ナタリー PowerPush - TOWA TEI
生活の中のファンタジー 7thアルバム「LUCKY」
夢を反芻して曲に盛り込む
──この「APPLE」の歌詞というのはわりとスルッと出てきた感じなんですか?
や、苦労してますよ。もともとこれは僕の「叩き」で、最終的には林檎ちゃんに共作してもらうつもりで書いた「全力のデモンストレーション」だったんですよ。でも、半端な状態で投げてしまうのも失礼だと思ったから、泣く泣く最後まで書き上げて。結局はどこも変更してもらうことなくイキになったんですけど。
──太古の記憶にアクセスするような、それでいて現実感もあるという不思議な歌詞ですね。
「ゆめのなか みえた」というラインは、実際に自分の夢を反芻した結果ですね。起きる前に考えたこと、無意識下のぼんやりとしたビジョンを盛り込みつつ、トリプルミーニングぐらいは効かせたつもり。これは文学じゃないので、この場ですべての種明かしをするようなことはしないけど、注意深く聴いてみてもらえればいろいろ見えてくると思いますよ。……たまに夢の途中で「これは夢だ」って気が付くこととかってあるでしょ? ビーチにいる自分が「あっちの奥のほうまでいったら防波堤とかあるのかな、せっかくの夢なんだからそこまで行ってみようかな」みたいに設定をコントロールできる状態というか。
──わかります。
「ここから飛び降りたら目が覚めちゃう」と思ってやめたりさ(笑)。この曲は、そういう映像をうまく捕まえられたかな、と思いますね。僕、基本的に夢はメチャクチャ楽しいんですよ。怖い夢を見るのが嫌で眠れないっていう人もけっこういるらしいけど、僕は寝てばかりですね。
──その一方で「ABBESSES」には、パリのカフェでの現実的な風景描写がつづられていますよね。
「黒いコスチュームのウェイトレスが愛想良い 店からロイ・エアーズが流れている」……って小学生の作文といっしょだよね。「こないだのお休みはこんなことして遊んでました」みたいな(笑)。もともとこの曲は新潟の月岡温泉に遊びに行ってるときに思いついたもので、最初の仮タイトルは、まんま「月岡」だったのね。浴衣姿で作業しながら、「なんかタイトルつけなきゃな」って。で、その後、梨花ちゃんがプロデュースしているお店「ロザリー」で肉を食べたあとに作業を再開したので、ファイル名を「月岡ロザリー」に書き換えたんだけど、次の日の朝、「なんてひどいタイトルなんだ!」と反省して(笑)。
──どこぞのAV女優かっていう。
そうそう(笑)。
──それだけこのトラックは旅をしている、ということですね。
そういうこと。結局はパリ経由で完成させてるから、「ABBESSES」に関してはかなり連れ回したね。
アルバムに自分の生活がそのまま鳴ってる
──続く「KATABURI」も沖縄のスコールがテーマになっていますけど、これも実際に体験されたわけですよね。
そう。最初に聞こえる雨音は自分のiPhoneで録ったものだし。この曲もメロディのモチーフはずいぶん前にあったんだけど、なかなか完成させることができなくて、それがある日、石垣島で遊んでいるときの突然のスコールと、そのあとで乗ったタクシーの運転手さんが教えてくれた「片降り」という言葉をきっかけに一気に曲になって。「片降り」は、「ここは雨すごいでしょ? でもあそこに見えるデパートとかスーパーのあたりは降ってないでしょ?」みたいな状態のことを指す言葉らしいんだけど、実際の体験とその語感が横一列に並んだときに、それまで宙に浮いていたメロディが一瞬で曲になったんです。
──晴れの日のメロディが、スコールによって作品化されるというのは面白いですね。
長年音楽を続けていると、どうしても作業はルーチン化してしまうし、そういう「きっかけ」がいかに大切かってことがわかってくるんですよ。トラックはいくらでもできるけど、それを、自分自身を納得させられるまでの説得力をもって昇華させるのは本当に大変だから。
──そういう意味でも、これはテイさんの日記を聴き返すようなアルバムでもあるわけですよね。
そうだね。自分の生活がそのまま鳴ってると思うし、「あの日あの場所」の記録の集合体とも言えると思う。まあ、CDもLPも「アルバム」っていうぐらいだから、そういう日記的な要素があってもいいんじゃないと思いますけどね。延々とパソコンに向かって「いいベースラインができた」みたいなことでは、絶対にここまでたどりつけないわけだし。……あと、今回は外したんだけど、「クマンバチ」って曲もあって。その曲も実際にクマンバチに刺されたことがきっかけになってる(笑)。
──えー!
すごいですよ。今回は息子が思いっきり毒を絞ってくれたんで助かったけど、「蜂ってすげえな。殺せるんだな、動物を」と思ったもん。自宅で長らく座ってなかった椅子をひっくり返したら、そこに小さな巣があってね、「痛っ!」って。退院したその日の晩も、ものすごく奇妙なバッドトリップを体験したので、そこでの気持ちを曲にして。
──それは確かに「LUCKY」というアルバムには入りませんね。
完全なアンラッキー(笑)。でもね、それにしたって結局は「ラッキー」だと思えるときがくるんですよ。刺されたときは痛すぎてそんな余裕はないんだけど、あとで考えるに、「この程度で済んでよかったな。曲にもなったしラッキーだったな」って。これはDEEE-LITEの「Good Beat」って曲の歌詞にも書いたことだけど、すべては物事の解釈というか、ボトルに半分のワインを「まだ半分入ってる」と思うか「もう半分しかない」と思うかで、人の人生って全然変わってくるでしょ? すべてはそういうことだと思うんだよね。
- ニューアルバム「LUCKY」/ 2013年7月10日発売 / 2940円 / Warner Music Japan / WPCL-11516
iTunes Storeにて配信中!
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収録曲
- RADIO with Yukihiro Takahashi & Tina Tamashiro
- BLUE FOR GIRLS,PINK FOR BOYS
- ABBESSES with Ayaka Nakata
- KATABURI
- LICHT
- TERIMA KASIH
- JUXTAPOSE
- APPLE with Ringo Sheena
- WARM JETS
- GENIUS with Aoi Teshima
- LOVE FOREVER
TOWA TEI(ていとうわ)
1990年にDEEE-LITEのメンバーとして、アルバム「World Clique」で全米デビュー。その後活動の拠点を日本に置き、1994年にソロアルバム「Future Listening!」をリリースする。2007年には自身の音楽プロダクション「hug inc.」、2010年には電子セレクトショップ「MACH」を設立。2005年からは「FLASH」「BIG FUN」「SUNNY」というアルバム3部作を発表し、その評価をさらに高める。その他、DJやトラックメーカー、プロデューサーとして多彩な活動を展開。2013年7月に約2年ぶりとなるオリジナルアルバム「LUCKY」をリリース。