ナタリー PowerPush - トラボルタ
鏡音リンと紡ぎだす、ファンタジックな19編のストーリー
マリンバは音がパッとすぐ終わるのがいい
──今回リリースされたアルバム「トラボティック・シンフォニー」は全19曲収録の大ボリューム作になりましたね。
CD容量のギリギリまで、曲を入れられるだけ入れた感じですね。まだ入れたかった曲もあるんですけど。
──これまで動画共有サイトで発表されてきたものに加え、うれしい初公開楽曲も入っています。
そうですね。「endless symphony」「追憶ノ翼」「二人なら」「MY WINDING ROAD」の4曲と、最後に入っている短いインスト曲「see you」が初公開ですね。できた時期はバラバラですけど、アルバムを出すことが決まってから作り始めた曲たちです。
──こうして楽曲が1枚にまとまってみて何か感じることはありますか? 初投稿曲「ピンクスパイダー」からは約6年という時間が経過しているわけですが。
昔と今では作業環境が違うので、曲の作り方は変わってきてると思います。昔は外付けのハードシンセを使っていたけど、今はソフトシンセを使うことでパソコン1台で作れるようになったので。それによって使える音が増えたりもしましたね。逆に使えなくなった音もあるんですけど(笑)。とは言え、曲自体に関してはそれほど大きな変化はないかもしれないです。歌詞もあんまり変化してないと思うし。曲が増えてくることでネタがかぶる恐れが出てくるので、そこはけっこう大変ですけどね。
──どの曲にも一貫して生楽器を使うことによる温かさがエッセンスとして散りばめられている印象がありました。そこも大きな魅力ですよね。
それをよく言われるんですけど、どうしてなんでしょうね。ギターで曲作りをしているので、どうしても弦楽器系を入れたくなるっていうのが理由かもしれないです。あと、DTMだと音色をいろいろ選ぶことができるので、ギターの音色を民族っぽい弦楽器に差し替えたりとか、いろんなことを試していくうちに生楽器系に詳しくなっていったっていうのもあって。その中で自分の好きな音色もわかってきたので、それを使って構成していくとどうしてもそういうカラーが出てきちゃうのかもしれないですね。
──好きな音色というと、有名なのは……。
マリンバですよね(笑)。例えばストリングスのような音の伸びる楽器だと空間を埋めすぎちゃうから使いどころが限られるんですよ。でもマリンバは音がパッとすぐ終わるので、わりとどこにも詰め込めて使い勝手がいいんです。でも、ソフトシンセに変えたことでお気に入りだったマリンバの音色は使えなくなっちゃって。それが残念なんですよねえ。
作詞を母親に頼みました
──また、物語性の強いゆったりめの曲が印象的ではありますが、中にはロック的アプローチの曲があったりする振り幅も面白くて。「MY WINDING ROAD」はバンドサウンドの1曲ですよね。
実はバンド系の曲も好きなんですよ。「MY WINDING ROAD」は5、6年前に友達と遊びでバンドをやってた頃にサビだけできてたんですよ。ずっとやりたかった曲の1つなので、やっと公開できてうれしいです。この他にもいろいろやりたいネタっていうのはまだまだあるので、これからちょっとずつ出していけたらいいなと思いますね。
──1つ気になったのは「二人なら」の歌詞。クレジットはハハボルタになっていますが。
これは……作詞を母親に頼みまして(笑)。曲はできてたんだけど歌詞がない状態だったので、「ちょっとやってよ」って言ったら一晩、二晩くらいで書いてくれて。意外にも。
──母親に頼むっていう発想がすごいですよね(笑)。
そうですよね(笑)。うちの家族は僕がボカロPをやってることを知ってるので、わりとちょっかい出してくるんですよ。父親も僕の「よつばのクローバー」を弾きたいからってチェロを最近始めましたし。
──じゃ今後は家族総動員で曲が生み出される可能性もあるわけですね。
僕としてはあまり入り込んでほしくはないんですけどねえ。まあでも、またなんかあったら母親に歌詞を頼むかもしれないし、チェロの腕前がレコーディングに耐えられるようになったら父親に弾いてもらうかもしれないです(笑)。
僕の感覚としてはまったく仕事ではない
──アルバムが出たことで、この先の活動に対して新たな思いが芽生えたりしています?
いや、基本のスタンスは今まで通りですね。自分の好きなものを作り続けていく。で、たまに依頼モノの仕事をやっていければいいかなっていう感じです。
──仕事を増やしていきたい気持ちはないですか?
仕事に押しつぶされないくらいのバランスがいいですね。動画共有サイトに曲をアップすることは、結果として仕事につながる場合もあるんですけど、僕の感覚としてはまったく仕事ではないんですよ。そういうところから僕のキャリアは始まっているので、そこを崩しちゃダメなのかなって。
──動画投稿サイトはトラボルタさんにとって大切な場所なんですね。
そうですね。僕が作るJ-POPっぽくない曲を生かせる場ってなかなかないんですよ。仕事となると求められたものを作らなきゃいけないわけなので。だから動画共有サイトのような場所があるのは、僕にとってほんとにありがたいことなんです。まだまだ楽しめているので、今後も続けていきたいと思ってます。
- 1stアルバム「トラボティック・シンフォニー」 2013年6月5日発売 2000円 EXIT TUNES QWCE-00273
- 「トラボティック・シンフォニー」ジャケット
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CD収録曲
- endless symphony feat. 初音ミク、鏡音リン、鏡音レン、巡音ルカ
- ココロ feat. 鏡音リン
- トエト feat. 巡音ルカ
- GOOD SMILE BRINGS FUTURE feat. 初音ミク
- ピンクスパイダー feat. 鏡音リン
- ソラトバズ feat. 鏡音リン
- 伝説の魔女 feat. 鏡音リン
- ソレイユ-Soleil- feat. 鏡音リン
- 追憶ノ翼 feat. 初音ミク
- ルナ~海の妖精~ feat. 初音ミク
- 頑張ろうよ feat. 鏡音レン
- よつばのクローバー feat. 鏡音リン
- ウェンディーと魔法の森 feat. 鏡音リン、鏡音レン
- おてんば姫の歌 feat. 鏡音リン
- MY WINDING ROAD feat. 鏡音リン
- 少年銀河 feat. 鏡音リン、鏡音レン
- 二人なら feat. 鏡音レン
- オメデトウ feat. 鏡音リン
- see you
トラボルタ(とらぼるた)
2007年からボーカロイドを使った自作曲を動画共有サイトにて発表しているボカロP。鏡音リンをメインに使用し、マリンバなどの温かみのある生楽器のアンサンブルに定評がある。2008年にクリプトン・フューチャー・メディア運営のボカロ曲レーベルKarenTの第1弾作品としてアルバム「トラボティック・チューン」を配信リリース。鏡音リンの代表曲とも言われている彼の楽曲「ココロ」は3度にわたって舞台化され、2012年には小説も刊行された。また、2009年発表の楽曲「トエト」の映像に登場した猫の帽子をかぶったキャラクターが、その後「トエト」という名前のキャラクターとして人気に。2013年6月には初のフルアルバム「トラボティック・シンフォニー」をリリースする。