音楽ナタリー Power Push - TOWA TEI

盟友・伊藤桂司&五木田智央と考える“音楽とジャケット”

残りの人生は自分の作品を作っていきたい

──ところで、伊藤桂司さんはテイさんのソロデビュー作「Future Listening!」(1994年)のブックレット内でアートワークを手がけていますよね。

TOWA TEI もともと僕は「週刊SPA!」とかで描いていた桂司さんのファンだった。ニューヨークに行ったばかりの80年代末、同じく「週刊SPA!」で連載していたマンガ家の中尊寺ゆつこが僕のファンだったから、桂司さんの絵が見たくて「週刊SPA!」を彼女に送ってもらっていて。

伊藤 中尊寺さんとそんなことがあったの!?

左から伊藤桂司、TOWA TEI、五木田智央。

TOWA TEI その後、「Future Listening!」のジャケット自体はデヴィッド・バーンに紹介してもらったインド系イギリス人にお願いしていたので、ブックレットで桂司さんに描いてもらったんです。

伊藤 僕は、レコード屋の知り合いに「これ、サイコーですよ」と薦められてDeee-Liteの盤と初めて出会ったけど、それを聴いてテイさんの大ファンになったんです。

TOWA TEI じゃあ、両思いですね(笑)。

伊藤 あるとき、外出先から自分の事務所に戻ったら、スタッフが半分震えながら「今、テイさんから電話がありましたよ!」と言ったんです。それが「Future Listening!」の依頼の電話だったんですけど、あのときは舞い上がったなあ。

──「Future Listening!」のときも、テイさんは桂司さんに具体的な注文を付けなかったんですか?

TOWA TEI そうだね。そして、「ハタチ」のときに桂司さんに装画を描いてもらって、ひさしぶりに一緒に仕事をしたと。

伊藤 20年ぶりだったのかな。

──その「ハタチ」の中で、五木田さんは10年以上前のご自身について「イラストの仕事がいっぱい来るから、自分の職業がなんなのかわからなくなっちゃったんです。画家じゃなくてイラストレーターでいいやと思った時期もあったんですけど、実際に仕事をこなしていくのは本当に大変で……」と語っています。現在の五木田さんは、ジャケットや雑誌のイラストのような商業仕事と、アートとして発表できる作品に対して、どのように力を使い分けているのでしょう?

五木田 今の僕は画家としか言いようがなくて、イラストレーターではないですね。いろいろ積み重ねてきたので、仕事の場合は受けられないものもあって、基本的にイラスト仕事にはもう応えられない。ただ、テイさんのジャケットのような話が来たら引き受けるし、実際、スムースに描けるんです。

TOWA TEI 残りの人生が少なくなったぶん、経験値はいっぱいあるから、そういう判断ができるよね。僕は40歳くらいから死をすごく意識するようになった。残された時間があんまりないんじゃないかと思って、とっとと自分の作品を作っていきたいなと。

五木田 テイさんはハイペースでアルバムを出していますよね。

TOWA TEI でも、ほかに何もやっていないからね。今まではあれもやりたい、これもやりたいと思って、ほかの人をプロデュースをしたりしてきたけど、そういうのは全部やめたんだよ。結局、作詞作曲して自分の音楽を作るのが楽しいなって。それと、2年前にINTERSECT BY LEXUS TOKYOの監修の仕事が決まったと同時に、DJのレギュラーもやめた。ひざが痛くなったり、DJは体力的にキツくなっていたしね(笑)。

どんな仕事でも伊藤桂司だってわかることは……

──桂司さんは仕事と自己表現で力をどう使い分けていますか?

伊藤 僕の作品はイラストレーションだから、広告だからといって使い分けをしたくないなって考えていますね。それはギリギリできていると思うけど、いずれにしても職能的にこなすことはないかな。制約のある仕事も、それはそれで面白いんだよね。

──ルールの中でいかに表現するかという楽しさがあると。

五木田 ある意味、制約があったほうがラクともいえるんだけど、年をとるとそういうオファーは減って、「好きにやってください」って仕事が増えてくるんですよ。

伊藤 それは多くなるね。スチャダラパーの「11」のジャケットをやらせてもらったときも、タイトルを聞かされただけで、ほかに注文はまったくなかった。で、僕が上げたものは、一発オッケーだった。

スチャダラパー「11」ジャケット

五木田 桂司さんがすごいのは、どんな仕事でも伊藤桂司だってわかること(笑)。

伊藤 実はそれが嫌で、本当は自分がやったとわからないようにしたいんだけど……。

五木田 そうなんですか!? 「11」を見たときに、「絶対に桂司さんだ!」と思いましたからね。万が一違ったとしても、桂司さんのパクリだろうなと(笑)。

伊藤 現に、僕がやった仕事は「伊藤桂司のパクリだろ?」ってたまに言われる(笑)。でも、そういうときはうれしいんだよ。

──自分のパブリックイメージから微妙にハズした表現ができているからこそ、そういう反応が出てくると。

伊藤 そういうことです。

TOWA TEI 今は音楽がネット上で配信される時代だから、ジャケットは小さなアイコンとして扱われがちだけど、とにかくウチらはアナログのジャケットに大いに感化された世代だよね。若い頃は、レコード屋で坂本龍一さんが化粧をしてるジャケットに惹きつけられて、「どういう音なんだろう?」と思って買ってみたり。そんな3人が出会った“CUTE”なジャケットのアナログを今日は持ち寄る約束だったので、ここからはそれをどんどんかけていきましょう。

TOWA TEIオリジナルアルバム「CUTE」
[CD] 2015年7月29日発売 / 3000円 / MACHBEAT.COM / MBCD-1501
収録曲
  1. FLUKE
  2. TOP NOTE
  3. LUV PANDEMIC
  4. NOTV
  5. HEAVEN
  6. SOUND OF MUSIC with UA
  7. TRY AGAIN
  8. CUL DE SAC with Leo Imai
  9. BARU SEPEDA
  10. CHAISE LONGUE

参加アーティスト:細野晴臣、METAFIVE、Atom、NOKKO、UA、水原佑果ほか

TOWA TEI監修7inchアナログレコード「INTERSECT BY LEXUS RECORDS #001」
[アナログ] 2015年7月22日発売 / 1512円 / INTERSECT BY LEXUS RECORDS / IBLR-001
収録曲
  1. A-01. CUL DE SAC / TOWA TEI with Leo Imai
  2. B-01. 甘い生活 / 野宮真貴、高野寛
TOWA TEI(テイ・トウワ)

1990年にDeee-Liteのメンバーとして、アルバム「World Clique」で全米デビュー。その後活動の拠点を日本に置き、1994年にソロアルバム「Future Listening!」をリリースする。2005年からは「FLASH」「BIG FUN」「SUNNY」というアルバム3部作を発表し、その評価をさらに高める。2007年には自身の音楽プロダクション「hug inc.」、2010年には電子セレクトショップ「MACH」を設立。そのほか、DJやトラックメーカー、プロデューサーとして多彩な活動を展開。2014年にはソロデビュー20周年を迎え、ベストリミックス集「94-14 REMIX」、ベストカバー集「94-14 COVERS」、ベストアルバム「94-14」を続いて発表した。2015年現在、東京・青山にあるINTERSECT BY LEXUS TOKYOの店内音楽を監修。7月にはオリジナルアルバム「CUTE」をリリースした。

五木田智央(ゴキタトモオ)

1969年東京都生まれの画家。2000年、リトルモアより作品集「ランジェリー・レスリング」を出版。即興的に描かれた初期作品はカルト的な人気を集め、2000年代中盤より海外のギャラリーを中心に活躍する。個展は2006年にアメリカ・ニューヨークのATM Gallery、2007年にアメリカ・ロサンゼルスのHonorFraser Gallery、2008年に東京のTaka Ishii Galleryなどで開催。現在は美術の世界にとどまらず音楽、出版、ファッションなど各方面に活躍の場を広げている。

伊藤桂司(イトウケイジ)

1958年東京都生まれのアートディレクター。主に広告、雑誌、音楽などの分野でグラフィック、ビジュアルワーク、アートディレクション、映像を中心に活動。これまでに雑誌「Numero TOKYO」「SWITCH」「BRUTUS」「流行通信」「casaBRUTUS」「relax」「Cut」などのカバーアート、音楽関係ではTOWA TEI、スチャダラパー、キリンジ、木村カエラ、PES from RIPSLYME、ohana、クラムボン、Buffalo Daughter、野宮真貴、一青窈、BONNIE PINK、orange pekoeらのCDジャケットやミュージックビデオを手がける。ほかにNHK Eテレの番組のセットデザインやタイトル映像、ブルックリンパーラー博多の店内壁画など活躍は多岐にわたる。京都造形芸術大学教授、UFG(Unidentified Flying Graphics)代表。