TOOBOEとyamaに共通する“ルーザー”的感覚
──カップリング曲の「向日葵」は、痛みや葛藤を抱えつつ、ラストに向けて光が感じられるような構成になっていますよね。
TOOBOE めんどくさい、生きたくないという気持ちもあるんだけど、今、現実として生きているし、「やるしかないか」くらいなんですよね。めっちゃがんばろう、明日も楽しいという歌は僕自身も苦手だし、「もう1日、生きてみよう」という感覚というか。
──TOOBOEというアーティスト名も「負け犬の遠吠え」に由来しているそうですが、負け犬、ルーザーみたいな感覚はずっとあるんですか?
TOOBOE ありますね。調子に乗れない性格だし、ライブのたびに「俺みたいな人間のために、こんなにたくさんの大人が動いている」と思うと、ヘコむんですよ。ルーザーでいるほうが居心地がいいというか。それはずっとあるし、消えないでしょうね。
yama わかる気がします。自分も、もともとはめっちゃ暗かったので。
TOOBOE (笑)。
yama 音楽活動を通していろんな方と関わるようになって、少しずつ話せるようになりましたけど、以前は人とのコミュニケーションも苦手だったんです。ただ、その暗さをそのまま伝えたいとは思ってなくて。実際、こうやって歌うことを選択しているわけだし、こうやって生き続けることのリアルさを表現したい。なのでTOOBOEさんの楽曲にも共感できるんだと思います。TOOBOEさんはすごく芯が強くて、自分自身をしっかり表現していらっしゃいますけど、実は繊細なところがあるんじゃないかなと……それは自分が勝手に思ってることですけど。
TOOBOE そうかもしれない(笑)。
yama 誰よりも人間らしい方だと思うし、それは楽曲に出てますよね。
TOOBOE 特に「向日葵」には自分が出てるかもね。人間が歌う以上、人間臭いほうがいいだろうという気持ちもあるんですよ。この歌詞は締め切りの2日前に低気圧で何もする気がしない中に書いたんですけど(笑)。
yama 偏頭痛ですか?
TOOBOE いや、体が重いんだよね(笑)。
──yamaさん、以前に比べてコミュニケーションがうまくなったというか、オープンになってませんか?
TOOBOE 明るくなった?
yama 今年から気持ちを入れ替えようと思ったんです。自分はライブが苦手だったんですけど、そんなこと言ってたら会場に来てくれるお客さんに申し訳ないから、「ライブは楽しい」と言い聞かせていたんです。でも、思うようなパフォーマンスができなかったときに、心が折れてしまって。めちゃくちゃ落ち込んだんですけど、いろいろと悩んだ結果、「自分はやっぱり音楽をやりたい」と思って……。苦しいこともあるけど、楽しみたいなと素直に思えるようになった。それから周りの人からも「変わったね」と言われるようになりました。
進化を求めて
──yamaさんはTOOBOEさんと同じく6月22日に新曲「桃源郷」をリリースするんですよね(※取材は6月上旬に実施)。この「桃源郷」もTOOBOEさんの提供曲とのことなのでいろいろとお聞きしたいのですが、これはyamaさんにとっても挑戦的な1曲になったんじゃないですか?
yama 今回もだいぶ難しかったです(笑)。デモ音源を聴かせてもらった段階で、サビのインパクトがすごくて。いい曲だなと思って、「このまま進めてください!」とすぐに連絡しました。だけど歌ってみると、かなり時間がかってしまって。自分としてはメジャーデビューしてからの1年間で、それなりに力が付いてきた気になってたんですけど、全然でした。
TOOBOE ごめんごめん(笑)。今回はタイアップ曲ではなく「自由に作ってください」というオーダーだったので、疾走感、アップテンポというイメージはありつつ、「今、yamaさんに歌ってもらいたい曲」を作りました。自分のテーマとしては、“ザ・歌謡曲”。「ザ・ベストテン」に出ていた歌手が歌っていたような雰囲気というか。
──ラテンのテイストがあって、ホーンが派手に鳴っていて。1980年代後半あたりの歌謡曲の雰囲気が確かにありますね。
TOOBOE 当時売れていた曲の匂いやオーラを自分なりに表現したかったんです。
yama 現代のシーンに寄り添いつつ、80年代の要素もあって。混ぜ具合が絶妙なんですよね。今流行ってるシティポップは、テンポがゆったりしてて、チルっぽいものが多いじゃないですか。「桃源郷」みたいな歌い上げ系の曲は少ないし、面白いですよね。
TOOBOE 今の時代にyamaの新曲としてコレが出るのはすごくいいんじゃないかなと。サックスのソロなんて、なかなかないでしょ?
yama 最後の転調もベタですよね。初めて聴いたときにちょっと笑っちゃったんですけど(笑)、それがいいよなと思って。歌詞もわかりやすくしてくれたのかな?という気がしたんですけど、TOOBOEさん的に何か意図していたことはあるんですか?
TOOBOE うーん……まず「yamaは今も悩んでるんだろうな」と勝手に思ってたんですよ。うまくいくはずだったことがうまくいかなかったり、すごいスピードで売れたことに対する戸惑いだったり、環境がいきなり変わることへの戸惑いだったりね。僕もそう感じることがあるけど、yamaさんはメジャーシーンの台風の目の中にいますからね。「桃源郷」は目指すべきゴールのことなんですけど、それさえわからなくなって、目の前のことで手一杯になることもあると思うんですよ。そういうしんどさを歌ってほしいなと。
yama すごくわかります。そうか、だから歌詞がすんなり入ってきたんだな。
TOOBOE もちろん、気持ちいい瞬間もあると思うんですよ。普通の人が経験できないことを味わえるしね。ただ、そのぶん責任やプレッシャーもあるだろうなと。
yama 極端なんですよね。どん底と調子いいときの差が激しくて、その高低差に耐えられないこともあって。表現したいことと求められることのバランスも難しいし、自信が付いたところもあれば、周りを見て「まだまだだな」と焦っちゃったり。いろいろと考えちゃって、それが全部詰まってるんですよ、「桃源郷」の歌詞は。例えば2番の「生まれつき心が上手く操れなくてさ」もそう。
TOOBOE そこ、僕も好きですね。
yama いいですよね(笑)。そのあとに「誰かの怒りを買うのも慣れっこなんだわ」と続くんですけど、自分もコミュニケ—ションがうまくなくて、勘違いされることもあったので。コントロールできないこともあるけど、でもやっぱり歌いたいし、一生懸命やるしかないなと。最初から最後まで、すべて共感できる歌詞でした。
TOOBOE そっか、よかった(笑)。
──TOOBOEさんとyamaさんの関係の中で、お互いの表現が広がっているんでしょうね。そういえばyamaさんは作曲を始めたそうですね。
yama はい。もちろん歌い続けたいし、ずっとがんばってるんですけど、肉体や声は間違いなく衰えていくし、もしかしたら歌えなくなる未来もあるかもしれない。そのときに「自分には何もない」とならないように、作曲に挑戦しようと思ったんです。本当の意味で自分自身の音楽を残したいという気持ちもあって。
TOOBOE これは本人にも伝えたんですけど、yamaさんには「提供曲を歌ってた時代もよかったけど、自分で書くようになってから、さらにヤバイよね」と言われてほしいんですよ。yamaさんは考え方も個性的だし、何よりもこの声ですからね。絶対にいい曲を作れると思います。
yama ホントですか! めげずにがんばります。
──TOOBOEさんはどうですか? シングルを2作リリースして、アーティストとしての方向性も定まってきたのでは?
TOOBOE あまり深く考えてないんですよ、そこは。自分のテーマがあるとすれば、進化すること。1つ前の作品と同じようなことはやりたくないし、いろんな曲を提示していきたい。サウンドで個性を出すというより、何をやっても自分という芯があって、ギター1本の弾き語りでも作家性がはっきり見えるアーティストが目標です。あとはライブ。歌や演奏はもちろんですけど、全体の世界観を作り上げるのが課題ですね。
プロフィール
TOOBOE(トオボエ)
音楽クリエイター・johnによるソロプロジェクト。作詞、作曲、編曲、歌唱はもちろん、イラストや映像をはじめとしたクリエイティブも手がけている。2022年4月に1stシングル「心臓」を配信リリースしてメジャーデビュー。同年6月には2ndシングル「oxygen」を発表した。またjohn名義の代表曲「春嵐」は、YouTubeでの再生回数が1000万回を突破している。
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yama(ヤマ)
SNSを中心にネット上で話題を集めるシンガー。2018年よりYouTubeをベースにカバー曲を公開するなどの活動をスタートする。2020年4月にリリースした自身初のオリジナル楽曲「春を告げる」がミュージックビデオの再生回数1億回、ストリーミングの累計再生回数3億回を突破するなど、若い世代を中心に注目を浴びている。
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