ナタリー PowerPush - TOWA TEI

生活の中のファンタジー 7thアルバム「LUCKY」

わかりやすい感動とは真逆の風景を目指して

──テイさんには「HAPPY」という名曲がありますよね。1998年の。

あれってそんなに前ですか。

──それを経て今回の「LUCKY」というのが、いちファンとして感慨深いものがあるんですけど……。

や、それは関係ない……いや……あるのかな。生まれてから死ぬまで関係ないことなんてないもんね。人生無駄ナシって、ねえ……。

──「ラッキー」というのは「ハッピー」の直前に味わう気持ちの揺れのことだったりするじゃないですか。今回のアルバムには、うっすらと全体に期待感みたいなものが漂っていて、そこも大きな魅力になってると思うんですね。道路の向こうから「ハッピー」がやってくる予感みたいなものを、終始強く感じさせるアルバムというか。

なるほどね。確かに「HAPPY」という曲は、もう本当に親馬鹿っていうか、息子の寝顔を見て「かわいいなあ。ハッピーだなあ」みたいな感じでパパッとできたものだったから、そこで完結しているといえばしてるんだよね。その点、今回の「LUCKY」は日々の暮らしの中で「あ、ラッキーかも」と思えるものの集積であって、何かの結果を提示したものではないからね。もう少しファジーな要素があるというか。やっぱり普段の生活の中での衝動とか、気持ちのたかぶりをまとめるっていうのが、今の自分のテーマだし、そこへの挑戦が面白いからこそ自分は音楽をやめないのかな、と思いますね。だから最初のきっかけはタイトルでもいいし、歌詞でもいいし、メロディでもいいんだけど、そこになんらかのエモーションが宿っていれば、最終的にその曲は完成すると思うんですよ。逆に言えば、そういうものだけしか作品としては残らない。

──しかもその「エモーション」というのは、決して大仰なドラマというわけではなくて。

うん、「感動」じゃなく「感じる」の「感」ぐらいがあればいいのかも。あ、それが「ハッピー」以前の「ラッキー」ってことなのかもしれないね。自分が目指したいのは、わかりやすいドラマや感動とは真逆の風景だし、むしろヤマなしオチなし。言うなれば「やおい」の境地だから。

──どういうことですか?

その境地で表現する、現実でありファンタジーというのに一番興味があるんですよ。……あ、そうだ、これは絶対言わなきゃと思ってたんだけど、僕、バカリズムと一緒に曲を作りたくて。彼の「架空OL日記」って本当に最高でしょ。やろうとしてることが、すごく自分に近いと思ったんだよね。いろんなことがエキゾチックに響かなくなって、どんどんフラット化している時代に、すごく精巧な嘘をつく楽しみというか。完璧な……いや、完璧なようで完璧じゃなくて、真剣さの端々から笑いがこぼれるその匙加減というか。あれこそは究極の「やおい」だし、ほかにない表現じゃないですか。確かに「LUCKY」は日記的だと思うし、作文まんまみたいな歌詞もあるけど、同時に、すべてがファンタジーであり虚構であり作り物だとも言えると思うんですね。バカリズムの場合はそれを言葉で表現しているけど、僕は音楽でそれをやってるつもりなのね。

──それって要は「大人の音楽」ってことですよね。「大人のマナー」というか。声高ではないからこその現実であり、奇をてらわないからこそのファンタジーというか。

うん。その部分のバランス感覚というのは、やっぱり年齢といっしょに研ぎすまされていくものだよね。ロールプレイングゲームと一緒で、まだ見たことのない面をクリアしていきたいっていう願望もあれば、日記的な軽やかさを大切にしたい気持ちというのもあって、そのバランスがうまく取れたときに、「最新作であり最高傑作」が発表できるっていう。だから、世間的にどんなビートが流行っているかみたいなことはもう関係ないし、マーケティングありきで作るみたいなことも興味ないし……みたいなことばかりしゃべってると売り上げに響くのかな。

──(笑)。

ちゃんと売ってもらわないと困るんだよね(笑)。なんて書いてもらったら売れるかなあ……。じゃあ「2013年最大の自己啓発CDはこれだ!」ってのは?

──ハハハハ(笑)。

「生まれ変わるチャンス!」って。

──「痩せるアルバム」のほうがいいんじゃないですか?

「個人の感想です」って。じゃあもうそれで。キャッチはそれで。僕、そのへんは意外と適当なんですよ。そこであんまりガツガツしないっていうのも「大人のマナー」だと思うし、伝わる人には黙ってても伝わるアルバムだと思うからね。

ニューアルバム「LUCKY」/ 2013年7月10日発売 / 2940円 / Warner Music Japan / WPCL-11516

iTunes Storeにて配信中!

収録曲
  1. RADIO with Yukihiro Takahashi & Tina Tamashiro
  2. BLUE FOR GIRLS,PINK FOR BOYS
  3. ABBESSES with Ayaka Nakata
  4. KATABURI
  5. LICHT
  6. TERIMA KASIH
  7. JUXTAPOSE
  8. APPLE with Ringo Sheena
  9. WARM JETS
  10. GENIUS with Aoi Teshima
  11. LOVE FOREVER
TOWA TEI(ていとうわ)

1990年にDEEE-LITEのメンバーとして、アルバム「World Clique」で全米デビュー。その後活動の拠点を日本に置き、1994年にソロアルバム「Future Listening!」をリリースする。2007年には自身の音楽プロダクション「hug inc.」、2010年には電子セレクトショップ「MACH」を設立。2005年からは「FLASH」「BIG FUN」「SUNNY」というアルバム3部作を発表し、その評価をさらに高める。その他、DJやトラックメーカー、プロデューサーとして多彩な活動を展開。2013年7月に約2年ぶりとなるオリジナルアルバム「LUCKY」をリリース。