音楽ナタリー Power Push - TOWA TEI
盟友・伊藤桂司&五木田智央と考える“音楽とジャケット”
TOWA TEIが7月29日にオリジナルアルバム「CUTE」をリリースした。さらに前週7月22日には、彼が店内音楽をプロデュースしている複合ラウンジ・INTERSECT BY LEXUS TOKYOの新設レコードレーベルより、テイ監修の7inchアナログレコード「INTERSECT BY LEXUS RECORDS #001」も発売された。音楽ナタリーは「INTERSECT BY LEXUS RECORDS #001」のリリースを祝うパーティを取材。現場で行われた、TOWA TEIと、前述の2作のアートワークを手がけた画家の五木田智央、テイと五木田の友人であるグラフィックアーティストの伊藤桂司による鼎談を紹介する。
取材・文 / 中矢俊一郎 撮影 / 山内聡美
「CUTE」ジャケ誕生の経緯
伊藤桂司 五木田くんは「CUTE」のジャケットをもったいぶってなかなか見せてくれなかったよね(笑)。
五木田智央 桂司さんには途中段階の絵を見せたくなかったんですよ。
伊藤 テイさんから「すごいよ」と聞かされていたんだけど、想像していたよりも実際のジャケットはすごかった。こうきたかと。
五木田 アルバムのタイトルを「CUTE」にするつもりだとテイさんから言われて、最初は一般的な日本人がかわいいと思うイメージ……例えばクマちゃんのぬいぐるみとかをカラーで描こうかと思ったんです。
TOWA TEI 今、ドラマでやっている「ど根性ガエル」のピョン吉みたいな感じ?(笑)
五木田 俺が描いたってわからない、そういうノリの絵を描こうかなと一瞬ヒネって考えたんですけど、5分くらい悩んでやっぱり白黒の絵でいきたいなと。
伊藤 意外な展開だって聞いていたけど。実際に見たら、ある意味、五木田くんの王道というか。
五木田 まあ、そうですね。そういえば「CUTE」のジャケが発表されたとき、誰かが「五木田はちゃんと顔を描けるじゃん」ってツイートしていたらしい……。
伊藤 顔が描けないから顔のない絵ばかりを描く作家だと思われていたと(笑)。
──テイさんのソロ活動20周年を記念して2014年にリリースされたシリーズ「94-14」のカバーベストアルバム「94-14 COVERS」のジャケットも五木田さんのアートワークでしたが、あのときは近年の作風に近い「顔のない絵」でしたよね。今回の「CUTE」のジャケットに関しては、テイさんと五木田さんの間でどんなやり取りがあったんですか?
TOWA TEI 「ハタチ」(2014年に出版されたテイの対談集)のときに五木田くんと初めて話したんだけど、五木田くんも音楽そのものがすごく好きだし、お兄さんが僕と同い年でYMOの影響も大きいことがわかったんだよね。だから、僕の音楽を理解してくれるだろうなと。その後、一緒に飲んだりして、YMOの「BGM」って実はタイトルが「CUTE」になる予定だったという話とかしたよね。でも、「浮気なぼくら」のタイトルが最初は「CUTE」だったという説もあり……。それを細野(晴臣)さんに尋ねたことがあるけど、細野さんもよく覚えていなくて(笑)。
五木田 でも、今回はタイトルが「CUTE」だったり、曲名が「CUL DE SAC」や「SOUND OF MUSIC」だったり、確かに「BGM」に関連したワードが使われていますよね。
TOWA TEI たまたまね(笑)。まあ、最初にそういうYMOの話もしたけど、五木田くんには基本的に“CUTE”というワードだけ与えて、あまり言葉でコミュニケーションをしていない。描いている途中で何曲か聴いてもらったけど、それでポンと出てくる絵を見たいなと。
五木田 テイさんは何も言わなかったですね。僕は小説の装画を描くときなんかも、ゲラを渡されても読まないんですよ。読むと、作品の世界に引っ張られすぎる気がして。そういうこともあって、ジャケットとかの仕事は「僕に頼んだ以上、勝手にやらせてください」という考え方なんです。非常に理不尽な話だけど(笑)。
──結果的に、今回五木田さんが描き上げたジャケットはレトロな雰囲気の絵ですよね。
五木田 僕、1930、40年代あたりのハリウッド女優のブロマイドが大好きで、「この時代の人たちはキュートだなあ」といつも思っていたんです。そうしたら「CUTE」の話が来て、5分くらい悩んだあとになんのヒネリもなく「ああいう女優の顔でいいや」って。それと、顔がなかったり見切れていたりする最近の作品っぽい絵は去年の「94-14 COVERS」ですでに描いたし、今回は新しいアルバムなので、違うことをやろうとも思っていましたね。テイさんに何も伝えずに描き進めていって、完成したところでガラケーで撮った写メをテイさんに送りました。これがダメだったら降りようと腹をくくっていたんですけど、テイさんは「こうくるとは思わなかった、バッチリじゃん!」という反応で、やり直すことなく一発で決まったんです。その後、裏ジャケやブックレットに幾何学とか文字も描くことになって、そのうちの一部が(「INTERSECT BY LEXUS RECORDS #001」片面の)「CUL DE SAC」のジャケットになったり。
音とジャケットの絵をぶつけ合いたい
──「CUTE」のジャケットは、10年ほど前に五木田さんが「STUDIO VOICE」などで描いていたイラストにも通じる具象的な絵ですよね。
TOWA TEI 最近の五木田くんはノーフェイスの作品が多いけど、顔がある絵も描き続けていたんだよね。
五木田 ただ、クオリティは昔よりかなり上がった。自分で言うなって話ですが(笑)。
伊藤 今回の絵は鉛筆で描いたの?
五木田 木炭、鉛筆、パステルの複合ですね。原画はわりとデカくて、50cm四方くらいある。
TOWA TEI 今、その原画は自宅の便所の前に飾ってあります(笑)。
五木田 アナログも出すと聞いていたので、あんまり小さい絵じゃダメだなと思って。
伊藤 あれだけ表情が豊かな絵は、やっぱりデカく描かないとね。
TOWA TEI 五木田くんから自信ありげに上がってきた今回の絵を見て、正直ビックリしたんだけど、それがお任せの楽しさだよね。例えば、音源にイルカの鳴き声が入っているから、ジャケットはイルカの絵にしようという考え方ってあるじゃん。それはそれでキュートだけど、当たり前すぎるというか。僕は音とジャケットの絵をぶつけ合いたいので。
──では、テイさんと五木田さんの間で綿密な打ち合わせは特になかったと。
五木田 ただ、ジャケットのデザインについてはちゃんと打ち合わせましたね。
TOWA TEI 五木田くんが「“CUTE”と“TOWA TEI”という文字が入ったほうがいい」と。
五木田 最近、国内海外問わず、アートっぽい文字がないジャケットが多すぎるので。
TOWA TEI 僕の「SUNNY」(2011年)なんかもそうかもしれないけど(笑)。
五木田 文字ナシのジャケットがカッコいいのはわかるんですけど……。僕はグラフィックデザイナー的な見方もできるので、今回は文字が入ったほうがジャケとしてバシッと決まる気がして。あと、絵を描いたあと、Japanの「Tin Drum」とかDuran Duranの「Notorious」のような、モノクロの写真に赤と白の文字が入っているイメージが湧いてきたんです。で、文字はYMOの「BGM」みたいに右上と右下に置きたいなと。
TOWA TEI そういう配置のジャケットは意外と少ないよね。フォントも規定のものではなくて、鈴木直之(グラフィックデザイナー)に作ってもらった。僕は“CUTEフォント”と呼んでいるんだけど。
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- TOWA TEIオリジナルアルバム「CUTE」
- [CD] 2015年7月29日発売 / 3000円 / MACHBEAT.COM / MBCD-1501
収録曲
- FLUKE
- TOP NOTE
- LUV PANDEMIC
- NOTV
- HEAVEN
- SOUND OF MUSIC with UA
- TRY AGAIN
- CUL DE SAC with Leo Imai
- BARU SEPEDA
- CHAISE LONGUE
参加アーティスト:細野晴臣、METAFIVE、Atom、NOKKO、UA、水原佑果ほか
- TOWA TEI監修7inchアナログレコード「INTERSECT BY LEXUS RECORDS #001」
- [アナログ] 2015年7月22日発売 / 1512円 / INTERSECT BY LEXUS RECORDS / IBLR-001
収録曲
- A-01. CUL DE SAC / TOWA TEI with Leo Imai
- B-01. 甘い生活 / 野宮真貴、高野寛
TOWA TEI(テイ・トウワ)
1990年にDeee-Liteのメンバーとして、アルバム「World Clique」で全米デビュー。その後活動の拠点を日本に置き、1994年にソロアルバム「Future Listening!」をリリースする。2005年からは「FLASH」「BIG FUN」「SUNNY」というアルバム3部作を発表し、その評価をさらに高める。2007年には自身の音楽プロダクション「hug inc.」、2010年には電子セレクトショップ「MACH」を設立。そのほか、DJやトラックメーカー、プロデューサーとして多彩な活動を展開。2014年にはソロデビュー20周年を迎え、ベストリミックス集「94-14 REMIX」、ベストカバー集「94-14 COVERS」、ベストアルバム「94-14」を続いて発表した。2015年現在、東京・青山にあるINTERSECT BY LEXUS TOKYOの店内音楽を監修。7月にはオリジナルアルバム「CUTE」をリリースした。
五木田智央(ゴキタトモオ)
1969年東京都生まれの画家。2000年、リトルモアより作品集「ランジェリー・レスリング」を出版。即興的に描かれた初期作品はカルト的な人気を集め、2000年代中盤より海外のギャラリーを中心に活躍する。個展は2006年にアメリカ・ニューヨークのATM Gallery、2007年にアメリカ・ロサンゼルスのHonorFraser Gallery、2008年に東京のTaka Ishii Galleryなどで開催。現在は美術の世界にとどまらず音楽、出版、ファッションなど各方面に活躍の場を広げている。
伊藤桂司(イトウケイジ)
1958年東京都生まれのアートディレクター。主に広告、雑誌、音楽などの分野でグラフィック、ビジュアルワーク、アートディレクション、映像を中心に活動。これまでに雑誌「Numero TOKYO」「SWITCH」「BRUTUS」「流行通信」「casaBRUTUS」「relax」「Cut」などのカバーアート、音楽関係ではTOWA TEI、スチャダラパー、キリンジ、木村カエラ、PES from RIPSLYME、ohana、クラムボン、Buffalo Daughter、野宮真貴、一青窈、BONNIE PINK、orange pekoeらのCDジャケットやミュージックビデオを手がける。ほかにNHK Eテレの番組のセットデザインやタイトル映像、ブルックリンパーラー博多の店内壁画など活躍は多岐にわたる。京都造形芸術大学教授、UFG(Unidentified Flying Graphics)代表。