ナタリー PowerPush - TOWA TEI

生活の中のファンタジー 7thアルバム「LUCKY」

ド素人か大ベテランしか使わない

──例えばダブステップ以降の音なんかはどうなんですか?

もちろんチェックはしてる。でも、やっぱりそこまで興奮できてはいないかな。例えばジェイムス・ブレイクの1st(「James Blake」)なんかは圧倒的にミックスが斬新だったから、みんなが騒ぐのはわかるんだけどね。でも、あれはダンスミュージックというよりも「新しい教会音楽」として素晴らしいと思ったな。だから、たまにそういう例外もあったりするけど、大半の作品から受ける印象は「自分が意図的に排除するような要素がたくさん入ってるなあ」というもので。

──ああ、眉間にシワが寄る感じの。

最近はとにかく重い音、激しい音、アッパーで情緒のない音というのが主流になってて、明るかったり軽かったりするものはないがしろにされてるような風潮があるじゃない? でも、こと自分のクリエイティブに関して言えば、そういう暗い曲のほうが出てきやすかったりするのね。もともとが根暗だし。でも暗い曲というのは作ってる間がつらいし、その苦行に耐えてすごい音響を作る偉さ、みたいなところにはやりがいを感じられないから、結果、アウトプットとしてはポップなものになる。もちろん僕も昔は特定のジャンルというかムーブメント、たとえばドラムン(ベース)や2ステップ、ハウスミュージックのソサエティというのにも出入りしてたから、そことのつかず離れずの距離感っていうのを自分なりに刷新していかなきゃという使命感があったけど、SWEET ROBOTS(AGAINST THE MACHINE)で自分なりのエレクトロニカをやったあたりから、「こういうのは肩が凝るからやめよう」って、それまで使ってたアプリを全部捨てちゃったんですよ。で、そこから「FLASH」への流れというのも自分にとってはすごく大きかった。今でもよく覚えてるのは、雑誌の「FLASH」のことで……。

──写真誌の。

新幹線で移動していたときに、たまたま隣に座ったオジサンが、袋綴じになってるエロページを、ビリッ!と破いたんだけど、その音がすごく早かったの(笑)。なんていうか、「楽しいことにはスピードがついてくるんだなあ」って思えたのね。

──(笑)。すごくいい話ですね。

そのあたりをきっかけに、自分は「職業音楽家」から「特殊音楽家」に専念して、現在に至っていると思うんですよ。積極的に温泉通いも始めて、「身体の芯から鼻歌が出てくるまでやらない」みたいなモードになった。「鳴かぬなら鳴かせてみよう」じゃなくて「鳴くまで待とう」になって。

──人間、何がきっかけで変わるのかわかりませんね。

今自分が新幹線で読むのは「Zipper」とか「NYLON」だけどね(笑)。そこで、「あ、玉城ティナちゃんってかわいいな」とか、勝手にボーカリストのオーディションをして(笑)。

──テイさんの「歌手でない歌手」を探すアンテナは超一級ですよね。

これは自慢だけど、こないだ暇潰しにTwitterを見てたら、「女としての最終目標はテイ・トウワのPVに出ること」というつぶやきがありました。

──(笑)。

「ド素人の登竜門:テイ・トウワ」って書いといて。実際僕はド素人か大ベテランしか使わないから(笑)。

「これは林檎さんだな」とピンときた

──「RADIO」で歌っている玉城ティナさんはまだ15歳。

ついに自分の息子よりも年下(笑)。正直「♪RADIO~」なんて歌うのは誰でもいいんだけど、この曲はリード曲になると思っていたし、PVのためにも「かわいい子」ってことだけは決めていて。で、念のため「玉城ティナ」で検索してみたら、YouTubeに中島美嘉を歌い上げてるオーディション映像が見つかって、これはイケると。「かわいいのに、歌まで歌えてラッキー」って(笑)。

──そこでメインボーカルを取る大ベテラン、高橋幸宏さんは前回の「The Burning Plain」に続いて2度目の共演になりますね。

「二度とごめんだ」とか思ってらしたらどうしようかと思いましたけど、ありがたいことに「いつでもやるよ」と快諾していただけて。結果的には「こっちの曲のほうがさらに好き」と言っていただけましたね。もう、それだけで頼んだ甲斐がありました。

──「APPLE」での椎名林檎さんも本当に素晴らしい。

この曲はストリングスとベースラインを組んだ時点で、パッとタイトルが浮かんで、その瞬間に、「あ、これは林檎ちゃんだな」とピンときて。そのときはまだ会ったこともなかったんだけど。

──駄洒落じゃないですか。

でも、音楽はそれでいいと思うんだよ。音楽家というのは、ある種フューチャリスティックな職業であって、占い師的なところがないとダメだと思うのね。いろんな偶然や必然というのを磁気ディスクに定着させていくのが面白いわけで、やるからには今までに鳴っていないものを作らなきゃと思うしね。ちょっとこれは言葉で説明するのが難しいんだけど、なんかこう、音楽を作ってて、たまに涙が出そうになる瞬間というのがあって、それは理屈じゃ説明できないものなんだけど、特に「APPLE」はその感情が強かった。すごく気に入ってるトラックですね。

──確かにこの曲は椎名林檎さんのアルバムでも、テイさんのこれまでの作品でも聴けなかった曲だと思います。序盤は甘いウイスパーから始まって、後半に向けて、椎名林檎さん特有の熱や毒というのがにじみ出してくる構成にも引き込まれましたね。

とにかく(歌が)強いよね。僕からの注文というのはほとんどなかったんじゃないかな。最初にサラッと歌ってもらったときに「アダムだけじゃない」という歌詞の「ダ」の濁りかただけが気になったので、なんなら「アダム」じゃなく「あなた」でもいいですよって提案したら、「歌の意味が変わっちゃうから駄目です」って、一生懸命発音を試してくれて。林檎さんには感謝してますね。

ニューアルバム「LUCKY」/ 2013年7月10日発売 / 2940円 / Warner Music Japan / WPCL-11516

iTunes Storeにて配信中!

収録曲
  1. RADIO with Yukihiro Takahashi & Tina Tamashiro
  2. BLUE FOR GIRLS,PINK FOR BOYS
  3. ABBESSES with Ayaka Nakata
  4. KATABURI
  5. LICHT
  6. TERIMA KASIH
  7. JUXTAPOSE
  8. APPLE with Ringo Sheena
  9. WARM JETS
  10. GENIUS with Aoi Teshima
  11. LOVE FOREVER
TOWA TEI(ていとうわ)

1990年にDEEE-LITEのメンバーとして、アルバム「World Clique」で全米デビュー。その後活動の拠点を日本に置き、1994年にソロアルバム「Future Listening!」をリリースする。2007年には自身の音楽プロダクション「hug inc.」、2010年には電子セレクトショップ「MACH」を設立。2005年からは「FLASH」「BIG FUN」「SUNNY」というアルバム3部作を発表し、その評価をさらに高める。その他、DJやトラックメーカー、プロデューサーとして多彩な活動を展開。2013年7月に約2年ぶりとなるオリジナルアルバム「LUCKY」をリリース。