背中に“ロックンロール”と書いて活動しているような人たち
──アキマさんがボーカルを取った曲も素晴らしいです。特に吉井和哉さんと一緒に歌った「Sitting Next To You」(マーク・ボランとデヴィッド・ボウイによる幻のコラボレーション曲)は今回のトリビュートの大きなポイントですよね。
アキマ そうだね。実は去年もボランのトリビュートアルバム(「It's young and gold and silvery old~GLAM ROCK EASTER 30th ANNIVERSARY~」)をリリースしているんだけど、2年連続で出すにあたってモチベーションを上げてくれたのが「Sitting Next To You」なんです。この曲はボランとボウイがホテルの部屋で共作したと言われている楽曲で、当時ボランがホストを務めていた30分の音楽番組(1977年放送の「MARC」)の最終回で演奏されたんです。ボウイと一緒に番組のエンディングでセッションしたんだけど、イントロが終わってボウイが歌い始めた直後にボランがステージから足を踏み外してしまい、そのまま終わってしまった。その直後にボランが亡くなったから、そのテレビ番組が実質的に最後の演奏だったんですよね。ボランはこの曲を最後まで演奏できなかったことを悔やんでいたそうだから、生誕70年の今年、その曲を完成させて出してあげたいなと思って。
──ボウイとボランの関係性を改めてクローズアップするという意義もありますね。
アキマ 今回のアルバムに入っているボウイの「The Prettiest Star」(1970年発表のシングル)はボウイが歌、ボランがギターを弾いているんだけど、2人が公式に共演した楽曲はこの1曲だけなんですよね。ボウイも亡くなってしまったから。それ以来2人が一緒にやることはなかったんだけど、亡くなる間際に2人で曲作りしてたってことは、もしボランが生きていたら、いろいろやったかもしれないなって。「Sitting Next To You」も正式な音源はなくて、テレビの放送素材や残されたデモテープをもとに「もし完成してたら、こんな感じだっただろうな」と想像しながら作ったんです。
──日本のロックンロールを作り上げてきたボーカリストと、それを継承してきたボーカリストが一堂に介しているのも、このトリビュートの魅力だと思います。村越“HARRY”弘明さんの「The Slider」、加藤ひさし(THE COLLECTORS)さんの「Midsummer Night's Scene」も最高だし、インディーズ時代から共演することが多かったROYさん、オカモトショウ(OKAMOTO'S)さん、志磨遼平(ドレスコーズ)さんも参加していて。
アキマ 特にTHE BAWDIES、OKAMOTO'S、ドレスコーズは背中に“ロックンロール”と書いて活動しているような人たちですからね。ROYもライブ中、はっきり“ロックンロール”って口に出すでしょ?
ROY もう何回言ったかわからないですね。一昨日も言いました(笑)。
アキマ いいね(笑)。俺は“ロック”ではなくて“ロックンロール”が好きなんだよ。「生き方がロック」みたいな言い方も嫌い。生き様の問題ではなくて、ロックンロールは音楽のスタイルだから。そこを勘違いしないで活動しているバンドは素晴らしいと思う。THE BAWDIESは武道館をいっぱいにするようなバンドだし、そこで“ロックンロール”と叫んでる。そういうバンドがいてくれないと困るんだよね。
ROY ありがとうございます。自分たちは「音楽で有名になりたい」とか「トップに立ちたい」ということではなくて、俺らが影響を受けたロックンロールの素晴らしさ、「こんなにもすごい音楽があるんだよ」ということを伝えたいんですよね。それを生涯かけてやっていきたいなと。
アキマ 俺もロックンロールの枠から外れないようにしてるんですよ。だからオシャレなコードとかもなるべく使わない(笑)。
ROY 自分たちの場合はThe Sonicsが中心だったんですけど、そこはブレないですからね。アキマさんもそうだと思いますけど、いろんな音楽が全般的に好きというより「俺はココ!」と言い切ってると言うか。そういう人ってあんまりいないですよね。
アキマ 人生をかけてやろうとしても、たぶん最後まではやり切れないと思うんですよ。やればやるほど深さがあるし、全然底が見えない。今回のトリビュートのレコーディングでも、いろんな発見がありましたからね。幅広くいろんなジャンルの音楽に手を出してしまったら、結局、何もやれないんじゃないかな。
T. Rexを聴いてしまうと、先に答えを知ってしまう気がした
──ここから改めてお二人にT. Rexの魅力について伺いたいと思います。まずROYさんにとってT. Rexとはどんなアーティストですか?
ROY 僕はもともとブラックミュージックが好きなんですけど、その延長線上にボランを感じていたんですよね。ブラックミュージックを吸収したうえでロックンロールを奏でていると言うか。タイプは違いますけど、ポール・ウェラーもそういうアプローチだと思うんです。
──The Beatles、The Rolling Stonesもそうですよね。アメリカのブラックミュージックの影響を強く受けていて。
アキマ イギリスにはそういうアーティストが多いよね。
ROY そうなんですよね。これは個人的な考えなんですけど、ブラックミュージックが好きな黒人ではないアーティストって、自分と同じだなと思っちゃうんですよ。だからボランの音楽はあまり聴き込まなかったんです。ボランは黒人音楽の影響を受けながら、自分の表現を見つけたわけですよね。僕も「自分の答えは自分で見つけたい」と思っていたから、まずは黒人音楽だけを聴いていたんです。T. Rexを聴いてしまうと、先に答えを知ってしまう気がして。ちゃんとT. Rexを聴いたのは、THE BAWDIESを始めてからですね。
アキマ なるほどね。確かにボランはブラックミュージックが好きだったけど、それを自分で表現できていたかと言うと、全然できてないと思うんだよね。
ROY ボランは感覚的な人だったんじゃないかと思うんですよ。The Beatlesやポール・ウェラーは「ブラックミュージックのこういう部分を抽出しているだろうな」というのがわかるんですけど、ボランの音楽を聴いてもつかみきれないし、マネしようと思ってもできない。やっぱり天才なんですよね。
アキマ ボランはいろんな音楽に影響されているんだけど、彼のフィルターを通ると、まったく違うものになっちゃうんだよね。もともとボブ・ディランが大好きだったのに、やってる音楽はぜんぜん違うじゃないですか。
ROY 確かに。
アキマ 「Get It On」をリリースしてヒットを連発したあとは、ソウルミュージックやディスコサウンドに傾倒してるんですよ。ボランはすごく貪欲だったから「流行っている音を取り入れないとダメだ」って。当時注目されていたGonzalezというファンクバンドがいて、ボランのガールフレンドのグロリア・ジョーンズのお兄さんが在籍していたから、紹介してもらったみたいなんですね。そこで彼らのサウンドを吸収して、「Light Of Love」(1974年発表のシングル)を作って。ソウルやディスコをやろうとしても、いい意味であの程度ですから。
ROY あの程度(笑)。それを言えるのはアキマさんだけですよ。アキマさんはほぼボランなので。
アキマ いやいや(笑)。俺もこんなこと言っていいのかわからないけどね。「Light Of Love」は俺も大好きな曲なんだよ。ソウルやディスコを取り入れようとしてもどっぷりそっちにはいけない感じが好きなんだよね。
今回のトリビュートがT. Rexと若いリスナーの接点になったらうれしい
──どんな音楽を取り入れても、結局はボランの音楽になるんですね。
アキマ アクが強いからね。ボランは3コードのブルースも好きで、彼の家にあったデモテープにはそういう曲がたくさんあるんです。でも、やっぱりうまく表現できてないんですよ。
ROY そういう場合、普通はコンプレックスを感じると思うんですよ。例えばエリック・クラプトンはブルースを徹底的に突き詰めて、誰にも何も言わせないような音楽を作ることでコンプレックスを解消したわけですよね。ボランはそういう方法ではなくて、もっと楽しく自分の音楽にしているイメージがあって。たぶん自分に自信もあったんじゃないかな。
──圧倒的なスター性もありましたからね。
アキマ そうだね。ボランはサイモン・ネピア・ベルという名プロデューサーにいきなり電話をかけて「俺は大スターになるから、お前にプロデュースさせてやる」って言ったんだよね。サイモンは最初「馬鹿が電話をかけてきた」と思ったんだけど、「とりあえずデモテープを送れ」って言ったら、今度は「お前の家の前にいるから直接聴かせてやる」と。
ROY すごい(笑)。
アキマ 実際に生ギターで40分くらい歌ったらしいんだけど、それがすごくよくて、サイモンは「君は本当にスターになれるよ」と言ったんだよね。そしたらボランは「だから言ってるだろう」って(笑)。でも、すぐにスターになったわけではなくて、最初はうまくいかなかったんです。ボランは現実とのギャップに耐え切れなくてずっと吐いてたらしいけど、ほとんど曲も出してないのに「俺はスターになれる」と思ってたのはすごいよね。
──今年はボランの没後40年目にあたりますが、亡くなったあともずっとスターであり続けている稀有な存在ですよね。
アキマ 楽曲がCMや映画で使われることも多いからね。でもね、俺が中学、高校くらいの時期って、周りは「T. Rexは大嫌い」というヤツばっかりだったんだよ。
ROY そうなんですか?
アキマ うん。ブームが終わったあとってそういうものかもしれないけど、「どうでもいい」ではなくて「大嫌い」ってヤツが多かった。だから俺、ずっと1人でT. Rexを聴いてたんだよ。その10年後くらいに「T. Rexいいよね」ってヤツが急に増えたんだけど、そんなの全然信用してなかったし、「嘘つけ! お前、大嫌いって言ってただろう」って思ってて。今回のトリビュートに関連した対談集(9月13日発売の「CHILDREN OF THE REVOLUTION~ロックが僕達にもたらしたもの~」)が出るんだけど、その中でTHE COLLECTORSの加藤ひさしくんがハッキリと「俺はT. Rexが嫌いだった」と言ったんですよ。そのときは「だよね! そう来なくちゃ!」と思いました(笑)。加藤くんとは同い年なんですけど、やっぱり信用できる人だなって。今は本当にT. Rexを好きでいてくれる人もいっぱいいるし、すごくうれしいですね。
ROY このトリビュートをきっかけにT. Rexを聴く人もいるだろうし。「Get It On」や「20th Century Boy」は聴いたことがあっても、それがT. Rexの曲だって知らない人もいると思うんですよね。
アキマ そうだね。参加してくれたアーティストのファンの人がこのトリビュートを聴いて、「いい曲だな」と思って原曲に触れてくれたら大成功。今回のトリビュートがT. Rexと若いリスナーの接点になったらうれしいですね。
- V.A.「T. Rex Tribute ~Sitting Next To You~ presented by Rama Amoeba」
- 2017年9月13日発売 / Victor Entertainment
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[CD]
3000円 / VICL-64822
- 収録曲 / 参加アーティスト
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- Get It On / ROY(THE BAWDIES)
- Celebrate Summer / オカモトショウ(OKAMOTO'S)
- Light Of Love / アキマツネオ feat. 廣瀬“HEESEY”洋一(THE YELLOW MONKEY)
- 20th Century Boy / 菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)
- Metal Guru / シシド・カフカ
- The Slider / 村越 “HARRY” 弘明
- Dreamy Lady / 志磨遼平(ドレスコーズ) feat. 越川和磨(THE STARBEMS)
- Midsummer Night's Scene / 加藤ひさし(The Collectors)
- Life's A Gas / アキマツネオ&橋本愛奈(Ciao Bella Cinquetti)
- The Soul Of My Suit / 日高央(THE STARBEMS)
- The Prettiest Star / 吉井和哉(THE YELLOW MONKEY)
- Sitting Next To You / アキマツネオ&吉井和哉(THE YELLOW MONKEY)
- 「CROSSBEAT presents『CHILDREN OF THE REVOLUTION~ロックが僕達にもたらしたもの~』」
- 2017年9月13日発売 / シンコーミュージック・エンタテイメント
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[書籍] 1620円
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T. Rexのトリビュートアルバム「T. Rex Tribute ~Sitting Next To You~ presented by Rama Amoeba」をプロデュースしたアキマツネオと、本作に参加したアーティストによる“ロック対談集”。
- 登場アーティスト
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吉井和哉(THE YELLOW MONKEY) /廣瀬“HEESEY”洋一(THE YELLOW MONKEY) /加藤ひさし(THE COLLECTORS) / シシド・カフカ / ROY(THE BAWDIES) /日高央(THE STARBEMS) /菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet) / オカモトショウ(OKAMOTO'S) / 越川和磨(THE STARBEMS)
- T. Rex「BEST OF T. REXXXXXXX」
- 2017年9月13日発売 / Victor Entertainment
-
[CD]
2916円/ VICP-65470
- 収録曲
-
- Solid Gold Easy Action
- Metal Guru
- Telegram Sam
- The Slider
- Chariot Choogle
- Cadilac
- Children Of The Revolution
- Mad Donna
- Left Hand Luke And The Beggar Boys
- 20th Century Boy
- The Groover
- Truck On(Tyke)
- Venus Loon
- Teenage Dream
- Light Of Love
- Zip Gun Boogie
- Jupiter Liar
- Dawn Storm
- London Boys
- Universe
- Dandy In The Underworld
- Celebrate Summer
- 「~マーク・ボラン追悼~ GLAM ROCK EASTER Vol.31」
- 2017年9月16日(土)東京都 東京キネマ倶楽部
- 出演者 Rama Amoeba(featuring Mitsuhiro Ishida) / 廣瀬“HEESEY”洋一(THE YELLOW MONKEY) / 日高央(THE STARBEMS) / 宮田和弥(JUN SKY WALKER(S))
サポートメンバー:三国義貴 / 原田千栄 / 高仲尚子
※チケットソールドアウト
- 「T.Rex Tribute ~Sitting Next To You~」発売記念TOUR
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- 2017年9月30日(土)愛知県 ell.SIZE(ワンマンライブ)
出演者 Rama Amoeba - 2017年10月1日(日)大阪府 knave(ワンマンライブ)
出演者 Rama Amoeba - 2017年10月20日(金)福岡県 LIVE HOUSE CB
出演者 Rama Amoeba / TEENAGE NEWS / KING BEE / The Rustic One Nights - 2017年10月21日(土)福岡県 LIVE HOUSE CB
出演者 Rama Amoeba / 鶴川仁美's BLOW(ゲストギタリスト:西宗岳志) / DAZ Zeppelin
- 2017年9月30日(土)愛知県 ell.SIZE(ワンマンライブ)
- THE BAWDIES「EXPLOSION OF MUSIC MONSTERS」
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- 2017年11月15日(水)愛知県 DIAMOND HALL
出演者 THE BAWDIES / SiM - 2017年11月17日(金)大阪府 なんばHatch
出演者 THE BAWDIES / マキシマム ザ ホルモン - 2017年11月26日(日)東京都 新木場STUDIO COAST
出演者 THE BAWDIES / 9mm Parabellum Bullet / the dresscodes with B(ドレスコーズのバックバンドをTHE BAWDIESが務めるこの日限りのコラボレーションユニット)
- 2017年11月15日(水)愛知県 DIAMOND HALL
- Rama Amoeba(ラーマアメーバ)
- 2008年、マルコシアス・バンプのアキマツネオが“ワールドワイドに活動できる唯一無二のグラムロックバンド”をテーマに結成。メンバーチェンジを経て、現在はアキマ、大島治彦(Dr)、吉田ブギー(G)、清水"Matty"ケンヂ(B)の4人で活動を行う。2009年7月に初のオリジナルアルバム「Hello! End Of The World」とカバーアルバム「Golden Age Of Glam Rock」をリリースしメジャーデビューした。国内外でライブ活動を行い、これまでに3枚のオリジナルアルバムを発表。アキマがスタートさせ、現在ではバンドが主催するマーク・ボラン追悼イベント「GLAM ROCK EASTER」は2016年で30周年を迎えた。
- THE BAWDIES(ボゥディーズ)
- ROY(Vo, B)、TAXMAN(G, Vo)、JIM(G)、MARCY(Dr)によって2004年1月1日に結成。リズム&ブルースやロックンロールをルーツにした楽曲と熱いライブパフォーマンスが各地で噂を呼ぶ。2009年4月に発表したメジャー1stアルバム「THIS IS MY STORY」は「第2回CDショップ大賞」を受賞。2013年1月に4thアルバム「1-2-3」をリリースし、同年2月より横浜アリーナ、大阪城ホール公演を含む59公演の全都道府県ツアーを開催した。2014年1月に結成10周年を迎え、同年3月にカバーアルバム「GOING BACK HOME」を、12月には5thアルバム「Boys!」を発表し、2015年3月には2度目の日本武道館公演を成功に収めた。10月にペトロールズの長岡亮介をプロデューサーに迎えたシングル「SUNSHINE」を、2016年7月にはgo!go!vanillasとのスプリットシングル「Rockin' Zombies」をリリース。2017年2月には約2年ぶりのニューアルバム「NEW」を発売した。