ナタリー PowerPush - トラボルタ
鏡音リンと紡ぎだす、ファンタジックな19編のストーリー
ファンタジー的な世界観にリスナーをどっぷりと引き込む、温かみのある作品群で人気を集めるボカロP、トラボルタ。2007年の動画共有サイト初投稿以来、殿堂入り楽曲を多数生み出していく中で、代表曲「ココロ」は小説や舞台に派生、「トエト」はキャラクターフィギュア化やゲーム化されるなど、さまざまなメディアでその名前を轟かせている。
そんな彼が全19曲収録のフルアルバム「トラボティック・シンフォニー」をリリースしたのを記念し、ナタリーではインタビューを実施。「トエト」フィギュアとともに取材場所に現れたトラボルタに、その創作の秘密をたっぷりと聞いた。
取材・文 / もりひでゆき インタビュー撮影 / 上山陽介
初めてのDTMは「音楽ツクール かなでーる」
──トラボルタさんはいつ頃から音楽を始めたんですか?
高校のときにギターを始めてからです。きっかけは友達が弾いてるのを見て、カッコいいなと思ったから(笑)。懐メロとかが載っているコードブックを買ってきて、アコギで弾き語りしてましたね。で、いろんな曲を弾いているうちにだんだんコードのパターンが見えてきたので、それを使って自分なりのメロディを作るようになって。
──作曲は独学ですか。
そうです。最初は五線譜に書いて作ってました。で、その後にドラムマシーンやMTRを買って録音するようになって。あとはスーファミの「音楽ツクール かなでーる」もやってましたね。今思うと、あれが最初に触ったDTMだったかもしれないです。
──バンド経験は?
バンドはコピーもオリジナルも遊び程度ではやってました。本格的に人前でライブしたりっていうことはまったくなかったですけど。あとはうちの父親がひさしぶりにバンドを結成することになったときに、「ベースがいないからおまえやれ」って言われたりとか(笑)。
──ベースの経験もあるんですね。
いやいや、ギターをやってたからなんとなくベースも弾けるっていうくらいですよ。簡単にルートを刻むくらいしかやってなかったですし。
音楽的なルーツは「ドラクエ」
──では、今の音楽性に影響を与えたルーツというと?
ルーツはゲーム音楽だと思います。「ドラクエ」が特に好きだったんですけど、そこでオーケストレーションっていいなあと思ったんですよ。で、「音楽ツクール」でRPGを想定した音楽を作ったりしながら、オーケストラ楽器の使い方を学んでいった感じで。
──ということは、最初はインストを作っていたんですか?
はい。基本はずっとインストをやってました。
──あ、今すごく納得できました。トラボルタさんの音楽性って、1曲の中に面白い展開がたくさん盛り込まれていますよね。それってインストを作っていたことに起因しているんじゃないですか?
そうだと思います。インストの場合、いわゆる一般的なポップスの構成──「Aメロ、Bメロ、サビ」っていう流れだと歌詞も歌もないからつまらなくなっちゃうんですよ。だからいろんな構成をどうしても入れたくなるというか。その名残は確かに今も残ってますね。
──歌モノの曲は全然やってこなかったんですか?
いや、ときどきは歌を想定して作ったりもしてましたよ。2000年代の頭くらいには2ちゃんねるのDTM板でボーカルを募集して、歌モノを作ったりしたこともありました。単純に趣味みたいな感じだったので、自分のホームページや音楽配信サイトの「muzie」にアップしてたくらいですけど。
ミク用に曲を作っても結局リンの曲になっちゃう
──その後、2007年に動画共有サイトにボカロ曲を初めて投稿するわけですが、それはどうしてだったんでしょう?
その頃は初音ミクがわーっと盛り上がってきた時期だったんで、最初は単純に面白いことをやってる人たちがいるなあっていうくらいだったんですよ。ただ、当時すごく人気のあった「ハト」(秦野P)っていう作品にちょっと刺激されたと言いますか。単純なポップスではなく、ものすごく独自性のある曲だったんですよ。「みんなのうた」っぽい雰囲気があるというか。で、それが人気を得ている状況を見て、いいものならばどんな曲でも聴いてもらえる土壌があるんだな、だったら自分も投稿してみようかなって思ったんです。
──ボーカロイド自体の面白さに惹かれたところもありましたか?
それもありましたね。みんな本気で遊んでる感じがあったので、そこに惹かれました。最初はボカロの可能性とか、深い部分までは考えてはなかったですけど、やっていくうちに同じボーカロイドを使ったとしても作り手ごとに個性が出るとか、そういう面白さにも気づけましたし。
──今や“リンマスター”と呼ばれているわけですが、最初に鏡音リンを選んだのはどうしてだったんですか?
リンの、パワフル系のガーッと通る声が気に入ったからです。初音ミクはクオリティが高いんですけど、僕としてはちょっと優しすぎる感じがしたんですよね。
──ご自身の作っている音楽とのマッチングも重要ですよね。
そうですね。僕はわりとJ-POPの概念とは違った音楽を作りたいっていう気持ちがあるんですよ。なので、なるべく面白い楽器を意識的に使ったりもしますし。そういうところにリンの声がハマったっていうのもあったと思います。ときどき、ミク用に曲を作ったりするんですけど、なんとなく違う気がして、結局リンの曲になっちゃうことも多いですからね(笑)。
──「J-POPの概念とは違った音楽を作りたい」と思うのはどうしてなんでしょうね。
単純にそういう音楽が好きなんですよ。今までに聴いてきた音楽はミスチルとかスピッツとか、わりと普通にJ-POPだったりはするんですけど、自分でやるとなるとどうしてもそことは違ったことをやりたくなるというか。そこにもゲーム音楽からの影響が出てるのかもしれないですね。
──確かにゲーム音楽は独特の世界観を持った曲が多いですからね。
例えばRPGの音楽はすごく物語性が強いので、場面場面での印象が強く残ると思うんですよ。僕はそういう音楽がやっぱりすごく好きなので、自分としてもそういう音楽がやりたいんですよね。
- 1stアルバム「トラボティック・シンフォニー」 2013年6月5日発売 2000円 EXIT TUNES QWCE-00273
- 「トラボティック・シンフォニー」ジャケット
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CD収録曲
- endless symphony feat. 初音ミク、鏡音リン、鏡音レン、巡音ルカ
- ココロ feat. 鏡音リン
- トエト feat. 巡音ルカ
- GOOD SMILE BRINGS FUTURE feat. 初音ミク
- ピンクスパイダー feat. 鏡音リン
- ソラトバズ feat. 鏡音リン
- 伝説の魔女 feat. 鏡音リン
- ソレイユ-Soleil- feat. 鏡音リン
- 追憶ノ翼 feat. 初音ミク
- ルナ~海の妖精~ feat. 初音ミク
- 頑張ろうよ feat. 鏡音レン
- よつばのクローバー feat. 鏡音リン
- ウェンディーと魔法の森 feat. 鏡音リン、鏡音レン
- おてんば姫の歌 feat. 鏡音リン
- MY WINDING ROAD feat. 鏡音リン
- 少年銀河 feat. 鏡音リン、鏡音レン
- 二人なら feat. 鏡音レン
- オメデトウ feat. 鏡音リン
- see you
トラボルタ(とらぼるた)
2007年からボーカロイドを使った自作曲を動画共有サイトにて発表しているボカロP。鏡音リンをメインに使用し、マリンバなどの温かみのある生楽器のアンサンブルに定評がある。2008年にクリプトン・フューチャー・メディア運営のボカロ曲レーベルKarenTの第1弾作品としてアルバム「トラボティック・チューン」を配信リリース。鏡音リンの代表曲とも言われている彼の楽曲「ココロ」は3度にわたって舞台化され、2012年には小説も刊行された。また、2009年発表の楽曲「トエト」の映像に登場した猫の帽子をかぶったキャラクターが、その後「トエト」という名前のキャラクターとして人気に。2013年6月には初のフルアルバム「トラボティック・シンフォニー」をリリースする。