったんです。もともとライバルだった4人とみんなで昼の15時から飲み始めて、ベロベロになって「いい音源作ろうぜ!」って(笑)。7人でLINEのグループも作って、毎回のスタジオ音源も送ってたから、「じゃあ、俺はこういうのにしよう」みたいな、自分を出せる作り方をしたんで、一曲入魂っていうのが音にも出てるなって思います。
──すごいなあ、そのまま番組になりそう(笑)。
中嶋 1人北海道の人がいたんで、マスタリングが終わってその人が帰る前にみんなで打ち上げもしたんですけど、たまたまうちらがヨーロッパツアーに出る便とその人が北海道に帰る便の空港と時間が一緒で、最後にそこで会って、「ホンマにありがとうございました」って言ってお互い飛ぶっていう(笑)。ひさしぶりに「バンドやな」って思ったっていうか、バンドを組んですぐの頃の感じを思い出しました。ドラマー4人もおったけど(笑)。
──キダさんはひさびさのスタジオでの作業はどうでしたか?
キダ 「やっぱりこれやな」って思いました。スタジオで直でやり取りできるのが自分にはすごく合ってるなって、それを再確認しましたね。パッと言って瞬時にそれを叩いてもらうっていう、そういうのがよかったと思います。
ヒロミ ドラマーの人にも「どんな感じにしたいですか?」って逆に聞いたりもして、その人の案から進んだ曲もあって面白かったです。あと最初にギターリフがメインにあって曲作りすることが多かったんで、キダさんが曲を想像しやすいというか、一番やりやすい感じがこのやり方なんやろうなって改めて思いました。
フルアルバム分の素材が5曲にギュッと詰まってる
──では、ドラマーを紹介してもらいつつ各曲について話してもらおうと思うんですけど、1曲目の「Nichijo_Seikatsu」はドラムレスの曲ですね。
中嶋 最初はドラマー1人に対して1曲で4曲のEPを作ろうとしてたんですけど、曲が仕上がっていくにつれて「ヤバい」と思ったというか、1曲1曲が強すぎるなって思って。それでもう1曲欲しいと思ったのと4人と一緒にがんばったのを経て、あえて3人だけでできることを1曲目に入れたいと思ったんです。もともとtricotはコーラスも持ち味だと思ってて、コーラスだけの曲を作りたいねって話は前からあったので、じゃあここでやってみようと。ギリギリで作ったんでライブ後に録ったりけっこう大変でした。
──イントロダクション的な曲を経て、次の「節約家」のドラマーはYuma Abeくんですね。
中嶋 Abeくんは今回の中では最年少で、今21歳なんです。オーディションのとき全員に「将来の夢は何ですか?」って聞いたんですけど、Abeくんは「ドラムで飯食いたい」って言ってて。一緒に合わせたらめちゃくちゃカッコよかったから「実力に対して夢が小さすぎる」って思いました(笑)。でも最後に「質問ありますか?」って聞いたら、「メンバーの募集なのかサポートの募集なのか書いてなかったけど、僕はメンバーになりたくて来たんです」って言ってて、その熱さもよかったんですよね。長くやってると忘れがちな熱い気持ちを思い出させてもらったというか(笑)。歌詞もそういう尖った部分に引っ張られて書きましたね。尖った歌詞を書いてもAbeくんのドラムで気持ちよく吹っ飛ばしてもらえると思ったので。
──自分たちが21歳の頃を思い出しました?
中嶋 そうですね。それこそバンドを結成したのが21歳のときなんですけど、今思い返すとすごかったです(笑)。5月から開催するツアー(「KABUKU TOUR 2016」)が初期に対バンしたバンドと回ろうってツアーなんですけど、その頃のことを思い出すとけっこうライブがひどかったっていうか、MCとかも荒れてたなって(笑)。
──今とはまた違う、若さゆえの衝動がありましたよね(笑)。「節約家」は曲自体はどうやって作ったんですか?
キダ Abeちゃんに「どういう曲やってみたい?」って聞いたら、「『おやすみ』(2013年にリリースされたtricotの2ndシングル表題曲)が好きだからリフ押しの曲をやりたい」って言ったので、その場でリフを出したらわりとすぐに曲になりました。
──途中のダブパートも含め、かなり展開が多いですよね。
中嶋 最近曲が長くなるんですよね。詰め込みたくなっちゃう。やっぱり、しばらく作ってなかったから、それだけ溜まってたんやろうなって。あれもやりたいこれもやりたいっていうのがあって、本当はそれで5曲くらい作れるはずなんやけど、1曲にしちゃう感じ。だから、今回のEPにはフルアルバム分の素材が5曲にギュッと詰まってる感じかな(笑)。
──3曲目の「あーあ」のドラムはAkiyuki Kitagawaくんですね。
中嶋 この人がさっき言った北海道の人で、今回の中で唯一働きながらバンドをやってる人なんですけど、この人は一次審査の映像を見たときからヤバいと思いました。ドラムもヤバいんですけど、人がヤバそうだった(笑)。でも実際会ってみたらめちゃめちゃ人当たりがいいし、曲作りもリードしてくれたんです。「ドラム始まりにしよう」って私が言ったら「俺リムショットから始まる曲作りたい」って叩き出して「キダちゃん、こういうの弾いて」って言われて、一番早くできました。「作曲:Kitagawa」でもいいくらい(笑)。
──イントロからしてインパクトあるし、うまいですよね。
中嶋 なので早く仕事辞めてドラマーになってほしいって気持ちが強くて、歌詞もそういう内容になりましたね(笑)。Kitagawaさんもホンマは仕事辞めてドラマーになりたいけど、辞めるきっかけがなかったって言ってたんで、そのきっかけになれたらうれしいなって。それで一緒にやりたいと思ったっていうのもありますね。
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収録曲
- Nichijo_Seikatsu
- 節約家
- あーあ
- プラスチック
- 青い癖
tricot(トリコ)
中嶋イッキュウ(Vo, G)、キダモティフォ(G, Cho)、ヒロミ・ヒロヒロ(B, Cho)により2010年9月に結成される。2011年5月にサポートメンバーのkomaki♂(Dr)が正式加入。8月にライブ会場および通販限定で1stミニアルバム「爆裂トリコさん」をリリースし、11月には自主企画イベント「爆祭-BAKUSAI-」を初開催した。2012年5月には初の全国流通作品となる2ndミニアルバム「小学生と宇宙」を発売。継続的なリリースや、大型フェスなどへの出演、海外ツアーの開催など精力的に活動する中でkomaki♂がバンドを脱退する。その後も活動を止めることなく、サポートメンバーを迎えて2015年2月に4thシングル「E」、3月に2ndアルバム「A N D」を発売した。9月にバンド結成5周年を迎え、10月から翌2016年3月まで北米、日本国内、ヨーロッパツアーを実施。同年4月には2015年夏に実施したドラマーオーディションの応募者から選ばれた4名とともに制作した新作CD「KABUKU EP」をリリースした。