ナタリー PowerPush - TOWA TEI

平熱の日常に最高の喜びを。自然体グッドミュージック誕生

エモーションの揺らぎを音楽に落とし込む

でね、なんか僕がやっぱり一番再認識したのは、まああんまり人のこと言うのもアレなんだけど、やっぱり情緒がない音楽が多すぎ。情緒のない選曲するDJも多すぎ。宇川(直宏)くんも言ってたよ。「テイさん、もう情緒ない昨今のDJみんな射殺してください!」って。

——わはは。

なんかついこの間も、とあるパーティに顔を出して、けっこう知ってるDJたちがやっていて、ジャンル的に言うとエレクトロですよ。で、そこで2時間くらい友達と話して聴いてたんだけど、1曲も何も感じなかったんだよね。帰ってから「あれ、音楽まったく面白くなかったな」と思って。うん。だから、さっきもフロアライクって言ってたけど、もうそういうカテゴリ、そういうソサエティにいる必要すらないっていうか。なんかもっと僕にとって大事なのは、今年はあんま台風なくて銀杏並木がきれいな時間が長かったな、とか、皇居の前あたりをタクシーで走っているときに見た景色とか、そこで感じたことを音楽に落とし込んでいくっていうことのほうなんですよね。音楽を作るのも音楽を聴くのも、結局そういうエモーションの揺らぎを求めているんだと思うんです。

——その感覚は確かにアルバムから伝わってくるような気がします。

まあDJするってことで言うと、もうちょっと機能的な、踊らせるためっていう意味合いもあるから。これはみんな好きだろうなとか、そういう感覚もあるんだけど。でもどっちか選べって言われたら僕はそういう音楽の持つ何か、音楽を聴くことや作ることで見えてくるビジョンとか風景とか匂いとか、それがやっぱ何よりも得難いし、最高だと思うんですね。そんなことを漠然と考えながら作ってはいますよね。

——アルバムもリラックスして作られた雰囲気がありますね。

うん。まあクオリティももちろん大事で、例えば美空ひばりさんみたいな方だったらパッとスタジオ入ってワンテイクでOK、みたいな逸話がいっぱいあるけども、僕の場合そんなにお互いよく知らなかったり、よく知っててもそんなにミュージシャンミュージシャンしてない人もいるんですよね。なんかそういう人たちとはもっとこう、一緒に楽しく作るぜっていう、そっちのほうが大事かなって思う。昔はやっぱりオラッとしてるというかね、プロデューサーっぽくカーディガンを肩にかけて「はい、もうワンテイクいっちゃおうか」みたいな。“ちゃん付け”したりとか、あるじゃないですか(笑)。今はもうそういうのはなくなって、おでんとか食べながら。おでんや焼き鳥食べて、シャンパンとか飲みながら作ってましたね。

アドビタウン

——そういえば制作環境をMacBookに移したという話を聞きましたけど。

そうなんですよ。今まではタワー型でOS 9だったんです。OS 9じゃないと動かない、倒産しちゃったOpcodeっていう会社のStudio Visionっていうソフトを使ってて。それはもうなんか血肉化というか、20年くらい使ってるからなかなか乗り換えられなくて。でもそれを思い切って新しいMacBookに買い換えて。人に手伝ってもらってそのソフトをインストールしたんです。

——制作スタイルは変わりましたか?

MacBookを持って新幹線に乗って来たりとか、東京と軽井沢を同じ環境にしてUSBメモリだけ持って行き来したりとか。やろうかなって気分のときはそれを持って歯医者行ったりとか。

——フットワーク軽いですね。

ボーカル録りだってけっこうどこでもできるしね。例えば空調からヒスノイズが入っちゃっても今は消せるんですよ。その周波数だけ見つけて消せる。飲み屋のねえちゃんの写真がみんなフォトショップで整形してるのと一緒ですよね。

——なるほど(笑)。

すすきのとか行くとそういう写真ばっかりで。僕は「アドビタウン」って呼んでるんですけど。

——(笑)。

でもそういう時間の使い方は楽しいですね。どこでもできるから、やりたくないときはそのぶん寝ちゃって明日続き作ろう、なんてこともあるし。

——朝からコンピュータに向かって「さあ作るぞ」という感じではなく、生活している中で音楽が生まれる感じですね。

うん、そうそう。

——それはテクノロジーが発達したおかげですよね。

そうですよ。だから僕はたぶんテクノロジーを使ってどんどん角を丸くしていきたいんだと思うんだよね。世間ではテクノロジーを使って尖ったものを作ろうとする人が多いじゃないですか。トゲを作るのは簡単。トゲを丸めるほうがたいへんなんです。だからこそ僕なりに耳ざわりのいいものを作りたいというか。四角か丸かで言ったら丸。四角に見えるんだけどカドは丸なんだよね。

固い頭を和らげる

——お話を伺っていると90年代のテイさんのパブリックイメージと、今のテイさんの実像とはずいぶん違いますね。

うーん、そうかな。

——ご自分では変わっていないという感覚ですか?

いやいや、同じではないですよ。確かに違うと思う。あの、でもそれが面白いんじゃないですかね。それが人生というか。だから20歳のときはやっぱり40歳の気持ちはわからないし。でも逆はわかるから、そこが歳をとることの唯一の利点というか。メモリとして残っていくから。うん。まあ歳をとるのはいいなっていうか、しょうがないですよね。

——今のテイさんはなんだか楽しそうに見えます。

楽しいですね。でもまあ、今は暗いニュースが多いじゃないですか。やっぱ僕もそんな脳天気じゃないので、例えばレコード会社が大規模リストラっていうニュースを聞いたら「あいつとあいつ大丈夫かな?」とか思うし。人ごとじゃないなって。だけど僕が不安をあおってもしょうがないから。僕は音楽を通して伝えていくしかないんですよね。それでテイ・トウワのバックボーンになっているのは何だろうって興味を持ってくれた人が、指宿温泉を知ってくれたりするかもしれないし。

——いぶすきおんせん? いい温泉なんですか?

いいですよ。草津温泉もいいですけど。とかね? まあそういうことですよね。それこそ「Mind Wall」じゃないけど、固い頭を和らげてあげたいっていう気持ちはあるんです。頭の凝り固まった「俺はハウスしか聴かねえ!」とか「エレクトロ以外はダサイ」みたいな人にも、僕なりに伝えていきたい。だからネガティブなことはもうやらない、言わない。ノーコメントでいいかなって思ってます。

次回「3400円のフリースソックス / 「FLASH」が姉で「BIG FUN」が弟」に続く

ニューアルバム『BIG FUN』 / 2009年2月4日発売 / hug Columbia

  • 初回限定盤 [CD+DVD] / ¥3300(税込) / COZP-350~351
  • 通常盤 [CD] / ¥2800(税込) / COCP-35351
CD収録曲
  1. Y.O.R. feat. MADEMOISELLE YULIA & VERBAL
  2. Taste of You feat. Taprikk Sweezee
  3. Out of My Addiction of Love feat. Miho Hatori & Peggy Honeywell
  4. Lyricist feat. MEG
  5. Twinkle Twinkle Little Star feat. Mitsuko Koike
  6. A.O.R. feat. Lina Ohta
  7. Ch. Galaxy
  8. Mind Wall feat.Miho Hatori
  9. Siesta
  10. All
初回限定盤DVD収録内容

ビデオクリップ3曲収録

TOWA TEI(DJ/音楽プロデューサー)

TOWA TEI 写真 © Tajima Kazunali (MILD inc)

1990年にDeee-Liteのメンバーとして、アルバム「ワールド・クリーク」で全米デビュー。世界各国で大絶賛される。1994年から活動の拠点を日本に置き、アルバム「Future Listening!」でソロデビュー。2007年には自身の音楽プロダクションを設立し、レーベル立ち上げにも参加。自身が主催するイベント「MOTIVATION」での定期的なDJ活動のほか、アーティストや製品に対するサウンドプロデュースなど、ますます磨きをかけた豊かなセンスで、DJやトラックメイカー、プロデューサーとして多彩な活動を行っている。2009年2月には5枚目のオリジナルアルバム「BIG FUN」を発表。