ナタリー PowerPush - TOWA TEI
生活の中のファンタジー 7thアルバム「LUCKY」
TOWA TEIが通算7枚目となるオリジナルアルバム「LUCKY」をリリースした。今作では全曲の作詞・作曲・編曲をTOWA TEIが担当しており、大胆なジャケットアートワークは草間彌生の手によるもの。さらにシュガー吉永(Buffalo Daughter)、椎名林檎、バクバクドキン、Predawn、手嶌葵、玉城ティナ、細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏、伊賀航、浜野謙太(在日ファンク、SAKEROCK)、Dorianといった多数のゲストアーティストが参加し、心地よいサウンドを作り上げている。この快作の成り立ちについて、TOWA TEI本人に話を聞いた。
取材・文 / 江森丈晃
片面20分ずつがバッチリの長さ
どうでした? アルバム。
──や、本当に素晴らしかったです。
いやいや無理しなくていいですよ、本当に。
──まず、この短さがいいなと思いました。
これまでの最短記録だね。40分もない。
──そのぶん朝聴いて、昼聴いて、夜も出かける前に少し「入れたり」して。なんというか、サプリっぽくも機能するアルバムだなあ、と思いました。リラックスできるし、同時に覚醒もさせられるという。
なるほどね。DAFT PUNKは長いもんね。途中で寝ちゃったもん(笑)。温泉帰りのバスで聴いたってのもあるんだけど。
──このコンパクトさというか、軽やかさというのは、最初にあったコンセプトなんですか?
や、そういうものでもなくて、ある瞬間に、「これ以上はいらないな」と思えたというか。やっぱりアルバム制作って「どこでやめるかの判断」なところがあるじゃないですか。パチンコと一緒で。
──(笑)。パチンコの場合は、勝っている限りは勝ち続けたくなるものなんじゃないですか?
そこは満足感が感じられたらもういいでしょ。自分なりの達成感というか、脳内麻薬の分泌がある程度まで感じられたら、そこでもう打ち止めじゃない?
──直感や快楽を最優先。ここ数年のテイさんの制作スタイルを象徴する話ですね。
そう。基本的に自分が気持ちよくなれないことはしないというスタイルであり、スタンスだね。あと、今回もアナログ盤を切ることが決まっていたから、あんまり長いと2枚組にしなきゃいけなくなるでしょ。その点でも片面20分ずつというのはバッチリで、最後の溝までが高音質。そもそも全部聴くのに何回も裏返さなくちゃいけないようなアルバムは作りたくないしね。聴く人に何かを強いるような。
息子から「バスキチ」と言われる日々
──テイさんのブログに、ときどき御自宅の写真がアップされるじゃないですか。こないだも(今回のアートワークを担当した)草間彌生の作品を集めたコーナーのスナップがあって、もちろんそこには「LUCKY」も飾られていて……。
はい。
──それを見たときに、「ああ、この人は本当に自分の欲しいものだけを作っているんだなあ」と感動したんですよ。
それは昔からそう。草間さんに頼むことになったのは、親友の山本宇一が勝手に打診してくれて、なんか脈がありそうだと教えてくれて。それも本当に「ラッキー」で。まさかやっていただけるとは思ってなかったしね。(ジャケットの色校正を眺めて)今回のアートワークは「買わないと帯を外せない」というのもポイントで。これは外す楽しみのための帯だからね(笑)。なんなら途中下車して駅の便所で外してもらってもいいぐらいで。
──(笑)。モダンアートへの興味というのは、ここ数年のテイさんにとってはとても重要な要素なんですよね。「RADIO」の歌詞にはゲルハルト・リヒターやダミアン・ハーストら巨匠たちの名も登場しています。
思えば最初はインテリアだったんですよ。2000年に軽井沢に家を建てて、そのときは昔から好きだったイタリアンモダンだったり、バリ島の家具だったり、こう、石の冷たい感じっていうのを基調としていたんだけど、そこに住むうちに、「なんだか殺風景だな」と思い始めて。で、あちこちからポスターを集めてきて、なんとなく額装なんかにも凝り始めるようになったんだけど、そしたらこれまで以上に画集や写真集を見るのが楽しくなってきて、だんだんと音楽よりもアートや展覧会からエネルギーをもらうことが多くなっていったんです。(ジャン=ミシェル・)バスキアの画集なんかにしても、すごいハマりましたね。あるギャラリーに行ったらそれまで知らなかったものが(両手を広げて)こんなにたくさんあって、その日からはもうeBay漬け。競りまくって大量に集めて。息子からは「バスキチ」とか言われてます。「この人の何がいいの? なんなら俺が描いてやろうか」って。
──(笑)。画集を見ているときというのは、音楽はかかっているんですか?
かかっていたり、いなかったり。でも自分自身でコラージュやるときは何かしらかかってたと思う。作業に集中しすぎて、ずっと(無音部分の)針の音を聴いてたりとかすることも多かったけどね。まあ、そのコラージュというのも最近はやってないんだけど。
──昨年末の展覧会「ecollage」で、いったんピリオドですか?
そうだね。あの頃はまだ震災のショックから抜け切れていなくて、どうしても音楽を聴いたり作ったりするモードになれなくて、なんとなく買ったけど聴いてなかった「Fluxus」のレコードとか、ダミアン・ハーストのものすごい早口のインタビューの音声とか、実験的な非音楽をうっすら流しておくのが気持ちいいというモードだったのね。でも、そういうものに100%で向き合うのも疲れるから、「断捨離でもするか……」って古い洋書の好きなページを切り取ったりしていて。そしたらちょうどZINE展(Here is ZINE tokyo)への出品を頼まれて、簡単な切り貼りをするようになって。そしたらそれが「コラージュ」と呼ばれるものになっていって……。
──すべては自然な流れなんですね。
流れと、あとはタイミング。音楽に関しても「何を選ぶか」よりも「どう出会うか」が重要だと思う。たまたまニューヨークのタクシーの運ちゃんが聴いてたボブ・マーリーだとか、泊まったホテルのDJがかけてたスライ(・ストーン)なんかは、素直に「いい曲だなあ」ってまた思えるし。そういう意味では、もう随分と「トレンドとしてハマれたジャンル」というのはないかもしれない、残念ながら。
- ニューアルバム「LUCKY」/ 2013年7月10日発売 / 2940円 / Warner Music Japan / WPCL-11516
iTunes Storeにて配信中!
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収録曲
- RADIO with Yukihiro Takahashi & Tina Tamashiro
- BLUE FOR GIRLS,PINK FOR BOYS
- ABBESSES with Ayaka Nakata
- KATABURI
- LICHT
- TERIMA KASIH
- JUXTAPOSE
- APPLE with Ringo Sheena
- WARM JETS
- GENIUS with Aoi Teshima
- LOVE FOREVER
TOWA TEI(ていとうわ)
1990年にDEEE-LITEのメンバーとして、アルバム「World Clique」で全米デビュー。その後活動の拠点を日本に置き、1994年にソロアルバム「Future Listening!」をリリースする。2007年には自身の音楽プロダクション「hug inc.」、2010年には電子セレクトショップ「MACH」を設立。2005年からは「FLASH」「BIG FUN」「SUNNY」というアルバム3部作を発表し、その評価をさらに高める。その他、DJやトラックメーカー、プロデューサーとして多彩な活動を展開。2013年7月に約2年ぶりとなるオリジナルアルバム「LUCKY」をリリース。