ナタリー PowerPush - トラボルタ
鏡音リンと紡ぎだす、ファンタジックな19編のストーリー
狙ってヒットを出すことは僕にはできない
──動画共有サイトの面白さってどんなところだと思いますか?
たくさんの人に観てもらえて、感想をいっぱいもらえることがまず1つ。あとは、自分が作った曲を誰かに歌ってもらえたり、PVを作ってもらえたり、多方面に発展していくのがやっぱり楽しいですね。誰かの手によって、曲のいろんな面がどんどん見えてくるというか。そういう経験は初めてだったので。
──「ココロ」は小説や舞台になり、「トエト」は動画に登場するキャラクターがフィギュア化されたりゲーム化されたりもしましたよね。
すごいことですよねえ。なんかもう他人事みたいな感覚なんです(笑)。
──ただ、動画共有サイトにはそれこそ星の数ほどの楽曲がアップされているわけですけど、そういう展開に結びつかない場合も多いと思うんですよ。
そうですね。すごくいい曲なのになんで再生数が伸びないんだろうっていう曲もありますから。そのへんは難しいところで。
──そこにはどんな理由があると思いますか? 注目を集める秘訣と言いますか。
どうなんでしょうね。それはいまだにわかんないです。実際に投稿してみるまでは僕自身、毎回怖いですから。「これウケるのかな」って。しかも僕が始めた頃は単純な1枚絵の動画でも受け入れてもらえたけど、今は動画のクオリティがすごく上がってきてますし。みんなの目や耳が肥えてきている分、大変になっているところはあると思います。狙ってヒットを出せている人もいるとは思いますけど、僕はそうことがあんまりできないので。
センスが普通だからこそ他の人以上にがんばらないと
──ではトラボルタさんが曲作りをする際、一番大事にしていることってなんですか?
心がけていることの1つは、常に120%の気持ちをぶつけて曲を作ることですね。僕って音楽センスに関しては全然普通だと思ってるんですよ。普通だからこそ他の人以上にがんばらないといいものはできない。うれしいコメントなんかをもらうとつい舞い上がってしまって、「自分ってセンスあるのかな」って思い始めちゃうんですけど(笑)、そういう気持ちで作ったらきっと普通のものしかできないと思うんですよね。だから、そうならないように常にがんばるっていう。
──数々のヒット曲を生み出しているのに、すごく謙虚な姿勢ですよね。
いや、それは120%の力を出して作った作品しか聴いてもらってない状態だから、そう思ってもらえてるわけで。100%の力では作れなかった曲だっていうことは、自分でしっかり認識しておかないとなって思うんですよね。
──なるほど。じゃ、曲作りにはけっこう時間がかかるタイプですか?
わりとかかっちゃいますね。時間をかけてひねり出せばいいものが生まれるっていう自信はまったくないですけど、その曲のコード感や構成に最高にハマるメロディは絶対にあるはずだっていう気持ちは常に持っています。だから、それになるべく近づけるように、100点を目指してがんばるようにはしています。
──制作の段階でリスナーのことはどれくらい意識しているものなんでしょう?
3、4割くらいですかね。基本は自分の作りたいものを作る、自分がやりたいものをやるっていう意識なんですよ。でも、どうせだったら再生数が欲しいので、なるべくキャッチーなメロディにしたりとか、共感を得るような歌詞にしてみようとか、そういうことは軽く脳裏をよぎっちゃいますね。
妄想好きなのでストーリーを自分なりに作るのは楽しい
──さまざまな景色を見せてくれるサウンドと同様に、物語性の強い歌詞もトラボルタさんの大きな魅力だと思います。歌詞に関してのこだわりってありますか?
歌詞を本格的に書くようになったのはボカロやり始めてからなんですよ。それまではインストが多かったので。だからけっこう苦労するんですけど……基本は自分の好きなものからアイデアを持ってきたり、自分が普段思ってることを入れたりっていう感じで書いてますね。
──例えばどんなものにインスパイアされることがあるんですか?
ゲームとかですかね、やっぱり。「おてんば姫の歌」なんかは思いっきり「ドラクエ4」ですし、「ルナ~海の妖精~」は「ポポロクロイス物語」ですし。直接的に影響を受けていないにしても、ストーリーを自分なりに作っていくのは楽しいので、勝手にそうなっちゃう場合が多いです。普段からいろんな妄想をしてるので(笑)。
──「伝説の魔女」の世界観なんかも、そのままゲームになってもおかしくない感じですもんね。「ウェンディーと魔法の森」はすごくいいお話だし。僕、大好きなんですけど。
ああ、ありがとうございます。うれしいですね。「ウェンディーと魔法の森」はインスト時代の曲なんですよ、実は。お気に入りだったんですけど、全然日の目を見てなかったので、歌詞をつけてボーカルものにしたんです。歌詞はどうやって書いたんだっけなあ。物語系の歌を詰め込んだコンピレーションに入ることが決まっていたので、自然とそんな雰囲気になったと思うんですけど。
- 1stアルバム「トラボティック・シンフォニー」 2013年6月5日発売 2000円 EXIT TUNES QWCE-00273
- 「トラボティック・シンフォニー」ジャケット
-
CD収録曲
- endless symphony feat. 初音ミク、鏡音リン、鏡音レン、巡音ルカ
- ココロ feat. 鏡音リン
- トエト feat. 巡音ルカ
- GOOD SMILE BRINGS FUTURE feat. 初音ミク
- ピンクスパイダー feat. 鏡音リン
- ソラトバズ feat. 鏡音リン
- 伝説の魔女 feat. 鏡音リン
- ソレイユ-Soleil- feat. 鏡音リン
- 追憶ノ翼 feat. 初音ミク
- ルナ~海の妖精~ feat. 初音ミク
- 頑張ろうよ feat. 鏡音レン
- よつばのクローバー feat. 鏡音リン
- ウェンディーと魔法の森 feat. 鏡音リン、鏡音レン
- おてんば姫の歌 feat. 鏡音リン
- MY WINDING ROAD feat. 鏡音リン
- 少年銀河 feat. 鏡音リン、鏡音レン
- 二人なら feat. 鏡音レン
- オメデトウ feat. 鏡音リン
- see you
トラボルタ(とらぼるた)
2007年からボーカロイドを使った自作曲を動画共有サイトにて発表しているボカロP。鏡音リンをメインに使用し、マリンバなどの温かみのある生楽器のアンサンブルに定評がある。2008年にクリプトン・フューチャー・メディア運営のボカロ曲レーベルKarenTの第1弾作品としてアルバム「トラボティック・チューン」を配信リリース。鏡音リンの代表曲とも言われている彼の楽曲「ココロ」は3度にわたって舞台化され、2012年には小説も刊行された。また、2009年発表の楽曲「トエト」の映像に登場した猫の帽子をかぶったキャラクターが、その後「トエト」という名前のキャラクターとして人気に。2013年6月には初のフルアルバム「トラボティック・シンフォニー」をリリースする。